人手不足対策に外国人受け入れが進むとどのような影響が出るか。ジャーナリストの海老原嗣生さんは「人手不足の解消にAIが導入されても、事務スペシャリストとして括られる仕事の価値は低減するが、営業や管理部門だと対人折衝・調整業務が主なため、あまりなくならない」という――。

※本稿は、海老原嗣生『外国人急増、日本はどうなる?』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■AIで仕事はそれほど消滅しない
現業職領域の人手不足対策として、自動化・省力化投資を考えることにしましょう。
ただ、自動化・省力化というのは、過去から連綿と検討され続けてきたことではあります。その結果、工場などでは極力、人手に頼らないFA化が進んでいます。
つまり、やるべきことはやってきました。にもかかわらず、昨今、盛んに新たな自動化・省力化が叫ばれるのは、「AI」という過去にはない要素が加わったためです。
ただし、AIでなくせるのは、「パソコンで完結する仕事」。絵を描いたり、文章を書いたり、翻訳したり、ルールに従って処理したりという知的単純業務に限られます。
現業職領域の労働は物理作業が多いので、AIに加えて「物を動かす機構=メカトロニクス」が必要となる。このメカトロニクス開発には金と時間がかかる。だから、多くの労働は「機械化できない」のです。
経営共創基盤創業者の冨山和彦氏の主張である『ホワイトカラー消滅』(NHK出版新書)は、確かにホワイトカラーは現業職よりも、パソコンでの仕事が多いため、割と簡単に労働量が減る可能性は考えられます。

特に、事務処理領域ではこれから数年で各段に仕事は減るでしょう。それは案外、高給で多くの人が羨望のまなざしを注いでいるような領域で起きる可能性が高い。
たとえば、行政書士・社会保険労務士・司法書士など士業の申請業務は、AIにより相当減るはずです。税理士・会計士も書面作成・申請業務は減るし、弁護士でもイソ弁(居候弁護士)の仕事は減る。
もちろん、それぞれの士業における、コンサル業務や提案業務、折衝業務などは残るのですが、バックヤードで書類作成をしているだけの人は不要になっていく。薬剤師も調剤程度であればメカトロニクスで簡単につくれるので、減る可能性は高い。
これらの仕事に就いている人は、AIでその価値が低減することは間違いありません。
■対人折衝・調整業務はなくならない
ところがこうした事務スペシャリストとして括られる仕事に従事する人の数は、それほど多くはないのです。有資格者数を数えても、税理士8万人、社保4万人、司法書士2万人、行政書士5万人、弁護士4万人、会計士4万人、税理士8万人、薬剤師32万人……。
ここまでで約70万人です。この中には、資格は持っているけれど、すでにその仕事をしていない人も含まれます。
士業以外を含めても、こうした「書類作成・申請」業務を主にこなす専門事務職はせいぜい200万人くらいでしょうか。

ホワイトカラー全体からすると小さな領域であり、しかも彼らが全員いなくなるのではなく、せいぜい半数が淘汰される程度でしょう。
一方で、営業や管理部門だと対人折衝・調整業務が主なため、あまりなくなりません。「おもねり営業とか、企画根回しとか、無くすべき仕事はたくさんあるではないか」という批判はごもっとも。
でもそれは、今までだって要らないのに残り続けました。AIの進化程度ではなくせないでしょう。
■キーポイントは、自動化ではなく「客にやらせる化」
話が横道に逸れました。さて、本題でもある「現業職領域」での自動化・省力化はどうなるのでしょうか。
ここ数年で、ファミリーレストランでは配膳ロボットが普及し、街中いたるところで無人レジを見かけるようになりました。ただ、こういう省力化は、大してAIを使っているわけではありません。配膳ロボットなど、ロボット掃除機の機能と大差ないわけで、それは20年も前に確立された程度のものでしょう。なのになぜ成功しているのか?
ここに、「人手不足解消」のキーポイントがあります。
それは、「今までだったら店員がしていたサービスを、客にやらせる」ということ。
つまり、現段階の自動化とは、無人化ではなく、「客にやらせる=セルフ化」なのです。配膳ロボットは、運ばれてきた皿を机に置くという配膳作業を「客」にやらせている。
無人レジは、レジ打ちも包装も全部客にやらせている。「自動化」という言葉にだまされ、いつの間にか全部、客がやるように変わった。これが大きな変化なのです。
要は、「メカトロ開発にはお金がかかるから、その部分は客の労力を借りる」というフォーメーションに他なりません。これから数年は、「いかにセルフ化するか」が、現業職の人手不足対策のカギとなるでしょう。
■「RPA+セルフ化」で熟練領域の人手不足も解消
何事にも、「初めの一歩」を踏み出すのには時間がかかります。「セルフ化」にも、最初は違和感を持ちました。当初は、スーパーでも買い物客は無人レジに並ばず、有人レジを選んだものです。それが、いつの間にか、自分で操作するのが当たり前になりました。
これからの10年はその延長で、「簡単なAI+自動化」が進むと考えています。

