■364億円の「損失引当金」とは何か
不適切会計で揺れるニデック(Nidec)が2025年11月に発表した第2四半期決算で、合計約877億円の巨額損失を計上したことが大きな話題になりました。主因の1つが364億円の「契約損失引当金」です。
「あれ? 損失そのものではなく、損失“引当金”?」と疑問に思った方も多いのではないでしょうか。本稿では、まず引当金とは何なのかを解説し、ニデックの処理がなぜまずかったのかを解き明かします。
「備えあれば憂いなし」という言葉がありますね。引当金は、まさに会計における「未来への備え」です。ただし、ここで絶対に間違えてはいけない大切なポイントがあります。それは、引当金は「お金を貯金箱に入れる」ことではない、ということです。
例えば、メーカーがテレビを1台売ったとします。このテレビには「1年間の無料修理保証」がついています。会計では、この「テレビを売ったこと」と「修理を約束したこと」をセットで考えます。なぜなら、将来の修理というコストが発生する原因は、紛れもなく今年の販売活動にあるからです。
そこで登場するのが「引当金」です。引当金とは、この未来の修理コストを、今年の売上に対応させるための「会計上の道具」なのです。
お金を実際に貯めておくのではなく、あくまで帳簿上「今年の売上には、未来のコストの“影”がこれだけ含まれています」と正直に記録する。それが引当金です。
■「引当金」は会社の本当の実力を示す
なぜ引当金が必要なのでしょうか。
想像してみてください。ある会社が今年、10万円のウソ発見器を1万台売りました。来年も同じくらい売れそうです。「やった、大儲けだ!」と喜びたいところですが、そのウソ発見器は原価がかさみ、利益率が3%と低く、そのうえ1年間の無料修理保証がついています。そして、まだまだ未知の技術を活用していることから、100台に10台の割合(10%)で故障することがわかっており、修理費は1台当たり5万円もかかります。
もし、引当金がなかったらどうなるでしょう? 今年は販売台数1万台×販売価格10万円×利益率3%=3000万円の利益がありますが、来年は1台当たり修理費5万円×販売台数1万台×故障率10%=5000万円の修理代がかかります。
●今年:「大儲けだ、最高の年だった!」と報告する。
●来年:「去年売った分の修理費用がかさんで、今年は利益がない……」と報告する。
これでは、今年は優良企業に見えても、来年は低収益企業に見えてしまいます。でも、本当はウソ発見器を売った時点で「将来修理する義務」も一緒に引き受けているはずですよね。そこで引当金の出番です。
●今年:売上を計上すると同時に、将来の修理費用の見込み分を費用として計上しておく。
●来年:実際に修理した時は、すでに準備していた費用(引当金)を取り崩して対応する。
こうすることで、売上とそれに関連する費用が同じ年に記録され、会社の本当の実力が正しく表現できるのです。
■引当金が持つ「2つの顔」
引当金には「2つの顔」があります。先ほどのウソ発見器の無料修理保証の例で見てみましょう。
1.今年の責任(P/Lの費用)という顔
今年ウソ発見器を販売したことが原因で、将来の修理費用が発生する可能性があります。その責任は、販売した今年にあるべきです。だから、将来発生するかもしれない修理費用の見積額を、今年のP/L(損益計算書)に費用として記録します。
2.将来の義務(B/Sの負債)という顔
ウソ発見器を販売したことで、お客様に対して「無料で修理する」という義務が同時に発生しています。この将来の義務を、B/S(貸借対照表)に負債として記録します。
つまり引当金は、この2つを同時に行う仕組みなのです。
● 今年の責任を費用として認識する(P/L)
● 将来の義務を負債として認識する(B/S)
■引当金を計上できる4つの条件
とはいえ、会社が「なんとなく心配だから」といって、自由に引当金を作れるわけではありません。会計には、次の4つのチェックポイントをすべてクリアした場合にのみ、引当金を計上しなければならないという厳格なルールがあります。
1.将来の特定の費用または損失であること
「将来の何に対する費用や損失なのか」がハッキリしている必要があります。「なんとなく将来が不安」ではダメで、「製品の修理費用」「従業員の退職金」「来年のボーナス(賞与)」「売掛金が回収できない」など、具体的でなければなりません。
2.その発生が当期以前の事象に起因すること
「原因のタネ」はもうまかれている状態です。例えば、「今年販売した製品に欠陥がある」「今年まで働いた分の退職金」「今年働いた成果が来年のボーナスに反映される」「今年販売した商品に係る売掛金」といったケースがこれにあたります。
3.発生の可能性が高いこと
「もしかしたら」というレベルでは計上できません。過去のデータや契約内容から、発生可能性が高いと客観的に判断できる必要があります。
4.その金額を合理的に見積ることができること
金額がピッタリでなくても、根拠のある計算ができることが求められます。
■確定した未来の赤字を無視していた
ニデックの事案では、上の4条件を満たしているにもかかわらず、「損失を計上するタイミング」を意図的に先延ばしにしていた疑いが持たれています。
ニデックのケースで問題となったのは、前述したテレビの修理のような「製品保証」だけではありません。「このまま契約通りに作り続けると、将来これだけの赤字が出る」ことがわかっているにもかかわらず、その確定した未来の赤字を無視していた点にあります。これこそが、今回計上された「契約損失引当金」の正体です。
今回発表された364億円の「契約損失引当金」は、将来の赤字が見込まれた時点で計上すべき「未来のコストという影」でした。しかし同社は、本来なら過去に記録すべきこの影をクローゼットに隠し続け、見かけ上の利益を膨らませていたのです。
2025年11月、ついに隠しきれなくなった「負の遺産」が噴出しました。その額は、先述した引当金の364億円にとどまらず、その他の損失も一気に表面化し、合計約877億円という衝撃的な数字となって現れたのです。監査人が「意見不表明」という異例の判断を下したのも、この数字の操作という闇があまりに深く、決算書の信頼性が失われたからにほかなりません。
引当金を悪用し、現在の数字を美しく見せる。それは投資家を欺く、決算書における「最大級の罪」の1つなのです。
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白井 敬祐(しらい・けいすけ)
公認会計士
2011年、公認会計士試験に合格後、清和監査法人、新日本有限責任監査法人、有限責任監査法人トーマツにて監査業務やIFRSアドバイザリー業務などに従事。その後、株式会社リクルートホールディングスへ転職し、IFRS連結決算、開示業務などを担当。2021年7月に独立開業。現在は、大手公認会計士試験予備校であるCPA会計学院にてCPAラーニングの実務家講師を務める。「公認会計士YouTuberくろいちゃんねる」を運営。
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三ツ矢 彰(みつや・あきら)
漫画家・イラストレーター
ファンタジーから実務/知識系まで軽快な筆致で描く。
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(公認会計士 白井 敬祐、漫画家・イラストレーター 三ツ矢 彰)

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