親は中学受験する子供にどのように寄り添えば、いい結果が生まれるのか。進学塾VAMOS・富永雄輔さんは「普段は理性的で穏やかな保護者でも感情爆発して、荒れてしまう5つの魔の時期がある」という。
一体何が起こり、どんな対策があるのだろうか――。
■親の感情爆発期①【小5:8月31日~9月7日】
方向転換を迫られる「激震期」
毎年、夏休み後半は、塾内での組み分けテストや模試などが集中する。その結果(成績)が思わしくないと親がパニックになりやすいと富永さんはいう。
「小6や小4の同時期にも各種テストはありますが、小6は毎月のように模試があるため、感情の波立ちは小さめ。小4も受験生活が始まって半年程度ですから、親がかけてきた費用と時間に比例する期待値はさほど大きくない。何よりまだ希望があります。
ところが、小5はそうはいきません。8月最終週のテストは、小5の夏休みの成果がばっちり数字になって表れます。いわば1年半ほど続けてきた受験勉強の重要な中間報告。その結果、下がるのが偏差値10程度ならまだしも、20以上も下がると……。親のメンタルは崩壊寸前の状態になりやすいんです」(富永さん・以下同)
小5で中学受験をまだリアルに感じていない子供は緊張感も足りないことも多い。それを見た親はいら立ち、「お金と時間をかけているのに」という気持ちがふつふつ沸き上がる。
同時に、親自身の管理の甘さに対する後悔も――さまざまな気持ちが重なって、この時期までなんとか我慢していた小さな怒りがついにマグマとして大噴出してしまうわけだ。「本当に塾で勉強してたの? ちゃんと集中してた?」と子供を問い詰めてしまう親も出てくる。
【対策】怒りや落胆から抜け出し「作戦変更」に
しかし、この時の“揺れ”は建設的な方向に進めることも可能だ。
「多くの親は、8月最終週の模試の判定が悪かった瞬間、中受の撤退、もしくは転塾や個別指導などのオプション追加が頭をよぎります。私の塾にも、毎年のように8月末から9月上旬までは、外部生からの転塾希望の相談が殺到します。毎夏恒例のことで、多くの親御さんは前にわが子のダメぶりを嘆き、所属していた塾の悪口を言います(笑)。
結果的に、転塾など思い切った方向転換でうまくいくケースも少なくありません。親も子供も頭を切り替えて前に進めば、まだ十分に希望があります」
■親の感情爆発期②【小5:12月の第1週】
焦る親とのんきな子の温度差
晩夏の荒波を乗り越え、前に進もうとしていた矢先。再び感情が爆発しそうになるのが小5の12月の1週目だ。
「この時期は、親子間で受験勉強への意識の差がもっとも開いている時期かもしれません。そのため小5の8月よりこの時期のほうが、怒りが沸点に達しやすいです。
小5の12月から、多くの塾は新しい単元を習う最終段階に入り、学習内容がズシンと重くなります。
算数なら立体図形や比の応用などの抽象的な概念を扱い、難化します。理科は多くの受験生が苦手意識をもつ電流や物理の計算が続きます。歴史は明治時代に入り、人名や事件名など漢字で覚える用語も増加。食べ物でいえばステーキや牛丼などの重厚メニューが勢揃いで、消化不良を起こしやすい。
親は、この時期の重要性をよく分かっています。冬期講習の費用も昨年より跳ね上がっている。さらに『新6年』というワードが通知や教材から目に飛び込んでくるようになり、中学受験もリアリティが増してきます」
だが我が子に目を向けると、受験なんてどこ吹く風とばかりに平然と動画やゲームに興じている。そこにきて難しい単元が続くと勉強へのモチベーションも下がり、ますます机から逃げだそうとする。塾をサボったり、宿題は答えを見たり……。理解できないからこそ向き合わなければならないのに。そこでプチンと、堪忍袋の緒が切れるのだ。
そしてこう言い放って、自己嫌悪に陥るのだ。

