企業が決算の数字を偽装する方法にはどのようなものがあるのか。公認会計士の白井敬祐さんは「複数の企業間で取引をぐるぐる回し、各社が売上を計上する『循環取引』は、個々の取引に契約書や入金の記録も残るため、外部から指摘するのはかなり難しい」という――。

※本稿は、白井敬祐・三ツ矢彰『会計が面白いほどわかるミステリ』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■小さな嘘が取り返しのつかない罪になる「不正会計」
昨年(2025年)8月に上場廃止、10月に元経営陣が逮捕され、倒産することとなったオルツ。時代の寵児ともされた同社がどのように119億円もの架空売上を作り上げたのか、またなぜ誰もこの不正を見抜けなかったのかを解説していきます。
不正会計が発覚し、上場廃止になると、その会社の株の価値はなくなり、投資していた人たちに大損害を与えます。投資家は自衛のためにも危ない会社を見抜く目を養わなければなりません。
企業の不正会計は多くの場合、「今月だけ数字を良く見せよう」という軽い気持ちから始まります。その小さな嘘が、取り返しのつかない罪へエスカレートするメカニズムを見ていきましょう。
■売上を前倒しする「期ズレ」から始まるのが一般的
【ステージ①】売上の先行計上(期ズレ)
まず基本の確認です。売上は、商品を納品したり、サービスを提供するなど「お客さんとの約束を果たした時」に計上します。
12月に受注しても、納品が1月なら売上は1月です。これを意図的に12月の売上にしてしまうことが、不正の第一歩です。
なぜなら、前倒しすれば翌月の売上に穴が開きます。
その穴を埋めるために、また次の月の売上を前倒しする……という自転車操業に陥り、止められなくなります。
【ステージ②】架空売上
売上の先行計上による不正では業績達成が追いつかなくなると、次は「架空売上」という不正手口に手を出します。
これはペーパーカンパニーを使ったり、取引先と共謀したりして、実在しない取引をでっち上げる完全な嘘です。架空の相手との取引なので入金がなく売掛金が溜まる一方ですが、経営者の個人資金で入金を偽装するケースもあります。
【ステージ③】循環取引
架空売上の進化形で、複数の会社が結託し、商品をほとんど動かさずに書類上だけで取引を回し、売上を膨らませます。
オルツのケースでは、この循環取引を用いて、なんと8~9割もの売上を架空計上しており、オルツの成長にはほとんど実態がなかったことが明らかになっています。
■循環取引は「大人の壮大なおままごと」
架空売上とは、まるで文字数を稼ぐために意味のない言葉で水増しした学生時代のレポートのようなもので、売上の数字だけは膨らんでも中身はスカスカ。その結果、実体のない売上が増える一方で、通常は会社には「回収できない売掛金」だけが財務諸表に溜まっていくことになります。
当然、このような単なる架空売上はすぐにバレてしまいます。そこで、より巧妙な不正手口として使われる手法が「循環取引」です。仕組みはシンプルです。A社→B社→C社と商品を転売し、最後にC社が初めのA社に商品を売る。
商品は元の場所に戻るだけで実体は動きませんが、取引が一周するたびに価格が上乗せされ、各社に売上が計上されます。
中身のない売上がぐるぐると回り、いつ崩れてもおかしくないその様は、まさに「ジェンガ」であり、大人が本気でやる壮大な「おままごと」です。
「そんな子供だましのような仕組み、なぜ見抜けないのか?」と思われるかもしれません。しかし、このおままごとは契約書類が完璧に揃い、実際に資金も還流するため、外部からは正常な商取引に見えてしまうのです。それゆえに発見が難しく、上場企業の会計不祥事において何度も繰り返される「王道の不正手口」となっているのです。
■売上目標達成のために加ト吉が手を染めた「循環取引」
かつて「冷凍うどん」で絶大な人気を誇った食品メーカー「株式会社加ト吉(現:テーブルマーク株式会社)」が2007年に起こした会計不正事件でも循環取引が使われました。
加ト吉は、極端な売上至上主義の企業文化を持っており、売上目標の達成が絶対的使命でした。
そこで使われたのが「循環取引」です。これにより、実体のない売上がかさ増しされていった結果、2002年3月期~2007年3月期までの6年間に1000億円程度の売上高の水増しが行われていました。
2007年、監査法人への内部通報をきっかけに不正が発覚。不正発覚前の2006年3月期の最終利益は約65億円の黒字でしたが、それまで隠されていた損失が一気に表面化し、2007年3月期の決算において特別損失235億円を計上し、約98億円という巨額の最終赤字に転落しました。株価は暴落し、社会的な信頼を失ったのです。

