■ブレまくる高市首相の消費税発言
「消費減税は私自身の悲願でもありました」
1月19日に行われた記者会見の席上、高市首相がこう発言して波紋を呼んだ。1月23日に衆院を解散すると表明し、対抗する中道改革連合が消費減税を打ち出したことに触れ、高市首相も消費減税を主張したのが冒頭の発言だ。
その後の総選挙は「自民大勝・中道壊滅」という結果に終わったが、冒頭の「悲願」発言もその要因の一つだろう。自民党も中道改革連合も消費減税を掲げたことで、消費減税が選挙の争点から消えてしまったからだ。
ただ、第2次高市政権が消費減税を実行するかは不透明だ。
そもそも、現時点では高市首相の口約束でしかない。事実、自民党の選挙公約に消費減税は入っていない。それどころか、「減税のげの字」さえ見当たらない。
しかも、肝心の高市首相の発言もブレまくっている。
日経新聞が報じている通り、2025年5月には「国の品格として食料品の消費税率は0%にするべき」、9月(総裁選中)には「党内の意見集約ができなかった」、10月4日には「すぐに対応できることをまずは優先したい」、11月には「レジシステムの改修などに一定の期間がかかる」など、曖昧な態度に終始している。
■公式ブログの記事1000本を検証
「悲願」という言葉の意味を調べたところ、以下のように説明されていた。
ひ-がん〔-グワン〕【悲願】
①ぜひとも成し遂げたいと思う悲壮な願い。「年来の悲願が実る」
②仏語。仏・菩薩(ぼさつ)が慈悲の心から人々を救おうとして立てた誓い。
(weblio辞書より)
要するに、「悲願」とは、相当な長期間にわたって強く願い続けていることを指す。相当な長期間とは、場合によるが、1年や2年ではなく、10年、20年のスパンだと解釈できる。
ちなみに高市首相の初当選は1993年7月。消費税の導入は1989年だから、初当選以来ずっと消費税の廃止や引き下げを願ってきた、くらいの印象も受けるわけだ。
高市首相は本当に長年にわたって消費減税を主張してきたのだろうか。
高市首相の公式サイトには「公式ブログ」が設置されている。マスコミによって切り取られたり、編集された情報ではなく、首相本人が発信したい言葉がそのまま掲載されているはずだ。
2000年8月から続くこの公式ブログから、消費税に関する投稿をピックアップし、本当に悲願だったのか確かめてみよう。
■消費税10%は「負担は低い」
まず、2020年11月16日付の「『自助』という言葉を批判することの不思議」という投稿には、こんな文言が躍る。
他国に比べると、各種支援サービスに対する国民の負担は低い方だと思います。
日本の消費税は、昨秋から10%に引上げられましたが、他国の付加価値税を見ますと、スェーデンとデンマークは25%、イギリスとフランスは20%、ドイツは19%。国民負担率(租税負担率+社会保障負担率)は、日本は44.6%、スェーデンは58.9%、イギリスは47.7%、フランスは68.2%です。
少子高齢化が進行している中で、将来を見据えて、「給付と負担のバランス」についても、責任をもって率直な議論を行うべき時が来ています。
「租税などの負担が増えても良いから、もっと手厚い福祉を求めるのか否か」ということです。
消費減税の主張どころか、消費税を下げる必要はないくらいに読めるのだが、気のせいだろうか。
2020年11月は菅政権が発足した2カ月後というタイミングだ。少なくともこの時点において高市首相は「消費減税論者」ではなかったと思われる。
■安倍政権下で「税率引き上げ」に尽力
もう少し前だったらどうだろうか。安倍政権時の2014年4月15日付「納得できる消費税の使い道」にはこうある。
消費税率を引き上げ、全消費者の皆様にご負担をお願いした以上は、「税負担増に納得できる受益(安心)」を実感していただけるように、努力を続ける決意です。
今回の消費税率アップは、民主党政権時代に、当時は野党だった自民党と公明党も協力をして、自公民で成立させた「税制抜本改革法」に基づくものです。
同法の規定により、消費税率引き上げによる増収分は全額「社会保障の安定化と充実」に充てることとされていますから、結果的には全て国民に還元されるものです。
第2次安倍政権下で、2014年4月に消費税率を8%に引き上げたことを受けた投稿だが、税率引き上げを擁護・正当化する主張が並んでいる。
この当時高市氏は自民党政調会長を務めており、消費税の引き上げについても、党内の意見調整に尽力していたはずだ。
腹の中では消費税引き上げに反対だったとしても、立場上そう主張するわけにはいかなかったのかもしれないが、いずれにせよ、この時点では消費税引き上げに賛成しており、減税論者ではなかった。