その際「RPA」という言葉が肝になりそうです。RPAとは、「熟練した人にしかできなかったノウハウをAI化する」という意味。プロの技や思考はRPAに任せ、物理的な作業のみ人間がやる、という分業で「メカトロ開発をせずに」省力化が実現できていく―。
たとえば、ゴルフの個人レッスンを考えてみましょう。
教官型ロボットをつくり、手取り足取り指導させようと思ったら、気が遠くなるほどのメカトロ投資が必要です。対して、「ゴルフプロAI」を開発し、そのアプリをタブレット端末に入れ、自らのショットを動画撮影すると、「どこが悪いか」画像付きで指導してくれる仕組みならどうでしょう。
明日にも、実現できそうではありませんか。こんな感じで、ノウハウをRPA化し、足りない部分を人手がフォローするという形で、どんどん省力化は進みます。
■足りない部分を、外国人の就労で補う
すでにコールセンター業務は、問い合わせ内容をRPAが判断し、最適解を画面上に映し、スタッフはそれを読み上げるだけ、となりつつあります。これならスタッフは、面倒なマニュアルを覚える必要もなくなるし、対応がわからず顧客から文句を言われることも減る。仕事は楽になるので、離職率は下がるでしょう。
そして何より、全くの素人でも、簡単な導入研修を施すだけで、コールセンター業務に従事することが可能となる。
人材確保が楽になること請け合いです。単位時間当たりの応答件数も増えるので、賃金はもちろんアップするでしょう。
まとめると、現業職領域での絶望的な人手不足は、①企業淘汰・M&A、②セルフ化とAI(RPA)の活用などを進め、生産性の向上でしのいでいく。
それでも足りない部分を、外国人の就労で補うべき、と考えています。
■非正規雇用対策もひきこもり救済も焼け石に水
さて、ここまで対策を打てば、もう外国人など不要ではないか、という声も聞こえてきそうですね。国政政党でも、「不本意ながら非正規となっている人たちを正社員化して対応すべきだ」などという話をする人がいます。雇用の現実が全くわかっていない妄言です。
まず第一に、不本意ながら非正規となっている人の数は思うほど多くはありません。世の中には「非正規雇用2100万人」という数字が一人歩きしていますが、この4分の3に当たる1500万人強が、主婦・高齢者・学生のパート労働なのです。
主婦は家事・育児があり、高齢者は体力的な限界、学生は学業があるため、いずれも正社員雇用を望めない状況。そのため、不本意の非正規は、2024年時点で180万人(総務省「労働力調査<特別調査>」)、非正規雇用者の8%強にとどまります(図表1)。
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加えて、非正規の人を正社員化しても、それは雇用形態が変わるだけで、働いている人の数は全く増えません。何より、足りないのは正社員ではなく、むしろ非正規領域の人なのです。不本意の非正規を正社員化しても、何の足しにもならないでしょう。
「ひきこもりの就労促進をしてはどうか」という意見もあります。確かにそれは重要なことですが、その数は2022年の内閣府の調査で全国に146万人ほどに留まります。仮に最良の施策で、彼・彼女ら全員が就労したとしても、全く数的に足りません。このあたりのことを、データでしっかり確認しておきましょう。
図表2は年度ごとに、22歳になる人口と65歳になる人口を示したものです。前者が新社会人、後者が雇用終了者と見なすと、このギャップが「単年度に発生する労働力の欠損」となります。2025年だとこの労働力欠損は30万人を超えた程度。
それが2030年までほぼ一直線で伸びて60万人となります。これでもまだ序の口で、2034年には80万人、2038年には100万人を超える。「ひきこもり者」146万人全員が働いたとしても、物の数ではないことがよくわかるでしょう。
これは、単に入職世代と退職世代の人口差を示しただけのものです。このほかに、①65~74歳の前期高齢者、②主婦パート従事者、という2つの補完層の人材が急速に細っています。
「かつてない」国難に対峙しているのは間違いありません。日本国を愛してやまない保守政党の方たちこそ、「外国人を排除しろ!」と叫ぶ前に、現在の日本の状況を考えてほしいところです。
