※本稿は、立川談慶『人生は「割り勘」思考でうまくいく 60歳からの「人間関係・健康・お金」の不安を分かち合うヒント』(かんき出版)の一部を抜粋・再編集したものです。
■「行きたくないな」は無視してはいけない
還暦を過ぎ、人生の黄昏時に差し掛かると、私たちはある種の特権というか、ある種の才能を手にします。
それが「予感」です。
いや、予感という名前の「長年の経験か肉体的な衰えに対する神様からのご褒美」かもしれません。
この「予感」は、特に人間関係においてその真価を発揮します。「この先、どうもうまくいきそうにないな」と感じた時、その予感は往々にしてズバリ的中するものです。
先日、私も“参加費高額パーティー”に「行きたくないなあ」と思いながらも参加してしまったのです(昔からの義理があったのです)。が、やはり案の定、独りよがりの人ばかりで、後悔することしきりでした。やはり、嫌なことは、頑として、やるべきではないのです。神様から「ほら、せっかくお前に予感させてやったのに、我慢して行くからこうなるんだよ」とお小言を食らったかのような気持ちになりました。
いや、これは誰が悪いというたぐいのものではなく、料理で言う「口に合わなかった」という現象でしょうか。
若い頃は、人付き合いや義理、体裁を気にして、気が進まない誘いにも無理をして応じてしまうことが多かったかもしれません。
しかし、還暦を迎えた今、私たちはもう、そんな不毛な努力をする必要はありません。これまでの人生で十分すぎるほど「社会性」を身につけてきたはずです。そろそろ、私たち自身の心と体が発する声に、もっと耳を傾けるべき時が来たのだと考えてみませんか。
私たち人類は、自分自身の感情や、他者との関係性における「割り勘」のバランスを冷静に見極める術を身につけてきました。そしてそれを「コミュニケーション」と呼んで大切な感性として育んできました。無駄な期待や依存は、関係性を歪め、私たち自身のエネルギーを消耗させるばかりか、地球規模で見つめてみたら環境破壊にもつながってしまいかねないのです。
■「肉体的な衰え」という最強の免罪符
「嫌だな」と感じることに無理して参加することは、まさに自身のエネルギーを無駄に垂れ流す「もったいない」行為に他なりません。それは、感情的な「割り勘」において、自分だけが一方的に損をする状態です。
私が提唱している「かわいいサイコパス」(自分自身をあたかも一歩引いた場所から客観的に観察し、分析するような視点を持つということ)は、そのような不均衡を敏感に察知し、自らをそうした状況から遠ざける判断をさりげなく下します。
それは、決して冷淡なのではなく、むしろ、限りある時間とエネルギーを、本当に大切にしたいこと、心から楽しめることに費やすための、賢明な自己管理と言えるでしょう。
そう考えていくと、肉体的な衰えは、一見マイナスな要素に思えますが、実は「嫌なことをやらない」ための強力な言い訳を与えてくれるという、意外な恩恵にすら思えてくるはずです。
「足が痛くて失礼します」「ちょっと体調が優れなくて……」「このところ、年でしょうか、免疫が衰えてきていてすぐ風邪を引いてしまって」などといった言葉は、若い頃にはなかなか口にしづらかったものですが、還暦を過ぎれば、誰もが「仕方ないな」と受け入れてくれる、ある種の免罪符となるのです。
これは、長年生きてきた者だけが享受できる、ささやかな、しかし確かな特権と言えないでしょうか。
この「ありがたい言い訳」を上手に活用することで、私たちは不要なストレスから解放され、より多くの時間を自分自身の内省や、本当に価値ある活動に充てることができます。
例えば、気が乗らない飲み会を断って、家で好きな本を読んだり、趣味に没頭したりする時間を作る。これこそが、還暦からの豊かな生き方なのではないか、私はそう考えているんですよ。
■「嫌なことはやらない」「疲れたら寝る」談志の教え
「だくだく」という落語があります。
泥棒がある長屋に盗みに入るのですが、そこにあると思った家財道具はすべて絵に描かれたもの。泥棒はそのまんま帰るのは悔しいと、盗んだ「つもり」で家財道具を全部風呂敷に入れて逃げようとします。それを見つけたその家の住人がなぎなたで泥棒を刺した「つもり」とします。そして、血が「だくだく」と出たつもりというのがオチ。
どうです、想像力があればどんな時でも楽しめることをこの噺が教えてくれます。
考えてみたらわが師匠である立川談志は、平気で約束時間を破ってもいました。ある日遅れてテレビ局の収録スタジオ入りした時などは、待ち構えていたスタッフ各位に「ここに来るまでが楽しかっただけ」と苦笑いしていたものでした。
「落語会に遅れること」も、もはや談志のキャラにもなっていました。私が前座の頃でしたか、上り時間が過ぎても談志はやってきませんでした。仕方なしに私が上がって申し訳なさそうに「お察しの通りです」と一言言っただけで会場は大爆笑になったこともありましたっけ。
