「AIに仕事を奪われない」のはどんな人材か。文筆家の御田寺圭さんは「日本の労働市場はいま劇的な構造的変化を迎えている。
なんとなく高校の普通科、なんとなく文系の大学に進学するような旧来のルートを選ぶと、あとで大変なことになる可能性が高い」という――。
■ENEOSの新卒採用一部見送りは「予告編」
ENEOSホールディングス(HD)は主要子会社で2027年春に卒業する学生の採用を一部で見合わせる。事務系やIT(情報技術)企画、一部の技術職で募集をやめた。ENEOSHDは「筋肉質な経営体質への転換のため」(広報部)などとしている。
日本経済新聞「ENEOS、27年入社の新卒採用一部見送り 事務系やIT職など」(2025年12月16日)より引用

ENEOSの新卒採用の一部見送り(大幅縮小)がSNSで大きな波紋を呼んでいた。
私が大学生だったころからインフラ系やエネルギー系の大企業はとりわけ文系の就活生にとって「ゆるふわ高給ユートピア」というイメージが定着しており人気が高かったので、数少ない文系枠である事務職の新卒採用見送りはインパクトが大きく、悲鳴を上げている学生も少なからずいたようだ。
SNSの反応を見てみると「文系は“贅肉”って言いたいのかよ!」と、なかなか上手なツッコミを入れている人が多くいて苦笑を禁じ得なかったのだが、残念ながら実際そのとおりだ。文系は贅肉なのである。
はっきり認識しておくべきなのは、ENEOSの今回の決定はあくまでいち企業による個別的なものではあるものの、しかし今後の日本の雇用情勢の劇的な変化を告げる小さな予告編として見るべきだということだ。
■事務系は空前の「買い手市場」
まず基本的なファクトを整理しておきたいのだが、そもそも大卒文系の人が志望する事務系職種は、昨今の空前の超売り手市場においてすら強烈な人余りの買い手市場が続いている。
事務系職種の有効求人倍率は2025年12月の動向をみると0.3倍付近で、これは3人分の求人を出すと10人が殺到するという計算となる。しかも前年に比べて事務系職種の求職者数は増加傾向にあり、さらに競争率が高くなっている。

大学新卒でも同様の傾向が認められる。2026年卒が全体でみると1.66倍ときわめて良好な数字ではあるが、しかしこれは著しい人手不足となっている建設業(8.55倍)や流通業(8.77倍)が平均値を大きく上振れさせている、いわばトリック的な数字である。事務職が多く含まれる業界(金融業やサービス業)では求人倍率は0.3前後できわめて低く、かなり狭き門だと言わざるを得ない。
■「事務職の求人減少」は止められない
「文系が就きたがる事務職の求人減少」のトレンドは今後も不可逆的に加速していく。AIやDXの普及による事務系の定型業務の消滅が最大の要因で、また事務系もひと昔前に想像していたようなバックオフィス業務だけでなく、高度な専門性やITリテラシーが必要になっており、コンサルティング、法務、経理、経営戦略などの高度な経営知識とリテラシーを掛け合わせた「専門事務」に置き換えられていく。これは日本だけでなく世界的なトレンドである。
人間が就ける数少ない「事務職」のポストには、経営コンサルや戦略コンサルなどでバックオフィス業務をやっていた人が中途で抜かれる形であてがわれ、かれらがAIを駆使しながらどんどん効率化している(残りのパイをさらに少なくしている)状況で、企業側からすれば、いまさらノースキル文系新卒を事務職として採用する理由がまったくなくなっている。
■「理系」が文系の上位互換となっていく
もっとも、一般的な大卒の事務系が完全に消えるかというとそうではない。ただしどうしても事務系を採用するという場面では今後は「生産関連事務」が中心となっていく。とくに製造業を中心にその傾向が顕著になる。
生産関連事務とは、その会社の生産現場で働く人を管理したり、あるいは製造工程をチェックしたり、生産拠点からのロジスティクスを手配したり、子会社や下請けの責任者と折衝したり、取引先と密なコミュニケーションを取ったりといった、現場職・管理職・営業職をすべて兼務するタイプの事務職のことだ。事務と名を冠してはいるものの、どちらかというと「現場職」の成分が強めだ。

生産関連事務は事務職のなかでもやや特殊なカテゴリで、「自分の会社がどういう技術・商品を売っているのか」をその製造工程の段階からつぶさに知っている必要があるので、あえて文系を配属するメリットがない。どちらかというとそうした技術や製品のロジックに明るい理系人材をあてがったほうがパフォーマンスが良好となる。
ENEOSで起こっているのはおそらくAIやDXによるパイの減少だけではない。残された事務職が徐々に「生産関連事務職」相当になり、そこには文系より(すでに社内に在籍している)理系の人材を充填したほうがよいという経営判断があったからではないかと思料する。総務系や企画系職種も同様で、結局はITなど理系的スキルとハイブリッドさせなければ仕事が成り立たなくなっていて、こちらもすでにいる理系人材をローテーションさせたほうが効率的になっている。
理系職種の“花形”である研究系・開発系は理系院卒と高専卒が担い、生産関連事務は理系学部卒が中心になって担うというフォーメーションが組まれつつある。理系の学部卒が劣っているとかそういうことではなく、理系学部卒は院卒や高専卒よりも「文系の上位互換」としての役割を発揮してくれそうな、コミュニケーション能力的にもバランスのいい人材が多いからだ。
■「2040年に文系人材は35万人余る」
国もこの「文系人材の労働市場での飽和」には危機感を持っているようで、文系人材(ノースキル人材)をこれ以上世の中に増やしても仕方ないという認識のもとで改革を進めていく方針を示している。
10月に就任した松本洋平文部科学相は1日、報道各社のインタビューに応じ、理系人材の不足解消などに向けて「大学教育の構造改革に取り組む必要がある」と述べた。「大都市にある大規模大の文系学部に学生が偏っており、今のままだとさらに偏りが進行することが予想される」と指摘した。
2040年に理系人材が100万人不足し、文系人材は35万人余るとした経済産業省の推計に言及し「社会が期待する人材と日本の教育が輩出する人材との間に乖離(かいり)がある」との認識を示した。
日本経済新聞「『大学教育の構造改革に取り組む』 松本洋平文科相、文系偏重に懸念」(2025年12月1日)より引用(太字は筆者)

