副業解禁の流れが広がり、確定申告をする会社員が増えている。元国税専門官の小林義崇さんは「確定申告に不慣れな会社員ほど、税務署がここは怪しいと感じる地雷を踏んでしまいがちだ」という――。

■万年赤字の副業は税務署から狙われる
2月16日から始まった確定申告(~3月16日)だが、副業ビジネスパーソンも申告するケースが増えている。申告者は自営業者やフリーランス、給与が2000万円を超える人や年金生活者などが多い中、税務署は副業の所得(年20万円超)があるビジネスパーソンに関して、どこに注目するのか。
最初に意識を向けるのは「副業の赤字」です。
副業の所得を「事業所得」として申告すると、赤字が出た場合に本業の給与所得と損益通算ができます。たとえば副業で50万円の赤字が出れば、本業の給与所得から50万円を差し引くことができるため、源泉徴収された所得税が還付されるわけです。
この仕組み自体は税法上認められたものですが、問題になるのは「毎年赤字が続いている」ケースです。
税務署の内部では、損益通算による還付申告案件があるとその内容を精査することになります。1年だけなら「事業の立ち上げ期だろう」で済みますが、2年、3年と連続で赤字が続くと、担当者は目をきらりと光らせて念入りにチェックし、話は変わってきます。調査官の頭の中には「この人は本当に事業をしているのか? 趣味でやっていることを事業と称して、給与の税金を取り戻そうとしているのではないか」という疑問が浮かぶのです。
そもそも赤字を給与などと損益通算するには、「事業所得」として確定申告を行う必要があります。しかし、副業の内容によっては、「事業所得」ではなく「雑所得」(原稿料、講演料、デザイン料、アフィリエイト、ネット販売、暗号資産取引の利益など)という扱いになり、この場合、損益通算が認められなくなります。つまり、赤字を出しても給与所得から差し引くことができなくなるのです。
所得税還付のストーリーが根底から覆ります。
国税庁は2022年の所得税基本通達の改正において、副業収入などの区分について「収入金額が300万円以下で帳簿書類の保存がない場合には雑所得として取り扱う」旨を示しました。
一方で、収入金額が300万円以下であっても帳簿書類を適切に作成・保存していれば、事業所得に区分される余地があることも示されており、「300万円以下は一律に雑所得」という取扱いではありません。
もっとも、「帳簿をつけて保存していれば自動的に事業所得になる」わけではなく、帳簿の有無は多数ある判断要素の一つに過ぎないことに注意が必要です。
税務署は、その所得を得る活動について「反復継続性があるか」「営利性が認められるか」「社会通念上、独立した事業と称するに至る程度か」といった点を総合的に検討し、事業所得か雑所得かを判断します。
年間の副業収入が数十万円しかなく、それに対して100万円以上の経費を計上して毎年赤字にしているような申告書は、まさに「怪しい」の典型です。調査官から見れば、「カメラが趣味の人が機材を買い替えて、その費用を副業の経費にしているのではないか」といった仮説が立つのです。
■税務署は見逃さない「KSKシステム」の威力
「副業の経費を多少水増ししても、バレないだろう」と思っている方がいたら、その考えは改めたほうがいいでしょう。
税務署には「KSK(国税総合管理)システム」と呼ばれる基幹システムがあります。全国の国税局と税務署をネットワークで結び、納税者の申告内容、過去の申告履歴、取引先からの支払調書、不動産や金融資産の情報などを一元管理しています。このシステムは2001年から本格運用されており、すでに20年以上にわたるデータが蓄積されています。
KSKシステムには膨大なデータが蓄積されているので、異常値の検出が可能です。
たとえば同じ業種・同じ規模の事業者と比較して、特定の経費科目が突出して大きい場合、システムがそれを検知する可能性があります。たとえば、年間売上200万円のウェブデザイナーが「旅費交通費」に180万円を計上していれば、同業者の平均との乖離が目立つのです。
調査官はこうした異常値を手がかりに、どの納税者を調査対象にするかを選定していきます。税務署は最大で過去5年分(悪質な場合は7年分)をさかのぼって調査できますから、3年前の経費の水増しが今年になって指摘される、ということも珍しくありません。
経費の水増しだけでなく、収入の申告漏れも、いずれ税務署にバレます。副業ビジネスパーソンの場合は、勤務先が税務署に提出する「給与支払報告書」や、取引先が提出する「支払調書」によって、収入の全体像が税務署に把握されています。副業の取引先から年間50万円の報酬を受け取っているのに、確定申告書に記載がなければ、それだけで「申告漏れ」として調査の対象になり得ます。
■家族に給料を払うなら2文字が重要
副業が軌道に乗ってきた場合も注意が必要です。売上もアップして「妻(夫)に手伝ってもらっているから給料を払いたい」と考える方が出てきます。青色申告の「専従者給与」は、家族への給与を全額経費にできる強力な節税策ですが、ここにも税務署が厳しく目を光らせるポイントがあります。
まず、大前提として専従者給与を経費にするためには、事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出しなければなりません。届出なしに家族への支払いを経費にしている申告書は、調査官から見れば一目で「問題あり」と判断されます。

