■調べてみたら本当に毎日遅延していた
「日本の鉄道は世界一正確」というけれど、通勤電車はその限りではない。中央線沿線に住む筆者の知人は「朝晩の通勤時間帯は毎日のように遅延していて、時刻表通りに運行していればラッキーだと思うほど」だという。
さすがに毎日とは言いすぎだろうと思っていたけれど、調べてみたら本当だった。
JR東日本が公式サイトで公開している「遅延証明書発行ページ」を調べた。JR東日本の中央線快速の履歴を見ると、今年の1月4日から2月4日までの約1カ月で、毎日5分以上の遅延が発生していた。
時間の区分は「始発~7時」「7時~10時」「10時~16時」「16時~21時」「21時~終電」の5つで、毎日どこかで遅延している。遅延のない日はゼロだ。
■「次の電車が来るからいい」ではない
それでも「7時~10時」の通勤通学時間帯で遅延がない日は7日ある。ただし、ほとんど土休日で、平日は2日だけ。知人の言う「ラッキー」な日は2日しかない。
「16時~21時」の帰宅時間帯に限れば、遅延がない日は3日。そのうち平日は1日だけ。
筆者もときどき通勤時間帯の東急田園都市線や横浜市営地下鉄ブルーラインに乗る機会がある。そういえば遅延している日が多い。駅の発車案内で「2分遅れ」などと表示されている。
2分程度なら気にならないし、5分以上遅れていても、本来なら5分以上前に発車した列車がやってくるので気にならない。しかしそれは遅延を運行本数が補っているだけだ。遅延していることに変わりはない。
いったい、電車はなぜ遅れるのか。
私たちは遅刻しがちな電車とどのように付き合うべきか。
■国土交通省が調べた「遅延の原因」
遅延が常態化しているというのに、鉄道事業者はなぜ対処しないのか。実態を把握していないのか。
実は、国土交通省も遅延の実態を掴もうとした時期がある。2019(平成31)年に公開された「東京圏の鉄道路線の遅延『見える化』(平成29年度)」では、「遅延証明書の発行状況」「遅延の発生原因」「鉄道事業者の遅延対策の取組」を、数値・地図・グラフ等により、わかりやすく「見える化」した。
この文書の中の「東京圏(対象路線45路線の路線別)における1カ月(平日20日間)当たりの遅延証明書発行日数状況」を基に、遅延が発生した路線を路線図で色分けし、遅延の原因を円グラフにした。また、鉄道事業者の各社の対策も紹介されている。
この平成30年度版によると、30分以上の大規模な遅延の原因1位は「自殺」(52.4%)、10分未満の小規模な遅延の原因1位は「乗降時間超過」(48.3%)だった。
この文書は2016(平成28)年に国土交通大臣の諮問機関、交通政策審議会が「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について」(答申198号)で、「遅延の現状と改善の状況を分かりやすく『見える化』することが特に重要」との指摘を受けて調査し、公開された。
■「見える化」はわずか2年で終了
さらに、「遅延の発生状況について毎年公表し、経年で確認できるようにする」とされたけれども、2020(令和2)年に公開された「東京圏の鉄道路線の遅延『見える化』(平成30年度)」を最後に公開されていない。たった2年で終わり。「毎年公表し、経年で確認」ができていない。
この件について国土交通省鉄道局総務課鉄道サービス政策室に問い合わせたところ、平成31年度以降の調査は実施していないとのことだった。その理由について「コロナ禍で鉄道利用客が減り、遅延が減ったからか」と訪ねると「そうだ」という。
国土交通省が遅延対策を見限ったわけではない。同省が2025(令和7)年の「第217回 通常国会」に提出した「令和7年版交通政策白書」のなかで、「遅延対策について、鉄道事業者に対して更なる改善の取組を求めていくため、遅延の現状と改善の状況を分かりやすく『見える化』する等の取組を進めている(p50)」とある。
■利用者に「改善の状況」が届いていない
このうち、「遅延の現状」は、鉄道事業者各社が「遅延証明書の発行状況」を公開したことで達成したと言えそうだ。かつて駅で配布していた「遅延証明書」は、いまやインターネットで入手できる。JR東日本だけではなく、たいていの鉄道事業者は過去1カ月分に対応している。しかし、履歴が1カ月しかないため年間比較まではできない。
「改善の状況」は取り組みを進めていると記述しているが、その成果が発表されていない。鉄道事業者が発行する「中期経営計画」や「移動等円滑化取組計画書」などをひとつひとつ当たる必要がある。これでは「取り組んだ」とはいえない。
