糖質を摂らなくてもエネルギッシュに活動するにはどうすればいいか。医師の溝口徹さんは「低血糖状態になっても交感神経が穏やかに作用し、睡眠のトラブルが起こらない人は『ケトン体』がうまく使えている。
そのためには、脂質のみをとるのではなく、肉や魚など脂を含むたんぱく質を一緒にとるといい」という――。
※本稿は、溝口徹『「朝からダルい」は糖質が原因だった!』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■脳のエネルギーは「砂糖だけ」ではなかった!
肝臓や筋肉から糖を取り出したり、筋肉のたんぱく質を糖に変換したり――なぜ、体はそこまでして糖をほしがるのでしょうか。
体の三大エネルギー源は、糖質(厳密には炭水化物)、たんぱく質、脂質ですから、糖がないなら、そのほかのエネルギー源を使えばいいと思うかもしれません。しかし、どうしても糖がほしくなるには理由があるのです。
まず、私たちの体中に酸素を運ぶ役割をしている赤血球は、ブドウ糖しかエネルギー源として利用できません。さらに糖は、脳の主要なエネルギーとしても使われます。
かつて「砂糖は脳のエネルギー」と喧伝(けんでん)されていたことがありました。砂糖、つまり糖が脳のエネルギーになるというのは間違いではありません。
しかし、脳にとって糖質は主要なエネルギー源ですが、「唯一」ではありません。脳が糖以外に使えるエネルギー源、それが「ケトン体」です。
ケトン体は脂質(脂肪酸)をもとに、肝臓でつくられます。
こうしてつくられたケトン体は、肝臓を除いたほぼ全身でエネルギーとして使うことができます。
そして、ケトン体こそが「朝ダル」改善の救世主なのです。
■脂質からつくられるエネルギー「ケトン体」
ケトン体について説明する前に、まずはエネルギーの大原則を押さえておきましょう。
・栄養素のなかでエネルギーとして使えるのは、たんぱく質、糖質、脂質の3種類

・3つのエネルギーのうち、糖質が優先的に使われる

・ エネルギーが切れることは体にとって緊急事態であるため、エネルギーの供給は生命活動のすべてにおいて優先される
寝ている間に血糖値が下がったとき、下がりすぎて低血糖にならないように、交感神経が優位になります。それによってアドレナリンの分泌が促されると、肝臓に貯蔵されている糖が放出されたり、筋肉にあるたんぱく質を糖に変えることで、血糖値を維持して低血糖になることを防ぎます。
しかし、肝臓や筋肉に貯蔵されている糖が空っぽになってしまったとき、筋肉をひたすら分解するだけで血糖値を保つのは無理があります。そもそも、たんぱく質の本来の仕事は体の材料になることであり、エネルギーになることではありません。
そこで使われるのが脂質です。アドレナリンは血糖値を上げるとともに、体内の中性脂肪を分解して脂肪酸という形にし、エネルギーとして使います。糖は1gあたり4kcalなのに対し、脂は9kcalと倍以上。効率のよいエネルギー源であることがおわかりいただけるでしょう。
■ホルモンの節約にもつながり、いいことづくめ
加えて、脂質を貯蔵する脂肪細胞は大きな組織でもあります。

例えば体重60kg、体脂肪率20%の男性の場合、肝臓や筋肉にストックできる糖の量が約1520kcalなのに対し、脂肪はなんと約86400kcalと60倍ものエネルギー量を蓄えることができます。さらに、脂肪は脂肪細胞が大きくなることで、どんどん貯蔵することができるのです。
ここで問題なのが、エネルギー源に脂肪酸を使えない臓器が存在することです。その1つが脳。ただし、脂質をもとにつくられるケトン体なら、脳はエネルギーとして使用することができるのです。
糖がなくなったとき、脂質からケトン体をつくり出せるようになれば、血糖値がどんなに下がってもエネルギーの供給が途絶えることはありません。
そのため、血糖値スパイクが起こらず、交感神経が優位になることもないので、疲れやダルさ、イライラといった不調も出てきません。
インスリンやアドレナリンなどの血糖調節に関係するホルモンの出番もないので、こうしたホルモンの節約にもつながります。まさにいいことづくめです。
■糖が入ってこない間のバックアップ機能がある
ここまで、「朝ダル」の原因は夜間の血糖値スパイクと、その後の夜間低血糖が原因だとお話ししてきました。そのきっかけは、食事を通してエネルギーである糖が入ってこない夜間に糖新生が追いつかず、交感神経が優位になることです。
しかし、なかには低血糖状態になっても交感神経が穏やかに作用し、睡眠のトラブルが
起こらない人がいることがわかってきました。

