※本稿は、小林義崇『相続税調査でわかった 富裕層が大事にしている「お金の基本」』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。
■国税職員は敵か味方か? 私が体験した調査事例
国税職員に対して、「少しでも多く税金を取ろうとする怖い人たち」というイメージがあるかもしれません。しかし、それは半分正しく、半分は間違いです。
私が東京国税局の新人職員として受けた研修で教わったのは、「脱税と節税はまったく違う。我々が是正すべきは前者である」ということでした。国税職員の使命は、「適正申告・適正納税」の実現であり、法律に則った形であれば、何も問題はありません。
私個人としても、合法的な節税をする人に対して「ズルい」などと思ったことは一度もなく、むしろ賢明だと感じていました。しかし、脱税の証拠を見つけたときは、徹底的に追及しました。
私に限らず、多くの国税職員には、「誠実な相手には誠実に、悪質な相手には厳しく」という二面性があります。その背景には、国税庁という組織そのものがもつ多面性が挙げられます。なお、国税職員は次のような行動規範が定められています。
〈任務遂行に当たっての行動規範〉
1 納税者が申告・納税に関する法令解釈や事務手続などについて知ることができるよう、税務行政の透明性の確保に努める。
2 納税者が申告・納税する際の利便性の向上に努める。
3 税務行政の効率性を向上するため事務運営の改善に努める。
4 調査・滞納処分事務を的確に実施するため、資料・情報の積極的な収集・活用に努める。
5 悪質な脱税・滞納を行っている納税者には厳正に対応する。
〈職員の行動規範〉
1 納税者に対して誠実に対応する。
2 職務上知り得た秘密を守るとともに、綱紀を厳正に保持する。
3 職務の遂行に必要とされる専門知識の習得に努める。
■“取り締まりモード”にスイッチON
これを見てわかるように、国税職員は、税のことで困って相談に来る納税者には、誠実かつ丁寧に対応します。そのために来客対応や電話対応について学ぶ接遇研修なども行われており、常日頃から行政サービスの向上に努めています。
しかし、悪質な脱税や滞納をしている人に対してはその限りではありません。税務調査の場で粘り強く追及をしたり、関係者まで調査の手を広げたりと、厳しい対応にチェンジします。これは、警察官が犯罪者に厳しく対峙するのと同じです。
かくいう私自身も職員時代、税務署に相談に来られる方には丁寧に応対するよう心がけていましたが、税務調査のときに嘘をつかれたり、隠し口座を見つけたりしたときは“取り締まりモード”にスイッチを切り替えていました。
ある相続税調査のとき、亡くなった被相続人の預金通帳を見せてもらうと、複数回に分けて現金が引き出されていたケースがありました。ATMを使って毎日数百万円ずつ、合計すると8000万円ほどの大金です。これらの事実から想定できるのは、「相続人が、相続税逃れのためにお金を引き出したのでは?」ということでした。そこで唯一の相続人であった長男に直接尋ねたのですが、「父が引き出したと思うが、よくわかりません」といった答えが返ってきました。
このように相続税調査では、亡くなった人を引き合いにして答えを得られないことがよくあります。しかし、ここで国税職員が引き下がることはありません。真実を聞き出すためにさまざまな角度からアプローチをします。
■徹底的に質問して話を詰めていく
私は「この人は嘘をついているのか、それとも本当に知らないのか」ということを把握するため、さまざまな質問を重ねていきました。亡くなった父親が入院したのはいつからか。
意識があったのはいつまでだったのか。長男の1日の出勤時間や休憩時間、退社時間など、一つひとつ聞き取りを行ったのです。
すると、だんだんと話のつじつまが合わなくなっていきます。父親が入院していたはずの日にATMの操作があったり、「キャッシュカードは父親が常に携帯していた」と説明していたのに、「ときどき生活費のために父親の口座からお金を引き出すことはあった」と話したり、多くの矛盾が見られます。決定的だったのは、ATMが操作された時間を調べると、すべてが長男の会社の休憩時間と一致していたことです。