■減税論者とは到底思えない
2012年6月17日付の「税と社会保障の『3党合意』を急いだ党執行部」を読んでも、消費税引き上げに反対した様子はない。
「3党合意」とは、民主党野田政権および野党だった自民党・公明党の3党間で締結された、「税と社会保障の一体改革」に関する政策合意のことだ。
この合意により消費税を「2014年4月に8%、15年10月に10%に引き上げる」ことが決まった。
この3党合意について、高市氏は事前の相談もなく唐突に決まったと批判しているが、税率の引き上げ自体への批判はない。
方法について、「わずか1年半の間に2段階に分けて引き上げるという手法です。流通販売現場の混乱や対応コスト増の懸念もあり、自民党としては反対だったはずです」という批判も見られるが、あくまで引き上げの手法に向けられた批判で、消費増税自体を批判したものではない。まして、減税方向の主張はかけらもない。
それどころか、こんな文言もある。
消費税のメリットを挙げるとすると、それは「公平性」です。
所得に関係なく1度は消費に伴う税負担をしていただいた上で、真に福祉が必要な方々には、別途、生活扶助や住宅扶助等で手当をする方が順当なのではないでしょうか。
このように消費税のメリットすら挙げ、消費税を社会保障の拡充に充てる考えを示しており、減税論者とは到底思えない。
■むしろ「増税」を主導してきた側
2011年にはこんな投稿もある。12月13日付の「野田内閣への疑問7:消費税に関する考え方」から引用する。
自民党は、昨年の参院選の折に、消費税率を10%に引き上げることを公約しています。年金、医療、子育て、障害者施策等々、その使途の内訳(金額)も、昨年中に発表済みです。
消費税は低所得者にも負担がかかりますので、税率アップにはご批判もありましょうが、社会保障制度の継続性と負担の公平性を考えると、間接税を財源として重視する方が良いと判断しています。
政府与党内では当面は「消費税率引き上げの是非」の議論が続きそうな様子ですが、早急に「給付と負担の関係」についての国民的議論と政治の場での十分な検討が必要だと思います。
このように「消費税の10%への引き上げ」に賛成しており、反対ではない。それどころか、「間接税(=消費税)を財源として重視する方が良い」とまで言っている。
これらの投稿を読む限り、高市首相はむしろ「10%への増税」を主導してきた側だったと見られても仕方がないのではないだろうか。
■そもそも消費税への関心自体が薄い?
そもそも高市首相の公式ブログにおいて、消費税に言及する記事は少ない。手元の集計ではあるが、1000本以上の記事が投稿されている中で、明確に消費税に言及したものはたった7本。うち、はっきり消費減税を主張したものは1本もなかった。
一方で「自衛隊」に言及した記事は35本あった。
記事本数=関心の高さと考えるなら、もともと消費税には関心が薄かったのかもしれない。
その上、民主党政権時には消費税引き上げを批判しながら、自民党の消費税引き上げについては擁護する、といった矛盾した姿勢も見られる。
こうした矛盾やブレは、他の分野についての発言には見られないものだ。
外国人労働者問題について書かれた2004年10月29日付の投稿「外国人労働者受け入れの課題」にはこうある。
「日本人の雇用機会を奪う」「医療等、人命に係わる職業分野での技術水準や言葉の壁をクリアできるのか」といった反対意見が寄せられる一方で、「少子高齢化が進む日本は、外国人労働者の受け入れを積極的に進めるべき」とのご意見も多く伺います。
世界的にブロック経済化が進む中で、日本企業がその枠外に取り残されるデメリットを避ける為に、いずれ日本は「人の自由化」も受け入れざるを得なくなるのでしょう。その場合に想定される諸課題への取り組みが急がれるべきだと思います。
まさにいまの日本社会の問題を予言したかのような内容であり、20年以上前の意見としては慧眼としか言いようがない。
外国人問題については非常に一貫した主張を行っているのに比べて、消費税や財政についての投稿は数も少なく、主張のブレも目立つわけだ。
■「悲願」発言は真っ赤なウソ
以上、高市首相の公式ブログを読む限り、長年にわたり消費減税を主張してきたという事実は確認できなかった。
それどころか、むしろ「10%への引き上げを主導してきた」としか思えず、「消費減税」ではなく「消費増税」こそ首相の悲願だったのでは、とも思えてくる。
こういった経緯にもかかわらず、衆院選を前にして「消費減税は私の悲願」とまで言い切ったわけだ。
