頭のいい子が育つ家庭は、どんな子育てをしているのか。プロ家庭教師集団名門指導会代表の西村則康さんと副代表の辻義夫さんは「頭のいい子にはある1つの共通点がある。
それは、心の動きを伴いながら授業を聞き、問題を解くメンタルだ。その鍵は幼児期の過ごし方にある」という――。
※本稿は、西村則康・辻義夫『本当にかしこい子になる! 勉強メンタルの育て方』(ウェッジ)の一部を加筆・再編集したものです。
■楽しく生きている人が持つ「センサー」
中学受験の理科の生物分野では、昆虫の足の数だったり、植物の葉の形だったりを聞かれる問題がよく出題される。興味のある子なら覚える以前に、実際に自分の目で見て「知っている」が、まったく関心のない子にしてみれば、覚えることがいっぱいあって苦行にしか感じない。そういう子は、「こんなものを覚えて一体何の役に立つのだ?」と思いながら、それでも入試に出るから仕方なく覚える。でも、そんな勉強はつまらないし、それこそ何の役にも立たない。
一度きりの人生なのだから、楽しく生きたい。誰もがそう思っているだろう。でも、まわりの大人を見ていると、いくつになっても毎日をイキイキと過ごしている人と、なんだかつまらなそうに過ごしている人がいる。両者の違いは一体どこにあるのだろうか?
それは、自分の身の回りに存在するもの、起きている事柄などを「なぜそうなのだろう?」と不思議に感じるセンサーが働いているかどうかの違いだと感じている。
私たちが暮らす世界には、いろいろな色や形をしたものがある。
そして、それらにはそれぞれ「なぜそうなっているのか」理由がある。例えば、信号機や非常ボタン、ブレーキランプなどに赤色が使われているのは、赤は注意を引く色、すなわち周囲の人にいち早く危険を知らせるための役割を果たしているからだ。
同じように、人間の体や他の動物、虫類、植物もさまざまな色・形をしていて、それぞれに理由がある。この「ものの成り立ち方」を意識することはとても大事で、そこに意識が向いている人と向いていない人とでは、人生の楽しさ、深さが大きく違ってくると、私は考える。
■渋幕の理科で出された「謎問題」
中学受験をするからには、なるべく偏差値の高い学校を目指し、難関大学から一流企業へ就職、もしくは名誉ある職業に就かせたいと望む親はいまだ多い。そういう家庭では、東大合格実績の高い学校が第一志望校になりやすい。
なかでも近年、注目を集めているのが、14年連続東大合格者トップ10入りを果たしている、「渋幕」こと、渋谷学園幕張中学・高等学校だ。同校は理系に強い学校としても知られているが、毎年、理科入試では意表を突いた問題が出題される。例えば、以前こんな問題が出た。
千葉県の名産である落花生の問題で、その中の1つに落花生の表面のシワシワした編み目模様は何かという問題があった。選択問題で①芽、②管、③ガク、④表面の裂け目、⑤歯型の跡、の5つから正しい答えを選ぶというものだった。正直、それを知っていても、知らなくても、生きる上では何も困らない。
なのに、なぜそんな“謎問題”を出すのか?
■武蔵の「おみやげ問題」
当然、多くの子はこの答えを知らない。なぜなら、学校でも塾でも習っていないから。
こうした問題を前にしたとき、「そんなの分かるわけがない。考えてもムダだから、このあたりにしておこう」と適当に答えをえいやと書くか、「たしかに、この表面のシワシワは何なのだろう? 全部の落花生の表面がそうなっているということは、何か理由があるはずだ」と、今ある情報(問題文)と自分の知識、もしくは経験を総動員させて考えようとするか――。
つまり、日ごろから「なぜそうなっているのか」理由や原因を考える習慣が身についているかどうかが、合否の分かれ目になった。
同じように、男子御三家と呼ばれる難関校の一つ、武蔵中学の理科入試もユニークなものが多い。「おみやげ問題」と呼ばれている名物問題は、試験時に問題用紙のほかに封筒が配られ、その中に入っているものについて観察し、問いに答えるというもの。ネジやくぎ、ファスナー、葉っぱなど、毎年違うものが入っていて、「今年は何が入っているのだろう?」と受験界では必ず話題になる。
■幼児期の遊びが「学びに向かう姿勢」を育てる
なぜ難関校ではこのような“謎問題”にこだわるのか?
それは、さまざまな物事に対して、「なぜ?」と不思議がる子の伸びしろに期待しているからだ。その素養を持った子に来てほしいという思いがあるからこそ、このような一見、受験勉強には役に立たなそうな“謎問題”でふるいをかけているのだ。
中学受験を目指す家庭の中には、幼い頃から勉強系の習い事をさせているケースが多い。しかも1つや2つではなく、1週間のほとんどが習い事で埋め尽くされてしまっている子もいる。
