右派の思想に共鳴するのはどのような人たちか。『「右派市民」と日本政治 愛国・排外・反リベラルの論理』(朝日新書)を出した中京大学教授の松谷満さんは「よく言われる『シニア層が主体』という指摘は正しくない。
現役世代にも一定の広がりがある」という――。
■属性から探るタイプ別「右派市民」
「右派市民とは誰か」という問いは、これまでも多くの研究で検討されてきました。ただ、これまでは、「右派政党を支持する人たち」「右派的な価値観が全般的に強めの人たち」が分析の対象となってきました。本書『』のように、極端な右寄りの人たちをタイプ別に分析するという手法は一般的ではありません。
なおかつ本書では、同じ右派市民といっても、多様な志向があることを確認しました。それならば、それぞれのタイプによって人物像も違っているのかもしれません。これから、そのことを確認したいと思います(*1)。
まず、もっとも基本的な属性である年齢と性別についてみていきます。これまでの研究では、ほとんど例外なく、右派的な人々は男性に多いといわれてきました。これは日本でも海外でも同じです。
一方、年齢については、結果にばらつきがみられます。どういった右派を分析対象とするかにもよりますが、古い価値観を重視するようなタイプの右派は、高年層が中心となります。
一方、ヨーロッパで移民排斥(はいせき)を主張するようなタイプの右派は、若者が多いというケースもあります。
■シニア男性が多い右派的な年齢層
本書の右派市民は定義上、特定の過去への愛着を特徴としています。したがって、年齢層は高めに分布しているとも予測されます。作家の古谷経衡の著書『シニア右翼』では、その名のとおり、活動的な右派の人々は圧倒的に高齢者が中心であると指摘されています。では、本書の4タイプはどうでしょうか。
性別については、すべてのタイプで男性比率が高くなっています(図表1)。調査全体の男性比率は51%ですが、それをはっきりと上回っており、やはりこれまでの調査研究と同様、右派的な人々は男性に多いことが確認されました。ただし、タイプによって男性比率の高さには違いがみられます。排外主義者はもっとも低く(58%)、伝統主義者がもっとも高くなっています(73%)。本書の「伝統主義」は家族や性にかかわる男性中心主義的な考え方を含んでいるため、当然の結果といえるでしょう。
年齢については性別ほどには明確な偏りはみられません(図表2)。そのなかで、伝統主義者がかなり際立った特徴を示しています。
伝統主義者は、70代が40%と突出して多く、60代を含めると6割を超えます。調査全体の60代以上は35%なので、伝統主義者は明確に高年層に偏っています。
■それでもシニア主体とは言えないワケ
この結果は、生まれ育った時代の影響でしょう。家族や性に関する伝統規範を当たり前のこととして長いあいだ生活してきた人々にとっては、時代が変わったから寛容になりなさいと言われても、なかなか受け入れられないのは想像に難くありません。
しかし、それ以外はあまり年齢による特徴ははっきりしません。しいていえば愛国主義者で70代が少し多い(全体15%に対して19%)程度です。この結果からすると、右派市民がシニア層主体であるという指摘は正しくないといえます。現役世代にも一定の広がりを持っているとみたほうがよいでしょう。
次に、しばしば議論となる社会階層についてみてみましょう。
社会階層は、社会学では一般的に職業、学歴、収入などからなる地位・資源の違いを表します。極端な立場を取らない穏健な保守層、つまり日本でいうならば底堅い自民党支持層は自営業者・経営者・管理職、そして地方の農林水産業従事者に多いといった傾向が指摘されてきました(*2)。
なぜなら、自民党および地域の保守政治家は、こうした地域経済を直接的に担う人々に向けた政策を重視し、そこに互助的な関係が成り立っていたからです。
とりわけ地方では伝統的な権力関係が残存する傾向が強く、地域をあげて保守政治家を応援するのはごく自然なこととされました。
■「弱者男性」が右寄りとは限らない日本
ただ、極端な右派の人々については、これと異なる議論もあります。主に欧米の極右研究やポピュリズム研究からの発想ですが、経済的に脆弱(ぜいじゃく)な人々が社会や政治に対する不満や怒りから、極端な主張にひきつけられるという仮説です。
アメリカでこのところよく指摘されるのは、衰退産業の労働者たちが、以前とは異なりトランプのような極端な主張をする政治家に期待するようになったということです。
ヨーロッパの極右についても、グローバル化のなかで恩恵にあずかれない人たちが不満のはけ口を政権やEUや移民に見出しているという議論があります。実際には、経済的な要因が直接影響するのではなく、移民の文化的脅威や伝統重視といったことが影響していることが多いようです(*3)。いずれにせよ、どちらかといえば階層的な地位の低い人々がその中心だということには変わりありません。
しかし、日本はどうかというと、これまでの調査研究ではおおよそ階層的な弱者による支持ということは否定されてきました(*4)。諸外国と比べるとまんべんなくさまざまな階層に広がっているというのがいままでのところの知見であり、特定はしにくいという了解があります。
■「右派市民」の階層的特徴の盲点
ただ、これまでの調査研究では十分に明らかになっていない点もあります。本書のように、極端な考え方を持っている少数の人々をとらえるには、それなりに大規模の調査データがなければいけません。人数が少ない場合、結果が不安定になり、はっきりした特徴をとらえきれないためです。
その点、本書が用いているデータならば、ある程度まとまった形で右派市民をとらえることができます。本書が対象とする4タイプの右派市民がどのような階層的特徴を持つのか、少し掘り下げてみていきましょう。
階層的特徴を検討する際に注意しなければならないのは、性別や年齢といったほかの属性の影響です。たとえば、右派市民には大学卒よりも中学・高校卒の人が多いという結果が出たとしましょう。しかし、それは学歴自体によって違いが生じているのか、それとも高年層には大学卒の人が少ないことによるのか、はっきりしません。
職業も同様です。右派市民には無職者が多いという結果が出たとしましょう。しかし、それは無職か有職かという違いによるのか、それとも高年層には退職者が多いことによるのか、はっきりしません。したがって、性別や年齢という条件を一定にした場合に社会階層の違いがあるのかないのか、といったことを見極めないといけないのです。
■もっとも右派から縁遠い社会層
その点に注意し、まず学歴の影響を確認しましょう。性別や年齢の影響を考慮するために、性別・年齢・学歴で12のカテゴリを作りました。年齢は若年(20~30代)、中年(40~50代)、高年(60~70代)とし、学歴は大卒(短大・大学卒以上)か非大卒(中学・高校卒)かという2区分にし、それに性別を加えると12の組み合わせとなります(*5)。