「いい加減にしなさい。ゲームやめなさい」「習い事も終わり」「遊んでいる場合じゃない」「そんなんだったら塾辞めよう」自分が受験したいって言ったんでしょ」「○○中学に行きたいって、あなたが言ったんでしょう」
【対策】この時期は、一度感情を爆発させてもOK
親子の関係も悪化しがちだが、富永さんは「ガス抜き」したほうがいいと話す。
「この時期だけは、親御さんも直球で感情を出していいと思います。入試本番まであと1年あるので、メンタル的にもリカバリーしやすいし、親子関係を再構築する時間もあります。逆に、奥歯にものが詰まった言い方をすると伝わりません。目の前の娯楽で頭がいっぱいの子供に志望校の話をしても響く可能性は少ないでしょう」
ただし、恒常的に怒ってはいけない。1年に1~2回ほど感情に任せて真剣に怒ったほうが子供には響く。そのベストタイミングが、ギアを上げるべきこの時期なのだ。親が怒りたくないなら、塾の先生に叱ってもらうのも手だという。
■親の感情爆発期➂【小6:6月2~3週目】
学校行事ラッシュで疲れる子供
そうして小6に進級。一学期は、激動の小5に比べれば親のメンタルの振れ幅は少なめだという。
「強いていえば、6年の6月の2~3週目をピークに親子で気分が上下する出来事があります。
運動会や移動教室といった、学校行事です。従来、秋にあった学校行事が、猛暑などの事情で春に開催する傾向にあります。季節の変わり目、それも気候が暑くなる頃に行事があると、子供たちは体力を消耗します。さらに行事には、子供自身のメンタルが不安定になる要素もあります。例えば移動教室で友達と恋バナをしたり喧嘩したり……。特に女子は人間関係がこじれると勉強に身が入らなくなり、成績が下がります。
また、10人に3人くらいの受験生が『もう受験をやめたい』と言い出すのもこの時期。よくある理由が、移動教室で仲良くなった子と同じ公立中に行きたい、というもの。こうした言動が、親のイライラの種になるわけです」
【対処策】「時期モノ」と捉えて、落ち着くまで我慢
しかし「怒りを抑えるべき」時期はココだと、富永さんは強調する。
「台風と同じで、この時期に見られる子供の“やる気ダウン”は、時期ものと心得て。イベントの前後10日間くらいは、学校の時間割も変わっていて、非日常感があり、子供がふわふわしていて落ち着かない。前後1週間は、従来の勉強の半分しかできないと思っていたほうが親の精神衛生上いい。
10日も経てば疲れも取れますし、気持ちは落ち着いてきます。
もし『受験をやめたい』と言われたら、『そうだね』と受け止めつつ、『ここまでがんばってきたのに、もったいない気がするけどね』などとやんわりいなしましょう。ピリピリモードや疲れを見せている子供を真に受けて怒ったり、『もう運動会が終わったんだから切り替えな』などと発破をかけても、やる気がさらに低下するだけです」
こうしたタイミングでは親は、気持ちがふさぎ込んだり疲れきっている子供に対し、美味しいご飯を用意し、子供の好きな入浴剤を入れるなど、フォローに回ればいいという。
「ただ、疲れやストレスを回避するために、または塾の授業と重なったために学校行事に参加させない家庭もありますが、子供が望んでいないならば御法度。子供には周りと一丸となって何かをやりきる経験をさせたほうがいい。その経験値は、昨今の中学入試でも問われているんです。そもそも子が望んでいないのに、単に塾の授業に1回分遅れてしまうという理由で休ませると、後々親子関係に亀裂が生じる恐れがあります」
■親の感情爆発期④【小6:11月23日前後】
誤判断しがちな「大パニック期」
一般的に中受の最終模試は12月にあるが、その前哨戦となるのが11月下旬の模試だ。
「多くの家庭は11月23日頃までにある程度の数字を見据えた上で、本番試験の気持ちで12月の模試を受けます。11月の模試は中学受験の集大成。3年近くの審判を突きつけられる形になります。子供もさすがにこの時期は受験が“自分事”になっていますから、親よりも結果を気にしてしまいます。
親は親で、気もそぞろです。
模試結果が良くて、ふわふわしている子を見ると『まだ受かってないんだからね』とカツを入れたくなるし、子供が努力もしないで結果だけ見て落ち込んでいれば『だから勉強しなと言ったのに』とため息をつきたくなる。タイムリミットが迫っていることもあり、ポジティブな感情になれる人が少ない時期といえます。
子供も勉強の負荷が大きくなりイライラしています。親も子も怒りのマグマを溜めている状態ですから、一触即発。『親がやりなさい』といえば子は『やってるよ』『今やろうとしてたのに』と逆切れ。不毛な喧嘩に発展してしまいます。
さらに、ラスト3カ月の入り口は、大きな決断の連続です。志望校と併願校はどうするか。上位校に挑戦したい人、合格圏内に行きたい人、何も考えていない人と、親も子も意見が異なります。距離が近い関係だけに、大小さまざまな衝突が生じます」
■親の感情爆発期⑤【小6:1月10日前後】
家族間バトルが起きやすい「超直前期」
1月10日は多く学校で出願が開始される頃。また1月は、2月1日から始まる東京・神奈川の本番試験に先駆けて、埼玉・千葉の学校の入試がスタートするタイミングだ。
「インフルエンザなどの感染症にもナーバスになります。親の中には学校を休ませて勉強させたい人もいる。でも子供は学校が楽しいから行きたい。ここでも親子で衝突が起きやすくなります」
【対策①】家族間で意見が割れたら即、塾に相談
意見が一致しない場合は、できればその日のうちに早急に塾の先生に相談をしてほしいと、富永さんは話す。
「くれぐれも、勝手に方向性を決めて突っ走らないで。この時期に絶対避けたいのは、間違った決断です。
親も、ネガティブな言葉をかけちゃダメだというのは百も承知。どちらかというと、ポジティブにやろうとして間違った方向に進み、空回りするのがこの時期です。6年の秋冬は、子供は塾にいる時間が長くなるため、塾の先生は子供の成長を実感しています。一方で、その姿を見ていない親は不安で仕方ない。そのため、第一志望校を変える提案をしたり、突発的に自分だけ新規に学校見学をしたり。お気持ちはわかりますが、やはりこういう時は塾を頼ってほしいです。私の塾でも1秒でも早くレスポンスを、と臨戦態勢を取っています」
【対策②】子供の睡眠・食事管理にエネルギーを
「直前期に親ができることは、黙って送り迎えして、美味しいご飯を用意すること。寝顔を見てちゃんと寝ているか、ご飯を食べられているか。体調や環境を整えるのは親にしかできない仕事です」

----------

富永 雄輔(とみなが・ゆうすけ)

進学塾VAMOS(バモス)代表

幼少期の10年間、スペインのマドリッドで過ごす。京都大学を卒業後、東京・吉祥寺、四谷に幼稚園生から高校生まで通塾する進学塾「VAMOS」を設立。入塾テストを行わず、先着順で子どもを受け入れるスタイルでありながら、毎年約8割の塾生を難関校に合格させている。受験コンサルティングとしての活動も積極的に行っており、年間300人以上の家庭をヒアリング。その経験をもとに、子どもの個性にあった難関校突破法や東大生を育てる家庭に共通する習慣についても研究を続けている。

----------

(進学塾VAMOS(バモス)代表 富永 雄輔 取材・文=桜田容子)
編集部おすすめ