これらの点を指摘すると、長男はしばらく黙り込んだ末、観念した様子で「すみません……」と本当のことを話し始めました。やはり長男は昼休みの時間を使って父親の預金を引き出しており、そのお金はすべて銀行の貸金庫に隠していたといいます。理由を尋ねると、やはり「相続税を払いたくなかったから」とのことでした。
その調査を行っていた時点で、父親が亡くなって2年ほど経っていましたが、引き出された現金はすべて手つかずで貸金庫の中に残っていました。「いつ税務署にバレるか不安で、お金を使えなかった」との長男の言葉を聞き、やっぱり脱税は割に合わないものだと深く認識しました。
■年商数十億の起業家の話
以前、年商数十億円に上るという若手起業家のセミナーに参加する機会がありました。そのセミナーで税金が話題に出てきたので、私はてっきり「脱税スレスレの話が出てくるのでは」と思っていたのですが、その予想は完全に裏切られました。彼の話は、至極真っ当なものだったのです。
「経費として計上できるかどうか迷う時点でグレーということ。
「大きな売上が発生したら、入金前でも納税義務が生まれる。だから普段から無駄使いはせず納税に備えて資金を確保しておく」
結局、セミナーの最後に至るまで脱税じみた話は一切ありませんでした。その経営者の話から私が感じたのが、徹底した「守り」の意識です。成功する起業家というと、売上拡大などの「攻め」が目立ちますが、それ以上に「守り」をしっかり固めています。
年商が大きくなれば税務調査のターゲットになりやすく、脱税が発覚した際のダメージは会社の存続を揺るがすほど大きくなります。とくに「査察調査」と呼ばれる強制調査が行われれば、検察に告発されて逮捕・起訴に至る可能性さえあります。
ちなみに国税庁の発表によると、2023年度には査察調査を受けて裁判に至った一審判決83件のすべてが有罪判決となりました。
また、脱税をすると取引先や取引銀行にまで調査が及び、信用を根こそぎ失います。さらには、脱税をしたことがマスコミに大きく報道されてしまえば、事業の継続自体が困難になります。さらには、国税局や税務署は脱税を行った者の記録を残していますから、一度そのような記録がつけばその後も税務調査の対象として狙われやすくなります。
■一度嘘をつくと、負のスパイラルに陥る
脱税には、もう一つ怖い特徴があります。それは、一度嘘をつくと、その嘘を正当化するためにさらなる嘘が必要になり、負のスパイラルに陥ってしまうということです。
ある資産家から聞いた話ですが、彼の知人の経営者は、最初は「今期だけ」という軽い気持ちで売上を一部隠したものの、翌期以降もその金額が増え続け、最終的には引き返せない状況に追い込まれたといいます。そうして脱税の金額が大きくなったタイミングで税務調査が入り、巨額の追徴税を受けたそうです。
このように、大きな脱税行為も最初はほんの些細な出来心がきっかけということがあります。ちょっと税金を下げたくて契約書の偽造を一度したら、その嘘がバレないようにするために、銀行のお金を動かしたり、関係者と口裏を合わせたりして、どんどん取り返しがつかなくなっていきます。
賢くお金を残したいなら、あなたが選ぶべき方法は脱税では絶対にありません。正しい知識を身につけて堂々と「節税」をしてお金を残していきましょう。
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小林 義崇(こばやし・よしたか)
フリーライター
1981年福岡県生まれ。西南学院大学商学部卒業。2004年に東京国税局の国税専門官として採用され、以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務等に従事。2017年7月、東京国税局を退職し、フリーライターに転身。書籍や雑誌、ウェブメディアを中心とする精力的な執筆活動に加え、お金に関するセミナーを行っている。
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(フリーライター 小林 義崇)

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