高市早苗総裁が率いる自民党が2月8日投開票の衆院選(定数465)で地滑り的勝利を収める見通しだ。2月6日の日本経済新聞は終盤情勢を「自維300議席超うかがう 中道、半減の可能性 国民横ばい 参政・みらい伸長」との見出しで報じ、読売新聞は「自民、単独過半数の勢い 中道は大幅減 維新と国民苦戦」と伝えた。
2月2日の朝日新聞中盤情勢調査が「自維300議席超うかがう 中道ふるわず半減も」との見出しで、3日の産経新聞とFNNの合同情勢調査も「自維300議席超す勢い 中道半減の可能性」だった。投票日が近づくに連れ、高市自民党の勢いが増していることが分かる。
首相は1月19日の衆院解散表明の記者会見で、解散の大義について「高市早苗が首相でいいかを国民に決めていただく」「国論を二分するような大胆な政策に挑戦していく」と述べながら、何を与野党の対立軸に据えるかは明確にしなかった。
中道改革連合が現実路線に転換したため、経済・減税政策も安全保障政策も大きな対立争点とならず、自民党は高市首相の「信任投票」にまんまと持ち込んだ。
中道は、政権の枠組みを提示できず、組織票を生かせずに、公示前勢力(167議席)から半減する恐れもある。野田佳彦、斉藤鉄夫両共同代表は、選挙結果次第で責任を取る意向を示しており、立憲民主党と公明党が結成した新党は、いきなり試練を迎えることになる。
多党化が進む中、野党は、中道や国民民主党、参政党、共産党などが小選挙区選に乱立し、自民党を利する情勢を作り出している。
■「2年間限定であれば、財源は十分出る」
高市自民党がここまで選挙戦を優勢に進めているのは、若年層の高市人気と、中道などの野党に仕掛けた争点潰しによるのだろう。
1月のNHK世論調査で、内閣支持率が62%、不支持が21%だったが、年齢別で見ると、18~39歳では支持が78%に達した。
若年層はなぜ高市首相を支持するのか。「年収の壁」の178万円への引き上げやガソリン税の暫定税率廃止などに恩恵を感じているのだろう。
首相が愛用するバッグやペンなどを買い求める「サナ活」の広がり、SNS上の分かりやすい説明がアイドルのような人気を博している。自民党の公式YouTubeチャンネルに1月26日に投稿された「高市総裁メッセージ」というPR動画は1.4億回以上(!)再生されている。会食しない、根回ししないという政治スタイルも共感を呼んでいるらしい。
争点潰しは、1月19日夕の解散表明の記者会見で、首相自身が「悲願」として、2年間限定で食料品の消費税ゼロを打ち出したことだ。1月21日には自民、維新両党が衆院選公約に今後設置する政府と与野党を交えた社会保障改革の「国民会議」で検討を加速することを明記した。永田町文学では「検討」は実施しないことを意味するのだが、有権者を相手にすれば、減税ポピュリズム合戦である。
各政党とも、消費税減税が物価高対策に有効だと訴えるが、巨額の財源不足や国債依存度の高まり、金利上昇や円安といった生活にとってのデメリットには言及しない。
中道改革連合は、1月19日午前の記者会見で、食料品の消費税ゼロを掲げ、恒久財源は、日銀が保有する上場投資信託(ETF)、年金積立金、外国為替資金特別会計(外為特会)を原資とする新たな政府系ファンドを設立して運用益で賄うと明らかにした。だが、これでは安定財源とはとても言えない。
■「これまで行き過ぎた緊縮財政だった」
自民党も無責任さでは引けを取らない。
そもそも食料品の消費税率0%から8%への再引き上げは、政治的に無理ではないか。28年夏に参院選を控え、大増税を公約に掲げられることができるのか。
高市首相は、公示前の1月26日の日本記者クラブでの党首討論で、消費税減税の実施時期について「(26)年度内を目指したい」と、党内議論を経ずに踏み込んだ。制度設計もできておらず、党内の財政規律派から、首相は前のめり過ぎるとの反発も噴出したという。
公示後は首相の消費税をめぐる発言は封印された。首相は「これまで行き過ぎた緊縮財政だった。私はそれを変えたかった」(1月30日、大分市内)、「経済を強くして、税率を上げずとも税収が増えていく日本を作っていかないといけない」(2月4日、京都府長岡京市内)と訴える一方で、2年間限定の消費税率ゼロにはほぼ言及しなくなった。市場が財政悪化と認識しないよう警戒しているほか、発言の整合性を問われることを回避し、選挙戦を乗り切る作戦だろう。
党内には消費税減税反対論も少なくない。4日の読売新聞が衆院選立候補者へのアンケートで、消費税について、自民党は「限定的に減税」が74%と最多だったが、「現状を維持」も20%で2番目に多かった。
■「『外為特会』の運用が今、ホクホクだ」
衆院選後、消費税減税が物価高対策に有効なのか、という議論も蒸し返されるだろう。財源が曖昧なまま大幅減税に踏み切れば、円安を助長し、エネルギー、食料品の物価上昇に向かうほか、金利の上昇を招いて住宅ローンの負担増などに響く可能性があるからだ。
だが、首相は、食料品の消費税ゼロを公約にして戦い、国民の熱狂的な信任を得れば、実行に移さざるを得ない。「首相としては(26)年度内を目指したい」とも語ったが、制度設計にかかるスケジュール感を考えたら、軌道修正せざるを得ないのではないか。
首相から円安是認発言が出ながら、大勝してしまうことも、気になるところだ。
首相は1月31日の川崎市での応援演説で、円安進行をめぐって「輸出産業には大きなチャンスだ。『外為特会』の運用が今、ホクホクの状態だ」と言い放った。
