■なぜ「中道」は惨敗したのか
2月8日に投開票された衆議院議員総選挙において、立憲民主党と公明党の衆議院議員が中心となって結党された「中道改革連合(以下、中道)」が惨敗した。
中道の衆院選前の議席数は172議席で、内訳は立憲出身が148議席、公明党出身が24議席だったが、今回の衆院選での獲得議席数は49議席となり、3分の1以下に減少した。小選挙区から撤退し、比例代表にのみ出馬した公明出身の候補者は28人全員が当選した。
時事通信や朝日新聞が試算したシミュレーションでは、公明党の支持母体である創価学会が持つ強固な集票力が、これまで自民党を支援していた分の半数程度でも中道に振り替われば、政権交代が起きるとされていた。
しかし、開票後の会見で中道の野田佳彦共同代表が「1+1が2に届かなかった」と語ったように、蓋を開けてみれば結果は振るわず、期待された2つの政党の「化学反応」は起きなかった。
なぜ、理論上の数値と、現実の結果にこれほどの乖離(かいり)が生まれたのか。
■「学会票が動かなかったから負けた」のか
さきに結論を述べておくと、今回の選挙結果を「創価学会票が動かなかったから惨敗した」と総括するのは適切ではないと筆者は考えている。朝日新聞の出口調査によれば、今回の衆院選で中道支持層の91%が中道に投票しており、昨年の参院選で公明党に投票した有権者の73%が中道に投票しているという。一定数の創価学会票が中道に乗っているのは間違いない。
しかし、組織選挙において重要なのは「支持層が投票したか」だけではない。どれだけ周囲に働きかけたか、つまり「波及力」の部分こそが、勝敗を分ける本丸である。
選挙の現場では何が起こっていたのか。その実態を探るべく、中道の候補者を支援してきた複数の現役創価学会員に取材を行った。
本稿では、創価学会員への取材を基に、従来の公明党支援とはなにが違ったのか、注目選挙区であり創価学会が本腰を入れて支援をしていたとみられる「東京24区」では何が起きていたのかを紹介し、数字だけでは見えてこない「組織票のリアル」についてリポートする。
■立憲議員のあいさつにピンと来ない学会員たち
取材した創価学会員によると選挙戦の最中、各地で立憲民主党出身の候補者が創価学会の会合にリモートなどで参加し、あいさつ回りを行っていたという。しかし、そこで語られた言葉が、学会員たちの心に響くことはほとんどなかったようだ。
取材に応じた学会員たちの多くが口にしたのは、候補者たちの「デリカシーのなさ」と「準備不足」だった。
ある選挙区では、立憲出身の候補者が「私の政治の師匠は小沢一郎なんです」と、自身の政治的ルーツを熱心に語ったという。しかし、かつて新進党時代に公明党と袂(たもと)を分かち、その後も対立関係にあった小沢一郎氏に対して、好感情を持っている創価学会員は極めて少ない。むしろ敵対心の強い会員もいる中で、悪気なくそのようなエピソードを披露してしまう感性が、現場の空気を冷めさせていた。
これは単なる“失言”ではない。
都内在住の50代男性の現役創価学会員は、自身の選挙区の候補者についてこう語る。
「通り一遍の経歴紹介や政策論ばかりで、私たちの心に寄り添うような言葉がまったくなかった。例えば『同級生に学会員がいて、そいつが良い奴だったから学会の印象も良い』とか、嘘でもいいから学会員に寄り添う姿勢を見せてくれたら、私たちだって『じゃあ応援してみようかな』という気持ちになれる。それなのに、自分の経歴を淡々と紹介されたところで、やる気が出るわけがない」
■「けじめ」をつけて再出発する候補も
一方で、同じ立憲出身でも評価が高かったのが辻元清美参議院議員だ。
辻元氏は過去に公明党や創価学会と激しく対立してきた経緯があるが、今回の選挙戦初日には応援に入った街頭演説で深々と頭を下げ、これまでの非礼を詫びることから演説を始めたという。この「けじめ」が関西の学会員の琴線に触れ、一定の支援を引き出したようだ。
創価学会員は選挙には慣れている。だが、「同じ信仰を持っている同志」を無条件で支援してきたこれまでとは状況が違うと考えられる。いままで以上に「この候補者はどんな人間なのか」「自分たちの信仰を尊重してくれるのか」といった点が、シビアに問われているのだ。
