※本稿は、佐々木れな『自滅する米中』(SB新書)の一部を再編集したものです。
■台湾は「中国の一部」という考え
中国の立場は、「一つの中国」原則に明文化されている。中国は一つであり、台湾は中国の一部であり、その主権は不可分であり、中華人民共和国が中国の唯一の合法的な政府であるという立場だ。
この立場から、中華人民共和国は台湾に対する主権を主張し、必要に応じて「分離」を阻止するために武力行使の権利を主張している。
さらに中国は、1971年の第2758号国連総会決議により、国連における中国の代表権がそれまでの台湾(中華民国政府)から、中国(中華人民共和国)になったことで、中国の「一つの中国」原則は幅広く国際社会から認められているものだと主張している。
中国は、単に自らの主張を国際社会で喧伝(けんでん)するだけではなく、自らの立場を法的に示すため、2005年、中国の全国人民代表大会において反分裂国家法を可決し、自らの台湾の地位に対する強硬な立場を正式に定めた。この法律は台湾の分離に「反対し、抑止する」と規定し、特定の条件下では「非平和的手段」の使用を認める内容を含んでいる。
■武力行使を決断する3つの条件
具体的には、第8条で、北京が武力行使をしなければならない3つの発動条件を定めている。①台湾が正式に独立を宣言または中国から分離した場合、②台湾の中国からの分離につながる重大な事件が発生した場合、③平和的統一の可能性がすべて尽きた場合の3つで、いずれかを満たせば発動する。
これらの発動条件の表現は意図的に曖昧にされている。
中国当局はこの法律を頻繁に引用して、台湾独立派の動きを警告している。
例えば、2022年に中国の王毅(おうき)外交部長は、反分裂国家法に「最終的に違反された場合」、北京は躊躇(ちゅうちょ)なく行動を起こすと警告した。
■中国が「主観的に」状況判断する
反分裂国家法の肝(きも)は、これが国際法や条約といった類(たぐい)ではなく、中国の国内法であることだ。中国の立場からすると、この国内法は、台湾は内政問題であり、状況下では武力行使が許されるという主張を強化するものだ。
ちなみに2025年はこの法の成立・施行20周年ということで、中国では関連するイベントがいくつか開催された。例えば、座談会が開催され、趙楽際(ちょうらくさい)全国人民代表大会常務委員長が講演を行った。他にも、頑固な台湾独立分子を通報する専用サイトと専用メールアドレスが公開され、誰でも通報できるような体制が整備された。
■アメリカは台湾をどう見ているか
しかし、米国は台湾に関して異なる見方をしている。
1979年に米国が外交関係を中華民国(台湾)から中華人民共和国(中国)に切り替えた際、「一つの中国」政策を採用した。ただし、先に説明した通り、米国は中国の「台湾は中国の一部である」という主張を認識しているが、その主張を支持しているわけではない。
実際、米国は一貫して、台湾の地位は未解決であり、平和的に決定されるべきだと主張してきた。米国側の立場は、いずれの側も台湾の地位を一方的に変更すべきではなく、いかなる解決も台湾の住民の同意を必要とするというものだ。したがって、米国は中国の台湾に対する主権を認めず、台湾の一方的な独立宣言も支持していない。
この立場を法的に裏づけるため、米国議会は1979年に台湾との外交関係を断絶した後、台湾関係法(Taiwan Relations Act〔TRA〕)を制定した。
同法は米国と台湾の非公式ながら強固な関係を定めている。重要な点は、TRAのなかで、平和的な手段以外の方法で台湾の将来を決定しようとするいかなる試みも、地域平和を脅かす「重大な懸念」とみなすことを米国が明確化している点だ。
米国と台湾の間には、安全保障条約は存在しないが、TRAにより米国議会は、米国政府に対し、台湾に防衛用の武器を提供し、台湾の住民に対する武力行使に対抗するための米軍の能力を維持する政策を義務づけている。つまり、本質的に、米国は台湾の自衛を支援するための法的枠組みを確立し、中国に対し、侵略は容認されないことを明示している。
■台湾有事で米軍が出動するのか?
