睡眠の質を高め、脳の健康を保つにはどうすればいいか。医師の牧田善二さんは「人類は不要な糖質を摂ることで、脳も体も劣化させている。
さらに問題なのが、ブドウ糖ばかり使っていて『ケトン体』が働くチャンスを失っていることだ。ケトン体によって体内時計が整えば、睡眠の質も上がり、脳の健康が保たれる」という――。
※本稿は、牧田善二『糖が脳を破壊する』(SB新書)の一部を再編集したものです。
■人類はケトン体で生きるべき
もともと人類は、多くの糖質を得られる前提で生きるようにつくられていません。
たしかに、糖質は重要なエネルギー源です。でも、人類が誕生した当時、地球上には今のように糖質はたくさん存在しませんでした。だからこそ、少しの糖質で足りるように設計されているのです。
そのような体をもった私たちが、今は糖質だらけの世界に投げ出されているだけ。私たちの周りには、脳や全身の健康を脅かす敵がうろうろしている状態なのだということを、しっかり把握しておく必要があります。
その気づきがないままに、本来であればいらない糖質を摂ってしまえば、脳も体も劣化するのが当たり前です。
さらに問題なのが、ブドウ糖ばかり使っていれば「ケトン体」が働くチャンスを失ってしまうことです。
詳しくは後述しますが、ケトン体を使えている人は、健康を維持するうえでさまざまなアドバンテージを得ることがわかっています。

長く妊婦の糖尿病を扱ってきた宗田哲男医師が、その著書で指摘しているように、私たちの体は「ブドウ糖エンジン」と「ケトン体エンジン」という2種類のエネルギー源を使えるようにできています。
とくに、胎児は胎盤の絨毛(じゅうもう)でつくられたケトン体をエネルギー源にしています。私たちは、まずケトン体をエネルギーに命をつないできたわけです。
ところが、糖質だらけのこの世に生まれてきたとたん、ブドウ糖エンジンに頼るようになってしまうのです。
■ブドウ糖が枯渇すると、ケトン体を使えるように
ケトン体は、英語で「Ketone bodies」と書きます。簡単に言うと、脂肪が分解されるときに肝臓で生成される物質です。肝臓から全身に運ばれ、脳も含め、あらゆる臓器でエネルギー源となることができます。
エネルギーとしてすぐに使えるブドウ糖が私たちの体内からなくなると、まずは、肝臓や筋肉などに貯蔵されていたグリコーゲンが分解され、ブドウ糖エネルギーとなります。
それも枯渇すると、脂肪細胞に溜め込まれた中性脂肪が脂肪酸に分解され、ケトン体エネルギーを使えるようになるのです。
私たちが活動するためのエネルギーは、最終的にはATP(アデノシン三リン酸)という分子として利用されます。
ブドウ糖は、酸素と反応することでATPに変換されます。一方で、ケトン体はミトコンドリアによってATPに変換されます。

そのため、ミトコンドリアのない赤血球では、ケトン体はエネルギー源とはなり得ません。しかし、脳はもちろん、ほとんどの臓器でエネルギーとしてしっかりと働くことができます。
■継続的で安定した状態でエネルギーを供給
このとき、糖質由来のブドウ糖よりも、脂質由来のケトン体のほうがエネルギー効率が高くなります。
同じ1グラムの場合、糖質は約4キロカロリーなのに対し、脂質は約9キロカロリーあるからです。
肥満体の人でなくとも、体にはかなりの脂肪を貯蔵しています。一般的に健康とされる脂肪率は、男性で10~19パーセント、女性で20~29パーセントくらいです。体重50キログラム、脂肪率25パーセントの女性なら、12.5キログラムの脂肪を溜め込んでいることになります。
こうした脂肪由来のケトン体を使えれば、効率がいいだけでなく、安定的にエネルギーが供給されます。
もともとブドウ糖は、激しい運動を行うときなどに適したエネルギー源で、マラソン選手が試合の前に炭水化物をたくさん摂るのは理にかなっています。ただし、筋肉や肝臓にグリコーゲンとして貯蔵できる分量は限られており、枯渇しやすい一面もあります。
一方で、ケトン体はたくさん溜め込まれている脂肪を使うので、継続的で安定した状態でエネルギーを供給できます。すなわち、おだやかなエネルギー源となり、脳の神経細胞やシナプスの働きをしっかりとサポートしてくれます。

