■最高裁が「受刑者の参政権」について近く判断
高市早苗首相による衆議院解散の直前、まるでタイミングを合わせるかのように、司法界からとあるニュースが飛び込んできた。
公職選挙法は「次に掲げる者は、選挙権及び被選挙権を有しない」として受刑者の参政権を制限している(※第11条)。これについて最高裁判所が令和8(2026)年1月21日、違憲かどうかを大法廷において判断すると発表したのである。
選挙権は、市民的・政治的権利に関する国際規約(国際人権B規約)第25条、国連人権宣言第21条など、主要な国際人権規約に正式に記載されている至高の基本権の一つであり、そもそも制限すべきでないという声も根強い。
海外の先進諸国ではどうなっているのか。ヨーロッパでは、ほぼ半数の国(スイス、オーストリア、ドイツ、オランダなど17カ国)で全ての受刑者に選挙権が認められているそうだ。
フランス、イタリア、ノルウェー、ベルギーなど11カ国では、選挙人から除外されるのは少数の受刑者のみであり、全受刑者の選挙権が否定されるのは、ブルガリア、ハンガリー、スロバキア、ロシアなどの東欧諸国10カ国、イギリスならびにスペインのみであるという。
大法廷がどんな結論を下すかはまだわからないが、このような海外の状況を鑑みるに、選挙権が認められたとしても個人的には違和感はない。しかし一方で、人権問題としての側面を強調されればされるほど、同じく人権を制限されているとある方々を想起せずにはいられない――。
■高松宮「公民権停止を食らったようなもんだ」
昭和51(1976)年、『文藝春秋』誌上で4名の皇族方による新春座談会が行われた(昭和51年2月号「皇族団欒」)。受刑者の選挙権をめぐるニュースを目にして、筆者が真っ先に思い浮かべたのが、その際の寛仁親王と高松宮宣仁親王のやり取りだ。
寛仁親王「われわれには基本的人権ってのはあんまりないんじゃない?」
高松宮「選挙違反やって公民権停止受けてる人に僕はそういってやったのよ、『あなたと同じようなもんだ』(笑)。
寛仁親王「だって選挙権もないんだしさ」
周知のように、皇室の方々には選挙権が認められていない。このことについて、まるで受刑者のような扱いだと自虐的に触れられたのだ。もしも受刑者に選挙権が認められたならば、皇室はある意味では、受刑者よりも低い立場に置かれてしまうことになるといってもよい。
天皇は「象徴」というお立場ゆえに、不偏不党、公平無私であられねばならない。天皇もしくは摂政になりうるお立場ゆえに、皇族もまた同様であられねばならない――。
皇室の選挙権は、このような論理の下に否定されてきた。一見、説得力があるように思えるけれども、それならば皇室と似たような立場にある世界の王室はどうなっているのだろうか。
■参政権を「持ちつつも行使しない」欧州王室
結論からいえば、参政権を認められている王室も多い。
憲法学者のリュック・ホイシュリング氏(ルクセンブルク大学教授)によれば、西欧においても「民主主義の名の下に、君主や王統構成員を選挙人団に包摂してゆく傾向が存在している」そうだ。
多くの国において、君主は選挙人になるためのさまざまな基準を満たしており、また君主を選挙人から排除するいかなる規定も存在しない。それゆえに「選挙権を有していると推論せねばならない」というのである。
これはけっして机上の空論ではない。
「国王には投票権がありますが、中立性を保つために行使しません」(オランダ王室公式webサイト)
「国王は納税をし、選挙権を持ちます。しかし、古くからの慣習により、これまで一度も投票したことはありません」(スウェーデン王室公式webサイト)
投票しないという結果は同じであっても、参政権を持っているけれども自己の裁量によって行使していない場合と、日本皇室のように参政権を否定されている場合とでは、受け手の印象はずいぶん異なるのではないか。
■1票を投じるロイヤルたち
参政権を有する欧州王室の方々はみな、政治的中立性のためにその権利を行使していないのだろうか。調べてみるとそんなこともないようだ。
すでに触れたオランダ王室では、現国王の祖母にあたるユリアナ女王(在位:1948年~1980年)は退位後に投票したことがあり、現代でもコンスタンティン王弟とその妻ローレンティン妃は、いつも投票所に足を運んでいるという。
また、義務投票制を採っているベルギーでは、王室のメンバーも市民として投票せねばならない。憲法上「いかなる行為も大臣による副署がなければ効力を有しない」とされる国王(※ベルギー王国憲法第106条)のみは、秘密投票が不可能ゆえに免除されるが、退位すれば再び義務を課せられるそうだ。
そのベルギーの隣国であるルクセンブルクでも、大公を除く大公一族は票を投じることができる。興味深いことに2004年12月には、当時の大公アンリがクリスマス演説の中で、自らも「欧州憲法」批准の是非を問う国民投票に参加したいと訴えている。
このアンリ大公の願いは叶わなかったが、君主でありながら投票権を行使した方は実際にいる。前スペイン国王フアン・カルロス1世がそうだ。
「国王陛下と王妃陛下は、欧州憲法制定条約に関する国民投票において、投票権を行使なさいました」(スペイン王室公式webサイト、2004年2月20日)
このように市民として政治参加する王室の在り方は、象徴天皇制に慣れた現代日本人の目にはかなり衝撃的なものとして映ることだろう。
■皇族に「参政権」が認められる可能性はあった
ここまで欧州王室の事情について述べたが、実は日本皇室も参政権を認められる可能性が大いにあった。