次に、専従者の「従事期間」です。青色事業専従者として認められるには、原則としてその年を通じて6カ月を超える期間、その事業に専ら従事していることが必要です。ここで「専ら」の2文字が重要ポイントで、たとえば妻が別の仕事をしながら夫の副業を手伝っている場合、「専従」の要件を満たさないと判断されるおそれがあります。
さらに、給与の金額が「労務の対価として相当」かどうかも重要なポイントです。たとえば、月に数時間の事務作業しかしていないのに、月額30万円の給与を支払っていれば、やはり過大として経費が認められなくなります。
家族への給与が否認されると、経費から外れるだけでなく、過少申告加算税や延滞税といったペナルティの対象にもなります。専従者給与は正しく使えば大きな節税効果がありますが、実態が伴わなければ追徴課税を招く両刃の剣なのです。
■調査官が最も嫌う「家計費の混入」
副業の確定申告に限りませんが、税務調査において調査官がとくに気にするのが、個人的な支出を事業の経費に紛れ込ませるケースです。
典型的なパターンをいくつか紹介しましょう。
まず、土日の外食費を「打ち合わせ費」として経費に計上するケース。調査官は領収書の日付を確認し、「この日は土曜日ですが、どなたと打ち合わせをされましたか?」と聞いてくるでしょう。
次に、家族旅行を「研修費」などとして処理するケース。
調査官は「研修の目的と成果を教えてください」と、場所と目的の整合性を突いてきます。旅行先が観光地で、同行者が家族であれば、それは確実に経費を否認されます。
さらに、日常的なスーパーやドラッグストアの領収書が経費に入っているケースも、調査官の目を引きます。「消耗品費」に計上されていても、購入品目が洗剤や食料品であれば、事業との関連性を説明するのは困難です。
経費として認められるためには、その支出が事業の遂行上「直接必要」であることを説明できなければなりません。たとえ領収書を残していても、その中身によって経費になるかどうかを判定されます。
■税務署から電話「絶対にやってはいけないNG対応」
最後に、実際に税務調査の連絡が来た場合の対応についてお伝えします。税務署から電話がかかってきたとき、対応を誤ると事態を悪化させてしまうことがあります。
NGケース① 電話を無視する、居留守を使う
税務署からの電話に出ない、あるいは折り返さないという対応は、最悪の選択です。
そもそも税務署からの最初の連絡は、正式な「税務調査」ではなく、「行政指導」として行われるケースも少なくありません。行政指導とは、申告内容に疑問点があるため自主的な見直しや修正申告を促すもので、あくまで任意の協力要請です。この段階で素直に応じて修正申告をすれば、加算税が軽減される、あるいはかからないこともあり、比較的軽い対応で済みます。

ところが、この電話を無視し続けると、税務署側は「行政指導では対応が得られない」と判断し、正式な税務調査へと移行します。調査官は「何か隠しているのではないか」と疑いを強め、より厳しい姿勢で調査に臨むことになります。
つまり、電話一本を無視しただけで、修正申告で穏便に済んだはずの話が、本格的な税務調査へとエスカレートしてしまうのです。税務署からの着信に気づいたら、できるだけ早く折り返すようにしましょう。
NGケース② パニックになって調査日程を決める
税務署が税務調査の連絡をするとき、「○月○日に伺いたいのですが」と具体的な日程を提示してきます。相手がお役所だけに、「断ったら印象が悪くなるのでは」と思い、つい「わかりました」と答えてしまいたくなるかもしれません。
しかし、調査日程は交渉できるものです。準備不足のまま調査を迎えると、本来なら説明できたはずの経費の根拠を示せなかったり、領収書の整理が間に合わなかったりと、不利な結果につながります。調査で問われるのは「当日どれだけきちんと説明できるか」ですから、準備期間の確保は結果を大きく左右します。
電話では「スケジュールを確認して折り返します」と伝えて一旦切りましょう。その間に帳簿や領収書を整理し、必要に応じて税理士に相談する時間を確保してください。
NGケース③ 調査前に帳簿や領収書を「整理」
調査が決まると、「あの経費、ちょっとまずいかも……」と不安になり、都合の悪い領収書を抜いたり、帳簿の数字を書き換えたりしたくなるかもしれません。
しかし、これは最もやってはいけない行為です。
帳簿や書類に手を加える行為は、税法上「隠蔽・仮装」とみなされ、重加算税の対象になります。税率は過少申告の場合で35%、無申告の場合で40%にのぼり、通常の加算税とは比較にならない重さです。さらに、悪質と判断されれば刑事告発に発展するケースもあります。
一方で、帳簿に多少の計上ミスや曖昧な経費があったとしても、それ自体は珍しいことではありません。調査の場で「この部分は認識が曖昧でした」と正直に説明すれば、修正申告と過少申告加算税(5~15%)で済むのが通常の流れです。
つまり、下手に証拠を消すほうが、はるかに大きな代償を払うことになります。不安な経費があるなら、抜くのではなく、調査までの間に、説明できるようにロジックを整理しておくのが正しい対処法です。
税務署からの連絡は確かに驚くものですが、誠実に対応すれば過度に恐れる必要はありません。きちんと帳簿をつけ、経費の根拠を説明できる状態であれば、調査は比較的スムーズに進みます。
確定申告は、自分の所得と税額を「自ら申告する」制度です。副業の申告で大切なのは、「いかに税金を安くするか」ではなく、「いかに正しく申告するか」です。正しい申告をしていれば、たとえ税務調査が入っても怖いことは何もありません。

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小林 義崇(こばやし・よしたか)

フリーライター

1981年福岡県生まれ。西南学院大学商学部卒業。2004年に東京国税局の国税専門官として採用され、以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務等に従事。2017年7月、東京国税局を退職し、フリーライターに転身。書籍や雑誌、ウェブメディアを中心とする精力的な執筆活動に加え、お金に関するセミナーを行っている。『すみません、金利ってなんですか?』『僕らを守るお金の教室』(ともにサンマーク出版)、『元国税専門官がこっそり教える あなたの隣の億万長者』(ダイヤモンド社)、『2050年のインド経済 急成長する巨大市場の現在地と未来図』(NEXTRAVELER BOOKS)ほか著書多数。

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(フリーライター 小林 義崇)
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