■ケトン体で体内時計が整えば、睡眠の質も上がる
ケトン体はエネルギー効率がいいだけではなく、さまざまな優れた側面を有しています。
最も注目すべきが、BDNF(Brain-Derived Neurotrophic Factor=脳由来神経栄養因子)という物質の分泌を増やすのではないかと考えられていることです。
BDNFは記憶を司る海馬に多く含まれ、神経細胞の働きを活発にしてくれることが明らかになっています。
このBDNFの分泌が増えれば、脳の神経細胞の維持や新生が促進され、脳の萎縮防止につながります。
さらに、「抗酸化作用」があることもわかっています。それによって脳の酸化ストレスが軽減され、神経細胞の損傷を防いでくれます。
また、「抗炎症作用」も指摘されています。持続的な慢性炎症はあらゆる疾患の原因となることが明らかになっており、脳に炎症があれば、認知症を引き起こすきっかけとなります。ケトン体は、そのリスクを低減してくれます。
加えて、私たちの体内に組み込まれた「時計遺伝子」を制御して、体内時計を整えることもわかってきました。
現代人の多くが、睡眠の問題を抱えていると言われます。24時間、深夜にも行動する生活スタイルや、スマホなどのブルーライトを見続ける習慣が、睡眠の質を落としているのです。

しかし、質のいい睡眠は脳の休息に不可欠。ケトン体によって体内時計が整えば、睡眠の質も上がり、脳の健康が保たれることは十分に想像できます。
■ケトン体が誤解されたワケ
このように素晴らしい働きを示すケトン体ですが、かつては悪者扱いされていました。1991年にアメリカの研究者によって「妊娠中に母体のケトン体が高い状態で生まれた子どもは2~5歳時の知能が下がる」という論文が出され、「血中ケトン体は低いほうがいい」というのが長く定説になってしまったのです。
この論文には、数々の誤りがあるのですが、今でもそれを信じ込んでいる医療関係者がいるのが残念なところです。
また、「ケトアシドーシス」という症状を、無理解なままに恐れている傾向があるのも困ったものです。ケトアシドーシスとは、「血中のケトン体が著しく増え、血液が酸性に傾いている危険な状態」などと解説されますが、それはよほど重篤な糖尿病の患者さんにごくまれに起こるものであり、一般的には生じません。
そもそも、「著しく増え」の著しくとは、いったいどのくらいを指しているのかも定かではありません。みんな事実を確認せずに、騒いでいるだけなのです。
その人が、どのくらいケトン体を使っているかは、血中ケトン体濃度を測ることでだいたいわかります。血中ケトン体濃度の基準値は26~122とされており、空腹時には高く食後には低くなるというように、1日のうちでも変動します。
■糖質を過剰摂取している限りケトン体の出番はない
ただし、この26~122という数字は、3食、炭水化物を主食として摂るような生活を送っているという前提のもので、私に言わせれば低すぎます。

糖質摂取量を減らしていけば、26~122などという「基準値」は簡単に突破します。そして、1000を超えようとなんの問題も起きません。
ケトン体は、糖質を摂らないとどんどん血中に増えてきてエネルギーとして使われますが、糖質を摂っているとブドウ糖が優先されて使われます。要するに、糖質を過剰摂取している現代人は、ケトン体の能力を眠らせているわけです。
ちなみに、ブドウ糖が不足すると、ケトン体が使われるようになるだけでなく、「糖新生」というメカニズムも働きます。
糖新生は、筋肉のアミノ酸など、糖質以外からブドウ糖をつくりだす仕組みです。
この生命維持装置によって、たとえ飢餓状態に陥っても、私たちはブドウ糖不足に陥らないようにできているのです。
ましてや、現代社会において、ブドウ糖が不足して危険な事態に陥るなどということはありえません。
いずれにしても、糖質を摂らなくてもエネルギー不足になどならないし、脳のためにも全身の健康のためにも糖質は減らすべき。

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牧田 善二(まきた・ぜんじ)

AGE牧田クリニック院長

1979年、北海道大学医学部卒業。地域医療に従事した後、ニューヨークのロックフェラー大学医生化学講座などで、糖尿病合併症の原因として注目されているAGEの研究を約5年間行う。この間、血中AGEの測定法を世界で初めて開発し、「The New England Journal of Medicine」「Science」「THE LANCET」等のトップジャーナルにAGEに関する論文を筆頭著者として発表。
1996年より北海道大学医学部講師、2000年より久留米大学医学部教授を歴任。
2003年より、糖尿病をはじめとする生活習慣病、肥満治療のための「AGE牧田クリニック」を東京・銀座で開業。世界アンチエイジング学会に所属し、エイジングケアやダイエットの分野でも活躍、これまでに延べ20万人以上の患者を診ている。
著書に『医者が教える食事術 最強の教科書』(ダイヤモンド社)、『糖質オフのやせる作おき』(新星出版社)、『糖尿病専門医にまかせなさい』(文春文庫)、『日本人の9割が誤解している糖質制限』(ベスト新書)、『人間ドックの9割は間違い』(幻冬舎新書)他、多数。 雑誌、テレビにも出演多数。

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(AGE牧田クリニック院長 牧田 善二)
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