■食品の現場を支える「包あん機」
豆大福や中華まん、チーズ入りハンバーグ、コロッケ。
日々、何気なく口にする市販の加工食品を傍目に、「どうやって機械で作っているのか」とふと疑問に思うことがある。
もちろん手作りであれば分かるが、市販で大量に製造されている場合であれば話は別だ。粘性のある生地に、ゴロゴロと具材が入ったあんを、どう均等なサイズに成形しているのか。絶妙な力加減やノウハウがなければ製品を形作れないはずだ。
些細な疑問からリサーチをかけると、国内の加工食品の多くは「レオン自動機」という機械メーカーが生産現場を下支えしていることが分かった。具材を生地で包む機械は「包あん機」と呼ばれ、国内のシェア約9割をレオン自動機が席巻、海外でも130の国と地域に販路を伸ばしている。
業績を見れば、直近2期連続で過去最高益を記録し、経産省が認可した「グローバルニッチトップ企業100選」に選出されている。
誰もが馴染み深い冷凍食品や加工食品で使われているはずなのに意外と知られていない「包あん機」。
■どんな素材でも包む「火星人」
宇都宮にあるレオン自動機の本社には、十数種類にのぼる包あん機が設置してある。見慣れない機械が並ぶなか、最新モデルの製造工程を見せてもらった。
その名は「火星人CN700」。高さ1263mm、奥行き1045mm、幅1375mmの本体の上部には、それぞれ生地とあんを入れる、2つのホッパー(投入口)が備えられている。
技術サービス部のスタッフが、片方にもちもちとした外皮用の生地を、もう片方にあんを投入する。餅生地、野菜、肉入りの具材やあんこ、クリーム……どんな素材も対応可能だ。
機械を作動させると、たちまち生地は機械内部に吸い込まれていき、あらかじめ設定された重量や比率に合わせて成形されていく。外皮材内包材を分けて、異なる速さで送り出すことで、硬さや粘性が異なる素材でも、きれいに成形できるそうだ。
スクリューとポンプで押し出されたあんと生地は、重合ノズル部で内側にあん、それを覆うように外側から外皮に包み込まれていく。つまり「包む」工程が機械で再現されており、「中にあん・外に生地」という2層の構造が自然と出来上がる。
そして、一体となった生地とあんは、あらかじめ設定された重量、比率で1個ずつ包あん成形される。
■1時間で最大5100個生産可能
ざっと説明すると、なんてことのない作業に思えてしまうかもしれないが、よく考えてみてほしい。
生地が柔らかすぎれば形が崩れ、あんが硬すぎればまとまらない。粘性のある生地であれば機械にこびりつき、ゴロゴロした素材が詰まってしまう懸念もある。手作業で行っていた“包む”という動作が、さまざまな素材に対応しつつ、わずか数秒で正確に繰り返されると考えると画期的な一台と言えよう。細かい技術を挙げればキリがないが、これまでに取得した特許は3200件を超えるというから驚きだ。
そのうえ「火星人CN700」は使い勝手も良い。操作パネルでは100種類の製品データを記憶できるため、「生産個数・外皮材・内包材重量」などの製品情報を入力すれば、「吐出量・ベルトスピード」などの生産データが自動算出される。ボタンひとつでさまざまな製品を形作ることができるのだ。
完成品の大きさやあんと生地の比率も自由自在で設定ひとつで形状を自在に変えられる。
生産能力も、最大で1時間に3600個、2段コンベヤを使用すれば1時間で5100個を作ることができる。
■国内シェアも9割
「操作性も良く、誰でも使える機械ということ。
特に『火星人 CN700』では、あんに肉や野菜のフィリング※、豆大福に使われるエンドウ豆や黒豆など、どんな素材でも傷めずに吐出できるようになった。これにより対応できる製品レパートリーが格段に増えて販路も広がりました」
※編集部註:料理、パンやお菓子に挟む具材のこと
そう語るのは、レオン自動機の小林幹央代表取締役社長だ。技術と使い勝手、この両輪が高い次元で噛み合ったからこそ、国内シェア9割の不動の地位を築いているという。
取得した特許数が示すように、包あん機が現行モデルに至るまでの試行錯誤も長い。
■初号機開発に10年以上を要した
ここで簡単に、包あん機誕生までの歴史を辿るため、時計の針を終戦直後まで戻したい。
レオン自動機の創業者・林虎彦は、台湾で終戦を迎えた後、金沢に引き揚げると、1951年に自らの名をつけた菓子店「菓匠虎彦」を開業する。当時は、饅頭を作れば売れる好景気だった一方、包む作業を1日中続けるのは重労働だった。
そこから着手したのが、言わずもがな包あん機の開発だった。当時は、世界中どこにも和菓子を製造する機械はなく、開発期間は5年、10年と長引いていく。
出口の見えない研究に精を出すあまり、本業の菓子店は傾いていき、最終的に「菓匠虎彦」は差し押さえに遭う。
憂き目に遭いながらも、背水の陣で研究開発を続けた末、1961年に世界初の包あん機「R-3型」が完成する。しかし同機は、当時としては生産能力が高すぎて、実用化を見送る。
