■メンタルヘルスと政治意識の関係
今回も、「右派市民とはどのような人々なのか」について考えてみましょう。具体的には、①精神的な健康状態、②人間関係や集団とのつながり、③メディア接触、という3つの観点から右派市民の特徴を分析していきたいと思います。
「政治意識と精神的健康(メンタルヘルス)に何の関係が?」と思う読者がいるかもしれませんが、海外の研究ではそうしたテーマの研究論文をときどき目にするようになりました。たとえば抑うつ傾向と陰謀論を信じることの関連性、抑うつ傾向と極端な考え方を受容することの関連性などが調査研究から指摘されています。ただ、どちらが原因でどちらが結果なのか、極端な政治的信念を持つ人がストレスを抱えやすいのか、ストレスを抱えやすい人が極端な政治的信念にひかれるのかはよくわかっていません。
こうした関連性はより慎重に扱われなければなりません。安易な決めつけによって誤解や偏見を強化させかねないからです。
それでも、人々の不安感や剥奪(はくだつ)感が「安心できる信念」としての右派的なものと結びつくという議論は日本でも多くなされてきました(*1)。実際に、不安や不満といった感情を強く持つ人は、排外主義的な感情を持ちやすくなるとの調査結果は日本でも確認されています(*2)。
■「自分はしんどい」と思い込む人の政治的志向
結果は省略しますが、本書『「右派市民」と日本政治 愛国・排外・反リベラルの論理』が用いている調査データでも、排外主義者は生活に不満を持っている人、収入が平均よりかなり低いと感じている人が比較的多いとの傾向が確認されました。
しかし、これらの人は客観的にはとりたてて収入が低いわけではありません。つまり、主観的に「自分はしんどい」と思い込んでいる人ほど、排外主義的、本書でいえば中国と韓国に非常に敵対的な感情を持っているのです。
このことは、日本でもその人の精神状態の良し悪しが右派市民的な極端さと結びつきうる可能性を示唆しているのかもしれません。実際に、以前行った分析では、ヘイトスピーチを繰り返した排外主義団体(在特会)の元リーダー・桜井誠の支持者にうつ病・不安障害の可能性があるとされる人が多かったことがわかっています(*3)。
こうしたことから、今回も右派市民と精神的健康との関連を検討することにしました。具体的にはK6という心理尺度を用いています。K6とは心理的ストレスを含む精神的な問題の程度を表すものとして広く利用されている指標です(*4)。
■右派左派共通のメンタル傾向
分析の結果を、図表1に示しました。参考までに左派市民についても同様の分析を行っています。
精神的健康は年齢によって異なるため、年齢層を3つに分けています。区分のしかたは「若年(20~30代)」「中年(40~50代)」「高年(60~70代)」です。分析の結果、右派市民、左派市民の双方にうつ・不安障害の可能性がある人がやや多いことがわかりました。
若年層ではうつ・不安障害の可能性がある人は全体で27%、排外主義者だと32%です(左派の非‐伝統主義者も32%と多くなっています)。中年層ではうつ・不安障害の可能性がある人は全体で18%、排外主義者だと22%です(左派では、反‐排外主義者23%、親左主義者24%と多くなっています)。
■好悪感情の極端さが示唆すること
この結果はやや関連があるといった程度であり、「○○は精神的に病んでいる」といったようなレッテル貼りは厳に慎まなければなりません。
しかしながら、非‐伝統主義者以外は、国や政党に対する好き‐嫌いの感情にもとづくタイプであるとの共通性が見出せます。こうした“好き‐嫌いの感情の極端さは、多少なりとも精神的健康と結びついている”ことが示唆されたといえるでしょう。
繰り返しになりますが、因果関係の向きは一方向とは限りません。精神的に不安の強い人が極端な意見を持ちやすいということなのかもしれませんし、極端な意見を持っているがゆえに、精神的に不安になりやすいということなのかもしれません。そのメカニズムがどのようなものであるのか、専門的な研究が待たれるところです。
■孤独と政治思想の因果関係
外の研究では、孤独を感じることとポピュリスト政党を支持することのあいだに関連がみられたり、陰謀論的な考えを持つことと孤独感のあいだにも関連がみられたとの調査結果も示されています。親密な人間関係を保てない、あるいはそうした関係に恵まれていない人が極端な考え方に傾倒しやすいのかもしれません。
また逆に、極端な考え方を持っているからこそ人間関係がうまくいかないのかもしれません。先の精神的健康と同じく因果関係は定かではないですし、どの程度一般化できるのかもまだはっきりしていません。
日本では、先にふれた排外主義団体(在特会)のメンバーに独身者が多いことが確認されています。
一方、社会学者の樋口直人は、独身者は単に時間的資源が豊富であり、家族による「ブレーキ」がかからないために実際の活動を行ったり、過激化したりするのだと解釈しました(*6)。
■悩みを相談できる相手がいるか