■「クルド人の不法就労で日本人の給与が下がった」は嘘
外国人の就労に反対する意見としては、「不当に安い給料で外国人が流入すると、日本人の賃金が下がる」という意見があります。ネット論壇でも有名な識者が、しきりにこの話を語りますが、こちらも、知識不足からくる誤解だといえるでしょう。
まず、現在、特定技能資格で外国人雇用が認められる領域は、「人材不足が深刻な産業分野」に限られます。おおむね、有効求人倍率が2倍を超える領域でしょう。
図表3をご覧ください。2024年の有効求人倍率ですが、この中の黒色で示したのが現業職、灰色で示したのがホワイトカラーとなります。
有効求人倍率3倍を超える職務はいずれも現業職ばかりですね。2倍以上に広げてみても、ホワイトカラーからは唯一、営業職が入るだけです。
これほど人材が逼迫している分野だと、すでに書いた通り、放っておいたら無定見な採用競争となり、過度な企業淘汰が起こり、社会全体が困ることになるでしょう。
さて、クルド人の不法就労が問題となっている建設解体作業ですが、本当に作業単価が下がっているのでしょうか。たとえば、8月10日付朝日新聞では、「空き家などの住宅解体費が2024年度に1戸平均で187.7万円となり、前年度から7%増えた」とあり、その中央値は「20年度の140.9万円から24年度は180.0万円」と27.8%も上昇しました。
有効求人倍率が9.38倍にもなる業界だと、ちょっとやそっとのことでは単価ダウンなど起こりはしません。
特定技能資格の査証で外国人材が就労可能な範囲は、随時見直しが施されています。有効求人倍率2倍を軸に、もしもこの線を割るような状況になれば、早急に対象分野から外す運用を行えば、単価ダウンや日本人の雇用に影響を及ぼすことなどありえないでしょう。
■日本社会に統合できるような外国人移入プラン
ただ一方で、行き過ぎた外国人への就労開放は、厳に慎むべきだとも書いておきます。
かつて、企業は「大丈夫だろう」という安易な経営を行い、公害をはじめ様々な社会問題を引き起こしました。日本人との統合や共生が、難しいほどの度を超えたペースで外国人を呼び込めば、風習や考え方の違いから、再び大きな問題が生じる可能性は大きいはずです。
だからこそ、在留外国人材の増加ペースに対して、しっかり中長期的な計画を持つべきでしょう。そうした計画には、保守派から「外国人の就労増が既定路線化される」と反発は出るでしょうが、そこは何とか政府に頑張ってほしいところです。
新規に受け入れる数、期限が来たら帰国してもらう数、そして、日本に永住する数。これらをはっきりさせ、ルールや基準を設けていく。こうした将来像を持ち、過度に外国人を恐れなくて済むよう配慮することが重要だと思っています。

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海老原 嗣生(えびはら・つぐお)

雇用ジャーナリスト

1964年生まれ。大手メーカーを経て、リクルート人材センター(現リクルートエージェント)入社。広告制作、新規事業企画、人事制度設計などに携わった後、リクルートワークス研究所へ出向、「Works」編集長に。専門は、人材マネジメント、経営マネジメント論など。2008年に、HRコンサルティング会社、ニッチモを立ち上げ、 代表取締役に就任。リクルートエージェント社フェローとして、同社発行の人事・経営誌「HRmics」の編集長を務める。週刊「モーニング」(講談社)に連載され、ドラマ化もされた(テレビ朝日系)漫画、『エンゼルバンク』の“カリスマ転職代理人、海老沢康生”のモデル。ヒューマネージ顧問。著書に『雇用の常識「本当に見えるウソ」』、『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと』(ともにプレジデント社)、『学歴の耐えられない軽さ』『課長になったらクビにはならない』(ともに朝日新聞出版)、『「若者はかわいそう」論のウソ』(扶桑社新書)などがある。

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(雇用ジャーナリスト 海老原 嗣生)
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