■プルデンシャル社員に宿った“悪魔の心”
1月16日、プルデンシャル生命保険は、同社内で不適切な事案があったと発表した。100人以上の社員および元社員が、約500人の顧客から金銭詐取などを行っていたのである。
こうした悪事の発生は枚挙に暇がないのだが、そのほとんどの原因が杜撰な管理体制によるものだ。今回のケースも、おそらくそうした事情があったのだろう。毎度おなじみのケースといえる。
企業は、法令遵守はもとより、社会のルールを守ることが必要だ。ところが、人間には悪いことをしてしまう、“悪魔の心”が宿っている。それを管理するため、企業は内部の管理・統制の仕組みを作る。
問題は、そうした管理システムがうまく機能すればよいのだが、システム自体が杜撰だと、どうしても社員の“悪魔の心”を呼び覚ましてしまう。その結果、社内で悪事が発生する。今回のケースも、そうした事例の一つのようだ。
■「売り上げ至上主義」が企業を堕落させた
プルデンシャル生命では、営業担当者は歩合制の下で、目先の利益ばかりを追求する傾向が強かったという。その結果、「売り上げさえあげれば、ほとんど何をしてもよい」という企業文化が放置され、それが詐欺などの問題の温床になったとみられる。また、同社経営陣の対応も遅かったようだ。

