風邪はもっとも身近な病気だが、だからこそ誤解が多い病気でもある。小児科医の森戸やすみさんは「体を温めたり、薬を飲んだりしても早く治るわけではない。
それよりも大事なことがある」という――。
■風邪のウイルス特定はほぼ不可能
まだまだ寒い日が続きますね。今まさに風邪をひいているという人も多いでしょう。特に子どもが風邪をひくと、大人にもうつりがちで大変ですよね。
風邪(風邪症候群)は、私たちにとって一番身近な病気です。鼻水や咳が出たり、発熱したりする場合を「風邪」または「上気道炎」と呼びます。そのほか、腹痛、軽い嘔吐や下痢をしたりする場合を「お腹の風邪」と呼ぶこともありますね。
子どもの場合、未就学児は1年間に6~10回くらい風邪をひきます。いろいろな風邪をひいて経験を積むと回数は減っていき、小学生以降はかなり少なくなります。大人の場合は1年間に2~4回の頻度で風邪をひきますが、子どもと接する機会の多い人は回数が多いでしょう。
こうした風邪の原因は、ウイルスや細菌です。ただし、ウイルス性であることが80~90%と多く、抗菌薬(抗生物質)は効きません。
風邪を起こすウイルスの30~50%がライノウイルスですが、その血清型は100種類以上あります。他に風邪の原因となるウイルスだけでも少なくとも数十種類あるので、原因の特定はほぼ不可能です。
■「風邪をすぐに治す方法」はない
風邪はありふれた病気だからこそ、その治療法やケアについては、さまざまな誤解が広まっています。
まず、風邪は早く薬を飲めば早く治ると思われていますが、そんなことはありません。先に述べたように風邪の原因は特定できないため、インフルエンザや水痘のような「抗ウイルス薬」がありません。だから治療といっても、原因に働きかける「根治療法」ではなく、熱や痛みなどの症状を和らげる「対症療法」しかないのです。つまり、風邪薬のテレビCMなどの「早く飲んで早く治す」というのは、本当に早く治るのではなく、症状を軽くするという意味でしょう。
また、小児科や耳鼻科のクリニックに何度も通ったり、別のクリニックに代えたりしても早く治ることはありません。たまに「昨日、別の小児科に行って薬をもらったんですけどよくならないので、今日はここに来ました」と受診される方がいます。
お子さんが心配な気持ちはよくわかりますが、風邪がたちどころに治る薬はないので、むしろ同じクリニックに「よくならないです」といってかかったほうが、経過がわかっていい場合が多いでしょう。本当に医療機関を再受診したほうがいいのは、症状が続いているのに薬がなくなりそうなとき、症状がひどくなってきたとき、他の病気を疑うときです。
■ビタミンの風邪への効果は小さい
風邪には、民間療法などでもいろいろな説がありますね。
診察室で、風邪のときはビタミンをたくさん摂るほうがいいかを聞かれることがあります。でも、普通の食事を摂っていれば、ビタミンが欠乏することはありません。特にビタミンが欠乏していないのに飲み薬やサプリメント、点滴などで投与しても、より健康になることはなく、ビタミンの種類によっては過剰症の心配もあります。
「でも、私はビタミンCが効いた」と言う人もいるかもしれません。風邪は数日から1週間で自然に治るので、一番つらい時期にビタミンCを摂ると、その後に「効いてきた」と感じることがあるでしょう。実際のメタ解析では、風邪の期間を半日~1日未満短くする可能性があるという報告があります(※1)。このメタ解析では、数日にわたってビタミンCを1日200mg以上(論文によっては1g)を摂った場合を評価していますが、重症度の改善が一貫して示されたわけではなく、効果が低いといえます。
ですから、風邪で具合が悪いときに頑張ってビタミンCの多い食品やサプリメントを摂るよりも、ゆっくり休んだほうがいいと思います。もちろん、冬から春にかけてはリンゴやミカン、イチゴ、キウイなどが旬でたくさん出まわるので、好きな人は食べましょう。
※1 Vitamin C for preventing and treating the common cold - PubMed
■子どもに「ニンニク注射」はダメ
「いわゆるニンニク注射でラクになった」という人もいるかもしれません。ニンニク注射には、実際にニンニクが入っているわけではなく、ビタミンB1やその吸収と持続性を高めたフルスルチアミン、アリナミンFが主成分。医療機関によっては、ビタミンB2、B6、B12、ビタミンC、グルタチオンを組み合わせることもあるようです。

