年金はいつから受給するのがお得なのか。元国税専門官の小林義崇さんは「年金のお得な受給開始年齢は男女で違う」という。
書籍編集者の梅田直希さんが聞いた――。
※本稿は、小林義崇『超改訂版 すみません、金利ってなんですか?』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■「まったくもらえない」ことはないが…
【梅田】「今の若い人は、将来年金を受け取れない」みたいな話に接したとき、心がザワついてしまいます。ぶっちゃけ、「もらえる」「もらえない」どっちですか?
【小林】日本という国が存続している限り、もらえるでしょう。
【梅田】……でも、子どもの数が減っていくにつれ、働いてお金を稼ぐ人の数が減るわけですから、年金の供給源のお金も連動して減りますよね? 少子高齢化がどんどん進むと、やばいんじゃないですか?
【小林】それはもっともな理屈です。でも、年金の供給元のお金が足りなくなったら税金で補うことになっていますから、国が経済的に破綻して機能しなくなるような危機的な状況にならない限り、年金を受け取ることはできるでしょう。
【梅田】では、年金は安泰、ということ?
【小林】そうですね~……「年金をまったくもらえない」という可能性は限りなくゼロですが、「年金をもらい始める時期が後ろにずれる」「もらえる年金の額が減る」といったリスクは考えられます。
■寿命が伸びたことで総額が増える人も
【梅田】年金をもらい始める時期って65歳でしたっけ? これ以上後ろにずれることもあるんですか?
【小林】現実問題、日本政府は急速な少子高齢化に対応するため、公的年金制度の見直しを進めています。今は検討段階なので何とも言えませんが、年金の受給開始年齢が「70歳」に引き延ばされる可能性も十分に考えられます。
【梅田】え、ますます年金の保険料を払うのが損のように感じられてきました……
【小林】ただ、平均寿命が延びているので、現状の制度の下ではもらった年金の総額を計算すると「増えている」という人も多いはず。比較的若いうちに亡くなった人については、本人が受け取る年金だけを見ると損ということになるかもしれませんが、家族に「遺族年金」という年金が支払われるので、丸損とは考えにくいです。ちなみに遺族年金が支払われるのは、死亡した人によって生計を維持されていた「配偶者」や「子ども」なので、生命保険のようなイメージを持っておくといいでしょう。

【梅田】でも、寿命は人によって千差万別で調節できないですよね。どんなにシミュレーションしても、実際自分がどうなるかなんてわからないです。
■男性は2年我慢するのがベスト
【小林】その通り。だからこそ、年金については「まったくもらえない」という極端な危険性よりも、「受給開始年齢の引き延ばし」や「もらえる総額の減少」といったリスクに目を向けたほうが現実的なので、そちらを考えるべきといえます。
【梅田】年金は結局、何歳でもらえば一番、得なんでしょうか? もらう年齢を前倒しにするか、後ろ倒しにするか、はたまたノーマルに規定年齢の65歳からか……
【小林】これは寿命や生涯収入、国民年金と厚生年金にどれくらいの期間加入しているかなど、非常に個人的な要素が絡んでくるのでケースバイケースと言わざるを得ないのですが……シンプルなケースとして、仮に国民年金の受給者が平均寿命まで生きたとしたら、でシミュレーションしてみましょうか?
【梅田】はい、お願いします!
【小林】男女で平均寿命が違うので、別々に計算しますね。まず、男性の場合から。ズバリ繰り下げて、「67歳0カ月」から年金を受け取るのが最もお得です。つまりノーマルな受給年齢から2年、我慢をすればいいということになります。
■81歳まで生きると仮定して計算
【梅田】「2年」という数字はどこから?
【小林】まず、繰り下げ受給の計算式を紹介しますね。1941年4月2日以後に生まれた人が年金を繰り下げ受給する場合、「65歳に達した月から繰り下げた受給開始月の前月までの月数」に0.007を掛けた割合の年金が加算されます。
たとえば66歳0カ月に受給開始年齢を繰り下げた場合、12カ月×0.007=8.4%が年金に加算されるので、1カ月あたりの年金は繰り下げ受給をしない場合と比べると108.4%になります。仮に本来10万円の年金だった場合、10万8400円もらえるようになるということです。