日本国憲法公布を目前に控えた昭和21(1946)年10月25日、GHQ民政局のサイラス・ピーク博士が、法制局第一部長の井手成三氏らに「現在皇族は選挙権及び被選挙権を有せられるか」と質問した。
これに対して日本側は「現在は選挙権も被選挙権も有せられない。それは皇族は国民とは別のものであるといふ観念から来て居る」と返答したうえで、次のようにも説明しているのである。
「なほ新憲法の下においては、皇族は両方ともこれを有せられる次第であつて、政治的活動をするために皇族の身分を離れる要はないことになる」
なんと、投票権にとどまらず、選挙に出馬する権利さえ公然と認めようとしていたのである。東久邇宮稔彦王による終戦処理内閣が記憶に新しかったがゆえに、皇族の政治参加を想像しやすかったのだろうか。
■宮内省「皇族の参政権には触れるな」
実際、昭和22(1947)年4月25日の総選挙時には、皇族にも参政権があるとみなした内務省が、天皇・皇后を除く成年皇族33名に投票所入場券を送付している。
ただし、当時はまだ辛うじて大日本帝国憲法下であったために、皇室は先述のように「国民とは別のもの」だと考えられていた。それゆえにこの時は、参政権はないと主張する宮内省の指示によって全皇族が投票を棄権している。
当時の皇族である賀陽宮恒憲王曰く、「宮内省の方針としてこのことに触れるなということであります」。
■現在の皇族は戸籍を持たないから投票ができない
井手氏らの補足として、憲法改正担当の国務大臣(第1次吉田茂内閣)を務めた金森徳次郎氏の文章を紹介しよう。金森氏は、象徴天皇は参政権をお持ちになるべきではないとしつつ、次のようにも述べている。
「勿論皇室の中でも、他の方々は選挙権被選挙権を持たるることが理の当然であつて、たとえば皇后皇太后も選挙権、被選挙権を持たるるようになるのが正しい行き道であろう。この考え方は、従来の伝統と比べると、かなり新し過ぎることかもしれないが、しかし現在はもうかくの如き新しさを不思議には思わないであろう」――『憲法随想』(美和書房、昭和22年)63頁。
日本国憲法はけっして皇族の参政権を否定しているわけではない。その証拠の一つとして、昭和22年2月成立の参議院議員選挙法は、附則第2条において皇族も「選挙権を有する」と明示していた。
現在認められていないのはあくまでも法律上の制約であり、公職選挙法の「戸籍法の適用を受けない者の選挙権及び被選挙権は、当分の間、停止する」という附則が適用されているにすぎないのである。なお、この附則については、憲法作成に携わった法制官僚の佐藤達夫氏が、次のように評している。
「選挙権が『当分の間』停止されるというのもおかしいし、そもそもこの附則の規定は、平和条約発効前における朝鮮人・台湾人(それらは当時まだ法律的には日本人であり、そして従来戸籍法の適用を受けていなかった)を対象としてのもので、天皇や皇族のことなどは全然、考えていなかった」――雅粒社 編『時の法令』第305号(朝陽会、1959年)22頁。
筆者は「皇室にも参政権を認めることは当然だ」とまで主張するつもりはない。しかし、ヨーロッパの現状を考慮するに、とりわけ傍系皇族である王・女王あたりについては、認めるかどうかを再検討してもよいのではないかと思う。
■皇族確保策とも切り離せない「参政権」
ところで永田町ではここ数年間、「一定の皇族数」確保に向けた議論が行われている。
筆者としては、夫子も皇族にすることを提唱してきた立憲民主党が、その理由として「民間人のままでは参政権などを行使できてしまう」という点を挙げていることに触れねばならない。
「選挙権や被選挙権、あるいは職業選択の自由、特にこうした部分は、いわゆる政党や宗教団体、営利企業を主宰することが自由であります。こうしたことが女性皇族の皇族としての品位や政治的な中立性に重大な影響を及ぼす事態が生ずる可能性がある」――衆議院議員・馬淵澄夫氏(令和7年2月17日の全体会議にて)
その一方で全体会議では、参政権を含む基本的人権を尊重するためには、むしろ皇族にしないほうがよいのだ――という考え方も示されている。
どちらの立場も、皇族ならば参政権をお持ちにならないということを大前提にしている。この事実は残念ながら、君主一族の基本的人権がいっそう論じられるようになってきた今なお、日本の政界が皇室制度について幅広く議論できていないことを意味しよう。
■高市自民大勝で皇室の変貌は必至
先日の総選挙で高市自民党が歴史的大勝を収めたことにより、旧宮家との養子縁組案、直接の皇籍復帰案の実現可能性がますます高まった。もしも女性皇族の夫子までをも皇族とすることになれば、皇室はかなり大規模なものに変貌するであろう。
そのうえで皇室の方々がみな参政権を認められないとなれば、権利を制限される人数は西欧君主制の比ではないほどの多さになってしまいそうだが、はたして国会の結論はどうなるのだろうか。
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中原 鼎(なかはら・かなえ)
皇室・王室ウオッチャー
日本の皇室やイギリス王室をはじめ、君主制、古今東西の王侯貴族、君主主義者などに関する記事を執筆している。歴史上でもっとも好きな君主は、オーストリア皇帝カール1世(1887~1922)。
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(皇室・王室ウオッチャー 中原 鼎)

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