「嫌なことはやらないほうがいいよ」「疲れたら寝ること」と、談志自身がサインを頼まれてはよく記していた言葉を、忘れないようにしたいと思っています。
■還暦からの人生で、真っ先に手放すべきこと
翻って一般社会は、「待ち合わせには遅れてはならない」という掟が、当然のことながらのしかかってきています。いや、かくいう私もパンクチュアルで、待ち合わせ場所にはいつも30分以上前には到着しています。
そんな私も含めた常識人からしてみると談志の逸脱とも言える行為には、怒りというよりも「自由気ままに生きていいんだよ」というアンチ文明的なさわやかさこそあり、それがそのキャラクターにすらなってもいたのでしょう。
「談志ならしょうがねえや」という共通認識でした。
談志がサインにもしたためた「嫌なことはやらない」的な言葉は、感情に正直に生きるという談志自身の「潔さ」、つまりは「覚悟」にも近かったのでしょう。
無駄な付き合いを潔く断ち、自分にとっての心地よさを追求する、言ってしまえば粋な生き方が凝縮されています。
還暦を過ぎると、残された時間とエネルギーの有限性を、より一層リアルに感じられるようになります。だからこそ、その貴重なリソースをどこに、どのように配分するかが、これまで以上に重要になってくるはずです。
「嫌なことは頑としてやらない」という選択は、単なるわがままや怠惰ではありません。それは、自分自身の心身の健康を守り、本当に大切な人や事柄に集中するための、極めて賢明な戦略になるというものです。
そしてその選択は、私たちを不必要なストレスから解放し、内なる平穏をもたらすはずです。その結果、その積み重ねが新たな知見や創造性を育む土壌となるでしょう。
還暦からの人生は、「どれだけ多くを経験するか」ではなく、「どれだけ質の高い経験をするか」へと、価値観をシフトしていくべきです。そしてその「質の高い経験」を追求するために、まず手放すべきは、自分にとって「嫌なこと」である、という結論に至るのです。
■「推し」を見つけてとことん行こう
「嫌なことは頑としてやるな」という前項のメッセージは、私たち還暦世代にとって、限りある時間とエネルギーをどう使うべきかという問いに対する一つの答えでした。しかし、単に「嫌なことを避ける」だけでは、人生はどこか物足りなくなってしまいます。
そこで、そのマイナス面を補足するために、「推しを見つけてとことん行く」というプラスの考え方をしてみましょう。「嫌なことをやらない」と、心の余裕と時間が生まれます。
それを、自分の魂を揺さぶるような、とことんのめり込める対象に注ぎ込むのです。「嫌なことは拒否」というブレーキに対する「推しを見つけてとことん行く」というアクセルかも。ブレーキさえしっかりしていれば、アクセルもうまくいくのかもしれません。
またまた愚痴るようですが、私自身、このコロナ禍の5年間は、まさに人生の試練でした(私のみならず落語家全員受難でした)。仕事は激減し、二度の感染を経験。私自身の熱はさほど上がらなかったものの、デルタ株が猛威を振るっていた時期に、大学の同期で飲食店経営者の友人を亡くしました。今でも深い喪失感にとらわれています。
毅然としていたナイスガイでした。一度政府の愚策に対して「オリンピック選手の流す汗は尊くて、我々飲食業関係者の流す汗はけがれているというのか」という慟哭のような文章をSNSに載せたことがありました(マジメすぎる男でした)。消毒をはじめとした感染症対策を万全に施していたのに、なぜ、という思い、無力感のみが募りました。
私自身も彼に負けないよう対策を講じてきましたが、落語の仕事が消えたことで代替的に増やした出版の仕事からくるストレスで、眠れない日々が続き、そんな中で最初の感染に見舞われました。
■推しへの情熱をパワーに変える
しかし、その臥せっている時、私に魂魄を揺るがすほどの歌との出合いが訪れたのです。それは、今年結成41周年というベテランのパンクバンド、ニューロティカでした。
彼らの「翼なきもの達」という歌に、私は一瞬にして心を奪われました。「翼が無くても飛べる事を」という歌い出しは、まるで当時の私に語りかけているようでした。
「今、落語という翼がない俺にもきっとチャンスはあるはずだ」――その思いが、私を突き動かしました。小説、そしてシナリオまで手掛けるようになり、それが発端となりNHK朝の連続テレビ小説「あんぱん」への出演が叶うなど、想像もしなかった展開が待っていました。
以来、私はニューロティカさんの熱心な「おっかけ」となり、同世代のボーカル・あっちゃんとはプライベートでも親しくさせてもらっております。
