※本稿は、牧田善二『糖が脳を破壊する』(SB新書)の一部を再編集したものです。
■空腹時には血糖値が低くても、食後に大きく上がる
糖の摂取がどうして脳劣化を招くのか理解していただくために、ここで「血糖値」について基本的なことを説明させてください。
よく知られているように、「糖尿病」とは血糖値が高くなる疾患です。
糖尿病に罹っていないか調べるために、一般的な健康診断で定着しているのが「空腹時血糖値」の検査です。空腹時血糖値が100未満は正常、100~109が正常高値(要注意)、110~125が境界型(グレーゾーン)、126以上あれば糖尿病が強く疑われます。
しかし、この検査はあまりあてになりません。というのも、空腹時には血糖値が低くても、食後に大きく上がる人が多くいて、それは見逃されてしまうからです。
そこで、「ヘモグロビンA1c」という数値を参考にします。これは、ここ1~2カ月の血糖値が、どのくらいで推移したかを示すもので、空腹時血糖値より信頼がおけます。
ただ、それでも完璧ではありません。
■食後2時間で血糖値はどれだけ下がるか
そのため、空腹時血糖値やヘモグロビンA1c値に怪しいところがあれば、「ブドウ糖負荷試験」という検査を行い正確な診断を下します。
この検査で調べるのは、まさに食後血糖値です。具体的には、空腹状態で75グラムのブドウ糖を溶かした液体を飲み、30分後、1時間後、2時間後に血糖値がどう推移するかを見ていきます。
75グラムものブドウ糖を摂れば、健康な人でも血糖値が上がりますが、時間を追ってだんだん下がっていきます。2時間後血糖値が140未満になれば正常、そこまで下がらずに200以上あれば糖尿病、140~199なら境界型と診断されます。
もし、あなたがブドウ糖負荷試験を受け、2時間後血糖値が140未満なら「糖尿病の心配はありません」と言われます。
しかし、「だから糖をたくさん摂ってOK」というものでもありません。糖尿病と診断されなかったとしても、糖質を摂った後は血糖値が大きく上がります。そして、それによって脳が大きな影響を受けているからです。
■甘いものを食べると幸せになるメカニズム
私たちの血糖値は、1日の中でも絶えず変動しています。
脳も含めた全身の健康のためには、この血糖値の変動幅が小さいほうがいいのです。
ただ、自分の血糖値がどう変動しているかなど、普通はわかりません。血糖値が多少高くてもなんら自覚症状はありませんから、わかりようがないと言ったほうが正確でしょう。
さすがに、血糖値が500を超えれば昏倒するなど、命に関わる状況になります。でも、200くらいでは痛くも痒くもありません。だから、健康診断で血糖値が高いと指摘されても放置してしまう人が多いのです。
それどころか、血糖値がある値まで上がると、一瞬、気分がスカッとして気持ちよくなります。
この、ハイになる時点を、専門用語で「至福点」と言います。
甘いものを食べると幸せな気分になるのも、イライラが落ち着くのも、血糖値が急上昇して至福点に達したからにすぎません。
それを「甘いものを食べると脳が冴える」と勘違いしてしまう人がいるから問題なのです。
ハイになるのは一瞬のことで、その後には、とてもまずいことが待っています。
■高血糖に続く低血糖で集中力激減
血糖値が上がって至福点に到達し、幸せな気分、冴えた気分になるのは一瞬で、その後、血糖値は下がっていきます。
このとき、血糖値の上がり方が急であるほど、下がり方も急になります。たとえて言うなら、ジェットコースターのようなものです。
このように血糖値が「急上昇・急降下」することを「血糖値スパイク」と言います。
健康な人の血糖値は、70~140くらいの間で収まっており、かつ大きな変動がないのが理想です。しかし、血糖値スパイクを起こすと、急降下時に70を切ってしまうことが多々あります。
血糖値が異常に低くなれば、吐き気、眠気、空腹感、頭痛、冷や汗、動悸、イライラ、震えなど、さまざまな不快症状に襲われます。そうなると、低血糖による不快感から抜け出したくて、また糖を摂ってしまう人が多いのです。
その結果どうなるかというと、「糖摂取→血糖値が上がったことによる一時的快感→低血糖による不快感→糖摂取」という負のスパイラルに陥ります。そして、これを繰り返しているうちに、脳がすっかり破壊されていきます。
■健康な人にもこんなことが起きている
先にふれた「ブドウ糖負荷試験」は、2時間後までの計測が原則です。そのため、さらに長時間経過した血糖値の変化については、医療関係者でも把握できていませんでした。
そこで、鹿児島県の今村総合病院(当時は今村病院分院)や鹿児島大学などが、5時間後まで血糖値を追跡するという研究を行いました。その結果、大変に興味深いことがわかりました。
その研究には、糖尿病と診断されたことも血糖値の異常を指摘されたこともない26名の健常者がボランティアで協力してくれました。
このボランティア26名にブドウ糖負荷試験を受けてもらうと、3時間後くらいに、ひどい低血糖に陥るケースがたくさん見られたのです。
次ページに、いくつかのグラフを載せますので見てください。
1番目の60代男性の場合、30分後に222まで上がった血糖値が、180分後には67まで下がっています。
2番目の40代男性は、60分後に267まで上がり、180分後に61まで下がっています。
まさに、健康なはずの人の体で血糖値スパイクが起きていることを示しています。
3番目の50代男性に至っては、60分後に208まで上がった血糖値が、180分後には44まで下がっています。これは、相当な不調が出るレベルです。
■血糖値スパイクの発症に年齢は関係ない
若いからといって安心はできません。20代や30代であっても、食後血糖値を長時間追っていくと、低血糖を起こしている事例がいくつか見られます。