2015年に公開された国土交通省の「遅延対策ワーキング・グループ 報告資料」によると、「鉄道事業者は、5分以上の遅れを遅延として遅延証明書を発行、30分以上を輸送障害として国に報告しているが、両者は原因・態様が異なっている」とあり、鉄道事業者を一様に比較した資料が作りにくいのかもしれない。
しかし、鉄道の混雑対策や踏切対策では一様の基準を作り、鉄道事業者などに対策と報告を求めている。
■「30分以内の遅延」は利用者が起こしている
先に挙げた「遅延対策ワーキング・グループ 報告資料」によると、利用者から見た遅延の分類は3種類だ。
「いつものことで慣れている遅延」「しばしば発生するちょっとした遅延」「稀に発生する長時間遅延」である。
「いつものことで慣れている遅延」は0~10分で、「ほぼ毎日発生するため、予め織り込んで行動しており、不利益は少ない。ただし、年間を通じて大きなロスタイム」となる。原因は混雑で、対策としては予防、つまり利用者側の予測行動だ。4月は新入社員、進学などで不慣れな乗客が多く遅延しがち。寒くなれば着ぶくれラッシュで混雑する。
「しばしば発生するちょっとした遅延」は10~30分だ。同一路線で週に1回か2回の発生が観測できる。原因は急病人やドア挟み事故などだ。対策としては早期回復と予防としている。
■「稀な長時間遅延」は鉄道側が対策すべき
「稀に発生する長時間遅延」は30分以上の遅延で、多い路線では月に1回か2回程度発生する。原因は鉄道側の機器故障、自然災害、飛び込み自殺だ。原因は鉄道側にあり、対策として、情報提供による迂回の促しと早期復旧だ。
「機器故障」は、JR東日本で1月16日に山手線、京浜東北線などで保守作業のミスにより停電、1月30日に常磐線で架線切断により停電、2月2日に京葉線の八丁堀駅で火災による運転見合わせが発生した。
それぞれ原因が異なるため、多様な事故が偶然発生したように見える。しかし、作業ミスや点検の見逃しが起きやすい環境に要因があるかもしれない。これはどの鉄道事業者にも起こりうることだ。原因と対策について、鉄道事業者間と国土交通省で共有してほしい。
■遅延防止のホームドアは逆効果?
コロナ禍以降、国土交通省は統計データや対策などをまとめていないけれども、遅延についていくつか思い当たる要因がある。「ホームドア」と「ワンマン運転」と「相互直通運転」だ。
「ホームドア」の設置によって電車のドア開閉に時間がかかり、停車時間が長くなったように感じる。
しかし、ホームドアの所作を見ると、電車のドアと同時に開閉しない場合が多い。どちらかが先に動作する。つまり、ドア開閉に2倍の時間を要する。ただし、この停車時間を前提にダイヤを設定すれば、所要時間が延びたとしても遅延にはなりにくい。
「ワンマン運転」は、近年、都市部の鉄道でも採用されている。運転士がドア扱いや車内放送など車掌の業務も行う。いままで2人で分担し短時間で済ませたところ、運転士が停車、ドア開き、ホームの乗客の安全確認、ドア閉め、発車をひとりで行う。2人分の仕事をするわけで、いままで時間的に重なった部分も運転士が担うから、停車時間は長くなる。
これも、停車時間増加を見込んだダイヤを設定すれば問題ない。ただし、南武線のワンマン化による遅延が問題視されており、所要時間の増加になっていることから、JR東日本が対策を進めている。
■「相互直通運転」も遅延の原因に
「相互直通運転」の問題は、直通先の鉄道で何らかの遅延が発生した場合に、乗り入れ先の鉄道路線に影響し遅延することだ。
これは遅延証明書の発行状況を見ればすぐにわかる。東京メトロの場合、有楽町線や半蔵門線、副都心線など相互直通運転を実施する路線は毎日のように遅延しているけれど、銀座線や丸ノ内線など、相互直通運転を実施しない路線の遅延は少ない。これは東急電鉄も同様で、東横線や目黒線で遅延が多いけれど、東急多摩川線や池上線など独立路線は遅延が少ない。
相互直通運転の遅延対策は「相互直通しない」だ。しかし相互直通の利便性は大きい。取りやめるわけにはいかない。そこで、大幅な遅延がある場合は相互直通運転を停止し、境界駅で双方の折返し運転を実施する。
このほか、鉄道事業者側の対策として、乗客が集中する「急行」の運転をやめる(東急電鉄)、駅で2本の線路を使って「交互発着」する、先に停車した列車が発車する前に、あとから来た列車を停車させる、といった選択肢がある。通常は先に駅を出た列車のあとで後続の列車が駅に到着するけれども、線路を2本使えば同時発着が可能になり、後続の電車が遅延しない。
