※本稿は、林公代『宇宙にヒトは住めるのか』(ちくまプリマー新書)の一部を再編集したものです。
■月で育てて食べる「月産月消」を目指して
JR松戸駅から歩いて約15分。千葉県松戸市にある千葉大学園芸学部には、洋風庭園やビニールハウスが広がる。こののどかなキャンパスの一角に、月面農場を模擬した植物工場があるとだれが想像するだろう。たどり着いたのは「閉鎖型植物生産研究施設」。25年前に建てられた施設で、その後様々な機能が継ぎ足されてきたという。
案内して下さったのは、月面農場の研究を日本で長く主導してこられた、千葉大学宇宙園芸研究センターの後藤英司(ごとうえいじ)教授。後藤教授に続いていよいよ中へ。「どんな月面作物と会えるのだろう!?」とドキドキする。
工場に入る前に、いくつかのステップがあった。まず不織布の白衣を着て、手を消毒する。
エアシャワーを通ると、5つの栽培エリアに面した小部屋に出た。一つ一つが作物や研究テーマごとに温度や湿度などの環境を変えた植物工場で、ドアがきっちり閉められている。
■いよいよ「月面作物」と対面
「では月面を想定した栽培エリアに入りましょう」
後藤教授が「完全人工光型植物工場」と書かれたドアを開けると、天井まで届く大きなロッカーのような銀色の扉が、細い通路の両側にずらりと並んでいた。取材に伺った日は初夏で外を歩くと汗がにじむほどだったが、内部はひんやりと涼しい。
ドアの一つを後藤教授が開けたとたん、甘い香りがふわ?っと広がる。内部には真っ赤に熟したイチゴが、3段式の栽培エリアいっぱいにたわわに実っていた!
「わぁ、美味しそう!」
取材チーム3人は思わず声をあげた。イチゴは冷涼な気候を好むため、この栽培エリアは4月ぐらいの気候条件に設定していたのだ。
ここでイチゴがどう育てられているか説明する前に、少しだけ背景を。
宇宙であれ地上であれ、人は食べないと生きられない。
だがそのほとんどはレトルト食品やフリーズドライなどの保存食で、新鮮な野菜やフルーツは数カ月に一度、地上から貨物船が運ぶだけ。その時が宇宙飛行士は何よりの楽しみだと聞く。
■「月産月消」が必要な理由
月で暮らすとなったらどうだろう。地球から月までは片道3日以上かかる。さらに輸送費は1kgあたり1億~2億円にもなる。5kgの米袋一つで10億円! すべての食材を地球から月に運ぶのは、非現実的だ。そうなると、月で作物を育てなければならない。
そこで月で育て、月で食べる「月産月消」を目指そう! という目標が掲げられた。その研究の最前線が、ここ植物工場で進行中なのだ。
このプログラムが目指すのは、月で水や廃棄物などの資源を循環しながら作物を育てる月面農場の実現。約30の企業や研究機関などが技術と知恵を結集し、世界をリードする研究開発が進められている。
月面農場のコンセプト検討は長くJAXAなどで行われてきた。まず、議論になったのはどんな作物を月で育てるのか。専門家による議論の結果、8種類の作物が選ばれた。「イチゴ、レタス、トマト、イネ、ジャガイモ、サツマイモ、キュウリ、ダイズ」だ。
その8種類の作物を、できるだけ小さな空間で効率的に、美味しく、さらに人手をかけないで育てるための研究開発が、スターダストプログラムの元で進められている。
■月面イチゴは「種から」育てる
月面イチゴの開発には国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)と「いちご王国」栃木県と三重県が参加している。これらの研究機関は、種子繁殖型イチゴを世界に先駆けて開発した。
通常、イチゴを育てる時は、親株から枝分かれした枝(子株)を植木鉢などに植えて、翌年にかけて徐々に大きな苗に育てる。その間に病気に感染すると苗が全滅してしまうこともあるため、作業は慎重に行わないといけない。
一方、15年ほど前に種から育てられる種取りイチゴが開発された。トマトやキュウリなどと同じように、種をスポンジに植え付けて水を与えると発芽し、大きな株になってイチゴが実る。「月みたいに人手がかけられないところでは、種をまけば放っておいても育つタイプの品種を選ぶことにしたんです」。後藤教授の説明に納得する。
肝心の味は?
「20年前のイチゴの味」。酸っぱくなく、糖度も高い。少し小ぶりと後藤教授は言うが、実際に植物工場で育っているイチゴは、ぽってりと大きく、見るからにジューシーで美味しそう。どうやってこんなに大きく育てることができたのか。
■甘いイチゴを育てるポイントは「光」
「光の当て方です。葉っぱが多くなりすぎないように、つまり茂りすぎないようにする。今はイチゴの栽培に一番いい条件を探すために、1株ごとに光の当たる向きを見ながら葉っぱの枚数を変え、光の強度や湿度を管理したりなど、丁寧に育てています。
千葉大学の吉田英生(よしだひでお)助教が上手なんです。おそらく植物工場でイチゴを育てることについては、日本一の研究者。それをマニュアル化できれば、月面の植物工場で自動的に育てられます」
光の当て方が鍵だった。月面農場では、LED光が太陽光の代わりとなる。
気になるのは受粉だ。イチゴの花が咲いた後、めしべにおしべの花粉がつかないと、実ができない。地球上の自然な環境では、受粉は花の蜜を吸うために集まったミツバチや昆虫が担う作業だ。でも月にミツバチは運べない。そこで、イチゴの花を揺らしたり風を当てたりすることで機械的な振動を加え、受粉させる。
イチゴは水耕栽培で育っていた。根っこの部分を見せてもらうと、深さ5㎝ぐらいの培養液に浸されている。金魚の水槽などで使われるエアレーションで酸素を補給し、栄養のバランスを確認。
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林 公代(はやし・きみよ)
ライター
神戸大学文学部英米文学科卒業。日本宇宙少年団情報誌編集長を経て2000年からフリーライターに。日本宇宙少年団では子供たちに毎月出す情報誌を担当、子供たちとともに宇宙の魅力の虜になり、以来、20年以上にわたって宇宙関連の話題――宇宙飛行士、宇宙関係者へのインタビュー、NASA、ロシア、日本のロケット打ち上げ、 皆既日食、すばる望遠鏡(ハワイ)、アルマ望遠鏡(南米チリ)――などを中心に、幅広く取材を続けている。著書に『宇宙就職案内』(ちくまプリマー新書)、『未来が楽しみになる 宇宙のおしごと図鑑』(KADOKAWA)、共著に『さばの缶づめ、宇宙へいく』(イースト・プレス)、『宇宙に行くことは地球を知ること 「宇宙新時代」を生きる』(光文社)など。
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(ライター 林 公代)

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