※本稿は、中島美鈴『なぜあの人は時間を守れないのか』(PHP新書)の一部を再編集したものです。
■3歳→5歳は子どもの成長に非常に重要
ここでは、どのように実行機能が成長していくのか、それにはどのような要因が影響するのかについて研究知見をご紹介していきます。
子どもの実行機能は、発達の初期段階から少しずつ芽生えていますが、特に3歳から5歳にかけて大きな伸びを示すことが、研究から明らかになっています。実行機能の中核をなす「抑制」や「認知的柔軟性」は、この時期に急速に発達し、行動や学習の質を大きく変化させます。
たとえばステーラントら(2012)(※1)は、子どもに対して「今すぐ小さなご褒美を受け取るか、少し待てばもっと大きなご褒美を得られるか」という交換課題を行いました。その結果、3歳児では衝動的に即座の報酬を選ぶことが多いのに対し、5歳児になると待つことができる子どもが増えることが示されました。これは、自己の欲求を抑え、将来の利益を見越して行動できる抑制機能が、この時期に急速に高まることを示しています。
また、森口&平木(2009)(※2)は、幼児に「色で分類する課題」から「形で分類する課題」へとルールを切り替える実験を行い、その際の脳活動を調べました。その結果、3歳児ではルールの切り替えが難しく前のルールに固執することが多い一方で、5歳児になると柔軟に切り替えができるようになりました。さらに、脳の外側前頭前野の働きが活発になることによって、この時期に実行機能が著しく発達することが明らかになりました。
■睡眠とメディア視聴の影響
この2つの研究を合わせると、3歳から5歳の間に、衝動を抑えて「待つ」力や、状況に応じて「切り替える」力といった実行機能の柱が大きく伸びることがわかります。
つまり、この時期は、目先の快楽に流されずに我慢したり、固まった考えから柔軟に切り替えたりする能力が飛躍的に発達する重要な時期であり、子どもが社会的なルールや学習の枠組みに適応していく基盤を築く時期だといえます。
実行機能の発達には、遺伝的要因と環境的要因の両方が影響するといわれていますが、特に子どものときは環境的要因がより重要です。環境的要因とは、生活習慣や日常の環境を指します。何時に食事を摂り、家族同士でどのようなやりとりをして、夫婦はどのような関係なのか、近所付き合いはどうなのか、親が子どもにどのような関わり方をしているのか、一人部屋を持っているのかなど多岐にわたります。
これらの中でも特に睡眠とメディア視聴は、本人や家族にとって身近であるにもかかわらず、将来の「考える力」や「我慢する力」に直結することが、近年の研究で明らかになっています。
まず、睡眠に関する研究です。サデー、グルーバー&ラヴィヴ(2003)(※3)は、小学生をランダムに2つのグループに分け、一方は普段より1時間早く寝かせて睡眠時間を延長し、もう一方は1時間遅く寝かせて睡眠時間を短縮するという実験を行いました。
■「お昼寝しているから大丈夫」はNG
その結果、早寝して十分に眠った子どもは、翌日の実行機能課題や注意課題の成績が良く、逆に夜更かしして睡眠時間が短かった子どもは反応が遅れたり、ミスが増えたりすることが確認されました。わずか1時間の違いであっても、子どもの認知機能に大きな影響が出ることを示したのです。
さらに、ベルニエ、カールソン、ボルドロー&キャリアー(2010)(※4)は、1歳時点での睡眠の規則性と質が、その後の実行機能の発達にどのように影響するかを縦断的に追跡しました。
その結果、昼寝で不足を補うよりも、夜間にまとまった睡眠をとれている子どものほうが、4歳時点で計画性や抑制、注意の持続といった実行機能が高いことが明らかになりました。日本は世界の中でも子どもの睡眠時間が短いことで知られています。
中には「保育園でしっかり昼寝させているから、大丈夫」と口にする大人もいますが、実行機能の発達においては昼寝で補うことは難しそうですね。
一方で、メディア視聴の影響も無視できません。バー、ローリチェラ、ザック&カルバート(2010)(※5)は、1歳児のときに大人向けのテレビ番組が長時間つけっぱなしになっていた家庭では、4歳時点の実行機能の成績が低いことを報告しました。
■赤ちゃんの集中を奪う親の行動
本来ならば、1歳の好奇心に溢れた感性で、初めて目にする世界を理解し、触れて、遊びに没頭することこそが、子どもの発達を促進するはずなのです。しかしだらだらとつけっぱなしのテレビは魅力的で、赤ちゃんの集中をたびたび奪います。これが繰り返されることがよくないようです。
受け身で晒さらされるといえば、スマートフォン、タブレット端末などのデジタル映像機器は、さらに身近なアイテムです。これらが子どもの実行機能にどう関わるかをめぐっては、単純に「長く見せれば悪い」という見方だけでは語り切れないという研究の流れが目立っています。
ブスタマンテら(2023)(※6)の大規模なメタ分析は、0~6歳の子ども約7000人分のデータを検討しました。その結果、スクリーン時間と実行機能の間に一貫した負の関連は見つかりませんでした。つまり、「長く見れば必ず害になる」と単純に言えるわけではないのです。一方で、マクハーグら(2020)(※7)の追跡研究では、3歳前後の幼児を対象に、スクリーン時間が多い子ほど実行機能の得点が低いことが示されました。
■テレビを見ている時にすべきこと
この関連は時間が経ってもある程度残っており、「使い方次第で発達に響く可能性」を示唆しています。マラワーラチら(2024)(※8)のメタ分析は、視聴の「文脈」に注目しました。流しっぱなしのテレビや、年齢に合わない番組は、認知や情緒の発達と負の関連を示した一方で、親子で一緒に番組を見て会話する「共同視聴」は、むしろ認知的なプラス効果が見られました。
また、チャンら(2017)(※9)は中国の就学前児童を調べ、視聴時間が長いほど実行機能は低くなる傾向を確認しましたが、親が「今のシーンはこういう意味だよ」と説明したりルールを設けたりすると、その悪影響は弱まることを示しました。つまり「どんな文脈で見るか」がなのです。
また、メディア視聴時間が長いことは、他の活動に費やす時間が少ないことを示しています。結果的に会話が少ない、運動時間が少ない、睡眠時間が少ないということになり、これらが実行機能の発達に影響している可能性は見過ごせません。さまざまな限界はあるものの、研究の知見を踏まえると、デジタルメディアとの付き合い方で大事なのは「量」ではなく「質と文脈」です。
■子どもと「テレビ・スマホ」との付き合い方
次のような工夫は、すぐに実践できるでしょう。
