花粉症対策はいつから始めればいいのか。産業医の池井佑丞さんは「花粉が飛び始める前から治療を開始する“初期療法”は、症状を軽く抑えるうえで有効とされている。
日常生活での対策と併用することで効果が発揮されやすくなると考えられる」という――。
■2019年時点で約4割の日本人が苦しんでいる
毎年この時期になると、花粉症の症状に悩まされ、憂うつな気持ちになる人も少なくないでしょう。
日本気象協会の予測によると、2026年の春は、東日本と北日本で、例年よりも多い花粉飛散が予測されています(tenki.jp. 2026)。2月上旬から九州や中国・東海・関東の一部でスギ花粉の飛散が始まり、早い地域では2月下旬に飛散のピークを迎えるとされています。
花粉症は、いまや日本の国民病といえる存在です。環境省の調査では、2019年時点で日本人の約42.5%が花粉症に罹患しており、その割合は10年ごとに約10%ずつ増加し続けています(環境省.2022)。
花粉症は近年、くしゃみや鼻水、目のかゆみといった症状にとどまらず、仕事のパフォーマンスや睡眠の質、さらには認知機能にまで影響を及ぼす慢性疾患であることが明らかになってきています。もはや「季節性の体調不良」として軽視できるものではなく、ビジネスの現場において大きな「見えない損失」を生み出す社会問題といえるでしょう。
一方で、適切に対処することで、こうした影響を抑えることは十分に可能です。
今回は、花粉症が仕事や日常生活に与える影響を整理したうえで、科学的根拠に基づいた対策について解説していきます。
■花粉を多く浴びるほど症状は強くなる
花粉症は、正式にはアレルギー性鼻炎と呼ばれる、鼻腔粘膜に持続的な炎症が生じる慢性疾患です。これは、花粉に触れた時だけに現れる一時的な反応ではなく、飛散期間中は粘膜が常に炎症によるダメージを受け続けている状態になります(Akhouri and House. 2023)。

主な症状は、くしゃみ、水様性鼻漏(水のような鼻水)、鼻閉(鼻詰まり)のいわゆる三大主徴ですが、影響はそれだけにとどまりません。睡眠障害や嗅覚障害、集中力の低下、疲労感、頭重感など、日常生活や仕事の質に影響を及ぼす症状も幅広く認められています。
症状の程度は花粉の飛散数に大きく左右されます。実際に、花粉への曝露量が高いほど、鼻や目の症状が強く現れる傾向があることが明らかとなっています(Kitinoja et al., 2020Luyten et al., 2024)。
一方で近年、花粉症の症状を悪化させる要因は、花粉の飛散量だけではないこともわかってきました。
たとえば、大気汚染や気候変動といった環境要因です。排気ガスやホルムアルデヒドなどの化学物質や地球温暖化に伴う気候変動は、花粉と相互作用することで、炎症反応を増強させる可能性があると報告されています(Ślusarczyk et al., 2025)。
■睡眠とも密接に関係している
また、生活リズムとの関連も指摘されています。生活リズムの乱れは免疫バランスの破綻を招きやすく、その結果、アレルギー反応が過剰に生じ、症状が悪化しやすくなる可能性があるとされています(Cheng et al., 2022)。
さらに、睡眠は花粉症の症状と密接に関係しており、相互に影響し合う「悪循環」を形成する可能性が示されています。ある調査では、アレルギー性鼻炎患者の約66%が睡眠に何らかの問題を抱えていると報告されています(Romano et al., 2019)。加えて、鼻閉を伴う場合には、中等症以上の睡眠呼吸障害を発症するリスクが約1.8倍に高まることも示されています(Young et al., 1997)。

