受験本番に実力を出し切るために、親はどんなサポートができるのか。内科医の梶尚志さんは「試験中の集中力や粘り、気持ちの安定は、前日の夜に『腸を落ち着かせ、眠りの質を守れたか』が左右する。
そのために、夕食は消化に良い食べ物を用意するといい」という――。
■子どもの受験のために親ができること
いよいよ本格的な受験シーズンが到来しました。これまで積み重ねてきた努力を本番で出し切るために、親が最も気を揉むのが「当日の体調」ではないでしょうか。
受験生の実態調査(※1)によると、試験当日のトラブル第1位は「体調不良」。中でも「下痢・腹痛」が最多で、経験者の約6割が「予想外の不調だった」と回答しています。また、別の調査(※2)でも、緊張やストレスから約4割の受験生がシーズン中にお腹の不調を経験しているというデータがあります。
また、近年の医学研究では、集中力や感情の安定は「腸」の状態に深く関わっていることが分かってきました。
受験当日、ベストパフォーマンスを発揮するために親ができること。その要となるのが、食事による体調管理です。今回は内科医の視点から、試験前夜と当日に摂るべき食事と、脳のキレを守るための食戦略を解説します。

(※1)ライオン株式会社「2023年受験当日のトラブルに関する調査

(※2)ビオフェルミン製薬「お腹の健康管理に関する実態調査
■「前夜の腸」がカギを握っている
勝負は「前夜の腸」で決まると考えましょう。試験中の集中力や粘り、気持ちの安定は、前夜に「腸を落ち着かせ、眠りの質を守れたか」に大きく左右されます。


腸は「第2の脳」と呼ばれ、自律神経や免疫、ホルモン分泌と密接に結びついています。緊張や不安が高いと交感神経が優位になり、胃腸はキュッと硬くなり、食べ物の消化は遅れがちになります。つまり、前夜の食べ方と過ごし方は、当日の「頭のキレ」だけでなく「心の揺れ」にまで波及するのです。
それでは、医学的な事実を念頭に対策を見ていきましょう。
■ステーキ、カツ、うなぎは翌日に響く
受験前夜に「高脂肪・大盛り・遅い時間」といった三拍子が揃った食事を摂ると消化に時間がかかり就寝中も胃腸が働き続けます。その影響で眠りが浅くなり、当日のパフォーマンス低下を招くことがあります。
「ステーキ・カツ・うなぎ」などスタミナ、縁起はつきそうでも、消化の負担が大きいメニューの摂取は控えましょう。
また、夜食の菓子パンやチョコ、甘いドリンクは血糖値を急上昇させた後に急降下させ、夜間の低血糖症の原因となります。特に就寝前のスポーツドリンクや果汁100%のジュースは、糖負荷が大きく、睡眠の質をさらに下げてしまいます。
つまり、翌朝のだるさ、焦り、頭がぼんやりする感じは、前夜の「その一口」による不適切な血糖管理が影響していることも少なくありません。甘い夜食や夕方以降のカフェインや甘い飲料は控え、水や麦茶に切り替えましょう。
また、就寝前の水分摂取にも注意が必要です。
たくさん飲んで夜間に何度もトイレに起きるのは、翌朝の集中力の妨げになります。少量の水や白湯などにしておきましょう。
■夕食は「軽め・早め・温かめ」で整える
では、前夜の食事はどう整えれば良いでしょうか。
合言葉は「軽め・早め・温かめ」です。就寝の3時間前までに食事を終え、主菜は白身魚、鶏ささみ、豆腐など消化の良いタンパク質を中心に、温かい汁物を添えます。
温かい汁物は体温と副交感神経をゆるやかに引き上げ、消化を助けてくれます。主食は控えめにし、野菜は火を通し胃腸に負担を減らしましょう。
腸はメンタルの安定にも影響します。腸内細菌がつくる短鎖脂肪酸やセロトニンは、ストレス耐性や睡眠リズムに関わっています。
納豆、味噌、ぬか漬けなどの発酵食品や海藻・きのこなどの食物繊維は、腸内環境を整え当日のお腹の落ち着きに直結します。前夜にどうしても食が進まない場合は、少量のタンパク質と食物繊維たっぷりの温かい味噌汁を早めに入れておくだけで十分です。
■朝食の正解は「低GI×たんぱく質×汁物」
朝食の組み立て方で、その日の集中力を大きく左右します。

ポイントは、①低GI(グリセミックインデックス)の主食を小量、②良質なたんぱく質を必ず添える、③温かい汁物で体温と消化を優しく引き上げることです。
低GIの朝食は血糖値がなだらかに推移し、試験が長引いても注意力や記憶力が落ちにくくなります。児童生徒を対象にした研究では、低GIかつたんぱく質を含む朝食が認知パフォーマンスに有利に働く可能性が示唆されています(※3)。
また、小学校生を対象とした試験でも、低GIの朝食は高GIに比べ、午前を通じた注意・記憶の低下を抑えたと報告がされています(※4)。
次に良質なたんぱく質は、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンといった脳内の神経伝達物質の原料となります。つまり、朝のたんぱく質は「集中力と感情の安定化」を内側から支える役割を果たします。
そして、温かい汁物を添える理由は、水分補給と自律神経の調整です。子どもは夜間に軽い脱水に傾きやすく、わずかな脱水でも気分や注意力が揺らぎます。また、味噌汁や野菜スープで胃腸を温めてから主食・おかずに進むほうが、食後のだるさが出にくくなります。
参考メニュー