同社は2月10日、2度目の記者会見を開き、外部の専門家による第三者委員会を設置すると発表した。実態解明や原因分析をし、再発防止策を策定する。
私たちも、プルデンシャル問題の教訓は重要だ。金儲けや投資に絶対はない。絶対損をしないという話ほど、注意をしてかかる必要がある。冷静に考えれば、それほど判断を間違えることはないのだが、うまい話となると、どうしても一口乗りたくなるのが人情だ。
儲け話があったら、まず、疑ってみることが必要だ。それは、日々の生活の安心・安全を守り、充実した人生を送るための教訓になるはずだ。
■被害額31億円のうち23億円が未返金
一部報道によると、プルデンシャル生命では過去30年以上にわたり、営業担当者による金銭のだまし取りなどが続いていたという。その総額は、判明しただけで44.5億円に達した。
1月16日時点で明らかになったのは、まず、金銭の詐取について、3人の元社員が顧客から約6000万円をだまし取った件だ。主な内容は、架空の金融商品の投資を持ち掛けた。
その際、プルデンシャル生命の申込書類、社名を記載した書状を利用し、金銭を不正に受領した。プルデンシャルという社名を見た顧客は、安心して投資話に乗ってしまったのだろう。
二つ目は、不適切な金銭の受領だ。106人(107人との報道もある)の社員・元社員が業務外で、約500人から計約31億円を不適切に受領した。すでに返金された金額は、7.9億円。23億円程度が未返金である。
■2023年にも複数の不正が発覚していた
三つ目として、第三者の業者が提供する投資商品の紹介もあった。69人の社員・元社員が関与した。対象の顧客数は240人、金額は約13億円。内容は、同社が認めていない金融商品や、その業者の紹介だった。
紹介を受けた業者は、金融庁の登録・認可などを受けていなかった。プルデンシャル生命の社員が紹介した後に、業者が業務停止になり返金されなかった。
また、社員が「絶対損しない」と持ち掛けて仮想通貨などの業者を紹介し、投資した後に資金が回収できなくなるケースもあった。典型的な投資詐欺の類いだろう。
もともと、米プルデンシャル生命は、ソニーとの合弁事業として国内事業を開始した。1987年10月、米プルデンシャル・ファイナンシャルが100%出資し日本法人を設立した。それを機に、ソニーとの関係は解消された。
約4年後の1991年、不正受領が発覚した。2023年には複数の不正案件が明らかになったが、同社は全容の解明に真正面から取り組まなかったようだ。
■営業成績によって給与が天と地の差
通常、企業は自社の取引先、営業担当者が顧客(個人・法人など)に提供するサービスや商品の内容を精査する。営業活動は法令や業界の自主規制などを遵守しているか、内部監査や外部の監査を通して定期的にモニターする。問題が発生した場合は、第三者委員会などを設置して迅速に再発防止策を打つ。
そのためのルールや、管理監督の体制を構築するのは経営者の役割だ。しかし、プルデンシャル生命ではそうしたルールも、体制も十分ではなかった。
というより、かなり杜撰だったとの指摘もある。それは、企業統治のあり方を問う以前の問題だ。経営者の常識が疑われても仕方がないだろう。その結果、金銭のだまし取りなどの問題が放置された。
“ライフプランナー”と呼ばれる同社の営業担当者は、給与が成績に連動する歩合制をとっていた。営業成績が上がれば報酬は増える。億単位の給与を受け取った営業担当者もいたという。逆に、契約が取れないと、最低賃金水準の報酬しか受け取れなかったようだ。
■「トップ営業マン」は神のような存在に
その結果、営業担当者は給与水準を高めようと、法令などを無視して営業を行った。その一方で、組織全体で営業活動を管理監督するしくみはなかった。
いつ、どこで、だれが、どのような商品を、誰(顧客)に提案し、契約を獲得したか。営業プロセスに瑕疵(かし)はなかったか。
契約成立後の保全はどうだったか。企業として必須な業務運営の体制は整備、構築されていなかった。
営業実績の高い担当者は、優秀者とみなされる傾向が強まった。それに伴い、組織全体で、彼らの活動にもの申すことはタブーという心理(集団浅慮)が出来上がった。おそらく、内部告発を行うことすら難しくなるくらい、成績の高い人は神格化されていたとの見方もある。
というのも、今回の発表に至ったきっかけは2024年6月の元社員の逮捕だったからだ。刑事事件に波及するまで組織的な是正措置は起きなかった。同社全体で営業部門に対するルールの策定、管理監督の体制は整備されていなかった。その代償はあまりに大きかった。
■不正を放置した企業が払う大きな代償
米プルデンシャルは、今回の問題で、通期の営業利益が3億~3.5億ドル(約470億~550億円)押し下げられるとの見通しだ。現在、問題の全貌は、依然として不透明とみられる。被害者の数、金額が増える可能性もあるだろう。
90日の販売自粛で株価も一段と下落した。
私たち個人、そして企業にとって、プルデンシャル生命の問題は他人事ではない。私たちへの影響や、気を付けるべきこともある。まず、企業で不正が発覚した初期の段階で対応が遅れると、結果的に取り返しがつかなくなる。
だれしも、都合の悪いこと、気まずいことは隠したい。それが人情だ。ただ、いったん、気まずいことを隠し始めると、ごまかしを重ねる。あるいは見て見ぬふりをしたり、無視したりする。最終的に、内部告発などで事態が明るみになった時には、対応が難しいことは多い。
■「絶対にもうかる」なんてありえない
プルデンシャル生命は目先の利益を追い求めるあまり、不正を重ねる負のループに陥った。今回の問題発覚をきっかけに、投資運用業などの分野で金融庁への登録、認可を行わず、不正にビジネスを行った個人や業者が摘発される可能性もある。悪事はいずれ発覚する。であれば、対応は早い方がよい。
また、うまい儲け話はないということだ。プルデンシャル生命の公表資料や報道内容によると、不正を働いた社員は、「自分は投資のプロで損をしたことはない」「絶対にこの商品はもうかる」と喧伝した。必ず利益が出るという話法は、もともと法令に反する。
お金は命の次に大切だ。それをどう守り、殖やすかは自己責任である。リスクをとれば、損をすることも、利益を手にすることもある。過去の投資詐欺で、うまい話に乗った結果、自分の出した資金を100%回収できなかった事例は多い。
組織においては、不正発生のリスクを事前に抑えるルールの策定、モニタリング体制の整備は欠かせない。プルデンシャル生命の問題は、私たちに重要な教訓を与えてくれている。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)

多摩大学特別招聘教授

1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)
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