中学受験をサポートする親には、感情をコントロールできる人とそうでない人がいる。進学塾VAMOSの富永雄輔さんは「子供がどんなに頑張って努力しても、親のメンタルが不安定すぎると、最悪の場合、実力を発揮できず不合格になってしまうケースもある」という――。

■感情をコントロールできる親、できない親
東京都内で4つの教室を展開する進学塾VAMOSの富永雄輔さんは、真面目で責任感を持ちやすい親(特に母親)ほど、ストレスを溜めやすいという。何かがトリガーとなり、感情が爆発してしまうのだ。
「昨今の多様化する中学受験を見ていると、親のメンタルが不安定になるのも無理もないと思います。10年ほど前までは多くがより偏差値の高い学校を目指す受験でしたが、今は“ゆる受験”を含め、必ずしも偏差値重視ではない選び方をする家庭も増えています。親は、大量な受験情報の中からわが子に合う学校をピックアップしたい。何が正しくて何が合わないのかをパズルのように当てはめていく難しさがあります。
また、塾が組んだカリキュラムは、あくまで最大公約数の児童向けで、そこから内容を間引きしたり加えたりして最終的なアレンジをできるのは親。それだけに、子供の成長が止まると『塾選びを間違えた』『この子にこのやり方はあってなかった』などと自分の選択を責めてしまうこともあります」(富永さん・以下同)
一方で、自分と子をしっかり切り離して考えられる母親もいて、その場合は、子供が勉強でスランプになっても冷静に対処できるという。
「親と子は個体としても違うし、得意・不得意も性格も違う。それが分かっている親は、毎日の勉強習慣が確立できないわが子を見ても、『私はコツコツがんばることが得意だけれど、この子は努力が大の苦手なんだ』と考えられ、感情的になる前に他の道を模索できます。
しかし、わが子を自分と切り離せない場合、私の子なんだからと『自分でもこれくらいのことはできたのに、私より何倍ものお金と時間を与えられているのに、何でこの子はできないの?』と立腹してしまう母親もいます。特に会社などで社会的に成功してきた優秀な親ほど、そういう傾向があるように見えます」
■母のほうが子供を追い詰めやすい理由
わが子を自分と切り離せないのは、父親よりも母親のほうが多い印象があると、富永さんは話す。