■「絶対に遅れる電車」との付き合い方
遅延の理由は以上だ。しかし、鉄道利用者としては、説明されて理解できても、納得できない。納得できないけれど、通勤通学する限り、遅延ばかりのだらしない電車と付き合わなくてはいけない。悔しいが仕方ない。
通勤通学電車とストレスなく付き合う方法は「先手を打つ」と「切り替える」だ。まずは「日本の鉄道は時刻に正確」という幻想を捨てよう。電車は遅れる。定刻に来ない。だから10分早く家を出よう。遅延を見越して先手を打つのだ。
朝の10分は貴重だ。特に寒い冬はギリギリまで寝ていたいし、起きたところで心身の起動に時間がかかる。そう、電車も遅れているけれど、あなたの所作も遅れがちだ。
だからまず、自分でできる対処として、10分前の電車に乗るべく行動しよう。これで10分前の電車が遅れても定時に出社できるし、授業に間に合う。なんだか負けた気がするけれど、残念ながらアイツ(鉄道)は時間にルーズな友人だ。どうにもならない。
駅に10分遅れで到着しても、10分前に発車する電車が10分後に来てくれたら、会社や学校に遅刻するといった影響は小さくなる。問題は「10分経っても電車が来ないとき」だ。この場合は電車をあきらめよう。時間にルーズなアイツを見限ろう。じっと再開を待つより他のルートを選ぼう。経路を「切り替える」のだ。そのために振替輸送という制度がある。
■振替輸送を使える人、使えない人
振替輸送は、鉄道事業者間の取り決めにより、乗車券や定期券にない他の鉄道ルートを利用できる制度だ。JR中央線が不通になった場合は京王線を使ってもいい。逆に、京王線が止まったときは中央線を使ってもいい、という仕組みだ。関東では大手私鉄、東京メトロ、都営地下鉄、JRがこの制度を持っている。
ただし、客の判断で勝手に振替輸送を選択できない。不通になった鉄道事業者が、その都度、近隣の鉄道会社に要請し、受諾した路線のみ使える。10分遅れたから振替輸送だと勝手に判断してはいけない。たいていの場合、電車が動かないときに発動する制度だ。
振替輸送が始まっても、制度を利用できる人は「定期券」「ICカード定期券」や「紙のきっぷ」を持っている人だけだ。ICカード乗車券の利用者は振替輸送できない。これは「定期券」や「紙のきっぷ」が「目的地まで利用できる権利」を持っているからだ。
ふだん気にかけないことだけれども、定期券や紙のきっぷを買った時点で、鉄道事業者と利用者の間で「運送契約」が成立している。だから鉄道事業者は契約上、目的地に送り届ける義務がある。そのために、ほかの鉄道事業者と振替輸送を取り決めている。事故があったらお互い様。運送契約遂行のために、お互いに協力しましょう、というわけだ。
ICカード乗車券は、鉄道事業者が利用者に「貸与」する契約になっている。ICカード乗車券は改札機から入場するときに目的地を定めない。したがって「目的地までの運送」を約束できない。乗車を放棄する場合に限り、乗車の改札入場を取り消しできる。それだけだ。
■混雑解消には乗客の協力が不可欠
電車が停まったとき、テレビニュースで乗客が駅員に詰め寄り、運転再開を問いただす場面を見かけるけれども、何の解決にもならず時間の無駄だ。駅員に詰め寄ったところで現実は変わらない。問いただすべき内容は「振替輸送の有無」だ。
目的地に行きたい場合は、その場に留まってはダメ。乗り換え検索アプリなどで迂回ルートを調べて、通勤経路を切り替えよう。そのときに振替輸送があれば利用すればいいし、振替輸送がなければ自腹で移動することになる。どちらにしても、駅に留まるよりマシだろう。
長時間の遅延は防ぎようがないけれど、鉄道の遅延で最も多い原因は「混雑」だ。混雑が解消すれば、最も多い「10分以下」の遅延は消える。乗客もスムーズな乗降に協力して、電車の定刻発車を維持していこう。
----------
杉山 淳一(すぎやま・じゅんいち)
鉄道ライター
1967年生まれ。都立日比谷高校卒。信州大学経済学部、信州大学工学系研究科博士前期課程終了。経済学士。工学修士。IT系出版社でPC誌、ゲーム雑誌の広告営業を担当した後、1996年からフリーライター。ウェブメディア勃興期にニュースメディアで鉄道ニュースデスクを担当したのち、主にネットメディアで鉄道分野を主に執筆。
----------
(鉄道ライター 杉山 淳一)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
