■「大勝の理由はわからない。中道が弱かった」
衆議院選挙の結果が出た。高市早苗首相が公言した目標は、維新の会と合わせて議席の過半数だったが、まさか自民党単独で3分の2を超えるとは。驚きである。
投票行動にはさまざまな理由があろうが、立憲民主党(立民)と公明党が中道改革連合をつくったことで、まったく選挙の先行きが読めなくなったことも大きかっただろう。結成当初は、中道が自民を抜いて一大勢力になるという予想もあったし、その後も、自民は東京で4議席しか取れないという予想も出ていた。
議席数の予想はつねに混とんとしており、自民党の大勝は「中道よりは自民を」と考える有権者の投票行動の結果であろう。もしもこの結果が予想できていれば、バランスを考えて中道に入れたという有権者もいそうではある。テレビ朝日の報道番組「選挙ステーション」によると、開票後には自民党幹部が「大勝の理由はよくわからない。中道が弱かった」と発言したそうである。
■若い世代は立民スタイルが「苦手」
この選挙は、高市首相が解散理由としたように、高市政権の是非を問う選挙であったと同時に、それ以上に中道、とくに立民の是非を問う選挙だったのではないか。
公明党はそれなりにいつもの支持層からの得票があった一方で、立民は大きく支持を減らした。
ここ数年の流れではあるが、いまなぜ「リベラル」はそこまで(特に若者に)嫌われてしまったのだろうか、という課題に直面せざるを得ないのではないか。若い世代の中道の支持は、ほぼゼロに近い。
立憲民主党が誕生したときのことは、私もよく覚えている。嵐のような大雨のなか、投票所に行った。どうしても投票したかったからである。政策の内容に賛同していた。
しかしその一方で今、大学の教員として10代や20代の若者と常日頃接している身としては、若い世代が立民のスタイルにうんざりしていることも、実によく理解できるのだ。
こういうと「若者は『保守化』している」とよくいわれる。しかし、今の若い世代は、上の世代に比較すれば、実に「リベラル」であり、むしろ若者は「リベラル」であるがゆえに、立民流の「リベラル」スタイルが苦手なのである。
今回は政策の中身ではなく、立民のコミュニケーションスタイルに焦点をあてたい。
■「パワハラ上司」「カスハラクソ客」と同じに見える
ビジネスコンサルタントの新田龍氏はSNSで、立民のスタイルが若者にとっては「パワハラ上司」や「カスハラクソ客」と同じように見えてしまうのではないかと述べている。「立民議員の振る舞いは『上から目線』『怒鳴ってばかりで威圧的』『理不尽にキレてまともな話し合いができない』といったネガティブな印象しか与えず、生理的な嫌悪感を抱かせ、それが拒絶反応として表れている」と指摘している。
その通りだろう。いまの、誰も傷つけないよう常に配慮しながらコミュニケーションをとる若者にとって、こうした立民スタイルは魅力的にうつらないのである。
単独過半数を得ていなかった自民は、維新と連立を組み、国民民主党とも協力しながら、ガソリン減税などを成立させてきた(もちろん立民も協力している)。また首相が女性なこともあり、主要な閣僚に女性をつけ、若い小泉進次郎防衛大臣を含め、「和気あいあいと首相をサポートする」というチーム感があった。
そんななかで、「野党第一党として与党を追及する」という役割を背負わされた立民は、非常に不利な役割を期待されていたともいえる。こうした“仲良し国会”のなかでは、具体的な提案をせず批判や嫌味ばかりをいう「嫌なヤツ」にみえてしまう。
ちなみに、れいわ新選組も、今回大きく議席を減らした。れいわの、舌鋒鋭く政府批判をしていくスタイルも、硬直的な印象を与える男性首相の内閣の場合には「はまる」が、前向きに新しい施策を打ち出しているという印象を与えている女性首相の内閣に対して行えば、「攻撃的」というイメージを与えてしまいかねない。
とにかく、高市政権と立民スタイルの相性は、非常によくなかったといえるだろう。
■立民はなぜネットで不人気なのか
さらなる問題は、立民が、自分たちのネットでの不人気の理由を把握していないようにみえたことである。
比例の上位を公明党で埋め、立民は小選挙区で闘うと聞いたときに、私は仰天した。ネットメディアでは「公明党による立民の吸収合併に終わるのでは」という危惧がさまざまなひとから出されていたが、まさか幹部までもがつぎつぎと落選するとまでは思わなかった。
■拡散された国会の切り抜き動画
今回落選した岡田克也氏が、まさに国会が始まったばかりの予算委員会で高市首相の存立危機発言を引き出したあと、いや、総理大臣の就任演説でさかんに立民の議員から野次が飛ばされていたときから、SNSには立民批判動画があふれていた。岡田氏が昨年12月21日に、NHKの日曜討論で、高市首相の存立危機発言に対して「国民感情をしっかりコントロールしていかないと」と述べたことも、SNSでは火に油を注いだ。
テレビや新聞などの、いわゆるオールドメディアをほとんどみることもない若い世代には、こうしたSNSは大きな力を持つ。オールドメディアはこうした場合、SNSに上げる動画を作る際の「素材」にすぎない。
高市首相擁護のショート動画が「バズる」ことがわかってから、利益目的の“動画職人”が自民党擁護の動画を多く作る一方で、立民批判の動画もまたつくられた。生成AIの進展で、クオリティの高い動画を容易につくれるようになったという状況もあった。
高市内閣の支持が高いがゆえに、国会答弁の切り抜き動画が多く作られ、国会の発言も批判の対象となる。こうした国会の切り抜き動画では、「我が党の質問は格段にレベルが高い」という安住淳元立民幹事長の発言は、格好の素材となった。
