■習近平は高市首相の真価を試す口実を探している
高市早苗首相は2月の総選挙で歴史的な圧勝を収めた。前任者たちが成し遂げられなかった偉業だが、「勝って兜の緒を締めよ」という諺を今こそ自らに言い聞かせるべきだろう。
高市氏は今、地政学的瞬間に直面している。ワシントンでは、ドナルド・トランプ大統領が新たな「国家防衛戦略」を掲げてホワイトハウスに復帰し、日本にGDPの3.5%を防衛費に充てるよう要求した。現在2%到達に苦戦している日本にとって気の遠くなる数字だが、東シナ海の向こうでは、習近平が日本初の女性指導者の真価を試す口実を探している。
もし高市氏が今回の勝利をイデオロギー的虚栄心プロジェクトへの信任と取り違えれば、彼女の政権は夏の湿気が訪れる前に崩壊するだろう。
彼女は今後数カ月内に、以下に示す4つの落とし穴を乗り越えなければならない。どれか一つでも失敗すれば、救世主ではなく、日本の最後のチャンスを浪費した政治家として記憶されることになるかもしれない。
■優先課題4:「賃金・物価」の罠(国内経済)
賃金・物価対策は彼女の政権寿命にとって最も重要なものだ。高市氏は「新戦略経済」を直ちに実行に移さなければならない。有権者の最大の関心事は、卵の値段が上がる一方で、給料が平成時代に凍りついたままであることだ。
日本は現在、経済の「中国離れ」に全力投球している。『フォーリン・アフェアーズ』誌のブルーメンソール氏らが指摘するように、東京は国策半導体企業ラピダスに100億ドル以上を投入し、2027年までに2ナノメートルチップの量産を目指している。技術主権にとって必要な賭けだ。しかし、最先端の半導体は、短期的には労働者階級の食卓に食べ物を並べてはくれない。
高市氏は今後、古い自民党の戦術――経団連に賃上げを丁重にお願いし、中小企業に曖昧な補助金を提供するといった施策に頼れば、そのお金は岸田文雄政権時代と同様、企業の内部留保に吸収されるだけだろう。
彼女は来る春闘で、コアインフレ率を「超える」賃上げへのコミットメントを強制しなければならない。もし6月までに実質賃金がマイナスのままなら、「高市ブーム」は「高市不況」へと転落する。彼女は、労働者階級を見捨てて産業の旗艦企業を優遇する企業主義者とレッテルを貼られるだろう。リスクは、経済の「戦略的」側面(半導体、電池、防衛サプライチェーン)に集中するあまり、「家計」の側面を軽視することにある。国内消費にエンジンがかからなければ、日本は彼女が望む防衛力増強を持続できない。
■優先課題3:「靖国」の罠(イデオロギー的規律)
高市氏の最も熱心な支持者たちは、春季例大祭での靖国神社参拝を求めている。「主権を示し」戦没者に敬意を表するために、と。
筆者は、彼女は彼らの声を無視しなければならないと考える。なぜなら、高市氏の第一の外交任務は、米国、フィリピン、オーストラリア、韓国との「同盟規模」の連携を構築することだからだ。
『コンテンポラリー・ポリティクス』誌の学者、田巻紀彦氏が論じるように、日本の戦後戦略は受動的適応から「ルールに基づく国際秩序」を積極的に形成する方向へとシフトしてきた。これには東京の判断を信頼するパートナーのネットワークが必要だ。
今、靖国を参拝すれば、それは習近平への「贈り物」となる。中国の外交官たちは、お気に入りの物語(日本は1930年代の軍国主義に回帰する修正主義的破壊者だ)を蒸し返すことができるからだ。
さらに重大なのは、韓国との脆弱な和解を粉砕することになる。韓国との連携は、北朝鮮の核の野心を抑えるために不可欠である。インド太平洋で統一戦線の維持に注力する米国は、「靖国参拝」を共通の戦略目標への裏切りと見なすだろう。参拝は米国国務省に「失望」声明を出させ、彼女が取引重視のトランプ政権を管理するために必要な信頼を即座に損なうことになる。
イデオロギー的虚栄心を戦略的現実主義より優先させれば、ワシントンやキャンベラから、グローバルな国家戦略に不向きな素人ナショナリストとして見なされるだろう。彼女は昭和時代の「過去」よりも、インド太平洋の「未来」を重視することを証明しなければならない。
■優先課題2:「トランプ取引」の罠(同盟管理)
