中台関係の悪化で台湾有事が起こる可能性が高まっている。評論家の宮崎正弘さんは「気になるのは台湾全土に1万人いる『台湾ヤクザ』の動向だ。
彼らは中国共産党の統一戦線と情報機関からの資金援助と暗黙の支援を受けている」という――。(第2回)
※本稿は、宮崎正弘『地獄の中国』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
■中国共産党が頼りにする「台湾ヤクザ」の正体
中国政治の暗部はギャング団、マフィア、暗殺チームなど裏舞台での謀略を実践するヤクザチームとの結びつきである。蔣介石(しょうかいせき)は悪名高きテロリストたちを用心棒にしていた。
中国共産党が台湾ヤクザ、とくに「竹聯幇(ちくれんほう)」を統一戦線活動に取り込み、台湾の民主主義制度を弱体化させる工作に利用していることは広く知られている。以前から共産党と台湾マフィアとの闇の繋がりは指摘されてきた。
台湾の「中国統一促進党」などの関連団体を通じて、謀略ネットワークは政治的影響力、情報収集、心理作戦に利用されており、中国の諜報機関や宣伝機関から暗黙の支援や指示を受けている。迂回ルートによる資金供給もあると推定されている。
近年、台湾政府はスパイ活動に関与したメンバーを起訴し、怪しげな統一工作の取締りを強化している。台湾のテレビチャンネル「民視讃分」が、台湾における「第五列」の活動を番組にした。なかでも「白狼」として悪名高い張安楽にインタビューしたことは注目を浴びた。
■3万人の台湾人が信じる「中国の寝言」
張安楽は竹聯幇の幹部であり、「中国統一促進党(CUPP)」なる政党の創設者でもある。
息子たちは香港からの自由民主活動家が台湾へ来たときに暴力沙汰を引き起こしている。「一国二制度(一国二制)」のもとでの中華人民共和国と台湾の“平和的統一”を公然と嘯いている。このような寝言を信じる台湾人がおよそ3万人ほどいるらしい。
中国共産党は長きにわたって台湾の三合会(中国の秘密結社)を統一戦線に組み込み、統一に向けた草の根の支持を広げる工作に利用してきた。これらの活動は全体として、台湾国内で中国との統一に対する“広範な社会的支持”があるかのようなフェイク印象をつくり出すことを目的としている。
台湾の三合会は、中台統一の政策を追求するために、頼清徳(らいせいとく)総統の政治力を弱体化させ、政権に内部圧力をかけようとした。頼総統はこれらの動きを公的に指摘し、2025年3月の国家安全保障に関する演説で、中国共産党による「内部から分裂、破壊、転覆」の取り組みのリストに犯罪組織を挙げた。
2017年、台湾の李登輝(りとうき)元総統は、「中国が統一戦線戦術を拡大し、民族間の緊張を煽り社会を不安定化させるために、台湾で統一支持者を募集し、組織犯罪を支援している」と警告した。
■暗殺された二重スパイ
竹聯幇の悪名高い共謀事例は1984年、台湾軍高官が竹聯幇の指導者と会談し、国民党政権を批判したヘンリー・リューの暗殺を指示したことだ。
暗殺は実行され、米国内の事件であったためFBIが捜査に乗り出し、米議会でも問題となった。
これが「江南事件」と呼ばれるのは、筆名が江南(本名=劉宜良。江蘇省人)を名乗ったことによる。
周囲からは「ゆすり」で文章を書くチンピラだとして評判は悪く、情報屋の側面があった。中国共産党、台湾国民党、そしてCIAに情報を売る男だった。
彼は『蒋経国(しょうけいこく)』伝記を書いて出版したばかりで暗殺理由は、この本で蒋経国の知られたくない秘密が書かれたからだと噂された。
ところが、当時、香港、台湾でこの事件を取材した若林正文(当時=東大教授、早稲田大学名誉教授)によれば、その本の内容にはたいした情報もなく、むしろ次に江南が書こうとしていた『呉国禎』伝記を阻止するためだったと分析している。呉国禎は蒋経国の政敵だった。
■1万人の犯罪グループ
竹聯幇は米国の中国系マフィア、日本のヤクザ、香港の複数の三合会など、国際的な犯罪グループと関係を築いてきた。現在、竹聯幇は台湾全土に広く拠点を置いており、少なくとも1万人の構成員がいる。2025年8月、台北の検察当局は、金融詐欺と暗号通貨関連で、犯罪組織のメンバー18人を起訴している。
