雑談の上手い人は何をしているか。ジャーナリストの大野和基さんは「日本人は雑談で共通の話題として天気の話をすることが多く、それ自体は決して悪いわけではないが、話す内容があまりにも“とりとめがない”のが問題だ。
少し言い換えるだけで、話題が一気に広がる可能性が高まる」という――。
※本稿は、大野和基『世界基準の「質問力」』(祥伝社)の一部を再編集したものです。
■雑談は誰でも必ず通る「本題への入口」
1対1で対話をするときであれ、あるいはある程度の人数で話し合うときであれ、顔を合わせて即対話、ということはほとんどない。
本題に入るまで、それこそ定番の天気の話から、昨日のスポーツの話題、最近の社会情勢、そしてお互いの近況などなど、まずは「雑談」を交わすはずだ。
とりわけ初対面の人と話をする際、いきなり本題に切り込むことは、まずないだろう。たいていの場合、これまでの経歴、職歴や趣味、興味の対象といったことを、ざっくばらんに話す。
よほどのことがない限り、時間が短い場合でもひとしきり会話をしてから、本題に入るのが一般的だ。つまり、言い換えるなら、雑談は誰でも必ず通らなくてはならない「本題への入口」ということになる。
実は、この入口への入り方次第で、その後の話の展開も変わっていく可能性があるくらい、雑談は大事なステップだ。
ところが、日本人はそうした雑談を、文字通り単なる「雑」な「談話」と捉えてはいやしないだろうか。この項目の冒頭で触れた「天気」の話の典型的なパターンを見てみよう。
■「急に雨になるんでしょうか」をこの言い方に
「今日も曇ってますねぇ」

「そうですね」

「降りそうで降りませんが、急に雨になるんでしょうか?」

「まぁ、梅雨ですから……」

「ところで、例の合弁の案件ですが、どうなりましたでしょうか?」
これでは、ただの時間つぶしにすぎないし、読んでみてわかるように本題への入りとしては「下手くそ」としか言いようがない。

英語では「雑談」という言葉はなく、“small talk”や“chat”がそれに該当する。
だが、その意味合いは単なる“小話”ではない。自分がどういうレベルの人間なのかをそれとなく伝える“問わず語りの自己紹介”、あるいは本題に対する相手の心理的なハードル、ガードを下げるための“前振り”、はたまた、緊張感を解きほぐすための“アイスブレイク”として使われるのだ。
3分、5分という短い雑談時間で打ち解けられれば、その分、時間の余裕があるので、相手に聞きにくいことにも斬り込みやすくなる。
先ほどの雑談の例に戻れば、日本人はあまりにも天気の話をすることが多い。そうした傾向自体を批判する向きもあるが、天気は共通の話題になるのは間違いないうえ、そもそも多くの日本人が好きなテーマなのだから、そうした話をすること自体は決して悪いわけではないだろう。
問題は、話す内容があまりにも“とりとめがない”ことなのだ。
たとえば、「急に雨になるんでしょうか」部分を「キツネの嫁入り、なんてことになるんでしょうか」と言い換えてみたらどうか。
「キツネの嫁入り」とは、晴れている最中にザッと降る、いわゆる「天気雨」のことだ。諸説あるが、不思議な現象のためキツネの仕業と考えられたことが語源だとされる。
■変化球を投げると一気に話が弾み出す
こうしたところから入ると、日本語表現の多様さから日本語論、日本人と天気のかかわり深さから日本人論、さらには、いわゆる「ゲリラ豪雨」が多発していることなどから気候変動、環境保護問題など、「急に雨が降り始める」より一気に会話が弾み、話題が広がる可能性が高まるのだ。
あるいは「降りそうで降らない」を英語で言い表すと、“It's trying to rain.”となる。
trying toとあるが、「~しようと一生懸命やっている」わけではない。まだ、できない状態を指して、そういうのだ。
「キツネの嫁入り」も、英語では“sun shower”と日本語とかなり違う表現となる。英語圏の人や、外資系企業に勤務しているビジネスパーソンなどに対しては、“It's trying to rain.” “Oh! It's sun shower.“といったような感じで、英語の話題を織り交ぜるというのもひとつの手だろう。
こうした“変化球”を投げると、相手も「この人と話すと何か得するかもしれない」「面白い話ができそうだ」といった感じでガードを下げたり、積極的にネタを提供してくれたりするようになる。
■雑談は決して“雑”なおしゃべりではない
とにかく雑談は決して「雑な」会話ではない。英語の話ついでに是非とも知っておいていただきたい表現として、“keep the ball rolling”というものがある。これは、「場をしらけさせない」「物事を順調に進める」という意味だ。
とにかくアメリカのビジネスマンがよく話すのが、多くの日本人はビジネストークにおいて、前振りなくいきなり商売の話をするということ。それに対して相手はどう思うか。「コイツはカネの話しかできない、教養のない人間だ」となってしまう。
となると、アメリカ人のビジネスパーソンは当然、カウンターパートである日本人をバカにする、低く見る。
これではビジネスは、うまくいくはずがない。
無論、日本人同士の質疑、会話でも同様だ。日本の豊かな文化のひとつである落語のマクラ、あるいはバラエティ番組での前説(まえせつ)。あれらがなぜあるのか。それは、ひとえに本編をより楽しんでもらうためだ。
まして、相手に質問を投げかける立場に立った際は、ただ単に会話をするとき以上に、より相手に寄り添うよう意識する必要がある。
そのためには、本編、本題の前にその前振りを仕込むことだ。
ちょっとした雑談=“small talk”の有無だけで、相手から多くの答えを引き出すことができる。それがそれほど難しいことでないのは、説明してきた通りだ。
もちろん自身も相手もリラックスするというのも、雑談の大事な役割である。だが同時に、“keep the ball rolling”を念頭に置き、くだけた雰囲気をつくりつつ、自分が本題である質疑の主導権を握るための、とても大切なウォーミングアップだと認識すべきだ。
そうすれば、質問への答えもより充実した内容、より自分にとって望ましい“成果”になること、間違いない。