林は研究を重ね、1963年に「自動包あん機 101型」の商品化に成功する。「夢の機械」として呼称され、町場の菓子店などを中心に受注が舞い込み、発売から3カ月で月産10台の受注が270台に拡大した。
同年にはレオン自動機を設立。ちなみに社名の「レオン」は、物質の変形と流動を扱う学問「レオロジー」から来ている。これは、お饅頭生地のような固体でも液体でもない流動性のある粘弾性物質を、科学的に解明して成形方法を編み出したことに準えて名を取った。
■「和菓子のための機械」からの進化
1966年には初号機の操作性と耐久性を改良した「105型」、1968年以降は和菓子以外のパンや中華まんにも対応した「200型シリーズ」、1980年代半ばにはシャッターのように開閉して成形できるインクラスターという部品を使用することで手粉を使わずに生産できる「N208型」をリリース。
日本人の食生活の多様化に呼応するように、対応できるレパートリーを増やし、包あん機はグッと汎用性の高い“食のインフラ”として重宝されていく。
小林氏は当時を、創業者・林氏のエピソードと引き合いに、こう振り返る。
「機械で製品テストをやるときに、思うように結果が出ないこととは多々あります。
こうした発想は、林自身がゼロから包あん機を作り上げてきたからこそ、肌に染み付いている感覚なのだろうと思います」
■ついに生まれた“火星人”
そして1987年、現在の主力シリーズとなる「火星人」初号機が誕生する。これは前述した製品を記憶する機能が初めて搭載された、まったく新しいコンセプトモデルとなった。操作性の向上により簡単に操作できるようになったことに加え、成形された製品のブレも少なく、食品成形機のなかで最も数多く出荷されたシリーズに成長した。
また、本体上部に2つのホッパー(生地とあんを投入する部品)が並び、まるで目が2つある宇宙人のように見えたことから、遊び心で「火星人」と名付けられる。こうした愛称も広く受け入れられ、ヒット作へと成長した。
その後もモデルチェンジは続き、1994年には女性でも使いやすい背丈が低いモデルを開発、2020年に前出の「火星人CN700」へと辿り着き、現在にいたる。
「火星人CN700により、生地の中に豆やチョコチップなど固形物が入っているものでも、素材を潰すことなく成形できるようになった。今では、あんがとろとろと液状に近い饅頭や、生地と内包材で温度差が大きい餅アイスクリームなど、手作業では成形が難しい製品も作れるようになりました」と小林氏は振り返る。
■ここ10年で売上高は2倍以上に
「火星人CN700」のヒットをはじめ、ここ数年のレオン自動機は増収増益が続いている。
2022年3月期の売上高は265億8500万円(うち営業利益10億9900万円)、23年は352億6900万円(同30億700万円)、24年は377億300万円(同48億8300万円)、25年は392億1400万円(同52億9800万円)。
直近10年で売上高は2倍以上に膨らみ、直近2年は過去最高の数字を記録している。
躍進の大きな一因には、海外展開が関係している。近年の海外売上高の比率を見ると、2019年3月期に海外が約53%だったのが、2025年3月期には約69%にまで拡大。もともと1968年から海外に輸出を続けてきたなか、いまでは世界130の国と地域に販路を拡大している。
中国の月餅や中華菓子、欧米のペストリー、東欧のピロシキ、あるいはイスラム教徒圏でのラマダン(断食)明けに食されるナツメヤシやナッツが入ったマームール。世界各国の民族食にも対応することで、レオン自動機の業績は膨らんでいく。
初号機の誕生から60年以上、機械のアップデートの背景は「商品開発がすべて」と小林社長。開発から営業、技術サービスまで、部署を跨いで顧客目線を徹底し、現場からの意見を吸い上げている。
■ヒットしてもなお試行錯誤の連続
「当社の開発メンバーは、ほとんど工学部出身ですが、自分たちで饅頭やパンを作ったりします。機械の設計と言っても、机に座って図面を引いたりするのは半分ぐらいで、もう半分は基礎研究の繰り返し。どんな機械が良いのか、指で押して力を加えたら生地はどうなるのか――。かなり面倒ではありますが、相手が食品なので対応が難しいのです。
営業マンに関しては、技術サービス部やメンテナンスの出身者も多い。お客様のところに機械を販売する際も工場を見せてもらい、効率化や生産性向上などの改善やアドバイスなど、いわゆる提案型の営業を行っています。
機械を購入いただいた後は、現場サポートやアフターサービスを行う技術サービス部の出番です。購入した機械で、お客様がどういった食品を展開したいのか、あるいはそれは可能なのか――。相互に相談や提案を重ねながら、より良い機械が作れないか、こんな製品を作れないか――。日々研究を続けています」