このような人は「ケトン体」がうまく使えているのです。
血糖値が下がったときにスムーズにケトン体が出てくることで、体内で糖からケトン体へとエネルギーが切り替わります。そのため、血糖値が下がっても集中力が続きますし、イライラすることも、甘いものを欲することもありません。
図表2のグラフは、31歳・女性の5時間糖負荷検査のデータです。―が血糖値、…がケトン体の量を示しています。
被験者にブドウ糖75gを摂取してもらったところ、血糖値は一気に224mg/dlまで上昇しました。そこから時間が経つにつれて下がり、250分後には71mg/dlまで下降しました。
しかし、ここで一気にケトン体にスイッチが切り替わります。ケトン体の量が一気に跳ね上がり、メインのエネルギー源として使われはじめるため、血糖値が低くてもエネルギーをキープすることができています。このように、エネルギーの切り替えができていれば、不調が出ることはありません。
■果物が好きな人はケトン体モードになりにくい
ケトン体とは、人間に本来備わった、血糖値が下がってもエネルギーが枯渇しないための仕組みといえます。
この機能がしっかり働き、糖がなくても脂質を使えるようにエネルギーの切り替えができれば、睡眠中に夜間低血糖が起きても、その影響を受けることなくぐっすり眠ることができます。
当然、「朝ダル」が起こることもありません。
ところが、普段の食事が糖質に偏っていると、このスイッチをスムーズに切り替えることができません。
朝はパンとコーヒー、昼はパスタ、おやつにチョコレート、夜はラーメン……患者さんにも、こういった食事をしている人はとても多いのです。
街に出ればパン屋さんやカフェ、ラーメン店など、糖質であふれ返っている現代。普通に食べているつもりが、知らず知らずのうちに糖質を多くとってしまっている人はたくさんいます。
健康を意識している方でさえ、血液検査の結果と食事記録を突き合わせると、体が糖であふれた状態になっていることも珍しくありません。
体はエネルギーのうち糖を優先的に使うので、体内に糖がたくさんあると、エネルギーはケトン体モードに切り替わりません。
肝臓に負担がかかっている人も同様です。肝臓は糖のストック場所であると同時に、ケトン体の製造工場でもあるからです。脂肪肝も負担をかける要因であるため、甘いもの、特に果物が好きな人はケトン体モードになりにくいといえるでしょう。
■脂質をエネルギー源としてうまく利用するには
ここまで、三大エネルギー源について説明してきました。
もう少し詳しくお話しすると、糖質、脂質、たんぱく質の3つは、そのまま細胞に入り、エネルギーとして使われるわけではありません。
いったん全身の細胞で使用可能なATPという共通のエネルギーにつくり替えられて使われます。
3つのうち、最も速くATPになりやすいのが脂質です。糖やたんぱく質に比べエネルギーとして持ちがよく、ATPに変化しやすい脂質は、本来ならメインエネルギーとしての力を備えていると私は考えます。
しかし、なかには「こってりしたものは苦手」「揚げ物を食べると下痢をする」など、脂が苦手な人もいるでしょう。
このようなときこそ、栄養の出番です。
そもそも消化を担う酵素の主材料はたんぱく質です。つまり、たんぱく質不足から消化力が下がっているのです。加えて、脂質をATPに変えるのにはビタミンやミネラルが必要となりますが、これらが不足している場合も脂をスムーズに使うことができません。
それならばたんぱく質を増やせばいいと思われるかもしれませんが、実はたんぱく質は三大栄養素のうち、最も消化に負担がかかる栄養素でもあるため、食べすぎることでさらなる負担をかけてしまいます。
食材から摂取されたたんぱく質は、体内で代謝され、皮膚、筋肉、骨、コラーゲンなどにつくり替えられますが、消化酵素にもつくり替えられます。
