世界の中でアジア人はどう見られているか。イギリス在住で著述家の谷本真由美さんは「2024年のアカデミー賞授賞式では、アジア系プレゼンターへの人種差別疑惑がネットで大炎上した。
実は北米や欧州で暮らす東アジアの人々は似たようなことを常日頃体験している。その一方で、大衆の反応はいつの時代も正しく、少し希望がもてる」という――。
※本稿は、谷本真由美『日本のメディアが報じない「世界の真実」』(ワック)の一部を再編集したものです。
■アカデミー賞のアジア人差別
2024年のアカデミー賞では『ゴジラ-1.0』が特殊効果賞を受賞し、宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』が長編アニメーション賞を受賞するという嬉しいニュースが飛び込んできた。
ところが実に残念なニュースもあった。アカデミー賞では通常前年の受賞者がその年の受賞者に対してオスカー像を渡すことになっている。
今回は2023年の第95回アカデミー賞において、作品賞、監督賞、主演女優賞など7部門を受賞した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』で助演男優賞を受賞したキー・ホイ・クァンと、主演女優賞を受賞したミシェル・ヨーがオスカー像を手渡した。
ところがそこで事件が起きたのである。全世界に中継されるアカデミー賞でオスカーを手渡されたロバート・ダウニー・Jrが、ホイ・クァンの目すら見ず、他の受賞者であれば丁寧に挨拶するところをほとんど無視して通り過ぎてしまったのである。
さらにミシェル・ヨーからオスカーを手渡されたエマ・ストーンも、ヨーを無視して自身が普段から仲良くしている女優の方にさっさと行ってしまった。その女優とは大喜びしてハグまでする状況であった。
全世界に中継されるイベントでこのように白人のアメリカ人が東洋系の俳優たちを堂々と無視して、まるで透明人間のような扱いをしたということは世界中に衝撃を与えた。

ネットでもこの事件は大炎上し、仮に全く同じことをアフリカ系の俳優やイスラム教の俳優に対して行ったら暴動が起きていただろうという意見も目立った。
■特に男子はいじめや暴力の対象に
北米や欧州で暮らす東アジアの人々は実は似たようなことを常日頃体験している。東アジア人というのはどこの土地でも最も模範的な移民だ。全ての人種グループにおいて学歴は最も高く収入も最も高い。
アメリカの場合はなんとインド系や東アジア系の収入の方が地元に代々住んでいる欧州系白人よりも高いのである。現地の進学校は東アジア系の生徒だらけである。
その一方で東アジア系の犯罪率は最も低い。職場で不正をする可能性も低く、非常に安定度と信頼の高い人々なのだ。
ところが東アジア系というのは自己主張しないし暴力に訴えることもないのである意味舐められている。
私生活でもビジネスでも利用されてしまうことが多く、職場では雑用や嫌な仕事を押し付けられることも多い。パーティーやイベントでは壁の花のような状態で無視されてしまうことも多い。
このような体験をしてきている東アジア系の人の中には一生懸命白人化しようとする人も少なくない。
アフリカ系のように完全に分断された社会で生きようとする人もいる。結婚相手も友達も皆東アジア系という風になることも多いのだ。
また女子の場合は若干ましなのだが、男子に関しては非常に厳しい。他の人種に比べると体格が劣るためいじめや暴力の対象になることが少なくないのだ。学校では病院送りになるレベルの暴力を振るわれることもある。
■白人社会が訴える多様性や差別反対は表層的
これは日本のメディアではほとんど報道されない東アジア系の生活の実態だ。したがって親たちは彼らが不利な立場にならないように資格職や手に職をつけてきちんと仕事で食べていけるように一生懸命教育する。
ホイ・クァンは、ベトナム戦争のさなかに家族で死線をさまよってアメリカに避難した元ベトナム難民だ。
1980年代には子役として『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』や『グーニーズ』に出演し、一時はアイドルとして大人気になったが、成長するとなかなか役がつかず武術指導のアシスタントとして映画業界にとどまり、30年ぶりに出演者として復活したという苦労人だ。
このような背景があるのにも関わらずハリウッドは彼を堂々と差別したのだ。アメリカの白人社会が訴える多様性や差別反対というのがいかに表層的なものかよくわかるだろう。
■いつの時代も大衆は正しい
その一方で日本の『ゴジラ-1.0』と『君たちはどう生きるか』を海外のファンたちは絶賛し多くの観客が見に行った。
ホイ・クァンやヨーの人気も根強く、映画やアニメファンが集まるコミコンでは彼らは大人気だ。
2024年3月に逝去した鳥山明の作品は全世界で大人気であり、アメリカや欧州のメディアも大きく取り上げた。
アメリカや欧州の支配層というのはまだまだ差別的だ。だが一般の人々は人種や国籍に関わらず、東アジアの人間が作り出すコンテンツやアクションなどの技能、演技、製品をきちんと評価してくれているのである。いつの時代も大衆は正しいのである。少し希望がもてるではないか。
本書にはこれら欧米におけるアジアの立ち位置のほか、中国の脅威や欧州の移民問題など、日本が置かれた状況を認識するための全40編が掲載されています。是非ご一読ください。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

著述家、元国連職員

1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国での就労経験がある。
ツイッター上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する。

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(著述家、元国連職員 谷本 真由美)
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