アメリカ各種メディアが、2月8日に投開票される日本の衆院議員選挙の行く末を熱心に報じている。
アメリカのメディアがここまで日本の選挙を追いかけることは、これまでほとんどなかった。
海外メディアが注視しているのは、日本政治や経済の不安定化だけではない。
選挙が「政策を選ぶ場」から、「感情を動員し、消費する場」へと変わり始めてはいないか――その兆候に警鐘を鳴らしているのだ。
本稿は、特定の候補者や政党を評価するためのものではない。
ここで伝えたいのは、選挙の“中身”ではなく、選挙の“形”が変質していくことに、アメリカのメディアが強い危機感を抱いている、という事実である。
なぜなら、それはアメリカがすでに通った、「もう戻れない道」でもあるからだ。
■政策評価よりも感情が先に立つ政治
「ハンドバッグは完売し、ピンク色のペンはバイラル化(急速に拡散)した。お気に入りのスナック菓子までが品薄になっている」
ロイター通信は2月4日付の記事で、こう書き出している。日本の高市早苗首相が、若者主導の熱狂に乗って選挙戦を進めている様子を描いたものだ。
記事は、高市氏がSNSの活用にも長けていることを続けて紹介している。Xでは約260万人のフォロワーを持ち、これは最大野党党首の野田佳彦(約6万4000人)を大きく上回る。
さらに、Netflixの『K-Popガールズ! デーモンハンターズ』のヒット曲「Golden」に合わせ、韓国の李在明大統領とドラムを叩く映像が拡散され、大きな反響を呼んだことも伝えている。
64歳のリーダーが生み出したこのブームは、想定外の広がりを見せている。前回の選挙で自民党が両院の支配を失い、前任者が辞任に追い込まれた直後であることを考えれば、ロイターが「驚くべき巻き返し」と表現するのも無理はない。
さらに海外メディアを驚かせているのは、12月中旬に行われた産経新聞・FNNの世論調査で、18~29歳の内閣支持率が92%に達したことだ。
若者が政治から距離を置きがちな日本において、これは極めて異例の数字だと、海外メディアは受け止めている。
ここでロイターが注目したのは、支持の「理由」よりも、その「かたち」だった。バッグやペン、SNSの振る舞いまで含めて共有されるこの熱狂は、政策への評価というより、感情が先に立つ政治参加の入り口を、はっきりと可視化している。
■日本の選挙が「大統領制化」している
「この人(私)に、国を任せられるかどうか」
高市首相は衆院解散の大義をこのように語った。
今回の選挙をめぐり、海外メディアが強い既視感を覚えている理由は、ここにある。
日本は大統領制ではない。にもかかわらず、選挙の焦点が「一人の人物への信任投票の様相」を見せているからだ。
ロイター通信は、高市氏自身が今回の選挙を、財政拡大や中国の軍事力拡大に対抗する防衛力強化を含む、自身の指導力と政策を問う「事実上の国民投票」と位置づけていることを伝えた。
「日本という国の運営を、高市早苗に任せられるのかどうか。
これについて、上智大学の中野晃一教授は、「かなり大統領制的なやり方だ」と指摘する。
この変化を端的に示しているのが、「sanakatsu(サナ活)」現象である。それは政策支持でも、イデオロギー支持でもない。日本で初めて本格的に可視化された、「推し活」型の政治参加だ。
ロイターの記事には、若い有権者の声も紹介されている。
「話し方がはっきりしている」「決断力がある」「前向きなエネルギーがある」
■キャッチーな「円安ホクホク」発言の狙い
こうした「人格投票」を後押ししている要素として、海外メディアが注目しているのが、高市氏の外交や経済をめぐる、あえて強い言葉を用いた発言だ。
ロイターは別の記事で、中国や台湾問題に関する踏み込んだ安全保障発言や、「円安ホクホク」といった表現に言及している。
こうした即興的でわかりやすい言葉は、政策を説明するものというより、「この人物は決断する」「迷わない」という感覚を有権者に与える、政治的シグナルとして機能する。特に若年層にとって、そのわかりやすさは強い訴求力を持つ。
英紙『The Times』も、同じ現象を別の角度から描いている。
2月5日付の記事は、「選挙に勝つ方法:はっきり話せ、だが何も言うな」と題し、高市氏のキャンペーンを分析した。