子供は何に興味を持つか分からないので、小さいうちにいくつもの経験をさせることは否定しない。しかし、習い事の詰め込みや行き過ぎた早期教育は、タスク型の勉強、もしくはやらされ感のある勉強に陥りやすいので注意が必要だ。
それよりも、幼児期の子供にとって、一番大切なのはたっぷり遊ぶこと。とくに「身体全体を使った五感を刺激する遊び」がおすすめだ。子供は自分の経験したことが身体感覚として残り、その経験と知識をつなぎ合わせることで理解を深めていく。
■経験と知識がつながる瞬間は「楽しい」
例えば、中学受験の物理問題でよく出題される「振り子の問題」。まず基本知識として、「振り子の長さの定義」を知っておく必要があるが、こうした知識は机上の勉強よりも、「あ、あのときの一番高い所でふわっと浮いて止まったような感覚のことか」「低いところではスピードが速かったな」など、実際にブランコで遊んだ経験がある子のほうが理解は早いし、面白がって聞く。
この「ああ、あのときのアレか!」と、自分の経験と新しい知識がピタリとつながる瞬間が多い子ほど、「勉強は楽しい!」と思えるようになる。さらに、自分自身の経験とリンクしているので、自分の知識として頭に残りやすく、どんどん賢い子になっていく。つまり、幼児期にどれだけたくさんの身体感覚を得てきたかによって、その後の勉強に対する感じ方や理解度が変わってくるということだ。
■頭のいい子が持つ「勉強メンタル」
長年、中学受験の指導に携わり、多くの子供たちを見てきて感じるのは、頭のいい子にはある1つの共通点があることだ。
それは、授業を聞くときも、自分で問題を解くときも、「なぜそうなのだろう?」「ふむふむ、そういうことか」「ということは、こういうときにも使える知識かもしれないな」「おや? これは初めて見る問題だな。
でも、大丈夫、僕なら解ける。まずは問題を丁寧に読んでみるか。きっとそこにヒントが隠されているはずだ」と、常に心の動きが伴っている点だ。この心のベクトルを私は「勉強メンタル」と呼んでいる。勉強メンタルは、筋トレのように短期間で鍛えられるものではない。
私はすべての学びの土台は、「なぜそうなのだろう?」という疑問や不思議に思う気持ち、つまり「好奇心」にあると考える。では、その好奇心はいつから芽生えるのかというと、生まれた瞬間からだ。そして、言葉を話せるようになると、子供は「なぜ?」「どうして?」をくり返し大人にぶつけてくる。そのときに、たくさんの好奇心を満たしてあげると、子供は「知らないことを知るのは楽しいな」「もっといろいろなことを知りたいな」と心のベクトルが動く。
■自然と学ぶことが好きな子へと育つ
これを幼少期にまわりの大人たちが根気よくつき合ってあげると、子供は自然と学ぶことが好きな子へと育っていく。別に子供の遊びにべったりつき合う必要はない。子供は自分の好きなこと、興味のあることにはものすごい集中力を発揮する。
そのなかで失敗を経験したり、問題解決する力をつけたり、自分の頭を使って創意工夫したりする。
そして、この力は受験だけでなく、人生のさまざまな場面で生かされていく。いくつになっても、毎日イキイキと過ごしている人となんだかつまらなそうに過ごしている人との決定的な違い。それは、世の中のさまざまな現象や物事に対して、自分に引き寄せて感じたり、考えたりしているかどうかだ。その生き方の土台となるのが「好奇心」であり、学びに向かう姿勢が「勉強メンタル」。
子育てのゴールは、志望校に合格させることでも、親の希望の職業に就かせることでもない。わが子が自分の人生を自分の足で進んでいけるように、「楽しく生きる力」をつけてあげることではないだろうか。

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西村 則康(にしむら・のりやす)

中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員

40年以上難関中学受験指導をしてきたカリスマ家庭教師。これまで開成、麻布、桜蔭などの最難関中学に2500人以上を合格させてきた。新著『受験で勝てる子の育て方』(日経BP)。

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(中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康、中学受験塾名門指導会 副代表・理数教育家 辻 義夫 構成=石渡真由美)
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