タレントの所ジョージは71歳にしてテレビのレギュラー番組を7本持つ。なぜ長年にわたり愛さ続けるのか。
社会学者の太田省一さんは「シンガーソングコメディアンを自称するように、原点には音楽がある。簡潔で無駄がないトークには絶妙なリズムがあり、それが心地よさを醸し出している」という――。
■隠れた「テレビの王様」
『世界まる見え!テレビ特捜部』『1億人の大質問⁉笑ってコラえて!』(いずれも日本テレビ系)、『ポツンと一軒家』(朝日放送テレビ、テレビ朝日系)、そして『所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!』(テレビ東京系)。
これが現在、所ジョージがMCを務めるゴールデンタイムの番組だ。今年30周年を迎える『笑ってコラえて!』のような長寿番組もあれば、『ポツンと一軒家』のように比較的近年に始まったものもある。だがいずれも各局の看板番組である。
どれもまず企画として面白く、どの番組も一度は見たことがあるという人は多いだろう。『ポツンと一軒家』はいうまでもなく、『笑ってコラえて!』なら「日本列島 ダーツの旅」、『そこんトコロ!』の「遠距離通学密着」など、パッと思い浮かぶ企画がある。『世界まる見え!』は、世界の面白映像や衝撃映像などをメインにした先駆け的番組だろう。
その一方で、MCとしての所ジョージはあまり目立たないという印象もあるかもしれない。たとえば、上田晋也のMCなどは、臨機応変に素早く鋭いツッコミを織り交ぜながら番組をぐいぐい仕切って進行していくのが持ち味だ。
■生きたいように生きている
所には、そんなところはない。
むしろ逆で、他の出演者をツッコんだりするものの、極端に言えばただその場にいて自分もVTRなどを楽しんでいる感じだ。少なくとも先頭に立って引っ張っていくタイプではない。
芸能人としてのスタンスにおいても同様だ。昔から、売れたいというガツガツしたところをいっさい感じさせなかった。普通そういうタイプはバラエティ番組のMCには向いてなさそうだが、所ジョージは例外だ。長年ずっと途切れることなくバラエティ番組でMCを務め、その多くが人気番組になっている。
だから所ジョージを世間は羨ましがる。あくせくすることなく、生きたいように生きているように見えるからだ。
■タモリが「大人」なら所は「少年」
その象徴が、「世田谷ベース」だ。ご存じの方も多いだろうが、所がプライベートで所有している事務所を兼ねたガレージ。趣味のバイクやさまざまなコレクションが飾られ、さらにそこで思いついた道具やおもちゃを自作したりする。
たとえば、トンカチの持ち手と頭を糸でつないだ「けん玉型トンカチ」など。
なかには実用的で、特許を取得したものもある。いわゆる秘密基地である。親交のあるビートたけしがふらっと遊びに来たりする。
世田谷ベースは番組にもなっている。その名も『所さんの世田谷ベース』(BSフジ)という番組で、こちらもそろそろ20周年を迎える長寿番組だ。
ここまで来ると、趣味と仕事の区別はあってないようなもの。タモリと双璧を成している。
タモリと言えば趣味人であると同時に教養があるというイメージだが、所も意外に負けていない。日曜早朝の番組『所さんの目がテン!』(日本テレビ系)は、科学をベースにした教養バラエティ。こちらも1989年から放送されている長寿番組だ。
あまり知られていない動物の生態を観察して記録したり、身近な自然現象の仕組みを実験で再現したりする。荒廃していた里山を復興させる「かがくの里」という長期プロジェクトもあり、所自身がロケに出ることもある。
そうした試みや成果が認められ、科学技術映像祭 文部科学大臣賞などさまざまな賞を受賞している。
■そもそもはミュージシャン志望
往年の人気クイズ番組『マジカル頭脳パワー‼』(日本テレビ系)などの解答者で示していた所の地頭の良さは知られるところだろう。タモリが大人の趣味人だとすれば、所は子どもの気持ちを持ち続ける趣味人といったところだ。
タモリとの共通点としては、音楽もある。
最近は、『NHK紅白歌合戦』にも出場した新浜レオンの楽曲制作で注目されている。2024年には、新浜の楽曲「全てあげよう」でなんと日本レコード大賞作曲賞を受賞した。「ミスタードーナツ」の有名なCMソング「いいことあるぞ~ ミスタードーナツ♪」も所のつくった曲だ。
そもそもが、ミュージシャン志望。だがいくらオーディションを受けてもまったくダメだった。そんなときに出会ったのが、大ヒット曲「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」などで有名なロックバンド、ダウン・タウン・ブギウギ・バンドの宇崎竜童である。なんとか頼み込んでダウン・タウン・ブギウギ・バンドの前座に。
そのステージがまた所らしい。
リーゼントにサングラス、つなぎ姿でステージに登場。これはダウン・タウン・ブギウギ・バンドのトレードマークだった出で立ち。最初客席は大歓声をあげるが、よく見ると所ジョージ。この人を食ったギャグが、たまたま見に来ていたテレビ局のプロデューサーの目に留まり、デビューとなった(J-WAVE『SAPPORO BEER OTOAJITO』2019年4月20日放送回)。
「所ジョージ」という芸名もそこで生まれた。師匠とも言える宇崎竜童の命名である。埼玉・所沢の出身であること、そして外国でも通用しそうな名前ということで「ジョージ」となった。
■飄々のウラにある無常観
1977年に「ギャンブル狂想曲/組曲 冬の情景」でついにレコードデビュー。ただロックではなく、アコースティック・ギター1本で自作曲の弾き語りというスタイルだった。
所ジョージの曲と言えば、「はだかの豚がいる スブタ♪」という5秒の長さしかない「スブタ」(2009年)など極めつきの珍曲ぞろいだが、ユニークな発想は当時から異彩を放っていた。なかには珍曲のはずがいつの間にか名曲に思えてくるものも。
「組曲 冬の情景」はフォーク調のしっとりした曲だが、詞は所ワールド全開。
「雪だるま まわしげりくれたら ねころんだ」「雪だるまって まんまるい」といった意味があるようなないようなフレーズからはじまり、霜柱を歌ったパートでは「下北半島に しもがきた」とダジャレを挟み、さらには春が近づき、氷が溶けて一枚ずつ流れていく様を「1枚が2枚 2枚が4枚 4枚が8枚」と延々と2倍にした数字を羅列していく。
まさにシュールかつナンセンス。だがその詞を飄々としたキャラクターの所が淡々と歌うと、なぜか不思議な情感がある。誰もいない冬の風景が醸し出す無常観とでも言うのだろうか。
そしてその無常観のなかに、そのうち凄みのようなものさえ感じられるようになる。戦争に巻き込まれ、意図せず戦犯となって死刑判決を受ける庶民の姿を描いたドラマ『私は貝になりたい』(TBSテレビ系、1994年放送)で、主人公を演じて高く評価された俳優としての所ジョージもそこに重なる。
■「うざい」「あけおめ」「メリクリ」
結局、他のタレントにない所ジョージ最大の強みは、ミュージシャン、シンガーソングライターならではのリズム感と言語感覚だろう。かつて名乗っていた「シンガーソングコメディアン」という肩書きは、まさに言い得て妙だ。
「うざい」「あけおめ」「メリクリ」が所ジョージによって世間に広まったのも、そのあたりに秘密があるはずだ。「うざい」「あけおめ」「メリクリ」は、どれも元々ある言葉を短縮したもの。そうすることで、軽快なリズム感が生まれ、言葉としての心地良さが生まれた。普段の会話のなかでも重々しくならず、気軽に使える言葉に生まれ変わった。