記事によれば、支持者たちは「話し方が明確」「身近な感じ」「バッグやペン、スキンケアが好き」といったように、彼女がどう感じられる存在かについては饒舌に語る。一方で、彼女が何を目指し、どこへ国を導こうとしているのかは、必ずしも明確ではないと指摘する。ここで描かれるのは、感情や親近感を共有しているかどうかを確かめ合う選挙の姿だ。
問題は、これが若者に限られた現象ではなく、選挙の判断基準そのものを変えつつある空気として、日本社会全体に広がり始めている点にある。
筆者はここで強烈な既視感に襲われた。
2024年のアメリカ大統領選で取材した若いトランプ支持者らは、「トランプは面白いから好き」「彼なら経済をよくしてくれる」「これはアメリカの革命だ」と力を込めて語ってくれた。しかし具体的な政策に言及する者は1人もいなかった。
その先に何が起きたのかを、アメリカはすでに知っている。
■高市支持の若者は右傾化しているのではない
こうした若者の高い高市支持に対して、アメリカのメディアは一つの疑問を抱いている。
アメリカの若者は概して人種・ジェンダー平等や多様性を支持し、イデオロギー的にはリベラル寄りとされてきた。
一方、高市氏は選択的夫婦別姓や同性婚といった、進歩的な若者世代にとって重要な争点に関し、否定的な立場を示している。それにもかかわらず、なぜ若年層からこれほど強い支持を集めているのか。
前出のロイター記事では、「若い世代の間で保守的な考え方が強まっているようだ」という30代有権者の声も紹介されていた。
しかし、これに明確に異を唱えるのが、1月31日付の英ガーディアン紙の記事だ。
「過去の首相たちが注目を浴びるのは、国会で居眠りするなど、たいてい失態の場面だった。それに対して高市は、支持者たちから“日本が近年失っていた、新しい時代のリーダー像”を象徴する存在として受け取られている」と指摘する。
その上で同紙は、「移民や外国人居住者への不安が可視化されている以上、日本も右傾化しているように見えるかもしれない」と認めつつ、より深く見れば、答えは「経済」にある可能性が高いと分析する。
■余裕を失った若者が「わかりやすさ」に引き寄せられている
日本の若い有権者を取り巻く生活環境は、年々厳しさを増している。賃金は伸び悩む一方で物価は上昇し、円安によって実質的な購買力は低下している。それにもかかわらず、税金や社会保険料の負担は増え続け、将来、自分たちが同じ水準の保障を受け取れるのかについて、強い不公平感と不信が広がっている。
こうした文脈の中で、「所得税の課税最低限の引き上げ」「手取りを増やす」という高市氏の経済メッセージは、若者に強く響いていると、ガーディアンは分析する。
だが、生活が苦しいからといって、その不満を「この人なら何とかしてくれそうだ」という感情に預けてしまっていいのかは、別の問題だ。人は余裕を失うほど、政策の細かい違いよりも、わかりやすく、強く、味方に見える人物に引き寄せられやすくなる。
■経済不安が感情に変換されている
この構図は、2024年のアメリカ大統領選で起きた現象と、驚くほどよく似ている。
当時、圧倒的にリベラルと見られていた若者層のうち、特に若い白人男性の6割以上がトランプ氏に投票し、当選の追い風となった。
彼らが口にしていた理由は単純だった。
「今の経済はひどすぎる」「トランプなら良くしてくれる」「彼以外を選ぶと、もっと悪くなる」
一方、民主党のカマラ・ハリス候補が前面に掲げていたのは、中絶の権利、トランスジェンダーの保護、民主主義の擁護といった、理念的で社会的なテーマだった。
経済的に追い込まれた若者たちは、理念よりも実利を選んだ。日本の若者も、同じ文脈で理解できる。それは右傾化ではなく、経済不安が感情に変換されていく過程だ。
いったん感情で結ばれた政治は、うまくいかなかったとしても、「間違いだった」と認めること自体が難しくなり、あとから修正する余地を失っていく。
■メディアの警告が「オオカミ少年」のように響かなくなった
感情政治が最も危険になるのは、間違いを正す仕組みが、うまく働かなくなったときだ。
アジア・パシフィック・ジャーナルは、1月18日付の分析記事で、こうした状態を「制度への信頼の危機」と呼び、民主主義が自己修正できなくなる段階への警告を発している。