この私の経験は、還暦からの人生において「推し」を見つけることの、計り知れない価値を示していると確信しております。若い頃は、仕事や家庭、社会的な責任に追われ、心の底から熱中できるものを見つける時間や心の余裕がなかったかもしれません。しかし、還暦を過ぎたからこそ、自由な時間が与えられてゆとりのある今だからこそ、本当に好きなもの、情熱を傾けられるものを見つけ、とことん追求するチャンスが訪れたのです。ましてあっちゃんも私より1歳上という同世代、シンパシーを感じるばかりです。
■より豊かな感情生活を送るための訓練にもなる
「推し」を見つけることは、人生に新たな彩りと目的意識をもたらします。それは、単なる暇つぶしではありません。推しを応援する中で、私たちは新たなコミュニティと出合い、共感や連帯感を育むことができます。ライブやイベントに足を運び、グッズを集め、SNSで情報を共有する。これらの活動は、私たちを社会とつなぎ、孤立しがちな老後の生活に活気を与えてくれるでしょう。
また、推しを通じて、私たちは知的好奇心や創造性を刺激されます。その対象の歴史や背景を深く掘り下げたり、関連する作品や知識に触れたりする中で、新たな発見や学びが生まれます。私の場合は、ニューロティカの音楽からインスピレーションを得て、新たな創作活動へとつながりました。これは、いくつになっても「学び」を続け、「自分自身を進化させる」ことの喜びを教えてくれます。
ここで、「割り勘思考」を深める上で私が決定的に重要だと考える「こだわり」、そして「かわいいサイコパス」的思考法が、この「推し活」においてどのように活かされるかを考えてみましょう。私たちは、推しに対する熱い情熱を持ちながらも、それを客観的に、そして冷静に楽しむことができます。
例えば、推しに過度な期待を抱いたり、一喜一憂したりするのではなく、「このパフォーマンスはなぜ素晴らしいのか」「この活動の背景には何があるのか」といったことを、まるで研究対象であるかのように分析する視点を持つ。これによって感情に振り回されることなく、推しという存在をより深く理解し、多角的に楽しむことができると思います。
それは、健全な距離感を保ちながら、純粋な喜びを追求する「かわいいサイコパス」的な「割り勘のセンス」に通じるはずです。
また、推し活の中で生じる様々な感情―喜び、興奮、時には切なさ―これらを冷静に観察し、自己の感情の動きを客観視することも可能になります。これは、感情のコントロールを学び、より豊かな感情生活を送るための訓練にもなります。
同世代のあっちゃんは、パンクバンドのボーカルの顔としての他、八王子で70年以上続く老舗菓子店のオーナーでもあります。
先日もカミさんと八王子までお菓子を買いに出かけました。
バイきんぐ小峠さんをはじめお笑い芸人にも多大な影響を与えたカリスマは、健気に店主としての職務を全うしていましたっけ。
■「嫌なことをやらない」という決断がくれるもの
まとめてみましょう。「嫌なことは頑としてやるな」という決断は、私たちに「時間」という最も貴重な贈り物を与えてくれるのです。そして、「推しを見つけてとことん行く」ことは、その時間を最大限に有効活用するための、最もエキサイティングな方法の一つです。
それは、単なる受動的な消費活動ではありません。推しを応援する中で、私たちは主体的に行動し、新たなスキルを身につけ、そして何よりも、「生きる喜び」を再発見することができるのです。
還暦を過ぎ、社会からの期待や責任が少しずつ軽くなる今だからこそ、私たちは自分自身の心の声に正直になり、本当に情熱を傾けられるものに出合うべきです。それは、かつて若き日に抱いた夢の続きかもしれませんし、まったく新しい扉を開くことかもしれません。いずれにせよ、「推し」という存在は、私たちに再び、日々に張り合いと興奮を与え、人生をより深く、より面白く生きるための羅針盤となるでしょう。
「何気ない一言 目に見えぬ温もりの中で」(ニューロティカ「涙腺グルグル!」)などなど、パンクロックの曲調の中にガツンと泣ける歌詞が織り込まれているニューロティカ、超絶おすすめします!
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立川 談慶(たてかわ・だんけい)
立川流真打・落語家
1965年、長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。ワコール勤務を経て、91年立川談志に入門。2000年二つ目昇進。05年真打昇進。著書に『大事なことはすべて立川談志に教わった』『人生は「割り勘」思考でうまくいく』など。
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(立川流真打・落語家 立川 談慶)

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