つまり、あなたが何歳であっても、どれほど自分の健康には自信を持っているとしても、糖をたくさん摂れば、知らぬ間に血糖値におかしな変動が起きかねないということ。それはすなわち、脳の劣化を進めてしまうということなのです。
なお、こうした血糖値スパイクの繰り返しは、脳のみならず全身をボロボロにします。血糖値が高い状態は、凶悪物質AGE(※1)を量産してしまうからです。
■軽い気持ちでブドウ糖サプリを摂取しない
ブドウ糖負荷試験は、糖尿病の疑いがある人に正確な診断を下すためのもので、明らかに糖尿病であることがわかっている患者さんに対して行ってはなりません。
というのも、空腹時血糖値が150を超えているような人や、食後血糖値が250を超えているような人が、75グラムという大量のブドウ糖を摂れば、血糖値が極端に高くなり昏倒するなどの危険性があるからです。
要するに、糖質摂取を軽く考えてはいけないということです。
今はドラッグストアやネットショップで、ブドウ糖のサプリメントやタブレットが簡単に手に入ります。そうした商品の売り文句として、「脳に働く」「すぐに効く」「くちどけが良い」などという言葉がよく用いられています。
どの言葉も「ウソ」ではないかもしれません。しかし、「だからおすすめ」とは断じて認められません。
脳には悪い意味で働きかけるでしょう。
(※1)AGEとは「終末糖化産物」という糖とタンパク質が結びついてできる物質。血管をボロボロにし、脳の機能低下はもちろん全身の老化を加速させる。
■「ブドウ糖がないと頭が働かない」は糖質中毒
ブドウ糖100パーセントですから、あっという間に小腸から血液中に吸収され、すぐに効きます。くちどけが良ければなおさら、その吸収は早いでしょう。では、それは望ましいことなのでしょうか。
食事に含まれる糖質のように噛んで胃で消化して……という作業を経ず、ブドウ糖そのものを口にすることが「効率の良い賢い方法」だと思ったら、とんでもない間違いです。
受験期の子どもに、「善かれ」と思ってブドウ糖を与えている親がいますが、すぐに中止しましょう。もし、「ブドウ糖がないと頭が働かない」と子どもが言うなら、それは糖質中毒に陥っている可能性大です。
もちろん、大人でも同様。頭脳労働をしているからとブドウ糖サプリを摂れば、頭脳の働きが悪くなります。
■間違った飲料を選ぶとバカを見る
ブドウ糖のサプリメントやタブレット以外にも、「脳のために絶対に摂らないほうがいい」というものがいくつかあります。
その筆頭が「液体の糖質」。なかでも、コーラなどの清涼飲料水です。
基本的に清涼飲料水は、水に砂糖を溶かし、香料や色素を加えただけの代物です。脳にも全身の健康にもマイナスでしかないのに、お金を支払ってまで飲んでしまうのは、糖質中毒になっているからだと気づいてください。
甘味のついた缶コーヒーも要注意です。仕事中に眠くなると缶コーヒーを飲むという人もいるでしょう。しかし、血糖値スパイクを起こし、低血糖による眠気に襲われてしまうので、まったくの逆効果です。
缶コーヒーには、「微糖」「甘さ控えめ」など、あたかも糖質量が少ないかのようにうたっている商品がありますが、実際に調べてみると、そうした商品のほうが糖質含有量が多かったりします。飲むならブラックタイプに限りましょう。
■「エナジードリンク=栄養ドリンク」ではない
疲れたときや、大事な仕事に備えて愛飲している人が多いエナジードリンクもやめておきましょう。
エナジードリンクを飲むと、一瞬シャキッとしますね。それは、糖質による血糖値上昇とカフェインの作用であり、特別に優れた栄養素が入っているからではありません。繰り返し飲んでいれば、糖質中毒だけでなく、カフェイン中毒に陥る可能性も捨てきれません。
スポーツドリンクにも糖質がたっぷり含まれています。熱中症に備えて頻繁に飲む人もいるようですが注意が必要です。
炎天下で部活動を行っているわが子を心配し、毎日数本のスポーツドリンクを持たせていたら、ある日、高血糖で昏倒してしまったというケースが実際に少なくありません。熱中症が心配なら、ミネラルウォーターで十分。塩分補給に梅干しでも食べればいいでしょう。
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牧田 善二(まきた・ぜんじ)
AGE牧田クリニック院長
1979年、北海道大学医学部卒業。地域医療に従事した後、ニューヨークのロックフェラー大学医生化学講座などで、糖尿病合併症の原因として注目されているAGEの研究を約5年間行う。この間、血中AGEの測定法を世界で初めて開発し、「The New England Journal of Medicine」「Science」「THE LANCET」等のトップジャーナルにAGEに関する論文を筆頭著者として発表。1996年より北海道大学医学部講師、2000年より久留米大学医学部教授を歴任。
2003年より、糖尿病をはじめとする生活習慣病、肥満治療のための「AGE牧田クリニック」を東京・銀座で開業。世界アンチエイジング学会に所属し、エイジングケアやダイエットの分野でも活躍、これまでに延べ20万人以上の患者を診ている。
著書に『医者が教える食事術 最強の教科書』(ダイヤモンド社)、『糖質オフのやせる作おき』(新星出版社)、『糖尿病専門医にまかせなさい』(文春文庫)、『日本人の9割が誤解している糖質制限』(ベスト新書)、『人間ドックの9割は間違い』(幻冬舎新書)他、多数。 雑誌、テレビにも出演多数。
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(AGE牧田クリニック院長 牧田 善二)

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