顧客との話し合いの中で、パンの缶詰などの災害備蓄食品や、地元の高校生とコラボしたお菓子なども実現した。また、レオン自動機は年に10回ほど、「講習会」と題した製品提案会を開いている。和洋菓子メーカーや、調理業者など顧客を呼んで、新しい包あん機の提案を行う催しを実施している。
包あん機の初号機が販売されてから60年以上、現在にいたるまでの試行錯誤は、技術力のみに留まらず、部署の垣根を越えた現場至上主義も大きい。
海外の顧客に対しても、国内で生産した機械を輸出するだけでなく、各国の食文化ニーズにグローカリゼーションするため、海外子会社では現地採用の割合も高い。営業、技術サービス部、メンテナンスサービス部のワンチームのうち、約半数は日本から出向して、もう半数は現地採用を行っているという。
■売り上げを支える約3200以上の特許
今後も、海外展開には積極的な姿勢を見せる。2025年度上半期の食品製造機械売上比率を見ると、日本が44%、ヨーロッパ・アフリカが20%、北米・南米が23%、日本以外のアジアが13%となる。
その中で、伸び代が高いのが、アメリカやインドなどの人口大国だという。他にもエジプトやイスラエルなどの中東、アフリカなどの新興国も開拓が進められている。
「人口減少が進む日本や韓国で機械化は必須であり、一方でこれから人口爆発するアフリカなどでは、人手をかけずに大量生産することが求められる。いずれにしてもレオンのような機械は必要になるので、大きな市場と考えている。販路が世界130の国と地域に分散することで、それだけリスク軽減にもつながる」(小林氏)
一方で、課題として特許や競合の問題がある。現在、レオン自動機は400件以上の特許を保有し累計の取得件数は国内・海外合わせて3200件を超える。裏を返せば、それだけ世界各国に競合他社が存在するという証左でもある。
「中国の展示会を訪れると、当社の周りに50社ほどのメーカーが、レオンの包あん機と同じようなものを展示している。そのほとんどは特許が切れたものですが、世界各国で矢継ぎ早に模倣品が出てきている」
■競合から技術を守るすべとは
レオン自動機のような社員700人前後の規模であれば、機械の大量生産や価格競争になると分が悪い。つまり後発の模倣品に飲み込まれないためには、常に技術開発を行って特許申請を行い、競合の追随を抑える必要がある。
そのため、レオン自動機には「特許室」という専門部署があり、開発の現場テストに立ち会いながら、特許化できる技術を見極める仕組みがある。
また意外と知られていないことだが、他社の既存技術であっても、新たに追加したものを搭載することで、上書きするように特許を取得することもできる。技術のアップデートを続け、新しい技術が生まれたら即特許を申請することは、企業の防衛線としての役割も大きい。
社内の体制としても、生産量には限界があるため、より現場や市場の要望に声を傾けているのもうなずける。価格競争に走るのではなく、顧客目線での使いやすさや対応できる商材の幅など、技術力に注力して独自のポジションを固めていく。
■将来的には「工場を無人化」
今後は「食品工場のスマートファクトリー化を進めていく」と小林氏。単に機械の開発のみならず、AIやIoTなどのデジタル技術、およびそこから得られるデータを用いて、作業の自動化や高生産性を実現した工場稼働を目指していく。
人手不足や人件費高騰、あるいは地政学リスクの高まりなど、生産現場が抱える課題は大きくなりつつある。そうした顧客が危惧する根本的な問題解消にも向き合っていく。
「そのためには、まず包あん機の操作性、掃除がしやすいなどの簡便さ、故障や事故のなさを突き詰めていく必要がある。そこから自動化や遠隔操作など、ネットワークを利用した一元管理化を進めていき、最終的には工場全体の生産を無人化していきたいと考えています」
普段、何気なく口にしている食品の黒子役として、60年以上食卓を支えてきたレオン自動機。その歩みは、メーカーとしての技術的な進化に留まらず、顧客の声に耳を傾けてきた姿が見て取れる。
ゆえに世界130の国と地域での展開にもつながり、スマートファクトリーの構想も絵空事ではないはずだ。レオン自動機の躍進は、ニッチな技術でも世界市場で勝ち続けられることを示唆しており、今後より世界の食文化を豊かにする立役者となるかもしれない。
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佐藤 隼秀(さとう・はやひで)
ライター
1995年生まれ。大学卒業後、競馬関係の編集部に勤め、その後フリーランスに。趣味は飲み歩き・競馬・読書
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(ライター 佐藤 隼秀)

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