成人が自費診療としてニンニク注射を受けるのは、強い疲労感やだるさ、過労、ストレスを強く感じているとき、風邪を引き始めたときに、ビタミンB1の糖質代謝や神経・筋のエネルギー産生を助ける働きに期待するからのようです。風邪のウイルスへの効果は証明されていませんが、ニンニク注射はビタミンB1の欠乏症があったら効果があり、水溶性ビタミンなので過剰症の心配はないでしょう。
でも、小児にはすすめられません。日本において普通に食事をしていたら、ビタミンB1欠乏症にはなりません。極端な偏食や重度の栄養障害、慢性疾患で栄養がバランスよく摂れないときには保険診療で補充しましょう。そして、注射は痛い、怖いというイメージがあり、子どもが自ら進んで受けることはないでしょう。必要性の低い介入は、小児では避けるべきです。
■食事や飲み物は好きなものでいい
では、風邪のときの食事はどうしたらいいでしょうか。特に食べなければならないものはありません。子どもは食欲がないときに無理をして食べると気分が悪くなることが多いので、少しよくなるまでだけは好きなものを食べさせるのがいいかもしれません。
乳幼児で「母乳やミルクなら飲むけれど、食べない」というのはよくあることです。「せっかく離乳食が進んでいたのに」と残念に思うかもしれませんが、頑張って食事をさせたら早く治るというわけではないので、無理をさせないようにしましょう。

お粥やうどんなどの消化によい食事が好きなら与え、そういったものが嫌いだったら普段から食べ慣れている好きな料理でかまいません。日本では昔から体調が悪いときにはお粥を与えることが多いですが、海外では胃腸炎のときに「BRAT」といってバナナ、米、アップルソース、トースト、お茶がすすめられていたようです。現在はどれも食べなくてはいけないものではなく、通常の食事でいいとされています(※2)。
同様に飲み物もなんでもかまいません。嘔吐や下痢がひどく脱水が心配な場合は、水分と糖分と塩分が一度に摂れる「経口補水液」がいいでしょう。ただ、よく誤解されるのですが、経口補水液やスポーツ飲料は栄養満点なわけではないので、風邪のときに必ずしも必要ではありません。
※2 European Society for Pediatric Gastroenterology, Hepatology, and Nutrition/European Society for Pediatric Infectious Diseases evidence-based guidelines for the management of acute gastroenteritis in children in Europe: update 2014 - PubMed
■汗をかいても熱は早く下がらない
風邪を治すために、生活上でできることはあるでしょうか。
たまに診察室で聞かれるのは、「体を温めてたくさん汗をかくと早く治りますか?」という質問です。じつは私自身が子ども時代、祖母や母から「たくさん汗をかいたら熱が下がって風邪が治る」といわれてきました。でも、そうではないでしょう。
私たちの体はウイルスや細菌などの病原微生物に侵入されると、それらと戦うために有利になるので体温を上げます。これが風邪をひくと発熱する理由です。
そして病原微生物に打ち勝つと、体温を下げるために汗が出ます。つまり、風邪が治ったら汗が出るのであって、汗が出たら風邪が治るわけではありません。熱中症や脱水にならないよう、風邪をひいた子どもにとって心地良い室温や服装にしてあげましょう。
また、たまに「入浴を控えるべきでしょうか?」とも聞かれますが、日本では浴槽に浸かることが多いため体力を使います。ぐったりしていたら、数日くらいお風呂に入らなくてもいいでしょう。風邪をひいていても、元気なら入ってかまいません。
それから「たくさん寝たほうが早くよくなりますか?」と聞かれることもあります。でも、大人でも子どもでも1日中は眠れないでしょう。特に子どもは睡眠を取らせたいのに眠らない、横にもならないということがよくあります。家の中で静かに遊ばせ、疲れたりつらくなったりしたらすぐに横になれるようにしましょう。
■自己判断で抗菌薬などを飲むのはNG
最後に薬の話です。よく「以前もらっていた薬を飲ませて様子をみていいですか?」と問い合わせがくることがあります。

まず、手元に残っている抗菌薬や抗ウイルス薬は絶対に飲ませてはいけません。そうした薬を飲んでも治らず受診した場合に、原因がわからなくなってしまうことがあるからです。そして、不必要に中途半端な量、日数の抗菌薬・抗ウイルス薬を摂取することにより、耐性菌や耐性ウイルスが生まれかねません。
一方、以前に処方されたアセトアミノフェンは、熱が高かったりどこかが痛かったりしたら使ってもかまいません。市販のアセトアミノフェンも同様です。それによって原因を究明できなくなることがほぼないからです。こうした対応は大人も同じです。
ただ、大人は様子を見てもいいですが、お子さんの具合が悪い場合は小児科に連れて行ったり、時間外診療をする医療機関を探したりするほうがおすすめです。特に乳児は重症の感染症になっても特徴的な症状が出ず、初めは風邪に見えることもあるうえ、自分でどう調子が悪いのか訴えることができません。生後6カ月未満の場合は、発熱だけでも病院を受診しましょう。
子どもが風邪をひくと、親はつい「これで大丈夫かな」と心配になりますね。でも、水分をとらせて快適な環境で休ませているなら、それで十分です。子どもも大人も風邪をひかずに生活していくことはできません。何かを“足す”より、“あえて特別なことをしない”勇気も大切なのだと思います。

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森戸 やすみ(もりと・やすみ)

小児科専門医

1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。

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(小児科専門医 森戸 やすみ)
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