CONCLUSION

“keep the ball rolling ”を

常に意識しておく!
■日本人が苦手なちょっとしたゲーム
前項で触れた「アイスブレイク」。
こちらは言葉としては日本社会にだいぶ定着しつつある反面、にもかかわらず日本人がかなり苦手にしている、あるいは大きく勘違いしている大事な会話の要素のひとつではないだろうか。
もちろん語源は英語だが、正しくは“break the ice”または“ice-breaking”となる。つまり、アイスブレイク自体は和製英語だ。
氷を壊す、すなわち、凍りついたような堅苦しい雰囲気をほぐす、あるいは会話、質疑の口火を切るという意味である。そうした行為、つまり前項でいうところの雑談や、ちょっとしたゲームや遊びを“icebreaker”という。
そもそも、新聞記者やニュースキャスターといったプロも含めて、日本人は相手に何かを聞く際のマナーを勘違いしているとしか思えない。
というのも、まさにアイスのごとくカチコチ、ただでさえ温まりきっていない場の雰囲気を、さらに凍らせるような硬いことしかしゃべらない人があまりにも多いのだ。
おそらく、目上の人には敬語を話し、敬意をもって接するという日本の教育や、社会習慣も、その一因となっているのだろう。
■盛り上がらない会話ほど“寒い”ものはない
もちろん、いきなりジョークを飛ばすべきだなどと言っているのではない。とりわけ初対面の人に会うや否や冗談を言えば、かえって心証が悪くなることも大いにある。
だが、前項でも見たように3分、5分といった雑談の時間は、相手のガードを下げさせるまたとない機会だ。
質疑の場は、しょっちゅう会う知り合いとバカ話をするのとは、わけが違うのもまた事実である。
久しぶりに会う人も、こちらが何らかオフィシャルなビジネストークをする、あるいはインタビューをするとなれば、無意識のうちに身構えるだろう。まして初対面の人ならなおさらだ。
そうした構えを緩めるチャンスを自らの手でつぶすのは、あまりにもったいない。だいたい、一向にくだけた雰囲気にならない会話は、普通の感覚でいったら「盛り上がりに欠ける」ということになるだろう。
盛り上がらない会話ほど“寒い”ものはない。そう強く信じているのは、私だけではないはずだ。
■相手が話しやすいであろう“タネ”をまく
そうならないためにも、この1週間でどんな人に出会ったかといった他愛もない話、家族のエピソード、あるいは昨今の社会情勢についての軽い意見交換など、相手が話しやすいであろう“タネ”をまくくらいのことはすべきだ。
なぜなら、人に話を聞く、知りたいことを尋ねるときの最終目標は、前述したようにこちらが欲しい答え、あるいはそれを超える発言を引き出すことだからである。
2025年秋、雑誌『Voice』(PHP研究所)の仕事(2025年12月号)で、同年3月に刊行された邦訳本『競争なきアメリカ』(みすず書房)の著者である、ニューヨーク大学のトマ・フィリポン教授にインタビューをした。
彼は、故郷のフランスに帰っているので、Zoomで取材してほしいと言う。当日、つないだ画面の向こうで彼がいたのは、とある家の仕事部屋だった。