国から大学側には文系学部の整理を要求しているほか、定員割れを起こしているいわゆる「Fラン私立文系単科大学」には補助金・助成金をカットして暗に大学を閉じるよう促していく流れになっている。
全国に散在するFラン大学は「大学教員」という雇用を創出するためあるいは天下り文部官僚を養う受け皿でもあったわけだが、さすがに若者がまったく入学しなくなったハコをそのまま放置する口実をこれ以上は作れなくなってしまった。
今後は大学改革で文系学部学科の統廃合が進められていく。残された文系学部学科でもAI関連の必修化を促進していくという方向性が国から示されている。ただでさえ少なくなった若者を、AI化が進んでいく時代にまったくキャッチアップできていないノースキル文系人材として浪費するわけにはいかないからだ。
■座学が得意な子なら高専がおすすめ
いま日本で小さい子どもを育てている親世代の皆さんに助言しておきたい。
日本の労働市場はいま劇的な構造的変化を迎える過渡期であることを認識したうえで子育てをしたほうがよい。「なんとなく普通科の高校、なんとなく文系の大学に行っておけばいい」くらいのノリで、子どもを私立大学の文系学部に進ませたりすると、本当にあとで大変なことになってしまう可能性が高い。
2020年代以降の子育てでは、子どもは基本的に「理系な頭とガテンの体」を持てるようなバランスで育てるのがよい。教育は理系寄りにしながらも、いわゆるブルーカラー職に就くことも可能な体力・メンタル・気構え・環境を整えてあげるということだ。
私は工業高校に進むことを強く推奨しているし、座学の出来がよい子なら高専がよいだろう。現時点ですでに工業高校や高専の求人倍率はともに20~30倍と選びたい放題だ。また「高卒じゃずっと貧乏のまま」といった仕事観は完全に時代遅れだ。
さすがにアメリカの「ブルーカラービリオネア」ほど大げさではないにしても、待遇面でも学部卒を超えるようなところも当たり前に出てきている。
■何も考えずに大学に行くほうがリスク
むしろなにも考えずに下手な大学に行った方が、スキルはないくせにプライドばかり高くなって事務職以外の選択肢を選べなくなり結果として職にあぶれて「高学歴ニート」になって貧乏になりかねない。とくに東京では物価水準に昇給がまるで追いついておらず、大学を出た若者が貧しい暮らしを強いられている。
世の中の耳聡い人はすでにその時代の流れを察知していて、幼児教育も「秀才」から「体力」にその重点がシフトしつつある。
11月の晴れた朝、公園で遊んだ子どもたちが室内運動場に入ってきた。休憩を挟んで更に1時間、サッカーのドリブルをもとにした運動で体の使い方を学ぶ。
保育園「biima school」吉祥寺校(東京都武蔵野市)は2024年3月開園した。「正解の分からない時代には基礎体力や(意志・感情・社会性に関わる)非認知能力の鍛錬が生きる土台になる」と野辺健一郎園長は強調する。保育料は自治体補助を受けても月10万円ほどかかるが、運営する2園で計約50人がキャンセルを待つ。
日本経済新聞「さらば秀才、鍛えろカラダ AI時代備え月10万円保育園に殺到」(2026年1月4日)より引用

一般事務職・会計事務職・総務系事務職・人事系事務職・営業事務職など、とにかく事務職は(理系+現場系の要素が強い)生産管理事務職以外すべて余りに余っている。つまり文系の就業先がなくなるということだ。そのことを踏まえた上で、自分の子どもを育てていく必要がある。

■今までのルートでは生き残れない
事務職をとくに希望するのは男性より女性が多い。そのためAI時代はどちらかといえば男性より女性の雇用のパイが縮小されていく可能性が高い。女性が生き残るためには、男性がこれまで多く従事していたような、「理系でガテン」な領域への挑戦が不可欠になる。
彼女たちもしっかり泥臭い・汗臭い・男臭い仕事をやれるような心技体を整えておくべきだ。そうでないと選択肢が医療・介護職などに限られてしまう。医療・介護系職種はたしかに今後も高需要ではあるだろうが、しかし高待遇にはならない。なぜならこうした仕事は報酬が公的規制(医療報酬・介護報酬)によってグリップされているためだ。激しいインフレの時代には、旧来のルートをなぞるのではなく、もっとチャレンジングなキャリア形成が必要になる。
ともあれ、ここから数年(27卒~35卒くらいまで)の大学新卒の求人動向は、すべての人にとって注目に値する。なぜならそれがこの国の産業構造と労働市場の未来を暗示する青写真になっているからだ。

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御田寺 圭(みたてら・けい)

文筆家・ラジオパーソナリティー

会社員として働くかたわら、「テラケイ」「白饅頭」名義でインターネットを中心に、家族・労働・人間関係などをはじめとする広範な社会問題についての言論活動を行う。「SYNODOS(シノドス)」などに寄稿。
「note」での連載をまとめた初の著作『矛盾社会序説』(イースト・プレス)を2018年11月に刊行。近著に『ただしさに殺されないために』(大和書房)。「白饅頭note」はこちら

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(文筆家・ラジオパーソナリティー 御田寺 圭)
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