■不正会計は会社全体の利益率を徐々に蝕む
数ある循環取引の中でもこの事件が非常に巧妙だったのは、不正の発覚を避けるため、売掛金や棚卸資産の回転期間といった多くの財務指標が、意図的に正常範囲内にコントロールされていた点です。後から財務諸表を分析しても、不正の発見は極めて困難でした。
しかし、唯一、この完璧な偽装の中に、かすかな綻びが生まれていました。それが、粗利率の長期的な低下です。
データを見ると、売上高は順調に伸びているにもかかわらず、会社の基本的な儲ける力である粗利率が、毎年少しずつ、しかし確実に低下しているのがわかります。
これは、売上をかさ増ししていた「循環取引」が、ほとんど利益の出ない(利益率1%程度)取引だったためです。この低収益の架空売上の割合が年々増えることで、会社全体の利益率が徐々に蝕まれていったのです。
では、我々はこうした不正をどう見抜けばいいのでしょうか。次のポイントが重要です。
・売掛金の異常な増加(売上は伸びているのに、現金回収が追いついていない)

・在庫の異常な増加(不良在庫や、資産を水増しする架空在庫の可能性)

・利益と営業キャッシュ・フローの乖離(利益額に対して手元の現金が増えていない)

・監査法人の頻繁な交代(意見対立があった可能性)
■オルツの売上推移の「不審点」
オルツのケースではどうだったのか、主に売上や売掛金、監査法人の状況について、見てみたいと思います。
オルツの売上や売掛金の推移を見てみると、売上は、2020年12月期から2024年12月期までの5年間で約110倍(約5500万円→約60億円)、売掛金は2021年12月期から見ると5.8倍とそこまで乖離はありません。
ただ、ここで気になる点がありました。
それが前受金です。売掛金が商品・サービスの提供後に受け取るお金である一方、前受金とは、商品・サービスの提供前に受け取るお金のことです。
オルツの前受金は4年間で2倍程度にしか成長していません。同社の主力商品はAI議事録作成サービスで、年額契約と月額契約があります。年額契約であれば、支払が先になるので、前受金の額は大きくなるはずです。しかし、この前受金の状況から鑑みると、ほとんどの契約が月額契約だったのではないかと想像されますが、結果論にはなるものの、やや苦しい説明です。
さらに、同社の有価証券報告書を見ると、売上の半分以上をジークスという販売代理店に依存していることがわかります。
■監査法人の交代は要注意
大手監査法人から中小監査法人への交代には要注意です。もちろんそれだけで不正と決めつけることはできませんし、中小監査法人でもちゃんとした監査をしています。しかし、大手監査法人ではOKしてくれないから、駆け込み寺のように中小監査法人に頼るパターンもあります。駆け込み寺のようにOKを出す中小監査法人は近年問題視されています。
オルツのケースでは、第三者委員会報告書で指摘されているように、2022年の上場準備中に、大手監査法人(AW監査法人(仮名))から、中小監査法人である監査法人シドーへと監査人交代が行われており、ここでも典型的な不正ポイントに当てはまっています。

なお、前任の監査法人は循環取引の疑義を指摘していたにもかかわらず、オルツ側はこの指摘を退け、監査法人を変更していたことが後に判明しています。

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白井 敬祐(しらい・けいすけ)

公認会計士

2011年、公認会計士試験に合格後、清和監査法人、新日本有限責任監査法人、有限責任監査法人トーマツにて監査業務やIFRSアドバイザリー業務などに従事。その後、株式会社リクルートホールディングスへ転職し、IFRS連結決算、開示業務などを担当。2021年7月に独立開業。現在は、大手公認会計士試験予備校であるCPA会計学院にてCPAラーニングの実務家講師を務める。「公認会計士YouTuberくろいちゃんねる」を運営。

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三ツ矢 彰(みつや・あきら)

漫画家・イラストレーター

ファンタジーから実務/知識系まで軽快な筆致で描く。

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(公認会計士 白井 敬祐、漫画家・イラストレーター 三ツ矢 彰)
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