■「利益を安定的に生み出す、優秀な稼ぎ手」だが…
オリエンタルランド(以下、OLC)の株価下落が止まらない。2024年1月に5765円の最高値をつけて以来、2026年2月には年初来の安値2637円をつけ、2分の1以下にまで下落している。
見過ごしてならないのは、OLCの足もとの収益性は依然として高いにもかかわらず、株価が下落し続けている点である。
OLCは、「稼ぐ力」「資本を使ううまさ」「キャッシュ創出力」のどれをとっても、成熟企業としては、極めて高い水準にある。
稼ぐ力では、2022年度以降、連結で、売上高、営業利益、純利益が順調に伸びており、営業利益率は25%前後と極めて高い水準を維持している。この水準は、製造業やサービス業を含めて見ても異例の高さである。
この背景には、「強力なブランド」「集客力の高さ」「競合がほぼ存在しない」「値上げが通る価格支配力」などの要因が存在し、これらの要因が複合的に効果を生み出すことにより、“混んでいなくても十分に儲かる構造”を作り出している。
資本を使ううまさでは、2022年度以降、自己資本利益率(ROE)が12%前後で推移し高い水準を維持している。ROEは、8~10%で安定した収益力と見なされることから、OLCが株主資本を使って、いかに効率よく利益を生み出しているかが分かる。
つまり、OLCは、借金に過度に頼らず、ブランド力と価格決定力で、高い利益を安定的に生み出す優秀な稼ぎ手であるのだ。
■「ファンタジースプリングス」の巨額投資後も“黒字”
投下資本利益率(ROIC)で見ても、OLCの資本を使ううまさは抜きん出ている。コロナ禍(2020年度から2022年度)を除くと、ROICはこの10年間で10%以上を維持しており、2024年度は14.3%に達し最高値をたたき出している。
ROICは、事業に投下した資本に対する収益力の高さを表す指標であり、10%を超えれば優良と見なされることから、テーマパークという重資産ビジネスを展開しているOLCの投資回収能力は極めて高く、これまでの投資がきちんと報われてきたことを示す証左でもある。
キャッシュ創出力では、2024年6月に総投資額約3200億円をかけて「ファンタジースプリングス」を開業したにもかかわらず、営業キャッシュフローは安定して黒字を維持している。
これは、OLCが、テーマパーク事業で得た利益を原資に、新たにアトラクションを導入したりエリアを拡張したりするという“再投資サイクル”が確立されていることを意味する。この再投資サイクルが上手く循環することにより、成長投資が可能となる。
それではなぜ、このようにOLCの収益性が依然として高いにもかかわらず、株価が下落し続けているのか。
株価下落の要因は言うまでもなく、投資家がOLCへの株式投資をネガティブと捉えているからであるが、それではネガティブとされる要因は何か。それは、以下の2つの視点で考えることができる。
■視点① ゲスト数が構造的に伸びない
1つ目の視点は、「来園ゲスト数が構造的に伸びない」ことである。
年間来園ゲスト数は、ディズニーランドが開園した1983年に993万人を集客し、以来、年々増加し、2000万人超えを果たしたのは2001年(2204万)で、2013年には初めて3000万人を超え、2018年に3255万人で過去最高を記録したものの、以降は減少傾向にあり、2000万人台で推移している。
つまり、年間来園ゲスト数は2018年をピークに、上方向への更新が起きていないというのが実態である。これは、一時的に落ちたのではなく、構造的な上限が見えたことを意味する。
それではなぜ、来園ゲスト数が構造的に伸びないのか。まず、考えられるのは、キャパシティの制約である。現状から1日あたりの入園可能人数を約8~9万人程度とすると、年間最大稼働(365日)でも、3300~3400万人が理論的上限となる。
しかし、OLCは近年、混雑は満足度低下につながり、待ち時間の増加はブランド毀損につながると位置付け、満員運営を明確に避ける方針に転換している。つまり、「キャパシティの上限×稼働率」を意図的に抑えていると考えられる。
■「客単価」を上昇させる方針
次に考えられるのは、国内需要の成熟である。日本の人口はすでに減少局面に転じ、首都圏在住比率が高く、一度も行ったことがない層は減少しつつある。つまり、潜在新規客の母数が毎年縮小する中で来園ゲスト数を増やすには、既存客の回転数(リピーター頻度)を上げるしかないということになる。
では、人数が伸びない分、OLCはどこで稼いでいるのか。OLCは近年「客単価」を上昇させる方針に舵を切っている。
客単価、すなわち、「ゲスト1人あたりの売上(飲食販売収入+商品販売収入+チケット収入)」は、OLCが統計を取り始めた1996年に9429円を計上し、以降は緩やかに上昇し、2010年には1万22円で初めて1万円を超え、その後、2018年には1万1815円とそれまでの最高値を記録するが、2020年の1万3642円を嚆矢に2024年には1万7832円と、この6年間で、1.5倍も上昇している。
ゲスト1人あたりの売上において、特に上昇しているのはチケット収入で、1デーパスポート(大人1名)で見れば、1996年の5100円が、今では、7900円~1万900円と大幅に値上げされている。
料金に幅があるのは、2021年3月から導入したダイナミック・プライシング(価格変動制)のためである。ダイナミック・プライシングは、混雑緩和を目的とし、時期や曜日により価格を変動させるシステムを取る。
■ゲストの“負担”は上限に近づきつつある
このように、OLCは、成長ドライバーを「人数×単価」とする従来のモデルから、成長ドライバーを「単価のみ」[売上成長率=入園者数成長率(≈0)+単価成長率(+α)]とする新たなモデルへと戦略をシフトした結果、構造的に成長率が低下しやすい状況を作り出したことになる。