前述の張安楽は中国と台湾両国のエリート層と繋がり、ヘンリー・リュー暗殺事件への関与が疑われた。1985年に麻薬密輸で有罪判決を受け、米国で10年の懲役刑に服した。台湾に戻った後、1996年に当局の指名手配リストに載せられたため、17年間を深圳(しんせん)で過ごし、2013年に再び台湾に戻った。
中国側の有力メンバーは胡世英とされる。
胡は習近平に繋がり、他方で国民党元総統の馬英九(ばえいきゅう)とも親密な関係にあった。胡世英は黒竜江省全人代秘書長をつとめた有力者とされる。
■「台湾独立派より中国共産党のほうがマシ」
この台湾ヤクザのボスが、中国共産党エリート層に受け入れられているのは、彼が台湾の政治的地位に関する中国共産党の見解を支持していることと関係がある。
竹聯幇の元リーダー(張安楽の生涯の友人)は1981年に「台湾が台湾の独立派に奪われるよりは、中国共産党が台湾を統治するほうがましだ」などと物騒な発言を繰り出した。
張は統一を積極的に推進し、広州で「保衛中華大同盟」という民間組織を設立した。この組織はのちに台北に移転し、台湾初の「一国二制度」の枠組みによる統一を公然と支持する政党、CUPP(台湾共産党)に改名した。
いくら言論の自由が認められているといっても、敵国を公然と支援する政党があるのは不思議である。2021年にナンシー・ペロシ米下院議長(当時)が台湾を訪問した際など、張安楽は自ら抗議活動に参加した。
■台湾政府の敵対勢力は人民解放軍だけではない
近年、台湾当局は犯罪や破壊活動の取締りを強化している。2024年11月、台湾司法省はCUPPメンバー134名を司法妨害、人身売買、殺人などの違法行為に関与した疑いがあると発表した。
検察は組織メンバーの2名が北京の政治アジェンダを推進するプロパガンダを作成し、台湾の選挙に影響を与えるために中国共産党から230万米ドル受け取ったとして告発した。
台湾内務省は中国共産党による親中派の政治的影響力行使への対応としてCUPPの解散を決定し、司法院憲法裁判所に最終判断を委ねた。
内務省はCUPPは長年にわたり組織的犯罪に関与しており、中心メンバーは複数の法律に繰り返し違反した疑いがあると報告した。
当局はCUPPと台湾社会保障局職員との明確な繋がりを特定している。2025年3月、台湾の高等法院高雄支部は国家安全法違反でCUPP関係者3名の有罪判決を下した。
竹聯幇とCUPPの連携は台湾政府の権威を転覆させることを目的としている。中国共産党は竹聯幇のようなヤクザ組織を利用することで、統一戦線戦略の中核を形成している。台湾社会の分裂を煽り、国家機関への国民の信頼を失墜させることが目的だ。
米国のハリウッド映画を観ると取り調べる側とマフィアがつるんでいるストーリーが目につく。中国では長谷川平蔵と石川五右衛門は同一人物なのである。
台湾マフィアは中国共産党の統一戦線と情報機関からの資金援助と暗黙の支援を受けており、統一を支持するメッセージを発信する代わりに、彼らの犯罪行為は見逃されているという構造になっている。まさしく、“地獄の沙汰(さた)もカネ次第”である。

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宮崎 正弘(みやざき・まさひろ)

評論家

1946年生まれ。石川県出身。
早稲田大学中退。「日本学生新聞」編集長、雑誌『浪曼』企画室長を経て、貿易会社を経営。1982年、『もうひとつの資源戦争』(講談社)で論壇へ。30年以上に亘る緻密な取材に定評がある日本を代表する中国ウォッチャー、海外からも注目されている。近著に、『常識 コモンセンスで取り戻す日本の未来』(ハート出版)、『豊臣兄弟と家康』(育鵬社)、『テクノ・リバタリアンの野望』(ワック)、『あの人の死にかた 死ぬことは生きることである』(ビジネス社)、『ステルス・ドラゴンの正体』『悪のススメ』(いずれもワニブックス刊)など。著作は300冊近い。5冊が中国語に翻訳されている。また作家として『拉致』『謀略投機』(共に徳間書店)などの国際ミステリーも執筆。

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(評論家 宮崎 正弘)
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