■SNSの批判に「ひるまない」という悪手
SNSにおける批判に対して「ひるまずやる」とケンカを吹っ掛けるのは、国民の一部を「敵」認定することでもあり、SNSにおいては悪手である。必要なのはまず「批判を受け止める」という姿勢だろう。
ところが立民のスタイルは、「自分たちが正しい」、もしくは「自分たちの意図が、正しく伝わっていない」と主張していると映ってしまう。その結果「不当な攻撃を受けている」という言い分だけが強調されてしまう。
もちろん、そういう側面もあるだろう。しかしそれでも「正しさ」を主張するまえに、「国民の意見を受け止める」という最初に行うべき基本行動をしっかり行い、それをアピールする必要があったのではないだろうか。
■高市政権「“敵”認定」の弊害
立民のスタイルで顕著なのは、高市氏本人、もしくは高市政権を明確に「敵」としているところだ。衆議院解散のあと、野田佳彦代表(当時)が、「(公明党は)高市総理に一泡吹かせたい」と発言し、公明党が慌てて火消しに走ったことがあった。だが「高市総理に一泡吹かせたい」のは、立民の側の本音だったのではないかと有権者には見えてしまう。「口では『国民のための政治』と言いながらも、見据えているのは国民ではなく、与党なのではないか」。そう思わせてしまっている。
私がそう感じたのは、存立危機発言以降の立民議員の国会答弁である。
中国との関係が悪化し、多くの国民が、少なくとも中国との関係悪化は望まず、穏便に問題解決をしてほしいと願っているなかで、立民の議員はさらに高市首相に存立危機について、「発言を撤回しろ」と粘り強く詰め寄り、糾弾したのだ。これにはさすがに肝が冷えた。その過程でさらに高市首相の「失言」が出てきたらどうするのか。国際関係の悪化を招きかねない。重要なことは、高市政権や高市発言を糾弾することではなく、「国民のための政治をしている」と伝えること、そうした行動を見せることではないか。
■党首討論番組欠席批判の“ダブスタ”
今回の選挙戦が終盤に差し掛かったころ、立民にとっておそらくマイナスに響いたと思うことが2つあった。
ひとつは、高市総理が選挙戦での事故による持病のリウマチの悪化を理由として、党首討論番組を欠席したことである。それに対して、多くの立民の議員が、「#高市逃げるな」とSNSで非難したのだ。午後から遊説には行っているのに、番組に出られないのは何事かと批判していた。
リウマチは、朝が特につらい病気であり、患者はその痛みが理解されないことをよく嘆いている。高市首相の「働いて、働いて……働いてまいります」発言を、過労死を招くものだと非難する一方で、病気を理由にした欠席を非難する。こうした「ダブスタ」は、若いひとが一番嫌うものである。
たとえ、仮病かもしれないと思ったとしても、「お大事に。討論で質問に答えていただくことを楽しみにしていましたが、いまはまずご自愛ください」というのが大人のマナーなのではないか。「病気でも出て来い」というのは、ブラック企業のようである。そこは攻撃してはならないところであった。
■「#ママ戦争止めてくるわ」
もうひとつは、党として立民が始めたものではないが、「#ママ戦争止めてくるわ」である。おそらく、立民のコアな支持者には深く心に届くハッシュタグだっただろう。しかしそうであればあるほど、若者には刺さらず、立民への忌避感を招くことになったのではないか。
「ママ」という、母親の役割に依拠した平和運動批判こそが、1970年前後の第2波フェミニズムの始まりであった。若者は性別に関係なく、戦争が嫌いだ。何よりも若者の考える戦争は、ウクライナでの戦争がロシアの侵攻から始まったように、よそから訪れるものと意識されている。時代は変わったのだ。
ところがこういったハッシュタグが想起させる戦争のイメージは、日本が始める侵略戦争だ。若者たちは、自分たちが感じている「新しい恐怖」を共有してくれないと思うだろう。
■今、野党がやるべきこと
ここまで読んで、「何を言ってるんだ! 枝葉末節の揚げ足をとりやがって。高市の手先か!」と怒り狂うひとはいるだろう。「SNSで批判のひとつも書けばいいのに」と思うかもしれない。でもそうしたSNS書き込みこそが、若者をうんざりさせ、「リベラル」から遠ざけているのである。
自民党の大勝で、与党を批判できる勢力は、本当になくなってしまった。だからこそ、健全な野党が必要とされている。
できれば「ネットのデマの書き込みのせいで、選挙に負けた」といった発言は封印し、「自分たちが至らなかった」と頭を下げたほうがいい。大敗を正面から受け止めているところを見せてほしい。
ネットの画面の後ろにも国民がいる。若者も鬼ではない。選挙で大敗した野党に「ざまぁみろ」と思っているような若者に、「可哀想だ。応援してあげなくちゃ」と思わせるにはどうしたらいいか。本気で考えるべき時が来ている。
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千田 有紀(せんだ・ゆき)
武蔵大学社会学部教授
1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。ヤフー個人
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(武蔵大学社会学部教授 千田 有紀)

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