■名物の「危うし!」もなく緊張感が高まらない
創価学会の支援がフル稼働しなかった理由は、候補者の資質だけではない。
従来、公明党の選挙といえば、終盤になると機関紙である公明新聞の1面に「○○、危うし!」「逆転を許すな!」といった激しい見出しが躍り、組織全体に悲壮感に近い緊張感が走るのが常だった。しかし今回、そうした「煽り」は一切見られなかった。
さらに決定的だったのが、小選挙区単位での緻密な「成果報告」が求められなかったことだ。
これまで創価学会の選挙活動では、日々の活動量を数値化して報告することが徹底されていた。例えば、友人に投票依頼をした数を「F(Friend)」、その友人がさらに別の友人に依頼してくれた数を「○F(マルエフ)」などと符丁で呼び、地区ごとにグラフ化して競い合うような文化があった。この徹底した数値管理と報告義務こそが、末端の会員を突き動かすエンジンの役割を果たしていたのだ。
首都圏に住む現役創価学会員の30代男性は、今回の選挙戦の「緩さ」についてこう証言する。
「いつもなら、自分たちが掲げた目標数値に対して地元幹部が『あと何票足りない、断じてやり抜こう!』などと声をかけ、投票依頼を行ってました。でも今回は、上層部から具体的な数値目標が下りてこず、成果報告の義務もなかった。そもそも立憲が嫌いな男子部のメンバーも少なくないので、支援活動にいつもの勢いはありませんでした」
報告義務がなければ、当然ながらサボる人間が出てくる。また、目標がなければ達成感も生まれない。
■「組織票」はどのように作られるのか
そもそも「組織票」とは何だろうか。
創価学会の公明党支援や、連合による旧民主党・立憲民主党支援など、特定の巨大組織による政党支援の動きは一括りに「組織票」と呼ばれる。特に創価学会による支援活動は、その盤石さから「集票マシーン」などと揶揄(やゆ)されることもある。
しかし、当たり前のことだが、実際に機械が票を集めているわけではない。一人ひとりの人間が、汗をかき、恥を忍んで知人に頭を下げ、積み上げていく努力の結晶が「組織票」の正体だ。
これまで紹介してきたように、候補者の働きかけが弱く会員の心が動かなかったり、支援現場に目標や緊張感が失われてしまえば、たとえ数百万人の会員を擁する巨大組織であっても、その機動力は著しく低下する。スイッチが入らなければ、マシーンは動かないのだ。
候補者に対する感情や、戦う意味を実感できるかどうか、現場に緊張感があるかどうか――そうした空気が揃って初めて「組織票」は動き出すものだ。今回の選挙でそれが成立していた選挙区は、決して多くなかった。
だが、例外もあった。今回の選挙で中道は大敗したが、その中でも創価学会が本腰を入れて支援活動を展開していたのが、八王子市を中心とした「東京24区」である。
■「候補者が代わってホッとしました」
選挙結果は、自民前職の萩生田光一氏が8万5806票を獲得し、当選した。中道新人の細貝悠氏は7万781票で敗れたが、急遽擁立された新人候補にしては、自民党の重鎮に肉薄しているとも言える。
東京24区では当初、立憲民主党の有田芳生氏が出馬を予定していた。しかし、公示直前に有田氏は比例の東北ブロックへ回り、代わりに元都議会議員で32歳の若手、細貝氏が擁立された。
別の記事でも論じたが、この「候補者の差し替え」こそが、東京24区の創価学会員に火をつける決定的な要因となった。
そもそも有田氏は、ジャーナリスト時代から公明党や創価学会を厳しく批判してきた人物として知られている。過去には「反創価学会」を掲げるジャーナリストや政治家ともイベントを行うなど、学会員にとっては嫌いになって当然の存在だった。もし有田氏がそのまま24区から出馬していれば、学会票は中道ではなく、別の党に流れていた可能性がある。
八王子市に在住する現役創価学会員の30代男性によると、候補者が有田氏から細貝氏に差し変わった瞬間、地元の空気は一変したという。
「正直、有田さんに投票するのは絶対に無理だと思っていたので、候補者が代わったときは本当にホッとしました。しかも新たに候補者となった細貝さんは八王子出身で、若い候補者です。これで何のわだかまりもなく、全力で応援できる! と喜んでいた学会員はたくさんいましたよ」