そこで、出だしにそこはどこか聞いたところ、母方の実家だという。何をやっているのかと尋ねると、子どもを1カ月、ニューヨークから連れてきて親戚と遊ばせているとのこと。そうしたまさに他愛もない話が3、4分続いた。
そして、そこから本題に入っていたところ、すっかり「氷が解けていた」のか、彼は少しフランス語訛りの英語で、次々と鋭い意見を聞かせてくれたのだ。
■昨今のトランプ関税は取るに足らないこと
詳細は本誌に譲るが、たとえば昨今のトランプ関税は、彼の目からすると「ピーナッツ“peanuts”」、すなわち「取るに足らないこと」だという。
アメリカ国内でのインフレを増進させる可能性はあるが、閉鎖的なアメリカ経済のなかで貿易が占める割合は、それほど大きいとは言えないため、影響もどれほど深刻になるかはわからないからだ。
それよりもむしろ、トランプ政権が科学研究の予算をバッサリ削っていることのほうが、長期的に見てアメリカの大問題になると分析した。
実際、たとえば2025年のノーベル賞では、物理学賞、生理学・医学賞、化学賞で計6人、経済学賞で2人と合計8人の受賞者がアメリカ人、もしくはアメリカの研究機関を拠点とする研究者である。だが、こうした状況も、このままでは長くは続かないと言うのだ。
現在、アメリカから研究者が次々と国外流出している。日本の大学ですら受け入れを表明しているくらいだ。ところがトランプは、そんなことまったく意に介していない。それこそがアメリカの将来にとって命取りになるという。
そのほかにも2000年以降、アメリカ経済は大企業による寡占化が進み、それまでは自由度が高かった競争が失われてしまった結果、ヨーロッパやアジアにも国際競争力で劣るようになったこと。
あるいは、日本がAIの世界的競争に取り残されてしまうのは、とても危険なこと。そのためには優れた大学を増やすべきことなど、さまざまなトピックについて雄弁に語ってくれた。
■心理的ガードを下げる効果
トータルのインタビュー時間は1時間ほど。しかし、それを翻訳したら2万字にも達した。2万字といえば普通の本の1/4ほどのボリュームに価する。誌面の関係上、それを泣く泣く6000字まで削らざるを得なかったのが、返す返すも残念だった。
やや長くなってしまったが、ここにある話だけでも十分楽しめると思うのでどうか許していただきたい。
ともあれ、気鋭の若き経済学者が、日本経済に対する彼独特の処方箋など、これまでメディアに出たことがない視点を提示してくれた要因の一端は、家族の話という軽めのアイスブレイクからスタートし、心理的ガードが下がったことにあるのは間違いない。
こんな簡単なオープニングトークでも、「ボールを転がし続けること」は断然しやすくなる。
つまり、雑談への意識、そしてアイスブレイクという名の簡単な“種まき”があるだけで、会議や面談、そして大事な商談の場でも、確実に相手、あるいはライバルの上を行くアドバンテージを得ることができるのである。
CONCLUSION

日本人が苦手なことにこそ、

他を制するチャンスがある!

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大野 和基(おおの・かずもと)

国際ジャーナリスト

1955年、兵庫県生まれ。大阪府立北野高校、東京外国語大学英米学科卒業。1979~97年在米。コーネル大学で化学、ニューヨーク医科大学で基礎医学を学ぶ。その後、現地でジャーナリストとしての活動を開始、国際情勢の裏側、医療問題から経済まで幅広い分野の取材・執筆を行なう。1997年に帰国後も取材のため、頻繁に渡航。アメリカの最新事情に精通している。

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(国際ジャーナリスト 大野 和基)
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