■高校野球で主将を務めた女子のあっぱれな進路
高校野球で女子がマネジャーやスコアラーとしてベンチ入りするケースは多い。だが、女子がチームのキャプテン(主将)となると、これはかなりレアだ。
長野県の中央部にある県立諏訪清陵高校。昨夏の同校野球部には女子マネ兼主将がいた。任命した守屋光浩監督の見込んだ通り、求心力、リーダーシップを発揮し、公立の普通高校でありながら夏の甲子園の県大会では堂々のベスト16まで進出した。
その女子マネ兼主将を務めた五味遥花さんは学力面も優秀で、昨秋、一足先に自己推薦で東北大学に合格した。さらにもう一人の女子マネ・笠原小夏さんも名古屋大学に学校推薦で合格した。2人による旧帝大のW難関突破は校内でも伝えられ、祝福された。
■男子選手同様に泥にまみれた
五味さんも笠原さんも、男子選手とともに、暑い日も寒い日も毎日必ず汗を流した。打撃や守備の練習をするわけではないが、裏方仕事の体力的負荷はかなり高い。土のグラウンド上をボールや道具などを運ぶためにあわただしく走りまわっている。
日もとっぷりくれて練習が終われば、選手同様に「今日も一日、力を出し切った」とクタクタになる。帰宅は当然遅くなってからだ。
それにもかかわらず、なぜ文武両道を極め、旧帝大というハイレベルな大学合格という離れ業をやってのけられたのか。
■合格したのは旧帝大の難関・東北大学
諏訪清陵は、明治28(1895)年に創設された県内でも有数の名門進学公立校だ。過去3年の合計で東京大学と京都大学あわせて7人を含め国公立大学に計376人の合格者を出す進学実績を誇る。
五味さんが受かったのは、東北大学医学部(保健学科看護学専攻※)の総合型選抜試験、いわゆるAO入試だ。筆者が約1年前に同校を訪ねた時も守屋監督から東北大を志望していると聞いていたが、当初の目標を見事に達成した形だ。
※一般入試の場合、大学入学共通テストでの得点率のボーダーラインは69%と高いレベルにある。
「以前から医療関係に興味がありました。高1の12月に自然気胸で入院しました。そこで看護師さんに親身に接して頂いて。そのあたたかさがうれしくて、将来は看護師になりたい、という気持ちが固まりました」
野球部では前述のノック補助だけでなく、おむすびを作り、破れたボールの縫い目を糸で繕う、白線を引く、荒れたグラウンドにトンボをかける、大きな声で選手に指示を出す……と、とにかくフル回転だった。
他にも主将としても重要なタスクがあった。練習メニューの作成だ。監督が練習内容は選手に任せる方針のため、練習メニューを作るのだ。「前の晩に専門家の動画などを参考にして中身の濃い練習となるようなメニューを考えていました」。作業にかなりの時間を費やしたことは想像に難くないが、自宅でも学業と両立していたことになる。
■学内の成績順位はずるずる落ちたが…
平日は練習を終えて疲労感もあるが、まっすぐには帰らない。フリースペースに寄って、21時頃まで1時間半ほど英語の予習などの勉強をした。在来線に乗り帰宅して食事後に入浴し、翌日の準備をてきぱきとして就寝する。
定期考査の最高位は、学年240人中19番。悪いときで50~60番だった。最高位は1年の最初で部活での責任が軽かった頃だ。高2の夏に主将就任するなど学年が上がるにつれ部活でも重責を担うようになると、順位もずるずる落ちたという。
だが、聞けば、両親から「勉強しなさい」と言われたことはなかったという。それだけ自己管理ができていて、信頼されていたということだろう。取材をして話を聞いていると、自分を甘えさせないという譲らない部分を持っていると感じられた。
東北大AO入試の1次試験は筆記で数学と英語と理科2科目の4教科。東北大一般入試の2次試験ほどの難易度ではないが、問題の量が多く、短い時間で正確に早く解くことを求められたという。
得意科目の英語は長文が3題あって90分の読解問題。数学が1時間、理科は化学と物理選択で合わせて2時間。過去問を解いて備え、1次の手ごたえは「五分五分」だったそうだ。
■合否のカギ「面接」は1000本ノックで対策
AO入試(自己推薦型)は、一定の基準(学校内での評定)をクリアできていれば、だれでも受けられる。「自分の学力レベルよりも高いところを狙えるというメリットがあって、挑戦しやすい」(五味さん)とはいうものの、それは逆に言えばライバルが全国にたくさんいるということだろう。
2次はテーマを与えられて30分で小作文を書いた。
その後の合否のカギともなる面接では作文内容についての質問や志望理由などについて聞かれた。
「事前に提出した志望理由書と活動報告書では、頑張ってきたこととして野球部について書きました。キャプテンをしていたことは興味を持っていただけるだろうと思っていました。リーダーとしての苦労や、甲子園に行きたいという目標をどうやってみんなと共有したか聞かれました。いつも思い悩み考え抜いていたことで、私の“強み”の分野でしたから、面接は言いたいことを言えたと不安はなかったです」
■体力が削られる野球部で文武両道できた理由
面接練習としては過去の先輩たちが残してくれた資料をもとに練習した。面接のコツはよどみなく、ということだという。
「面接練習をしていただいた先生も守屋先生も仰っていたんですが、どんな質問にも打ち返してこい、と。黙ってしまうと一番、マイナスになってしまうので」
守屋監督はこう、アドバイスをしていた。