「企業で管理職を務めるなど現代社会で活躍をする女性が増えています。令和の時代とはいえ男社会の日本の企業で昇進昇格できるのは、頭脳優秀さに加え、男性よりも何倍も努力をしてきたから。結婚・出産後も、仕事だけでなく育児・家事とフル回転し、わが子の将来を考えて中学受験のサポートも頑張る方がとても多いです」
しかし、そうした優秀な女性たちには“欠点”もある。人に負けまいとする努力を当たり前だと、若い部下や、わが子にも同等の努力や能力を求めがちなのだ。
「そうすると、『これくらいのこと、できて当然でしょ』『私ならできるまでやるけどね』という感覚を子供に押し付けてしまうこともあります。上に上り詰めてきた女性たちに比べて、弱冠12歳の子供、特に精神発達が女子よりゆっくりな男子は、メンタルが弱めです。母が圧をかけ続けると、あっという間につぶれてしまいます。そして早晩、母親に対して心を開かなくなります。この人に弱音を吐いても通用しないだろう、と」
中でも子供をつぶしやすいのは、次の2タイプだという。
■AIを駆使する「プロジェクトママ」
一つは、仕事のように「中学受験」というプロジェクトを回そうとする「プロジェクトママ」だ。
「入試問題の傾向や予想問題もAIに作らせることもあり、合格へのプロセスをロジカルかつシステマチックにプロジェクトを進めようとします」
問題は、プロジェクトの中に10~12歳という未知の怪物がいることが意識から抜け落ちてしまうことだ。子供の心理や発達状況を加味できず、数字やタスクの進捗具合ばかりを見て判断してしまう。
そしてプロジェクトが期待通りに進まなければ、「なぜできないの?」と怒りを爆発させてしまうのだ。
「最近では父親のほうがいい意味で諦めが早く『もうこの子は受験に向いていない』『そんなに無理をしなくてもいいんじゃない?』と、手綱を緩めることができる印象です」
■罪悪感ママ
もう一つは、「罪悪感ママ」だ。
「日中仕事をしていて、わが子のフォローが十分にできないことに罪悪感を持ち、後ろめたさがベースとなった受験をしてしまうタイプです。自分は専業主婦の母親に育てられて、家に帰れば母親がいるからさみしい思いもしてこなかった。
でも自分は、子供にさみしい思いをさせている。だからせめて、『子育てタクシー』で塾まで迎えに行かせ、高級弁当を持たせるなどしてお金をかけ、少しでもわが子に快適な環境を与えようという発想になるのです。
極端なケースでは、平日は塾の送迎ができないからと、土曜日や日曜日に塾や習い事を4つもはしごさせ、送迎をしているという話も聞きます。それを子供が心から望んでいるなら構いませんが、罪悪感に駆り立てられて『あなたのために』と予定を詰め込んでいるなら、子供には苦痛なだけでしょう」
塾代などお金をかけることで子供への期待値が上がると、さらに自分を追い込んでしまいがちなのも問題だ。「ここまでやってあげているのに、結果が出なかった。何で? 私がフォローできなかったから? 私が働いているから? 私が選んだ塾がダメだったんじゃないか。もっと面倒見のいい塾を選ぶべきだったんじゃないか」とどんどん泥沼にはまってしまうのだ。
■感情が外側ではなく内側に向くと…
「中学受験する子供を持つ親が抱える怒りや不安などネガティブな感情を外に小出しにできる人はまだいいんです。
心配なのは、子供を追い詰めないようにと感情を抑圧してしまうタイプ。感情が外ではなく内側に向き、自責の念が蓄積する。それも限界がくれば大爆発して、周りに対する言葉のトゲは大きくなりやすい」
外で働いている強いお母さん方は、人に弱みを見せることが苦手かもしれない。ならば、せめて塾の面談でだけでも吐き出してほしいと、富永さんはアドバイスする。
「塾の面談で、それまで溜めに溜めてきた感情を吐露し、涙を流すお母さんも珍しくないんですよ。以前『子供にチック症状が出ていることに気づいていながら、忙しくて何もしてあげられなかった。自分が追い込んでしまった』と自分を責める方がいました。そこで僕は『受験勉強の過程でチック症状が出る子は珍しくない。決してお母さんのせいではないですよ』と言うと、その方はほっとしたのか涙を見せました。
中受に対する目的は各家庭によって違いますが、合格を第一目標にすると、たちまちコスパが悪くなります。そうではなく、学ぶ楽しさ、努力する習慣、ひたすら向き合うという体験を獲得することができれば、仮に不合格だったとしても、絶対に大学受験につながる有意義な体験になると思うんです」
「達成目標ありきのプロジェクト」と捉えず、親子で「プロセス」を楽しむ学びのハイキングのようなものとして捉えられれば、どんなに気が楽になるだろう。

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富永 雄輔(とみなが・ゆうすけ)

進学塾VAMOS(バモス)代表

幼少期の10年間、スペインのマドリッドで過ごす。
京都大学を卒業後、東京・吉祥寺、四谷に幼稚園生から高校生まで通塾する進学塾「VAMOS」を設立。入塾テストを行わず、先着順で子どもを受け入れるスタイルでありながら、毎年約8割の塾生を難関校に合格させている。受験コンサルティングとしての活動も積極的に行っており、年間300人以上の家庭をヒアリング。その経験をもとに、子どもの個性にあった難関校突破法や東大生を育てる家庭に共通する習慣についても研究を続けている。

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(進学塾VAMOS(バモス)代表 富永 雄輔 取材・文=桜田容子)
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