この戦略シフトには、さらに問題がある。それは、単価成長は有限であるということだ。たとえば、1デーパスポートは、4人家族全員が大人であれば、合計で4万円を超えることになり、ゲストの心理的上限に近づきつつある。これは、単価一本足打法が長期的には不安定であることを意味する。
また、入園者数が伸びないということは、売上成長においてレバレッジが効かないことを意味する。固定費が高い事業で数量成長がないということは、新たなアトラクションに投資しても、売上は指数関数的に伸びることはない。
構造的に成長率が低下しやすい状況を作り出したのは、他でもないOLCが選んだ戦略の帰結である。
■視点② リピーターに依存する限界
2つ目の視点は、「リピーター依存モデルの限界」である。
IR説明資料や各種調査、業界分析などを総合すると、ディズニーリゾートのリピーター比率は概ね60~70%、新規・低頻度ゲストは約30~40%と考えられる。
これを人数ベースで見ると、たとえば、年間来園ゲスト数がピークに達した2018年(3255万人)であれば、リピーターは、約1950~2300万人分に相当することになる。
ここで注意しなければならないのは、その本質が、“人数減”ではなく、“来園頻度の低下”にあることだ。
従来の典型的な高頻度リピーター像は、「年間パスポート保有」「年間8~15回来園(月1回程度)」「飲食やグッズ消費の高さ」「平日や閑散期を埋める存在」であった。
しかし、現在は、同じ層の年間の来園が、年2~3回程度に低下することで、リピーター数自体は大きく減っていなくても、“延べ入園者数”が大幅に減少している状況にある。これこそが、「リピーター依存モデルの限界」の正体である。
それではなぜ来園頻度が下がったのか。それは、OLCが年間パスポートを廃止したこと、1デーパスポートを大幅に値上げしたこと、さらには、有料ファストパス(ディズニー・プレミアアクセス:DPA)を導入したことの3つの要因により、入園者の“1回あたりの体験コスト”が従来よりも大幅に上昇したことにある。
■「年パス」廃止、リピーターほど抱く“割高感”
まず、年間パスポートについて考えてみると、年間パスポートが廃止になる前の2020年4月の最終価格は、6万8000~9万9000円であった。この価格で年12回(1カ月に1回程度)以上来園すれば、1回あたり7500円以下で済むことになり、リピーターにとっては、“行けば行くほどお得な設計”となっていた。
では、この年間パスポートが廃止されることで、どの程度の影響が出るのか。IR説明資料などの情報から総合すると、年間パスポートの利用者は、入園者全体の約10~15%と考えられる。しかし、来園回数ベースでは、20~30%を占めていた可能性がある。
つまり、年間パスポートの廃止は、延べ入園者数のコアエンジンをOLC自らが止めたことを意味する。
次に、1デーパスポートについて考えてみると、2015年の7400円から今では7900円~1万900円となり、約45%も上昇している。
この料金の変化から生まれるリピーターへの影響は、年12回の来園の場合、2015年では約8.9万円、現在では約13万円となり、年間パスポートよりも高くなることから、“ちょっと行く”が消滅し、“来園がイベント化する”という心理を誘引することになる。
さらに、DPAについて考えてみると、価格は現在、1施設1人1500~2500円程度(時期により変動)であり、家族4人で1アトラクションを利用すれば、6000~1万円がかかることになる。
慣れている人ほど割高感を感じることから、リピーターであればあるほど、“毎回は使えない”という心理が働き、体験コストは高まる。
■「体験コスト」が2倍以上に跳ね上がっている
このように考えてくると、これら3つの要因を合算した入園者1回あたりの体験コストは、年間パスポート時代であれば、入園+無料FP(ファストパス)で実質5000~6000円であったが、今では、入園+DPAで1万2000~1万4000円となり、2倍以上に跳ね上がってしまうことになる。
リピーターの来園頻度が下がることは、収益構造についても変化をもたらす。従来の収益源は、“高頻度利用のリピーター”であったが、今では、それが“低頻度高単価”に置き換わっている。この代替は、強かった景気耐性が弱体化し、高い安定性を維持してきた収益構造を低下させてしまうという状況を作り出すことになった。
リピーターのような高頻度層は価格耐性が低いことから、一度頻度が落ちると戻りにくい。それゆえ、モデル自体が不可逆的であると言わざるを得ず、この点にリピーター依存モデルの限界があるといえる。
OLCは、“来園回数を売る会社”から“1回あたりの体験を高く売る会社”へと戦略をシフトした。これにより、短期的には、客単価が上昇し利益率は高まることになるが、中長期的にみれば、延べ需要が縮小し、収益のボラティリティ上昇――“贅沢な体験”へと変わったことによる収益の不安定化というリスクを招くことになる。
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雨宮 寛二(あめみや・かんじ)
淑徳大学経営学部教授
淑徳大学経営学部教授。ハーバード大学留学時代に情報通信の技術革新に刺激を受けたことから、長年、イノベーションやICTビジネスの競争戦略に関わる研究に携わり、企業のイノベーション研修や講演、記事連載、TVコメンテーターなどを務める。日本電信電話株式会社に入社後、中曽根康弘世界平和研究所などを経て現職。単著に『世界のDXはどこまで進んでいるか』(新潮社)、『2020年代の最重要マーケティングトピックを1冊にまとめてみた』『サブスクリプション』(いずれもKADOKAWA)など多数。新著に『経営戦略論 戦略マネジメントの要諦』(勁草書房)がある。
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(淑徳大学経営学部教授 雨宮 寛二)

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