ペニスの「サイズ問題」は万国共通だ。英国在住の数学博士ケイティー・スポルディング氏は「NASAでもこの問題が持ち上がったことがある。
尿の回収用にコンドームを提供する必要があったのだが、申告の大半が“Lサイズ”だった。『正確なサイズを知るにはどうすればいいのか』、エンジニアがたどり着いた解決策は“シンプルかつ詩的”だ」という――。
※本稿は、ケイティー・スポルディング『天才たちのしくじり』(かんき出版)の一部を抜粋・再編集したものです。
■NASAが取り組んだ「成人指定」の研究開発
アメリカ初の有人宇宙飛行は、「おしっこびしゃびしゃ」で飛び立つという悲惨な結果に終わった(前編)。
これをうけ、ガス・グリソムの変態チックな宇宙服が登場することになる。
2度目の有人宇宙飛行の目標は、さほど高くなかった。
基本的には1回目と同じで、決定的なちがいは宇宙飛行士をおしっこくさい状態で飛び立たせないことだった。
とはいえ、ロケット内にトイレを設置すればいいという話ではない(だいたいそこまで手厚い保険をかけている配管業者がいるだろうか)。
マーキュリー計画の看護師だったディー・オハラは持ち前の発想力を活かし、手近にあるもので工夫しようとした。店に行ってコンドームとガーターベルトを購入し、数分後には間に合わせの「尿容器」をグリソムに差し出した。
このあとさすがにNASAも奮起して最先端の宇宙トイレを開発したと言いたいところだが、宇宙飛行士にとっては残念なことに、NASAは「壊れていないものはそのまま使え」という技術の世界ではよく知られた方針を採用していた。
そこでオハラ看護師の発明品を正式に採用し、これをもとに「UCD」を設計した。

UCDというとご大層な響きだが、なんてことはない、「Urine Collection Device(尿回収装置)」の略だ。NASAは大金を投じ、オハラ看護師のオリジナルを少しアップデートし、コンドームにチューブをつなげてUCDを作った。
さて、性能が気になる人は「コンドームにチューブをつなげて」の部分に注目してほしい。実験台の飛行士たちが着用を拒否するほど、UCDは尿が漏れた。どのみちおしっこまみれになるのなら窮屈な装置なんか着けたくない。
こうして宇宙飛行史上まれに見る成人指定の研究開発がはじまった。
■コンドームを買いあさるエンジニア
引き受けたのはひとりの男。
1961年、NASAはジェームズ・マクバロンという名のエンジニアを雇い、おしっこ部門を一任した。
マクバロンは――実際にその場面を想像すると、ちょっと引いてしまうが――まさに体当たりで職務に挑んだ。
手当たり次第にコンドームを買いあさった。店員に「お気になさらず、NASAの実験に使うんです」と言えば、少しは恥ずかしさも紛れたんじゃないかと思う。
マクバロンは最も防水性にすぐれたコンドームを見つけてUCDを作ろうと、自分を実験台に次から次へとコンドームにおしっこをした。

1962年、ジョン・グレンの飛行を前に、NASAは「直近の飛行に利用する条件を満たした……UCDを開発した」と発表した。
新しいUCDはとても優秀だった。
グレンは地球周回軌道でおしっこをした初めての人間として歴史に記録され、最先端の尿回収装置には総量800ミリリットルの尿が残された。
ちなみにこれはかなりの量だ。
無重力では膀胱に尿が溜まってもなかなかわからず、尿意を催すのは地球にいるときよりもずっと後になる。かくして一件落着。だがNASAは、男のプライドを忘れていた。
■サイズを申告できない男たち
言うまでもなく、男は平等に造られてはいない。
それで問題ない。だからこそ、服のサイズには幅があるのだ。服だけじゃなく、ほかのものにも。
そういうわけで、NASAは宇宙飛行士にUCDを支給するにあたり、当然、複数のサイズをそろえた。
S、M、Lから自分に合ったものを選ばせた。みなさん、話の先が読めたんじゃないだろうか。
宇宙飛行士のラッセル・シュウェイカートは1976年のインタビューでこう振り返っている。
「(UCDを)選ぶとなると、小さなプライドが頭をもたげるんだ。賢いやつはもちろんぴったりのサイズを選ぶ。大事なことだからね。だが……プライドの高すぎるやつは、MにしとけばいいのにLに手を出す。すると用を足したときに、小便の半分が漏れて自分に引っかかる。同じ過ちは二度と犯さないよ」。
シュウェイカートは自分の過ちを認めたが、サイズにまつわる劣等感は蔓延しており、NASAは提供方法の工夫を迫られた。
■「サイズ過大申告」へのシンプルな解決策
「実際の大きさがどうあれ、Lサイズ以外の自分を受け入れられない飛行士が大半だった」と、無重力における糞尿処理の大家ドナルド・レトキ(またの名を――冗談ではなく――ドクター洗浄(フラッシュ))は述べた。
「そこで呼び方をS、M、Lから大、巨大、特大に変えた」。

こうして宇宙飛行士たちの子供じみた問題行動は、シンプルかつ詩的な解決を見た。
時代は進んで1978年、NASAは女性宇宙飛行士の初登場を前に、女性向けUCDを開発しようとして……降参した。
数千年前からあるおむつを使えばいいじゃないかとひらめいたのは、80年代に入ってからのことだった。
男性の宇宙飛行士はすでに長時間の飛行ではおむつを使っていたのだから、女性にもおむつが使えるとわかるまでにこんなに時間がかかったのは不思議な話だ。
ニール・アームストロングはおむつを穿いて「人間にとっての小さな一歩」を決めたし、バズ・オルドリンは月を歩いた最初の人間にこそなれなかったが、生涯にわたって「月で初めて放尿した人間は俺だ」と主張しつづけた。
DACTこと「Disposable Absorption Containment Trunks(使い捨て吸水封じ込めパンツ)」と呼ばれるおむつが女性宇宙飛行士用に改良された際にはとりわけ快適性と漏れ防止に重点が置かれたから、女性の宇宙飛行士候補たちは宇宙業界で羨望の的となった。
■開発者が気づいた「不都合な真実」
ところが1988年、NASAはスーパーで女性用衛生製品コーナーを歩いたことのある人なら誰でも知っていることに気づいた。
すなわち、成人用おむつが市販されていることを知った。
なんだ買えるんじゃん。
スーパーで簡単に買えるんじゃん。
NASAには言いたくないが、成人用のおむつなんて開発するまでもなく、ずっと前から売っていたのだ。

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ケイティー・スポルディング
数学博士

数学博士。
2018年に博士号を取得。大学在学中にBBCの大学対抗クイズ番組『ユニバーシティ・チャレンジ』に2度出演し、「クロスドレッサーだった歴史上の人物」「新世界のサル」のカテゴリーで健闘した。現在は科学専門サイトIFLScienceで科学系のニュースをユーモラスに紹介しつつ、ハフポストや数学教育専門誌Maths in Schoolsにも寄稿している。

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雨海 弘美(あまがい・ひろみ)

翻訳者

翻訳者。訳書に、ミシェル・ザウナー『Hマートで泣きながら』(集英社クリエイティブ)、『トム・ウェイツが語るトム・ウェイツ アルバム別インタビュー集成』(共訳、うから)、クレア・ノース『ハリー・オーガスト、15回目の人生』(角川文庫)などがある。東京在住。

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(数学博士 ケイティー・スポルディング、翻訳者 雨海 弘美)
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