睡眠の質の低下は、日中の眠気や集中力の低下、作業効率の低下を招き、花粉症による生活の質や仕事のパフォーマンスへの影響をさらに大きくする要因となります。
これらの知見から、花粉症対策は単に「花粉を避ける」ことだけでは不十分であることがわかります。花粉曝露を減らす工夫に加え、粘膜の炎症状態を悪化させない生活環境の整備や、十分な睡眠によって免疫バランスを保つことも、重要な対策の一つといえるでしょう。
■症状が軽くても集中力や判断力が低下
近年、「プレゼンティーイズム」という概念が注目されています。これは、出勤はしているものの、何らかの健康問題によって本来のパフォーマンスを十分に発揮できていない状態を指します。花粉症は、このプレゼンティーイズムを引き起こす代表的な要因の一つです。
国内の最新調査によると、花粉症有訴者のうち46.4%がプレゼンティーズムを経験しており、症状が重いほど労働生産性の低下が顕著であることが示されています(厚生労働科学研究班.2025)。この影響は、単に「鼻水やくしゃみによって作業が中断される」といった表面的な問題にとどまりません。花粉症では、アレルギー反応に伴う全身的な影響が、仕事のパフォーマンス低下に関与していると考えられています。
アレルギー反応が起こると、体内では炎症性メディエイターと呼ばれる免疫物質が放出されます。これらは鼻や目といった局所症状だけでなく、脳の覚醒レベルや認知機能にも影響を及ぼす可能性があります(Bender. 2005)。さらに、鼻閉による慢性的な酸素摂取の低下や睡眠の質の悪化が重なることで、症状が軽度であっても、集中力や判断力の低下が生じやすくなります(Kent and Soose. 2014)。

■アレルギー性鼻炎の経済的損失は大きい
こうした影響の積み重ねにより、花粉症はくしゃみや鼻水といった一時的な不調にとどまらず、仕事のパフォーマンスや認知機能にまで影響を及ぼす慢性的な健康問題として捉える必要があります。実際、米国の研究では、アレルギー性鼻炎による労働損失は1日あたり平均2.3時間に相当し、その経済的損失は高血圧や糖尿病、喘息よりも大きい可能性があると指摘されています(Lamb et al., 2006)。
このような背景から、政府も花粉症を個人の健康問題にとどまらない社会・経済的課題として位置づけています。2023年5月に公表された「花粉症対策の全体像」では、健康被害に加え、労働生産性の低下を含む社会的影響の大きさが明示されました(内閣官房.2023)。企業にとっても、従業員の花粉症対策は、働きやすさの向上だけでなく、生産性向上の観点からも無視できない課題であると言えるでしょう。
■約80%の患者で症状軽減が期待できる「舌下免疫療法」
治療の最前線も変化しています。かつては、薬で症状を抑えることを目的とした「対症療法」が中心でしたが、近年は治療の考え方自体が進化しつつあります。最新の花粉症治療では、従来の症状抑制に加え、花粉に対する免疫反応そのものを調整したり、症状の重症化を予防する視点が取り入れられています。
こうした背景から、日常生活で花粉への曝露を管理しながら、発症メカニズムそのものに介入する「根本治療」を視野に入れた治療戦略が主流になりつつあります。
なかでも注目を集めているのが、舌下免疫療法です。舌下免疫療法とは、アレルギーの原因物質を舌の下から吸収させ、徐々に体に慣らすことで免疫反応を調整する治療法のことです。3~5年間の継続治療によって、約80%の患者で症状の軽減が期待できるとされる、根本治療に近い治療法となります(日本アレルギー学会.2025)。

これまで、対症療法が中心であった花粉症治療において、症状の長期的な改善が期待できる選択肢として位置づけられています。一方で、スギ花粉の飛散時期である2月から5月には治療を開始できないため、十分な効果を得るためには飛散シーズンを見据えた長期的な治療計画が必要となります。
さらに近年では、最新の遺伝子工学的アプローチを用いた新薬開発も進んでおり、花粉症を「克服を目指せる病気」へと捉え直そうとする動きが加速しています(Zhang et al., 2026)。
■「飛び始め」の対策が重要
これまで見てきたように、花粉症の症状は花粉曝露だけでなく、生活環境や睡眠、体調といった要因の影響も受けて悪化します。しかし、花粉症対策の基本はシンプルで、次の2点に集約されます。
① 花粉にできるだけ触れないこと

② 体の炎症反応を過度に高めないこと
できる対策を早めに積み重ねることで、シーズン全体を通した症状を軽くできる可能性があります。
また、花粉症対策で見落とされがちなのが、花粉の飛散初期、いわゆる「飛び始め」の重要性です。症状が本格化してから慌てて対策を始めるより、まだ症状が軽い段階で花粉曝露を減らす対策を開始したり、初期療法を開始することで、その後の症状の出方を抑えられる可能性が高いと考えられています。
ここでは、日常生活の中で実践できる「症状を悪化させにくくする」ための対策をご紹介していきます。
■症状が出る前からマスクやメガネを常用
外出時・通勤時の基本動作
外出時や通勤時は、できるだけ花粉を体に付着させないこと、そして室内に持ち込まないことが重要です。
・マスクやメガネは、症状が出てからではなく、花粉の飛散開始時点から常用する(「花粉対策用」と表示されたものを選び、顔にできるだけ密着させる)

