※本稿は、規格外『すべては言葉からはじまる』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。
■ビジネスの模倣の本質を突いた田中角栄の言葉
かつて田中角栄氏が、モノマネの上手な代議士を評して「モノマネの上手い人間は大成しない」と語ったそうである。
この言葉はビジネスにおける模倣の本質を突いている。思い出すのが、クロネコヤマトが宅配便市場で大成功を収めた後に起きた「動物戦争」のエピソード。
クロネコヤマトの後に、動物名を冠した宅配サービスが約40社も現れたが、結局どこも本家を超えられなかった。これは、成功の背後にある本質的な構造を捉えず、名称という表面的な要素だけを変える「あからさまなモノマネ(パクリ)」の愚かさを如実に示している。
模倣には二種類ある。一つは誰の目にも明らかな表層的な模倣。当人が「ハックした」と得意になっても、周囲から見れば二番煎じに過ぎず、ブランド価値を毀損する逆効果となる。
一方で、真に賢明な経営者やビジネスパーソンが志すべきは、構造レベルでの「深い模倣」。対象を徹底的に観察し、その成功を支える仕組み、オペレーション、思想といった骨格を抽出し、換骨奪胎の上で自らの土俵に移し替える。
この「深い模倣」は、表層をなぞるだけでは不可能な、一定以上の知性と洞察力を必要とする難事業。だからこそ、大きな成果と持続的な優位性につながる。
クロネコヤマトの成功と、その後に続いた模倣の失敗は、田中角栄氏の言葉を強く裏付ける。単なるモノマネだけでは先行者に劣後するが、構造を掴み、再構築できた者は革新者となれる。
■「勝てる」と確信を持てる場所にフルベット
あれこれ手を広げ、同時並行で成果を追う「資源の逐次投入」は愚策であり、リソースの無駄遣いに他ならない。
勝ち筋は、「完勝できる戦域を見極め、そこに資源を一点集中で投下する」ところにある。これが人生戦略の核心といえる。
試行錯誤するところから始めて、勝てないと判断した瞬間にきっぱりと撤退する「見切りの早さ」が、次なる勝利を呼び込む余力となる。
次に、一度勝利を収めても、すぐに次の戦場を探すのは悪手である。最優先すべきは、成果を上げられた領域を盤石化すること。すなわち「成果が安定して産出される状態」にまで徹底して磨き上げること。
このサイクルを愚直に繰り返すことで、コントロールできる領域が徐々に拡張され、人生やビジネスの安定度は揺るぎないものとなる。
一気に成功したように見える人もいるが、実際のところ長く安定した成果を上げ続けている人の実態は「見極め→集中→コントロール領域の拡張」を繰り返しているにすぎない。
結局のところ、人生は「勝てる戦域にいかに資源を集中させるか」にかかっている。
■「決定的な成果をもたらす、わずかな部分」
「石にも目がある」といわれる。どんなに硬い石でも割れやすい方向は必ずあって、それを「石目」という。同様に、物事には必ず急所が存在する。そこを突けば、わずかな力で巨岩を砕くことすら可能となる。
ビジネスも同じ構造を持つ。成果を左右するのは、努力の総量ではなく「どこを押すか」という一点にある。
急所を外しての努力は、 逆に徒労に終わる。つまり、事象から「決定的な成果をもたらす、わずかな部分」を見抜き、特定する能力を鍛えることが大事ということ。
この見極めは、机上の「お勉強」だけでは決して身につかない。
この往復によって、経験と学習が噛み合い、急所を把握する力が身につくようになる。
思いついたことを躊躇なく試し、さまざまな経験を重ねるのと並行して行う座学は、数々の事象の裏にある共通構造の効果的な理解を促してくれる。
そうこうするうちに、やがて個別の経験が抽象化され、「汎用性を帯びた知恵」へと転換される。
すなわち状況が変わっても急所を見抜けるようになる。この状態に至ると、安定して成果を出し続けられるようになる。
■成果は「戦う場所」と「投下エネルギー」の掛け算
成果は「戦う場所」と「投下エネルギー」の掛け算で決まる。適所を見つければ1の力で大きな成果を出せるが、そうでなければ10の力を注いでも投資効率は大幅に減衰する。
つまり努力の総量より、「努力が最大化される場所」に身を置けるかが決定的に重要ということ。
ひとたび適所を見つけられれば、一気に加速する。結果が出れば面白くなり、面白ければさらに努力を続けられる。
ここまでくれば、リスクなく「勝ちが確定しているゲーム」に参加するようなものとなる。
そのゲームに参加するためには、人生の早い段階で適所を見つけることが大切。そして、そこまでに求められるのは「諦めの悪さ」ではなく、むしろ「諦めの良さ」。
合わないと思ったら躊躇なく方向転換し、苦労せずとも成果が現れ、能力が自然に開発される土壌を探すべき。
不向きな場所からの撤退は逃げではなく、労力その他を投資するに際しての合理的な意思決定。粘り強さは「ここを主戦場とする」と確信できる場所にたどり着いたあと、発揮すればよい。
商売を続けるための生命線は、顧客の意識に常に残り、優先順位リストの順位を上げ続けるところにある。
売上が立たない理由は単純である。
「顧客にお金がないから」ではなく、「顧客の優先順位リストに、あなたの商品・サービスが入っていないから」に尽きる。
人間には可処分注意力、可処分時間、可処分所得という有限の資源があるが、誰もがこの三つを優先順位の高いものから順番に配分して生きている。
そのため、顧客にとって上位に位置づけられない商品は、どれだけ良いものでも「なかったこと」にされる。
財布が空なのではない。時間がないのでもない。
ビジネスとは、まさに比例代表制に似ている。顧客の頭の中にある優先順位リストで上位に入れば、議席(購入)は確定する。
逆に下位に沈んだ瞬間、あなたの商品は存在しないのと同じになる。このことを理解し、顧客の意識に常に残り、優先順位リストの順位を上げ続けることが、商売を続けるための生命線となる。
■提供価値を高め、顧客に驚きを与える
ビジネスにおいて大事なのは「顧客の期待を圧倒的に上回る」こと。
顧客の期待に応えるだけでは足りない。期待を多少超える程度でもすぐ模倣される上、驚きも生まれない。
だが、圧倒的に上回る体験は、他者に再現されることがなくなる。その顧客体験が「この人(会社)からでなければ」と思ってもらえる信頼の源泉となる。
「卓越」「断トツ」といった言葉が顧客の口から自然に出るところまで、自身や商品を磨き続けるのが商売人の王道。
その域に到達できれば、営業不要となる。顧客の方から「ぜひ、あなたから買いたい」と言ってもらえるようになる上、紹介も生まれるから。
ドラッカーは「マーケティングの目的はセリング(売り込み)を不要にすること」と記している。最強のマーケティングは、提供価値を高め、顧客に驚きを与えようとする覚悟と努力の積み重ねの先にのみ、存在する。
そこで生み出される圧倒的な価値は、単なる一時の感動で終わらない。顧客の心に深く根を張り、長期的な信頼をもたらす。
ただし、この関係性は目先の利益を捨てる非合理的な覚悟と、絶え間ない試行錯誤によってのみ築かれる。
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規格外(きかくがい)
経営者
京都大学大学院中退。米系グローバル企業を経て、起業。ニッチ市場をゼロから創造し、20年以上にわたって億単位の営業利益を継続。自身の挫折と成功の経験から、「使う言葉を変えるだけで、人生いつからでも作り変えられる」という信念に至る。Xフォロワー数6.6万人。
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(経営者 規格外)

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