小ぶりのおむすび+卵や焼き魚+具だくさん(豆腐・野菜)の味噌汁
朝に食欲が出にくい子は、起床直後に水をひと口、汁物を先に少量摂る。そのあとで、おむすび半分とたんぱく源を少量でも十分です。
このような小さな工夫が、血糖の波を穏やかにし、午前の持久力を底上げします。

(※3)The Effects of Breakfast and Breakfast Composition on Cognition in Children and Adolescents: A Systematic Review:Advances in Nutrition 2016, 7(3):590S-612S

(※4)A low glycaemic index breakfast cereal preferentially prevents children's cognitive performance from declining throughout the morning:Appetite 2007, 49(1):240-4
■「午後に失速しない」ための昼食ルール
午前・午後と、通しの試験では昼食の設計が午後の粘りを決めます。
お腹いっぱいの「ご褒美ランチ」は、消化に血流とエネルギーを奪われ、眠気と集中力低下の原因になります。特に糖質過多の食事は、食後の血糖の急上昇と急降下を招きやすく、感情の揺れやだるさに直結し、「午後に失速する」要因になります。
理想の昼食は、①主食を小さめに抑え、②良質なたんぱく質を少量添え、③温かい汁物で整える三点セットです。
参考メニュー

小ぶりの塩むすび+焼き魚やサラダチキン、豆腐バー+カップの野菜スープや味噌汁
ポイントは「満腹にしない」「炭水化物は控えめに」「糖×糖(菓子パン×甘い飲料)」を避ける。
いずれもコンビニで揃えることができます。受験当日は、「軽め・温かめ・糖質控えめ」を基本ルールに実践してください。
また、午後一の「眠気の谷」を越えるには、食べる順序も大切です。
汁物→たんぱく質→主食の順に口へ運ぶと、胃腸が温まり、糖の吸収速度が抑えられて、食後のだるさが出にくくなります。
■エナドリで「やる気スイッチ」は危ない
間食は、休み時間ごとに水や麦茶を少量ずつ飲みながら素焼きナッツを数粒、あるいは高カカオのチョコをひとかけ程度合わせると、糖とミネラルを補給できます。
エナジードリンクや甘い清涼飲料は、短時間の覚醒感と引き換えに大きな反動を招きやすく、午後の集中力低下の原因になりますので、避けましょう。これだけでも血糖の波は穏やかになり、午後に向けた「静かな粘り」が生まれます。


受験当日は、頭だけでなく「腸のご機嫌」にも左右されます。腸は自律神経・免疫・ホルモンを整える大切な場所で、ストレスや食事の質の影響を強く受けます。緊張が高まる前夜から当日は、腸内環境を荒らさない食べ方と生活リズムを優先することが、眠りの深さ・朝の気持ちの立ち上がりと気分の安定化に直結します。
「体と心の振れ幅」を小さくする最後の決め手は、前夜から当日の朝にかけて子どもの不安を減らすことです。安心が一滴ずつたまるほど交感神経の過緊張がゆるみ、コンディションが安定します。
■親子の協力プレーで受験を乗り切る
前夜の基本は「腸に優しい食事」と「光と音を落とした環境」で眠りを守り、「安心のメッセージ」で気持ちを支える。
親御さんの優しい声がけは、子どもが自分のペースを取り戻す助けになります。
「ここまで準備できているから大丈夫」といった短く肯定的な言葉をかけてあげましょう。こうした言葉は気持ちだけでなく腸に届き、不安による食欲低下や胃腸の揺れを防ぎます。
そして、軽め・早めの食事を心がけ、スマホやPC、テレビの画面オフを親子で共有しましょう。大人が落ち着いていること自体が、子どもにとって最大の安心材料になります。
あわせて、起床時から出発までの流れを紙に書いて見える化しておくと、朝に考える負担が減り不安の波はさらに小さくなります。
順序が見えているだけで腸も落ち着き当日の立ち上がりが安定します。
さらに、当日のトラブル対応も事前に決めておくと安心です。
朝に胃が重ければ、汁物だけ摂取して自宅を出て、会場に着いてからおにぎり半分と卵を食べることに切り替える。緊張で便意が不安なら、早めに温かい飲み物を少量、会場ではトイレの位置を先に確認する。頭が重いと訴えたら、水分と塩気のある軽食を少量持たせる。こうした想定が、親子の気持ちを落ち着かせます。
受験は一発勝負に見えますが、体の側から見れば「準備したとおりに結果が出る」ものです。
栄養や生活の立て直しは「一発逆転」ではなく積み重ねです。日々の延長線上に当日の戦術があります。親子が協力して乗り切る受験が、これからの良好な親子関係の構築につながると考えましょう。

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梶 尚志(かじ・たかし)

梶の木内科医院院長

1964年生まれ、富山県出身。富山医科薬科大学(現富山大学)医学部医学科卒業。医学博士。総合内科専門医、腎臓専門医として患者を診察する中で、通常の診察では解決できない「体の不調」に栄養学的なアプローチから治療と生活指導を行う。著書に『え、私って栄養失調だったの? その不調は病気でなく状態です!』『え、うちの子って、栄養失調だったの? その不調は食事で改善します!』(みらいパブリッシング)がある。

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(梶の木内科医院院長 梶 尚志)
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