【梅田】1年遅らせるだけで結構増えますね。じゃあ、どんどん繰り下げればいいような……
【小林】でも、人間には寿命があることも考えなくてはいけません。極端な話、もし66歳に受給開始年齢を繰り下げて66歳1カ月で亡くなってしまったら、年金は1カ月分しかもらえないですよね。
【梅田】たしかに。だからさっき、平均寿命の話が出てきたんですか。
【小林】そうです。男性の今の平均寿命が大体81歳なので、65歳から残されている時間は16年。16年生きると仮定して計算すると、最も年金受給額の合計が多くなったのは、67歳0カ月でした。
■女性の場合は5年間我慢すべし
【梅田】女性の場合はどうですか?
【小林】女性の場合、ズバリ「70歳0カ月」からが最もお得と出ました。男性と比べると、女性のほうが「繰り下げ受給のほうが得」というのが顕著です。男性よりも平均寿命が長いので、繰り下げると総額が多くなるうえに長く受け取れるのが決め手のようです。平均寿命の87歳まで生きると仮定すると、70歳0カ月まで受給開始を遅らせたとしても、約17年間も年金を受け取れるわけですから。

【梅田】繰り下げると、どれくらい違うんですか?
【小林】平均寿命の87歳まで生きると仮定し、年金受給額は月額10万円とします。「繰り上げ受給」で60歳0カ月からもらった場合、年金はトータルで2462万4000円。一方、「繰り下げ受給」で70歳0カ月からもらうと、2896万8000円で、最も年金受給額の合計が多くなります。2022年4月から繰り下げできる年齢が75歳まで延びましたが、平均寿命が延びたわけではなく、むやみに受給時期を繰り下げればいいわけではありません。
【梅田】じゃあ僕は、繰り下げ受給でいきます。67歳まで待ちますよ。それが最ももらえるんですから、そうしない理由がない!
■受給には3つのパターンがある
【小林】うーん、ただ注意点はやっぱりあります。このシミュレーションは平均寿命で計算しましたが、実際の寿命はどうなるかわかりません。「○歳から年金をもらって、できれば△歳まで生きよう」と思っていても、現実がその通りになるとは限りません。そもそも、梅田さんが高齢になったときの平均寿命も読めませんからね。
【梅田】それはそうですね……
【小林】また、国が戦争や経済破綻などまずい状況に陥ったとき、「繰り上げ」「繰り下げ」といった制度や年金の計算式が大きく変わることもなくはないので、あくまで「現行のシステムで平均寿命まで生きると仮定した場合」と心得てください。また、今回は国民年金でシミュレーションをしていますが、厚生年金だとさらに複雑なルールが絡んできます。
損得は、各々が加入している年金や保険料の納付状況などに左右されることをお忘れなく。
【梅田】とはいえ、年金受給には「ノーマル」「早くもらう」「遅くもらう」の3パターンがあるとわかっただけでもよかったです。

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小林 義崇(こばやし・よしたか)

フリーライター

1981年福岡県生まれ。西南学院大学商学部卒業。2004年に東京国税局の国税専門官として採用され、以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務等に従事。2017年7月、東京国税局を退職し、フリーライターに転身。書籍や雑誌、ウェブメディアを中心とする精力的な執筆活動に加え、お金に関するセミナーを行っている。『超改訂版 すみません、金利ってなんですか?』『僕らを守るお金の教室』(ともにサンマーク出版)、『元国税専門官がこっそり教える あなたの隣の億万長者』(ダイヤモンド社)、『2050年のインド経済 急成長する巨大市場の現在地と未来図』(NEXTRAVELER BOOKS)、『相続税調査でわかった 富裕層が大事にしている「お金の基本」』(講談社)ほか著書多数。

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(フリーライター 小林 義崇)
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