・コートやジャケットは、できるだけ花粉が付着しにくい素材を選ぶ(ナイロンやレザーなど表面がなめらかなものが望ましい)

・建物に入る前、玄関やエントランスで、衣類や髪・バッグ表面の花粉を落とす
ポイントは、室内に持ち込まれる花粉量をできるだけ減らすことです。
オフィス・自宅で共通する「室内対策の考え方」
花粉対策は屋外だけでなく、室内環境の整え方も症状の軽減に直結します。

室内環境で意識したいこと

・窓を開けるのは最小限にし、換気は短時間で行う(花粉の少ない早朝や夜間を選ぶ)

・洗濯物や布団の外干しは、飛散量の多い時期は控える

・掃除は、拭き掃除を併用し、花粉の舞い上がりを防ぐ
オフィスの場合

・空気清浄機は「花粉モード」や「HEPAフィルター搭載」モデルを選ぶのがベスト

・設置場所は人の動線付近(入口・デスク周辺)が効果的

・花粉シーズン中は、加湿機能の併用で鼻粘膜の防御力を維持

・PC周りのホコリは花粉が溜まりやすいため、こまめに拭き掃除を行う
また、花粉飛散量が多い日や症状が強い時期には、可能であればリモートワークを取り入れることを検討してみるのも有効な対策の一つとなります。
■花粉が飛ぶ1~2週間前から治療を開始
生活習慣の見直し
花粉症の対策として、睡眠・ストレス・乾燥といった生活習慣を整えることも重要です。
睡眠不足が続くと、炎症が治まりにくくなり、強いストレスは自律神経の乱れを通じて鼻づまりを助長するおそれがあります。さらに、乾燥した環境では鼻や喉の粘膜の防御機能が低下し、花粉の刺激を受けやすくなる可能性があります。
そのため、忙しい時期であっても、
・睡眠時間を極端に削らない

・入浴や軽い運動などで意識的にリフレッシュする

・こまめな水分補給や加湿を心がける
といった基本的な習慣を維持することが、結果的に症状を抑える近道になります。
また、アルコールや喫煙も、鼻粘膜の血管を拡張させ、鼻閉を悪化させやすいことが知られています。症状が強い時期は、控えめにすることが望ましいでしょう。
薬とセルフケアは「同時進行」
花粉症対策は、日常生活での花粉曝露対策と薬物療法を併用することで、薬の効果がより発揮されやすくなると考えられています。
特に、花粉飛散の1~2週間前から治療を開始する「初期療法」は、症状を軽く抑えるうえで有効とされています。症状や生活スタイルに応じて、内服薬・点鼻薬・点眼薬を組み合わせていくことが重要です。近年は治療の選択肢も広がっており、2024年にはまぶたに塗るタイプの新しい薬も登場しました。
「我慢できなくなってから対処する」のではなく、早い段階から自分に合った治療と生活対策を組み立てておくことが、花粉症シーズンを少しでもラクに乗り切る近道と言えるでしょう。

■「体質だから」と諦めなくていい
花粉症は、体質だけで決まるものではありません。
確かに遺伝的な要因はありますが、症状の強さや現れ方は、花粉への曝露量、睡眠の質、生活リズム、ストレス、室内環境といった日々の条件の積み重ねによって大きく左右されます。
近年は、治療法やセルフケアの選択肢も確実に広がっています。だからこそ、自分の症状と向き合いながら、無理のない範囲で「できる対策」を選び、早めに取り入れていくことが重要になります。
今年の春の働き方や生活の質は、少しの行動変容によって変えられるかもしれません。花粉症を「毎年同じもの」で終わらせないための選択は、今から始められます。

※参考文献

・厚生労働省・環境省 花粉症対策

・大久保公裕 的確な花粉症の治療のために

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)

産業医

プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

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(産業医 池井 佑丞)

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