「面接はキャッチボール。投げられて、返せなかったらアウトだから、なんでもいいので話しなさい」
野球部顧問が4人いて、毎日、練習したそうだ。
五味さんが野球だけに終わらず、勉強へと意欲を向けられた理由を聞くと、「周囲もみんな勉強するから、自分もかきたてられた」という。文武両道が学校全体の空気になっているのだ。野球部主将という特別な立場で、競争心や克己心が養われたのだろう。教師から勉強しなさいと諭されるまでもなく、野球と勉強のオンオフの切り替えはできていたという。
守屋監督は「25年度のキャプテンは五味に任せて間違いなかった」と断言する。そのマネジメント力は野球に限らず、将来の社会に役立つに違いない。
■名古屋大文学部へ学校推薦で合格
一方、同じ女子マネの笠原さんは名古屋大学文学部に学校推薦で合格した(※)。当初は筑波大の一般入試を考えていたが、高3の夏に部活が終わってから、進路指導主任を兼ねる守屋監督に評定が学年でも高いことなどを理由に名古屋大を薦められたという。
※一般入試の偏差値は医学部医学科の67.5には及ばないが、62.5の極めて高い水準。
1次は出願書類を提出し、それが通って2次は小論文と面接だった。
「書類は名古屋大学で学びたいことと、人文学に関わる本を1冊取り上げて、本の内容とあなたの考えを書きなさいという課題でした」
“新聞の紙とデジタルの違い”に関する本を題材にした。
「筆者が新聞記者だった人でデジタル部署に異動になったときに、記事を元の部署と同じ書き方をしていたら、全く読んでもらえなかったそうで、紙とデジタルだと(句読点の位置や読者のニーズなど)事情が全く違うようで、そういうメディアの現状に興味を持ちました」
毎日、自宅で購読する新聞2紙に目を通し、日々のニュースに触れていたから、小論文に繋がった。
「志望理由は言語学とか日本語学を勉強したいと書きました。高校の課題研究で、マルハラ(SNSで文章の末尾に句読点がついているとストレスを感じる人がいるという現象)について調べていて、語学って面白いと思っていました。面接は最初に5分、自身のプレゼンテーションをやって、それは詰まったりせずに練習通りアピールできました。そのあと、質疑応答があって、うまく答えられないのもあったんですが……」
定期考査の成績はベストが9番、ワーストで29番というから、かなり優秀だ。しかし、野球部の練習でかなり時間と体力を削られる中、学力を維持できたのはなぜなのか。
■どんなに疲れていても死守したルーティン
自転車で20分の距離の自宅へは部活が終わるとまっすぐ帰った。ルーティンはかっちり決まっている。すぐにお風呂に入ってご飯を食べて、1時間か1時間半ぐらい勉強をする。どんなに疲れていても、この流れを死守する。そう心に決めていたという。
「部活の疲れを持ち越さないために早く寝ていました。就寝時刻は22時半。この習慣を乱さずに継続しました。起床は6時、学校に7時半に登校して図書館などで1時間半ほど勉強しました」
夕方から夜は部活があるので、朝、体が元気なうちに実践するこの図書館勉強は学力維持に不可欠だったという。短い時間で集中してやるのも彼女の特筆すべき勉強法だ。
「授業は眠くないです。早く寝てたんで(笑)。逆にそれがよかったんだと思います」
高校でも先生から勉強しなさい、と言われたことは少なかったそうだ。先生から言われて勇気づけられたアドバイスは、「100%を出さなくていい」という言葉だった。
「今、自分が出せることを出しなさいと。合格(最低)点に届けばいい。他の人をちょっとでいいから上回ればいいからと」
■負ければおしまいの高校野球で学んだ自己責任
通常、ベストを尽くそうと完璧主義になるが、100%は要らない、といわれてリラックスできたという。両親にも発破をかけられたことはないそうだ。それでも、自ら机に向かえたのは……。
「勉強をするもしないも自己責任なので。しなかったら後で苦労すると自分に言い聞かせてました」
高校野球のトーナメントの公式戦は負ければ終わり。甲子園への道は閉ざされる。悔いを残したくなければ自らを律して練習するしかない。
守屋監督ら指導者は練習中、ほとんど口を挟まない。前出の通り、練習メニューは主将が考えて進められる。選手主体の練習は徹底されていた。自立心は日々、備わっていて、それが勉強面にも反映されたと言えそうだ。
守屋監督は言う。
「笠原はある意味、(女子主将として)注目された五味に隠れた存在でもありました。でも、微塵も感じさせない存在感があって、頑張ってくれました。そんなチームの一員が受かってくれて、ほんとにうれしかったです」
五味さんも笠原さんも合格した旧帝大で何をするのか、今はまだ何も決めていない。だが、取材時のはじけた笑顔にはどんな人生でも切り開いていくであろう予感に満ちていた。
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清水 岳志(しみず・たけし)
フリーランスライター
ベースボールマガジン社を経て独立。総合週刊誌、野球専門誌などでスポーツ取材に携わる。
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(フリーランスライター 清水 岳志)

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