そう思って改めて注意してみると、所ジョージのトーク自体も簡潔で無駄がない。ある意味、そこでも歌っているかのようだ。代名詞的なフレーズの「すんごいですね~」も、アクセントの付け方や絶妙なリズムの刻みかたが実に音楽的だ。語るように歌い、歌うように語る。それが、所ジョージだけが醸し出すことのできる心地良さに違いない。
音楽をベースにしたカラッとしたポジティブさは、所が深く尊敬するあの植木等にも通じる。まったく崩れない完璧なまでのポジティブさは、ついネガティブになりがちな私たちにとってとりわけ貴重であり、憧れの対象にもなる。そんなポジションにいまいるのは、おそらく所ジョージくらいだろう。

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太田 省一(おおた・しょういち)

社会学者

1960年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本、お笑い、アイドルなど、メディアと社会・文化の関係をテーマに執筆活動を展開。著書に『社会は笑う』『ニッポン男性アイドル史』(以上、青弓社ライブラリー)、『紅白歌合戦と日本人』(筑摩選書)、『SMAPと平成ニッポン』(光文社新書)、『芸人最強社会ニッポン』(朝日新書)、『攻めてるテレ東、愛されるテレ東』(東京大学出版会)、『すべてはタモリ、たけし、さんまから始まった』(ちくま新書)、『21世紀 テレ東番組 ベスト100』(星海社新書)などがある。

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(社会学者 太田 省一)
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