■クモの求愛は「命がけ」である
【養老】動物の性行動を調べるとホントにおもしろいんですよ。蜘蛛(くも)はだいたいメスのほうが体がデカくて、オスのほうが小さい。で、両方とも立派な網かなんか張ってあって、入ってきたヤツは食っちゃうでしょ。だから、蜘蛛のオスがメスのところに辿り着くのは容易じゃないんです。
【阿川】苦労するんだ。
【養老】うっかりドバドバッと入っていったら、獲物と間違えられてあっという間に食われちゃうからね。
【阿川】恋人が来たとは思わないんですか。
【養老】うん。だから、やっかいなことをするんですよ、蜘蛛によって違うけど。蜘蛛の巣が張ってあるでしょう。オスは最初はあの糸を三味線みたいに摘んでみたりして、それでビリビリッて特殊な振動が来たら、メスのほうはこういう返事をすると決まってる。たとえば片手を上げるとか……。
【阿川】蜘蛛が片手を上げる?
■更年期があるのは人間とクジラだけ
【養老】その片手を上げたのが刺激になって、オスはちょっと進んでまた別の刺激を出す。それに対して、またメスが適切な応答をするともうちょっと近づいていって……と、7つか8つ段階を踏んでやっと交尾に至る。
【阿川】ラブレターを送りながら、互いの気持を確かめ合うようなものだな。
【養老】それがちょっとでも狂うと、オスは大急ぎで逃げるんです。
【阿川】かぐや姫みたい。いくつもの難問を解決して乗り越えた男が姫をモノにできる。
【養老】そうそう。で、そういうふうに手続きを厳密に決めておくと、雑種ができないんです。逆に言うと、そういう行動パターンがちょっと変わっちゃうと、別の種類になるしかない。
【阿川】いろんな生き物がいるんですねえ。その中でも、やっぱり人間って変わってるんですか。
【養老】人間は文化があるからちょっとヘンなんです。
【阿川】更年期がある動物は……。
【養老】クジラだけだそうです。チンパンジーなんか最後まで子どもを産み続けますから。
【阿川】いいなあ。
■「おばあちゃん仮説」をご存じか
【養老】女性は胎児のとき、卵巣に卵の素になる細胞が800万あるんですよ。それが生まれたときは80万になってる。
【阿川】生まれるまでにそんなに減っちゃうんですか。
【養老】そうです。それがどんどん分裂させられて途中で死んでいく。月経は子宮の壁を着床のために準備するけど受精卵が着床しない。無駄になって流しちゃう。
【阿川】まあ、文学的なこと。
【養老】卵巣が片側ずつ交互に排卵していって、生涯に500ぐらい卵を排出する。80万のうち500しか使わないんですよ。しかもほとんどが無駄死にしていくんです。500も子ども産めませんからね。
【阿川】私、全部無駄でした(笑)。
【養老】それしか使わないのに、ある程度の年齢になると閉経してしまう。
【阿川】どうしてだ?
【養老】人間が早めに閉経しちゃうのはなぜかというのはけっこうむずかしい問題でね。しかも、人間は更年期以降の期間が長いでしょう。だから、最近は更年期がある理由として、人間は子育ての期間が長くなっちゃってたいへんだからっていう説があるんです。
■閉経後の女性はどう生きるか
【阿川】男性には更年期はないんですか?
【養老】実質的にはダメになっちゃうかもしれないけど、精子をつくることは生涯続くんです。そういう意味では、更年期がない。
【阿川】極端な話、死ぬ直前まで子どもをつくる能力があるんですね。
【養老】あります。
【阿川】あっ、そうすると、女は中年以降は無駄に生きてるってことですか?
【養老】そう。
【阿川】男は中年以降も無駄に生きてないとおっしゃりたいんですね(笑)。
【養老】別にそう言いたかったわけではないんだけど(笑)、生物学的に言うとそうなっちゃう。特に今、生物学は遺伝子を残すってことを非常に重視しているから。
【阿川】じゃあ、無駄に生きている中年以降の女は、どうすりゃあいいんですか?
【養老】遺伝子を残すことを優先するんだったら、ロートルになった女性がわざわざ自分で子どもを産んだりしないで、孫の面倒を見るほうがいいでしょう。
【阿川】産む役割を果たしたら、あとはそれを育てて面倒を見るという役割を担って、というのが女性の生涯の変遷ですか。
【養老】だから、クジラに閉経期があるならば、クジラもそうやってるのかという問題があるんですね。
【阿川】クジラがねえ、孫の面倒見てるのかどうか……。
【養老】そこらへんがハッキリしてこないと、確実なことは言えないんですよ。
【阿川】クジラに訊(き)いてみたい。
■「繁殖期」がなくなった謎
【養老】人間がやや特殊だっていうのは、ひとつは閉経期があること。そして、もうひとつは妙なことに繁殖期がなくなってるってことですね。普通の動物はいわゆるサカリがあるのに。
【阿川】人間はないです……ね。
【養老】別な言い方をすると、人間はのべつ繁殖期なんです。
【阿川】どうして、のべつ繁殖期になっちゃったんですか。
【養老】ひとつの大きな理由は、女性の排卵時期が周囲にも本人にも不明になっちゃったこと。
【阿川】お尻が真っ赤になって、「今よ!」って。
【養老】ところが、人間はそういうサインがまったく出なくなっちゃった。いつ排卵してるのかわからないから、いつも男をそばに置いておいて年がら年中くっついてなきゃいけなくなった。でも、その交尾が生物学的には有益か無益かわからない。そういうの、ヘンでしょ? 合理的でないんですよ。
【阿川】遺伝子を残すことが重要だと考えるとね。
【養老】子どもを産む能率から言うと、ウサギなんかがそうですけど、交尾排卵がいちばん合理的なんです。交尾をすると排卵する。だから、最も妊娠しやすい。
【阿川】子どもを産む能率って……。愛の問題はどうなるんですか、愛の!
【養老】生物学っていうのは身も蓋もないんだけど、愛は一切考慮に入れてないんですよね(笑)。
----------
養老 孟司(ようろう・たけし)
解剖学者、東京大学名誉教授
1937年、神奈川県鎌倉市生まれ。東京大学名誉教授。医学博士。解剖学者。東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。95年、東京大学医学部教授を退官後は、北里大学教授、大正大学客員教授を歴任。京都国際マンガミュージアム名誉館長。89年、『からだの見方』(筑摩書房)でサントリー学芸賞を受賞。著書に、毎日出版文化賞特別賞を受賞し、447万部のベストセラーとなった『バカの壁』(新潮新書)のほか、『唯脳論』(青土社・ちくま学芸文庫)、『超バカの壁』『「自分」の壁』『遺言。』(以上、新潮新書)、伊集院光との共著『世間とズレちゃうのはしょうがない』(PHP研究所)、『子どもが心配』(PHP研究所)、『こう考えると、うまくいく。~脳化社会の歩き方~』(扶桑社)など多数。
----------
----------
阿川 佐和子(あがわ・さわこ)
エッセイスト
1953年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部西洋史学科卒業。報道番組のキャスターを務めた後に渡米。帰国後、エッセイスト、小説家として活躍。2012年に刊行した『聞く力』が170万部を突破して、年間ベストセラー第1位に。14年、菊池寛賞受賞。主な著書に『強父論』『ウメ子』『婚約のあとで』『正義のセ』などがある。テレビでは「ビートたけしのTVタックル」などに出演中。
----------
(解剖学者、東京大学名誉教授 養老 孟司、エッセイスト 阿川 佐和子)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