寝る前は画面を避ける:夜のブルーライトや刺激的な映像は眠りを妨げます。就寝1時間前からは本を読んだり親子でおしゃべりしたりするほうが、翌日の集中力に結びつきます。
親子で一緒に見る:教育番組や動物ドキュメンタリーを一緒に見て、「どの動物が好き?」「どうしてこうなったと思う?」と声をかけることで、会話が学びになります。
テレビを“流しっぱなし”にしない:BGM代わりにテレビをつけておく習慣は避け、見るときは「今から見る」と区切りをつけると、子どもの注意の切り替えがうまく育ちます。
時間より中身を意識する:暴力的で速い展開の映像よりも、ゆったりしたリズムの番組や教育的アプリを優先しましょう。
視聴後の一言を習慣に:「今日の番組で一番面白かったのはどこ?」と聞くだけでも、理解を整理する実行機能の練習になります。
スマートフォンが普及し、教育場面でもデジタルコンテンツは欠かせないものとなりました。使用を無にすることはもはや不可能でしょう。むしろ使用しない手はありません。「質と文脈を整えることで、発達にとってプラスにもマイナスにもなりうる」という視点を持ち、親子で関わりながら適切に使うことで、子どもの認知や実行機能を育てるための新しい資源に変えられるのです。
※1 Steelandt, S., Thierry, B., Broihanne, M. H., & Dufour, V. (2012). The ability of children to delay gratification in an exchange task. Cognition, 122(3), 416-425.
※2 Moriguchi, Y., & Hiraki, K. (2009). Neural origin of cognitive shifting in young children. Proceedings of the National Academy of Sciences, 106(14), 6017-6021.
※3 Sadeh, A., Gruber, R., & Raviv, A. (2003). The effects of sleep restriction and extension on school-age children: What a difference an hour makes. Child Development, 74(2), 444-455.
※4 Bernier, A., Carlson, S. M., Bordeleau, S., & Carrier, J. (2010). Relations between physiological and cognitive regulatory systems: Infant sleep regulation and subsequent executive functioning. Child Development, 81(6), 1739-1752.
※5 Barr, R., Lauricella, A. R., Zack, E., & Calvert, S. L. 2010). The relation between infant exposure to television and executive functioning, cognitive skills, and school readiness at age four. Merrill Palmer Quarterly, 56, 21-48.
※6 Bustamante, J. C., Fernandez-Castilla, B., & Alcaraz-Iborra, M. (2023). Relation between executive functions and screen time exposure in under 6 year-olds: A meta-analysis. Computers in Human Behavior, 145, Article 107739.
※7 McHarg, G., Louie, R. H. Y., Todd, M., & Howard, S. J. (2020). Screen Time and Executive Function in Toddlerhood. Journal of Developmental & Behavioral Pediatrics, 41(4), 241-248.
※8 Mallawaarachchi, S., Burley, J., Mavilidi, M., et al. (2024). Early Childhood Screen Use Contexts and Cognitive and Psychosocial Outcomes: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Pediatrics, 178(10), 1017-1026.
※9 Zhang, L., Pan, Y., Zhou, Y., & Chan, L. (2017). The Relations between Television Exposure and Executive Function in Chinese Preschoolers: The Moderated Role of Parental Mediation Behaviors. Frontiers in Psychology, 8, 1833.
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中島 美鈴(なかしま・みすず)
臨床心理士
福岡県生まれ、臨床心理士。専門は認知行動療法。2020年、九州大学大学院人間環境学府博士後期課程修了。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部などでの勤務を経て、現在は九州大学大学院人間環境学府で学術協力研究員、肥前精神医療センター臨床研究部非常勤研究員。主な著書に『マンガで成功 自分の時間をとりもどす 時間管理大全』(主婦の友社)、『もしかして、私、大人のADHD? 認知行動療法で「生きづらさ」を解決する』(光文社新書)、『会社でいちいち傷つかない 認知行動療法が教える、心を守り成果を出すための考え方と行動』(日経BP)など。
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(臨床心理士 中島 美鈴)

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