ドナルド・トランプの復帰により、日米同盟は「ビジネス取引」となった。2026年の新米国国家防衛戦略は明示的だ。「同盟国とパートナーに応分の負担を要求する。我々は同盟国の安全保障上の不足を補わない」。この文書は、日本に新しいグローバル基準を設定している。つまり、GDPの3.5%を中核軍事費に充てよ、と。
日本はすでに「盾」から「剣と盾」の態勢へと移行し、反撃能力とトマホークミサイルを取得している。だがこれは昨日のニュースだ。トランプ政権の「力による平和」ドクトリンを満足させるには、高市氏は産業統合のパッケージを提示しなければならない。米国の兵器を購入するだけでなく、共同生産することを提案すべきだ。米国の防衛産業基盤は逼迫しており、トランプは日本の先進製造業セクターがそのギャップを埋めることができると考えている。同盟はビジネスなのだ。
高市氏は「共同優位」投資パッケージを提案すべきだと筆者は考える。日本は2.5%または3%の支出目標を達成するが、その相当部分は「米日両国の」造船所とミサイル工場の共同再活性化に向けられる。
これは支出を覇権国への「貢納」ではなく、日本自身の産業能力への投資として位置づけられている。もし彼女がトランプに公然と保護料の支払いを強要されるのを許せば、「強い指導者」としてのイメージは一夜にして蒸発する。彼女はトランプが尊敬するパートナーであるべきで、搾取する属国であってはならない。
■優先課題1:「北京の餌」の罠(危機管理)
これが唯一最も危険な課題だ。彼女の圧勝を受け、習近平は屈辱を感じている。中国共産党は高市氏の勝利を日本の「右傾化」の証と見なしている。
習近平は国内で弱く見えるわけにはいかない。中国はおそらく、尖閣列島での漁船民兵の大群派遣、日本のインフラへのサイバー攻撃、あるいは日本の航空機への攻撃的な迎撃などによって彼女を直ちに試すだろう。『フォーリン・アフェアーズ』誌が指摘するように、北京は以前、台湾に関する日本の姿勢を罰するため、海産物や軍民両用品の禁輸といった経済的強制を用いてきた。
北京は高市氏に無謀な発言を「させたい」のだ。
高市氏の任務は「冷たい抑止力」で応答することだ。海上保安庁と自衛隊を展開しながらも、扇動的レトリックを避けなければならない。日本は先に発砲しないが、一寸たりとも後退しないことを示さなければならない。
これには、高市氏がこれまでほとんど示してこなかった規律が必要だ。彼女の短所は、激しいナショナリズムへの傾向だ。もし彼女が餌に食いつき、言動がエスカレートすれば、G7とASEANの目には道徳的優位性を失う。ただ躊躇すれば、中国の強制戦略を正当化してしまうことにもなる。
■高市首相に告ぐ。「郷に入っては郷に従え」
衆院選挙で有権者は自分たちの役割を果たした。今度は彼女がその役割を果たす番だ。
世界は変わった。2026年の米国国家防衛戦略が明示するように、「ユートピア的理想主義」の時代は終わった。今は「冷徹な現実主義」の時代だ。日本はもはやアメリカの覇権の受動的受益者ではいられない。自らの生存の積極的設計者でなければならない。
高市氏が前述した靖国の罠や賃金・物価の罠に陥れば、国内的失敗となる。また、もしトランプや習近平への対処を誤れば、地政学的犠牲者となる。歴史は彼女の圧勝を記憶しない。彼女が国家を守ったか、その未来を浪費したかだけを記憶する。
この危うい瞬間に当てはまる、もう一つの諺がある。「郷に入っては郷に従え」――村に入ったら、村のやり方に従え。「グローバルなパワーポリティクス」という村では、ルールは厳しく容赦がない。高市氏はそれを素早く学ばなければならない。さもなければ、彼女と日本が代償を払うことになるかもしれない。
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スティーブン・R・ナギ
国際基督教大学 政治学・国際関係学教授
東京の国際基督教大学(ICU)で政治・国際関係学教授を務め、日本国際問題研究所(JIIA)客員研究員を兼任。近刊予定の著書は『米中戦略的競争を乗り切る:適応型ミドルパワーとしての日本』(仮題)。
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(国際基督教大学 政治学・国際関係学教授 スティーブン・R・ナギ)

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