本書は活動家を対象としたものではありませんが、同様の視点に立って、右派市民の4つのタイプにはどのような人が多いのかを確認することはできます。そこで、独身者かどうか、(過去1年間に)悩みごとを相談した相手がいるかどうかを分析してみました。これに関しては性・年齢の影響が強いため、性別・年齢別に分析しました。
まず、独身かどうかについては、ほとんど関連はみられませんでした。高年男性の伝統主義者にやや独身者(離死別含む)が多い、というだけでした。独身者はむしろ左派市民に多いようです(*7)。
一方、「誰にも相談しなかった」人の割合については、左派市民では関連がみられず、右派市民の一部で関連がみられました。中年男性および高年女性の排外主義者、そして若年男性の反左主義者でその割合が高くなっていました(図表2)。先の精神的健康と同様、愛国的、伝統的価値観の表明ではなく、“好き‐嫌いの感情の極端さ”に結びつきがあるようです。
■左派になく右派にある特徴の背景
この「誰にも相談しなかった」人は、「悩みごとがあるが相談できる相手がいなかった」のか、「相談したくなかった」のか、「そもそも悩みごとがない」のかを区別することができないため、注意が必要です。
この関連の背景にはさまざまな解釈を考えることができます。そのどれがより妥当なのかはわかりませんが、仮説的にいくつか示しておきましょう。①孤独ゆえに特定の敵を見定めて憂(う)さ晴らしをしたりする、という説、②孤独ゆえにブレーキが利かずに過激化する、という説。しかし、独身者が多いわけではなく、「孤独」という前提は確かではありません。
もし、「弱みをみせたくない」「悩みがない」といった理由から誰にも相談しなかったということであれば、③自尊感情やプライドが強く、何事も自分の意見が正しいと思い込みがちな性格、なのかもしれません。しかし、この説だと左右の非対称性が説明できません。左派市民にも自己主張が強い人はたくさんいるように思われるからです。
これらはあくまでも仮説的な解釈にすぎません。その因果関係の解明は、今後の研究に期待したいところです。
*1 2000年代、歴史修正主義者(本書でいう愛国主義者)については小熊英二・上野陽子『〈癒し〉のナショナリズム 草の根保守運動の実証研究』(慶應義塾大学出版会、2003年)が、ナショナリズム全般については高原基彰『不安型ナショナリズムの時代 日韓中のネット世代が憎みあう本当の理由』(新書y、2006年)がよく引用されました。ネット右翼についても、安田浩一『ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて』(講談社、2012年)が同様の議論を行っています。
*2 田辺俊介「ナショナリズム その多元性と多様性」田辺俊介編著『外国人へのまなざしと政治意識 社会調査で読み解く日本のナショナリズム』勁草書房、2011年
*3 松谷満「ネット右翼活動家の『リアル』な支持基盤 誰がなぜ桜井誠に投票したのか」樋口直人ほか『ネット右翼とは何か』青弓社ライブラリー、2019年
*4 K6は「過去30日の間にどれくらいの頻度で次のことがありましたか」という質問文に対し、「神経過敏に感じましたか」「自分は価値のない人間だと感じましたか」など6項目について回答を求めるものです。それぞれ、「全くない(0点)」から「いつも(4点)」の範囲で回答し、合計得点が10点以上の場合、うつ病や不安障害の可能性が高いとされています。厚生労働省『令和6年版厚生労働白書』第1部第1章「こころの健康を取り巻く環境とその現状」にK6を用いた調査結果が多く掲載されています。
*5 安田浩一「在特会は、『いまの日本の気分』をわかりやすく表わしたものなんです」『Voice』2012年11月号、90ページ
*6 樋口直人『日本型排外主義 在特会・外国人参政権・東アジア地政学』名古屋大学出版会、2014年、17~19ページ
*7 左派市民については、若年層の非‐伝統主義者、中年層の反‐排外主義者、中年男性の親左主義者に独身者がやや多いという関連がみられました。非‐伝統主義者は、家族や性の規範からの自由を重視しているわけですから、独身者も当然多いでしょう。中年層の左派市民に独身者がやや多いという関連はどう解釈したらよいか、やや難しいところです。
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松谷 満(まつたに・みつる)
中京大学現代社会学部教授
1974年、福島県生まれ。1998年、名古屋大学文学部卒業。2004年、大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得退学。現在、中京大学現代社会学部教授。博士(人間科学)。著書に『ポピュリズムの政治社会学 有権者の支持と投票行動』(東京大学出版会)、共著に『ネット右翼とは何か』(青弓社ライブラリー)、共編著に『3・11後の社会運動 8万人のデータから分かったこと』(筑摩選書)などがある。
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(中京大学現代社会学部教授 松谷 満)

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