これを真っ赤なウソと言わずして何といおう。ここまで事実と異なることを言うのは普通の神経を持った人には耐えられないのではないか。高市首相はその清新なイメージに反し、実際は相当な「タヌキ」なのではないだろうか。
■「責任ある積極財政」が抱える矛盾
政権側による事実と異なるあやふやな発信は、何も消費税に限った話ではないという。
法政大学の小黒一正教授によれば「そもそも『責任ある積極財政』という説明自体にやや矛盾を感じる」という。
「これから国会審議が始まる2026年度予算案は、国の一般会計のみの話ですが、『プライマリーバランス黒字化(1.3兆円)』予算になっています。『プライマリーバランスが均衡』とは、国債費を除いた社会保障関係費や公共事業などの政策的経費が、税収等(国債発行以外の税外収入を含む)と同額ということ。『プライマリーバランスが赤字』だと政府の支出を税収等で賄えないため、国債残高(対GDP)も膨らむ圧力がかかります。
ただ2026年度予算案はプライマリーバランスが黒字なので、新規の国債発行も30兆円未満でおさまっており、補正予算を組めば話が別ですが、2026年度末の国債残高(対GDP)は25年度末の170%から166%に縮小する可能性があり、どちらかといえば『緊縮的』な予算案だと言えます。それを『積極財政』と呼んでいるのには違和感を覚えます」
「そもそも、財政運営は時々の経済状況に依存することは明らかですが、積極財政を主張する人たちは、『景気が悪いのに政府の支出を増やさず緊縮財政をしていたから、デフレ脱却が遅れた』としてきました。ですが、デフレがひどかった期間は、『プライマリーバランスが赤字』で、国債残高(対GDP)も累増してきた。つまり、景気が悪く税収が伸びないので、財政赤字で国債を大量発行して補っていたわけですが、これは『積極財政』にほかならないのではないでしょうか。
つまり、積極財政だった時の予算を緊縮財政と呼び、26年度予算案のような緊縮財政を積極財政と呼んでいるのです。政治的なポーズの可能性もありますが、やや矛盾があると思います」
■金融市場は「減税なし」と見抜いている
財政方針の説明にはやや矛盾があるが、結果的に高市首相が消費減税を見送るなら、それは妥当な判断、と小黒一正教授は語る。
「もし食料品だけの税率をゼロにし、外食を10%に据え置けば、そこには圧倒的な価格差が生まれます。経済学でいう『代替効果』が働き、消費者は外食を控え、スーパー等での購入(中食・内食)へ極端にシフトする可能性もあります。一部の税を引き下げたからといって、経済に必ず良い影響があるとは限らないのです。これから防衛費の拡充の議論も始まる可能性もあるなか、その財源が問題になる可能性もあります。消費税は社会保障の財源として活用されており、そのような状況で、税率の引き下げを無理に行えば、医療や年金の財政が不安定化することも懸念されます」
消費税を上げると言えば選挙で不利になる。一方、積極財政で支出を増やすと言えば、選挙で有利になる。
そうした思惑から、歴代の政権は、消費税を上げるのか下げるのか、財政支出を増やすのか減らすのか、曖昧な言い回しでごまかしてきたわけだ。
「消費減税が悲願」と言いながら、「実は消費税10%支持」だったり、「積極財政」と言いながら実際には「プライマリーバランス黒字の緊縮財政」だったりという、混乱した説明がなされているのは、そうした政治手法を脈々と受け継いできたことのあらわれではないだろうか。
しかし、残念ながら、そうしたあやふやな説明は通用しないようだ。
衆院選での自民大勝の結果を受けて、一時は急激な円安が心配されていたが、逆に円高傾向で推移している。
つまり、金融市場は「消費減税はない」と見抜いているわけだ。
「消費減税は私の悲願」「円安でホクホク」……。一つひとつの発言に振り回されず、政権の真意を見抜いて行動する必要がありそうだ。
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中野 タツヤ(なかの・たつや)
ライター、作家
出版社で書籍・Web編集者として活躍したのち独立。ヒグマ関連記事を多数手掛けた経験をもとに、日本および世界のクマ事件や、社会・行政側の対応について取材している。tatsu_naka1226@ymail.ne.jp
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(ライター、作家 中野 タツヤ)

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