一方、米国は対中外交において、米軍が台湾を直接防衛するかどうかについて意図的に曖昧な態度を保ってきた。この政策は「戦略的曖昧さ」(strategic ambiguity)と呼ばれている。狙いは、米国政府が台湾を有事において軍事的に支援するかどうかを明言しないことにより、中国の攻撃と台湾の独立運動の両方を抑止することだ。
しかし、近年、米国高官が、時には米国大統領も、台湾に対するより強いコミットメントをほのめかしている。
中国からは、こうしたほのめかしは、米国による台湾への武器販売と軍事協力の拡大と相まって、「一つの中国」という理解の段階的な切り崩しに等しいと受け止められている。
■米中間は危険な綱渡りの状況
このように、米中の相反する法的・外交的枠組みが、危険な綱渡りの状況を生み出している。
中国は台湾の分離独立勢力に対する武力行使の主権的権利を主張する。一方、米国は台湾の将来は平和的に決定されるべきだと主張し、台湾の防衛を支援する意向をほのめかしている。こうしたコミットメントに内在する緊張と曖昧さは、米中相互の不信感を煽っている。米中双方は、相手が自国に有利なように現状を変えようとしていると相互に疑っている。
なお、日本の立場はどうか。
■日本は「台湾は中国」と認めたか
日本は、日中国交正常化の過程で発出された1972年の日中共同声明において、「日本政府は、この(台湾が中華人民共和国の領土における不可分の一部であるとの)中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重」することとなっている。
これは、米国と同じく、中国側の主張をあくまで、「理解、尊重」するものであって、中国の主張を支持、または認めたということではないということである。
したがって、「台湾が中国に属することを認めている日本は、台湾問題に介入する資格がない」という駐日中国大使館や中国外交部が発信している主張はそもそも誤りである。
■地政学的大惨事を回避するために
台湾をめぐる問題には解決の道筋が見いだしづらく、台湾有事も絵空事でないように思える。
台湾は、多くの専門家が今後数年間で衝突に発展する可能性があると公然と警告する火種となっている。
しかし、台湾戦争は不可避ではない。危機は差し迫っているが、賢明な政策を推進すれば、地政学的大惨事を回避する可能性はまだ残っている。
米国とその同盟国は、北京が侵略の容易な機会を見いださないよう、軍事的抑止力を強化し続ける必要がある。
同時に、中国による一方的な武力行使に反対する、日本をはじめとする有志国の軍事的即応性・相互運用性を強化すべきである。台湾の防衛と米国の前方展開を強化することで、中国の指導部に戦争のコストがあまりにも高すぎると説得することができる。
北京との明確なコミュニケーションと危機管理チャンネルを維持することも同様に重要だ。双方が相手の意図について最悪の事態を想定する。そして緊張した局面で状況を明確化したり緩和したりする手立てを打つ。そうした手段がない場合、誤算が生じる可能性が高くなってしまう。
軍事ホットラインの再設置、海上・航空安全に関する対話の実施、相互の行動規範の設定などは、偶然の火種が戦争に発展する可能性を低減する。ワシントンと北京は、2023年末に軍事間の対話を一部再開する措置を講じたが、政治的な摩擦にかかわらず、このような努力は継続すべきだ。
効果的なコミュニケーションは、一方の側がもう一方の通常の動きを致命的な脅威と誤って解釈するのを防ぐ。それにより、単純な軍事力による抑止力を補完することができる。
■「時間稼ぎ」をする必要がある
要するに、現在の台湾紛争は驚くほど現実味を帯びており、おそらくここ数十年で最も深刻な状況にあるが、それでも決して避けられない運命ではない。今後数年間は、抑止力と外交の微妙なバランスが求められる。両側が挑発を避け、武力衝突なしに共存する方法を見いだすことができれば、直近の危機は回避され、長期的な解決策を模索する時間を得ることができる。
台湾をめぐる戦争に関する結論は明らかであり、一度米中双方を巻き込む戦争が発生すれば、それは関与するすべてのアクターにとって破滅的であり、北東アジアのみならず、世界経済と多くの国の国民生活を混乱させる可能性がある。米中が自滅するだけではすまない。
■日本が取りうる外交的戦略とは
その結末を回避するには、集中的な外交的関与、慎重な軍事シグナリング、そして中国、米国、台湾の3者から一定の自制が求められる。
状況は差し迫っているが、賢明な外交が優位であれば戦争は不可避ではない。すなわち、極端なリアリズムに則っただけの、外交的戦略を持たない軍事的抑止力の向上は、一定の紛争抑止効果を持つが、それ単体では不十分であるということだ。
そして、だからこそ、米中台の3アクターに加えて、日本の役割がさらに重要となる。日本に求められているのは、まさにこの抑止力と外交のバランスをとり、すべての当事者に対して無謀な行動を起こさないよう自制を促すことである。
究極的に日本にとって最大の利益は、「台湾有事が起きないこと」である。つまり、より明確にいえば、日本の戦略的目標は、「台湾有事で軍事的勝利を目指すこと」ではない。相手の鼻を明かす軍事的勝利だけが勝利ではないのだ。
台湾をめぐる情勢において、日本の責任ある行動とは、むやみに有事を煽ることではない。次の3つを、政治的リーダーシップと覚悟を持って、粘り強く、かつ明確に伝えることだ。
■米、中、台湾に伝えるべきこと
①中国に対しては、軍事侵攻が中国の究極の目標、すなわち中国共産党体制の存続にとって明らかに利益にならないこと。
②米国に対しては、日本を含む有志国が地域の安全保障でより大きな役割を果たすというコミットメントを示しつつ、中国が行動する口実を与えるべきではないということ。
③そして台湾に対しては、今の地位・枠組みのなかで最大限交流を強化しつつ、そもそもの地位・枠組みを転換しようという試みは明確に支持できないこと。
日本にしか果たせない役割、日本こそ果たせる役割だと考えるが、いかがだろうか。
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佐々木 れな(ささき・れな)
国際政治学者
早稲田大学卒業後、外資系戦略コンサルティングファームStrategy&に在籍し、防衛省および防衛装備庁、防衛関連企業等との複数のプロジェクトに携わる。2023年、米ジョージタウン大学外交政策大学院で修士号を取得。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院(SAIS)博士課程在籍。専門は東アジア安全保障、台湾海峡危機管理、防衛産業政策。
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(国際政治学者 佐々木 れな)

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