■「クリーンな政治」という大義とも一致
さらに、対抗馬である萩生田氏の存在も、学会員の闘志に火をつけた。
そもそも公明党が26年間にわたる自民党との連立を離脱した最大の理由は、自民党の「政治とカネ」の問題に対する不信感だった。そのため、裏金問題の象徴的存在ともいえる萩生田氏を落選させることは、公明党の掲げる「クリーンな政治」という大義名分とも完全に合致する。
「応援しやすい若手候補」と「倒すべき明確な悪役」。この2つの要素が揃ったことで、東京24区の創価学会員は、「戦う意義」を見いだしたのだ。
■激戦区を紹介する「聖教新聞の一面」
東京24区が創価学会にとって「注目区」であったことは、現地取材だけではなくほかの要素からも見えてくる。それが聖教新聞の一面だ。
筆者が入手した2月6日付の聖教新聞を見てみると、右端に「創大生が街の中へ 人の中へ」という見出しがある。記事では、創価大学の学生が地域と協働して社会課題に取り組んでいる様子が紹介されている。
この記事は2面まで続いており、八王子北口商店街会長の「若い力で街の“空気”が変わった」というコメントが見出しになっている。そう、この創価大学がある場所がまさに東京24区なのである。
現役創価学会員の40代男性によると、聖教新聞では選挙が近づくとそのときの激戦区に関する池田大作氏のエピソードが紹介されたり、地域の取り組みなどが紹介されることはよくあることだという。聖教新聞で紹介された地域では、LINE等で地元が紹介されたことを喜び合い、集会などで聖教新聞を読み合って決意を新たにするのだという。
非創価学会員からすれば、この記事はただの大学生の活動を紹介した記事でしかないが、創価学会員からすれば激戦区での勝利を誓い合うためのメッセージとして機能しているようだ。
■熱狂に包まれた「なっちゃん」の街頭演説
さて、地元の学会員が細貝支援に本気になっているという情報を検証すべく、筆者は2月6日、八王子駅周辺で行われた中道の街頭演説会を取材した。
登壇者をなるべく近くで見るために、19時の開始に合わせて18時20分頃に現地に到着したが、その時点で広場の6割ほどがすでに人で埋め尽くされており、会場中央から先へは進めないほどの盛況ぶりだった。最終的な参加者はおそらく1000人超ではないか。
特筆すべきは、集まっている聴衆の層だ。演説会の参加者は6~7割が20代から30代の若者で、そのうち7割程度が男性だった。50代以上の中高年層も見受けられたが、圧倒的に若者の姿が目立つ。
会場を観察していると、複数人の知り合い同士で参加している若者が多く、「お! 来てたんだ!」「お疲れさまです!」といった挨拶が各所で交わされていた。また、会場整理やビラ配りをしている20人ほどのスタッフも全員が若者だった。
取材した八王子在住の学会員によると、これらのスタッフは立憲側が集めたボランティアが中心で、意図的に若いスタッフを集めて配置していたという。やはり、大物政治家が対立候補なだけあって、立憲側もかなり気合が入っていることが伝わってくる。
演説が始まると、まず最初に元公明党衆議院議員の伊佐進一氏からあいさつがあり、伊佐氏からマイクを受け取った細貝候補の演説では「がんばれー!」や「そうだ!」という声が会場中で響いた。
そして、応援弁士として立った公明党の元代表・山口那津男氏がマイクを握ると、演説が始まる前から会場のあちこちで「なっちゃーん!」という野太い掛け声が響き渡り、会場の熱気は最高潮に達した。山口氏もそれに応えるように、冒頭で「なっちゃんです!」とひと言添えてから演説に入り、会場を沸かせた。若者たちから多くの歓声が上がり、コンサートのような一体感が生まれていた。
■動員がなくてもイベントに結集
演説会終了後、会場を少し歩いてみると、聞き逃せない会話を耳にした。
「明日と明後日の唱題会は○○時からだから、よろしくね!」
「今日もおつかれさま! 明日の会合もよろしくね!」
「唱題会(しょうだいかい)」とは、創価学会の信仰実践である「南無妙法蓮華経」の題目を、会館などに集まって複数人で唱える宗教的な行事のことだ。こうした専門用語を日常的に使い、翌日の予定を確認し合っている若者たちは、おそらく創価学会員だろう。