ただし、たんぱく質も三大栄養素の1つなので、もし摂取カロリーが少ないとエネルギー源として燃やされてしまい、消化酵素の材料にならないのです。
■やる気や幸福感だけでなく、睡眠のリズムや質にも影響
そこでおすすめなのが、たんぱく質を単体でとるのではなく、脂質と一緒にとることです。
具体的には、脂質のみをとるのではなく、肉や魚など脂を含むたんぱく質をとります。
そうすることで、摂取したたんぱく質が効率よく体に必要な組織につくり替えられ、ホルモンや消化酵素などとして働くようになるのです。その結果、たんぱく質や脂質の吸収率が上がり、好循環になっていきます。
また、たんぱく質は前にも触れたメラトニンやセロトニン、GABA(ギャバ)グリシンといった脳内神経伝達物質の材料でもあるため、やる気や幸福感だけでなく、睡眠のリズムや質にも影響を与えるのです。
■低すぎるコレステロール値はエネルギー不足状態
脂質をうまく使えるようになり、体がエネルギーで満ちてくると、体は次のフェーズに向かいます。
それは、脂質を材料にしたさまざまな物質をつくり出せるようになることです。
例えば、かつてアンチエイジング効果で大きな話題となったコエンザイムQ10、そして女性ホルモンをはじめとする性ホルモン、ストレスと戦うコルチゾール、免疫力やメンタルの安定、妊娠力アップなどさまざまな働きが注目されているビタミンD――実はこれらも脂を材料につくられます。
コレステロールも、脂質を材料としてつくられます。一般的にはコレステロール=悪者というイメージが強いようですが、オーソモレキュラー栄養療法ではむしろコレステロールを重視しています。
確かにコレステロールが高すぎるのも問題ですが、低すぎるのも大きな問題です。それは体のエネルギーが常時不足していることを意味しているからです。事実、不調を訴える患者さんで、コレステロールが低い人は少なくありません。
体にとって何よりも優先すべきことは、エネルギーが不足しない状態を保っておくことです。そのため、不足すると筋肉を分解したり、興奮ホルモンを出したりと、さまざまな方法を使ってエネルギーを保とうとします。
そんな人でもコレステロール値が上がり、エネルギーの供給が安定してくると、体はもちろん、メンタルの不調までもが一気に解消されていくのです。
■自分がケトン体を使えるかどうかを知る方法
ここまで読まれた人は、
「私の体では、ケトン体がつくられているのだろうか」
と気になっているのではないでしょうか。そこでチェック方法をご紹介しましょう。
やり方はとても簡単。ランチを抜いてみればいいのです。
朝食を食べ、その後ランチを抜くことで、糖の供給が途絶えたときにフラフラする、イライラする、頭痛が起きる、甘いものが無性に食べたくなるといった不調が起こっていたら、エネルギーがケトン体モードに切り替わっていないというサインです。
一方、まったく変わらずにいつも通りの生活ができているのなら、エネルギー源がケトン体にうまくシフトができている証拠です。

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溝口 徹(みぞぐち・とおる)

医師

1964年生まれ。神奈川県出身。福島県立医科大学卒業。横浜市立大学病院、国立循環器病センターを経て、1996年、痛みや内科系疾患を扱う辻堂クリニックを開設。2003年には日本初の栄養療法専門クリニックである新宿溝口クリニック(現・みぞぐちクリニック)を開設。著書に『2週間で体が変わるグルテンフリー健康法』『発達障害は食事でよくなる』『お酒の「困った」を解消する最強の飲み方』(いずれも青春出版社)、『花粉症は1週間で治る!』(さくら舎)などがある。

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(医師 溝口 徹)
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