こうすれば、「高年層に高学歴層が少ない」といった影響を除外した結果としてみることが可能です。図表3は、右派市民の4タイプにそれぞれのカテゴリの人たちがどの程度含まれているかを示しています(*6)。
たとえば、愛国主義者には「若年大卒男性」が18%含まれていますが、調査回答者全体のうち若年大卒男性は14%のため、愛国主義者に相対的に多いことがわかります。一方、「若年大卒女性」は全体の10%を占めていますが、伝統主義者には1%しかいません。若年大卒女性は伝統主義者が目立って少ないといえます。
このようにして確認していくと、図表3は右派市民のプロフィールについて多くのことを教えてくれます。
まず、先に確認したとおり、右派市民は男性が中心で女性は少なめです。とくに若い大卒の女性が構成比からすると目立って少ないことがわかります。若年大卒女性はもっとも右派市民と縁遠い社会層だといえるでしょう。
そして、女性に関しては大卒よりも非大卒層(中学・高校卒の人々)のほうが右派市民と親和的です。あくまでも大卒女性と比べれば、ということです。

*1 第3章から第5章までの分析については、統計的な検定を行い、有意な関連、つまり統計的にみて明確だといえる特徴がみられた部分のみに限定して記述しています。

検定に関する細かい記述は省いていますが、恣意的な基準によるものではないという点をご理解ください。

*2 三宅一郎『現代政治学叢書5 投票行動』東京大学出版会、1989年

*3 中井遼『欧州の排外主義とナショナリズム 調査から見る世論の本質』新泉社、2021年

*4 樋口直人『日本型排外主義 在特会・外国人参政権・東アジア地政学』名古屋大学出版会、2014年。樋口直人ほか『ネット右翼とは何か』青弓社ライブラリー、2019年

*5 このカテゴリの作り方は、吉川徹『日本の分断 切り離される非大卒若者(レッグス)たち』(光文社新書、2018年)を参考にしました。

*6 表中の太字は全体の傾向と比較して割合が多いと認められるカテゴリ、グレーは少ないと認められるカテゴリを示しています。いずれも統計的な基準によって判断しています。なお、これ以降の図表でも同様の基準を用いた表示を行っています。

----------

松谷 満(まつたに・みつる)

中京大学現代社会学部教授

1974年、福島県生まれ。1998年、名古屋大学文学部卒業。2004年、大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得退学。現在、中京大学現代社会学部教授。博士(人間科学)。著書に『ポピュリズムの政治社会学 有権者の支持と投票行動』(東京大学出版会)、共著に『ネット右翼とは何か』(青弓社ライブラリー)、共編著に『3・11後の社会運動 8万人のデータから分かったこと』(筑摩選書)などがある。


----------

(中京大学現代社会学部教授 松谷 満)
編集部おすすめ