翌日、八王子在住の学会員と、八王子出身の学会員に、「こうしたイベントには上から動員がかかるものなのか」と尋ねてみた。すると、意外な答えが返ってきた。
「動員は特にかかってないみたいですね。ただ、八王子は創価大学もありますし、もともと学会員が多いうえに選挙慣れしている地域です。特に今回は負けられない戦いなので、演説会のようなイベントがあればわざわざ組織的に動員をかけてなくても自発的に集まれるんですよ。八王子ってそういうところなんです」
東京24区で目にしたこの光景こそが、おそらく本来の創価学会の選挙支援の姿なのだろう。
■「宗教票」と「労組票」は融合できるのか
今回の選挙で、中道改革連合は惨敗した。これから中道という枠組みが維持されるのか、それとも解党されて公明党と立憲民主党がそれぞれの道へ戻っていくのかは、現時点では不透明だ。
しかし、ひとつ確実に言えることがある。それは、日本最大の宗教団体(創価学会)と、日本最大の労働組合(連合)が支援する政党が手を組んだとしても、単純に「1+1=2」のような力を発揮することはできなかった、ということだ。
組織票とは、単なる数字の足し算ではない。それを構成するのは、感情を持った生身の人間である。思想信条もカルチャーも異なる組織同士が、上層部の握手だけで現場レベルまで一致団結することは、極めて困難であることが証明された。
結果こそ出なかったが、東京24区のように効果的な支援体制を構築できる地域もあるだろう。だがそれは、「応援しにくい人物がいなくなった」「共通の敵がいた」「候補者が地元出身でフレッシュだった」という、さまざまな好条件が奇跡的に重なった結果に過ぎない。
読売新聞オンラインの記事でが「立民系のベテランは『新党結成によって入ってきた票よりも、逃げた票の方が多かった』と振り返った」と報じている。立憲出身の大物が次々と落選する、立憲票が融解するような状態では組織票があっても機能するはずがない。
仮に東京24区のように、そこまでの条件が整ったとしても、無党派層の支持を広く得られなければ小選挙区で議席を得られない。
■高市首相の戦略に圧倒された
「組織票があれば勝てる」や「組織票が動かなかったから負けた」という、マスコミが当初報じていた分析は誤りだったと言わざるを得ない。
そもそも、今回の解散総選挙は高市首相が「高市早苗が内閣総理大臣でよいのか国民の皆様に決めていただく」ために打って出たものだった。本来であれば中道は高市首相以上の人物を党代表として担ぐか、高市首相が語ってきたものより強い政策を打ち出さなければいけなかった。しかし、結局のところ魅力的な代表を立てられず、消費減税は与野党ともに主張したことで争点化できなかった。
急な解散によって立憲と公明の政策や組織票をまとめる時間もなく、生煮えの状態のまま選挙戦に突入してしまったといえる。
組織票というのはあくまでも選挙結果を構成するひとつの要素であって、その動きがそのまま選挙の結果を左右しているわけではないのだ。自民党圧勝と中道惨敗は、「組織票のもろさ」を明らかにした選挙結果だったともいえる。
今回の選挙で中道の野田佳彦共同代表は「比較第一党」を目指したが、結果的には議席数を3分の1に減少させてしまった。もし今後も中道として比較第一党や政権交代を目指すのであれば、「宗教票」と「労組票」を現場レベルで融和させ、そのうえで無党派層に響く主張を展開していけるかがポイントとなる。
今後、組織票を背景とした中道の主張は無党派層に届くのか。あるいは、政党として存続できるのか。新党の行く末に注目したい。
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片山 一樹(かたやま・いつき)
ライター
1992年生まれ。出版社勤務を経てライターに。
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(ライター 片山 一樹)

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