2月9日、米ブルームバーグが関係筋の話として、中国の政府が金融機関に対して米国債の保有を抑制するように勧告したと伝えた。この報道をきっかけにドル安が世界的に加速し、同日のユーロの対ドルレートは終値で1ユーロ=1.1904米ドルと、前日から0.65%ユーロ高となった。
その実、中国籍の投資家の米国債離れは2022年頃より着実に進んでいる(図表1)。米財務省が発表する国際証券投資統計(TICデータ)によると、それまで1.5兆米ドル台だった中国籍の投資家が保有する米証券残高は、2025年末には1.1兆米ドル台まで圧縮された。資産別の内訳を確認すると、減少したのは国債であることが分かる。
市中の金融機関も米国債を保有しているわけだが、それ以上に、中国の財務省(財政部)が外貨準備として保有していた米国債を段階的に売却してきたことが、中国籍の投資家の米国債離れの動きの源流にあると考えられる。米国債を売り、そのマネーを本国に還流せせれば、米ドルを売り人民元を買う流れになるから、人民元高が促される。
実際に、2025年に入って中国籍の投資家が米国債離れを強めたが、その流れと歩調を合わせて人民元高米ドル安が進んでいる(図表2)。具体的には、2025年頭に1米ドル=7.2人民元弱だったのが、2026年に入って7人民元を打ち抜き、6.9人民元台に突入した。長年にわたり通貨安を追求してきた中国が通貨高を容認しているわけだ。
2025年に米国で再登板したドナルド・トランプ大統領は、中国に対して強い圧力をかけている。その裏で、対米ドルで“安い人民元”を志向してきた中国が、遂に“強い人民元”を受け入れてまで“ドル離れ”を着実に強めていたことになる。なお、安い米ドルよりもさらに安い日本円の対人民元レートもこの間約15%の人民元高だ。
■対ユーロでは人民元安トレンドが続く
中国は供給超過であり、需要不足の経済である。そのため、低金利で国内需要を刺激するとともに、通貨安で輸出を促すマクロ経済運営を続けてきた。国際金融のトリレンマに基づけば、金融政策の自由と為替相場の安定を確保するために、資本移動の自由を制限してきた経済である。いずれにせよ、人民元は安い方が好都合だったわけだ。
一方、中国は人民元の国際化も志向してきた。国際間の貿易決済や金融決済で人民元を使う機会を増やすことを通じ、ドル依存を減らしていこうとしたわけである。しかし、ここでネックとなったのが資本移動の自由だった。経常取引は既に自由化されて久しい中国だが、資本取引の自由化を抜本的に進めなければ人民元の国際化は実現しない。
そもそも国際金融のトリレンマ自体が極端な考え方であり、現実のマクロ経済運営では各国の経済の課題を踏まえて、バランスが取られている。とはいえ、供給超過の経済である中国にとって、人民元安は大きな武器だったことは確かだ。それを放棄しても米国債離れであり米ドル離れを進めている点からは、中国の一種の覚悟が窺い知れる。
とはいえ、人民元の対ユーロ相場を確認すると、中国が対米ドル以外では安い人民元路線を捨てていないことが分かる(図表3)。
言い換えると、中国にとってEUは“うま味がある”経済だ。ゆえに、中国は対ユーロでの安い人民元路線を修正しようとは考えていないのだろう。中国は安全保障上の理由から外貨準備の通貨別構成を明らかにしていないが、財政部が米国債を手放した代わりに、ドイツを中心とするユーロ圏各国の国債を買い増した可能性が意識される。
■金をテコにしたドル離れの妥当性
また中国が、ドル離れであり人民元の国際化の観点から金に力を入れていることも、注目される動きである。実際、中国は米国債を手放して得た資金で地金を購入している模様だ。加えて、上海では中国国内の個人投資家による金取引が活発化している。もはや金相場はロンドンとニューヨークのみならず、上海の動向にも左右される時代だ。
金のみならず、銀の相場に関しても、中国は大きな影響力を持つようになった。いずれにせよ、2025年における金価格の歴史的な高騰は、ドル不安の“受け皿”としての金の価値の高さを世界に知らしめた。そして同時に、中国が金の価格形成を通じ、金融市場にグローバルな影響力を持つようになったことを印象付ける出来事でもあった。
実際、衆議院選挙後の“戻り円高”を中国勢によるドル売り金買い(そして日本国債買い)圧力から説明する声も、金融市場では高まっている。1月下旬より米国でスコット・ベッセント財務長官を中心に“強いドル”に言及する声が高まっているのは、欧州勢に加えて中国勢の米国債離れが着実に進み、米ドルの信用力の低下も懸念されるようになったためではないか。
ただし、中国が多額の金を保有したからと言って、人民元の国際化が進むかはまた別の話だ。確かに対米ドルでの人民元高を容認したり、さらに政府が金準備を多く抱えたりするなどの点で、人民元は魅力を高めている。一方、その流通量は依然として米ドルやユーロに比べると限定的であり、国際間での貿易や金融の決済需要には耐えられない。
■ますます米国と一蓮托生の日本
米国債に勝る流動性を持つ国債は存在せず、ゆえに米ドルに勝る流動性を持つ通貨も今のところ存在しない。人民元が米ドルに代わる国際決済通貨になるまでの道は険しいが、一方、この間の米国による圧力を受けて、中国が米国債離れでありドル離れを着実に進めていることは、今後の国際政治経済情勢を考えるうえで注目すべき動きである。
他方の日本だ。これまで日本は、経済面に関しては米国と中国の間でバランスを取る戦略を取ってきた。しかし近年は米国を一段と重視するようになり、高市政権になって以降はその傾向をなおさら強めている。米国にとっても、有力国を中心に米国債を手放す動きが加速する中で、その動きから距離を置く日本の存在は重みを増している。
見方を変えると、そもそも米国と一蓮托生であった日本は、その道をさらに究めようとしていると言えよう。
(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)
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土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 主任研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。
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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 主任研究員 土田 陽介)

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