若者が現実の問題と感情を煽るために強調された怒りとを区別しにくくなるのは、情報が増えたからではない。警告そのものが、もはや信用されなくなったからだ。
政治家が強い発言をするたびに、メディアはその危険性を指摘する。
日本でも、伝統的なメディアは、高市首相の台湾有事や為替をめぐる強い発言が、市場や外交に与える影響を繰り返し報じてきた。しかし、国際社会では問題視される報道が、国内世論において必ずしも支持の低下につながっていない点を、海外メディアは淡々と指摘している。
外では摩擦でも、内側ではそれが「強さ」や「わかりやすさ」として消費される。この構図が続く限り、警告は届きにくくなる。
そして今、伝統メディアの発する「正当な警鐘」は、若者だけでなく大人にとっても、「正しいかどうか」ではなく、「好きか嫌いか」で受け取られる段階に入りつつある。
■政治が「推し活化」したアメリカの末路
アメリカの若者を分析するタフト大学やイエール大学などの調査機関は、次のように指摘している。
若者の政治意識は、もはや「理想主義」ではない。
生活が成り立たない、将来の見通しが立たない、
社会が自分たちに不利に設計されているように見える。
こうした感情こそが、政治への関心を形づくっている。
この不満は、決して若者だけのものではない。住宅、医療、インフレに直面する中高年層とも、大きく重なっている。
では、こうした不安や不満が「推し活」と結びついたとき、何が起きるのか。
政治に目を向ける人は確かに増える。しかしその一方で、「正しいかどうか」より、「誰を応援するか」が先に決まってしまう。
アメリカは、すでにこの段階を通過している。民主主義の危機や国際秩序の揺らぎについて、どれだけ警鐘が鳴らされても、支持者にとっては「それでも生活は変わらなかった」という経験が積み重なる。その結果、警告そのものへの信頼が失われ、誤りを正すための言葉は力を持たなくなった。
批判は、軌道修正のためのブレーキではなく、支持を固めるための燃料へと反転した。アメリカでは、感情的な政治が強くなったというより、それを止める仕組みが、いつの間にか使えなくなってしまっていた。
■アメリカと同じ道を日本も歩んでいる
アメリカから見ると、日本もまた同じ道を、しかもより短い時間で進んでいるように映る。というのも、日本社会には、アメリカとは異なる特性がある。
「語らない」「空気を読む」ことが美徳とされ、「語らなくても伝わる」「争いを避ける」態度が、長いあいだ政治的な安定を支えてきた。
しかしそれは同時に、語るべきことが、語られないまま蓄積されてきた歴史でもある。
その抑圧が限界に達したとき、言葉は議論としてではなく、感情として噴き出す。
感情政治の最も危険な点は、「正しいか、間違っているか」を問う前に、「好きか、嫌いか」で物事を判断するようになってしまうことにある。そして一度その段階に入ると、選挙結果がどうであれ、政治は元の場所には戻りにくくなる。
それがどこへ向かうのかは、アメリカ人自身にも、まだはっきりとは見えていない。
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シェリー めぐみ(しぇりー・めぐみ)
ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家
NY在住33年。のべ2,000人以上のアメリカの若者を取材。彼らとの対話から得たフレッシュな情報と、長年のアメリカ生活で培った深いインサイトをもとに、変貌する米国社会を伝える。専門分野はダイバーシティ&人種問題、米国政治、若者文化。ラジオのレギュラー番組やテレビ出演、紙・ネット媒体への寄稿多数。アメリカのダイバーシティ事情を伝える講演を通じ、日本における課題についても発信している。
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(ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家 シェリー めぐみ)

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