首相は「かつて民主党政権の時、ドルは70円台の超円高で、日本でものを作って輸出しても売れないから、日本の企業は海外にどんどん出ていった。失業率もすごく高かった。それがいいのか」「為替が変動しても強い日本の経済構造を作りたい。
首相は2月1日、自身のX(旧ツイッター)で「円安メリットを強調した訳ではない」と釈明したが、翌2日の東京外国為替市場の円相場は一時、1ドル=155円台半ばに振れた。円安の進行を防ぐために日米財務当局が連携し、為替介入の前段階となる「レートチェック」を行っていた中での首相の円安是認発言はいただけない。
首相は2月5日、佐賀県白石町での応援演説で「私を潰したい人はいろんなことをやってくる。テレビや週刊誌で『なんてこと言っているのだろう』というぐらい、あの手この手で攻めてくる」「『積極財政なんかやっていたら、経済がおかしくなる』。そんなこと言う学者もいるけど、そうじゃない。経済のパイを大きくしなかったら、何もできない」と訴えた。衆院選で圧勝することで、党内の財政規律派を抑え込むという戦闘宣言なのだろう。
■「日本が逃げ帰ると、日米同盟は潰れる」
高市首相は、台湾有事をめぐっても選挙戦で危うい発言を続けた。
1月26日夜のテレビ朝日の番組で、台湾有事の際に日米が自国民退避で連携するシナリオに言及し、「共同で行動を取っている米軍が攻撃を受けた時、日本が何もせずに逃げ帰ると、日米同盟は潰れる」と述べ、自衛隊派遣の可能性を示唆した。どの事態が安全保障関連法の存立危機事態に該当するかは「法律の範囲内で総合的に判断する」とも述べ、あくまで状況次第だと強調した。
台湾有事をめぐっては、首相が昨年11月の国会答弁で、集団的自衛権を行使する「存立危機事態」になり得るとの認識を示し、中国が反発した経緯がある。
安保関連法では、存立危機事態という極めて限られた条件の下で、集団的自衛権を発動することができる。具体的には「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」と厳格に定義されている。在留邦人や在留米国人を救出活動中の米軍への攻撃に対する自衛隊の武力行使は、こうした定義に当てはまらないというのが一般的な解釈である。
邦人救出の手段については、口に出すのではなく、水面下で台湾当局などと折衝すべきだろう。首相は深く理解しないまま、アドリブで発言しているのではないか。
それはそれで問題だが、自民党が圧勝すると、首相の台湾有事への対応、中国に対する毅然とした外交姿勢が国民に受け入れられたということにもなる。
中国も、高市政権が長期にわたる可能性もあると読むだろう。それゆえ、11月の深圳でのAPEC首脳会議の際に習近平国家主席との日中首脳会談は実現すると思われる。
だが、レアアースなどの輸出規制強化や水産物の輸入停止などの嫌がらせが続くのは間違いない。自衛隊機へのレーダー照射などの挑発行為も当面継続するのではないか。
■「小(公明党)が大(立民党)を呑んだ」
中道改革連合は、1月22日に結党大会を開き、正式に発足した。保守右派色の強い高市政権に対し、政界再編も視野に現実路線の政策を打ち出した。
衆院選に臨んでは、公明党が小選挙区から撤退し、新党に参加した立民党出身者を支援する。その見返りに公明党出身者28人が全国11ブロックの比例選単独上位で優遇される仕組みになっている。
1月19日に公表した基本政策では、安全保障関連法が定める存立危機事態での自国防衛のための自衛権行使は「合憲」とし、エネルギー政策では将来歴に原発に依存しない社会を目指すとしつつ、条件付きで再稼働を容認した。立民党が従来の路線を大幅に転換し、公明党に歩み寄った。党名からして創価学会の池田大作名誉会長が掲げた「中道主義」から採り、党の綱領には「人間主義」がうたわれた。理念・政策的には「小(公明党)が大(立民党)を呑んだ」とも言われる。
一方の野田氏は「排除の論理はとらない」とし、立民党内の左派を切るのではなく、左派を現実路線に転換させ、2人の離反者を除いて新党に合流させた。その戦略と政治的力業は評価に値するが、それだけ立民党出身者にとって、比例復活当選する枠が削られても、各小選挙区で1~2万票とされる公明・創価学会票への期待が大きかったのだろう。
だが、各社の終盤情勢を見る限り、期待された「1+1」は「2」に届いていない。安全保障、原発などの政策で対決姿勢を示す左派・リベラルの無党派層が離反したことも影響している。国民民主党との候補者調整もうまく行かず、組織票が中道改革連合に一本化されなかったことも一因だろう。立民党出身の野田氏、枝野幸男元代表、安住淳共同幹事長らの苦戦が伝えられている。
立民、公明両党の参院議員、地方議員は当面、中道改革連合に合流しない。衆院選で惨敗すれば、野田、斉藤両氏の進退問題に発展し、場合によっては党が分解し、元の立民、公明両党に戻るのではないかという観測もないわけではない。
中道にとって、ここは踏ん張りどころではないか。
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小田 尚(おだ・たかし)
政治ジャーナリスト
1951年新潟県生まれ。東大法学部卒。読売新聞東京本社政治部長、論説委員長、グループ本社取締役論説主幹などを経て、フリーに。2018~2023年国家公安委員会委員。
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(政治ジャーナリスト 小田 尚)

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