なぜ熱海は観光地として人気を取り戻したのか。高千穂大学教授でマーケティングが専門の永井竜之介さんは「さびれた観光地からの復活を目指して、愛される街づくりが進められた。
その姿は“応援”したいと思わせるものだった」という――。
※本稿は、永井竜之介『人の“行動”と“心理”が見えてくる 13歳からのマーケティング』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。
ネットフリックス『地面師たち』の広告
商品・サービスを使った人。広告・キャンペーンを見た人。そうした人たちが、自分たち発信で盛り上がることによって「情報」は広まっていきます。
この「情報」というのは不思議なもので、いつでも「わかりやすい」「シンプル」の方が良いとは限らないことがあります。「あれ、なんだろう?」「どういうこと?」などと感じさせて、わかりにくくて複雑な「?」のインパクトが話題を呼ぶことも少なくありません。
例えば、「?」のインパクトを狙った広告に、2024年に配信されたネットフリックスのオリジナルドラマ『地面師たち』の「STOP! 地面師詐欺」があります。これは、東京の渋谷、大阪の道頓堀の多くの人が行き交う街中に「STOP! 地面師詐欺」とだけ書いた巨大ポスターを仕掛けるものでした。どんな物語で誰が出演しているのかはあえて何も書かず、街中で見た人たちや、その写真をSNSで見た人たちを「アレなに?」「地面師ってなに?」とざわつかせ、検索と視聴につなげるものでした。このドラマは、登場キャラクターの口ぐせ「もうええでしょう」が視聴後にバズることにもなりましたね。
■考察がSNSでバズり盛り上がる
「よくわからない」から、考察がSNSで盛り上がることも多いです。
例えば、2023年7~12月にかけて放送・配信されたアニメ『呪術廻戦第2期』は、「世界でもっとも需要の高いテレビアニメ番組」としてギネス世界記録に認定されたほど世界中でバズりました。また、アニメ『ダンダダン第1期』は、ネットフリックスの2024年下半期のテレビドラマシリーズで、6000以上の作品の中で世界38位、日本の作品としてトップを記録しました。
この2つの作品に共通しているのは、物語や設定に「謎が多い」点です。「こういうことじゃないか」と答えを探す考察がSNSでバズりながら、アニメに夢中になる人が続出しました。そして、公式ガイドブック、作者のインタビュー、展示イベントでのコメントなどで少しずつ正解や裏設定が明かされていくことで、また盛り上がっていきました。
<マーケティング用語と解説>

【ミステリー効果】

広告やキャンペーンにおいて、謎解きがあったり、あえて情報を隠したりすることで、見た人の好奇心をくすぐり、興味を持たせることです。

【ウィンザー効果】

作り手(会社)が自分で発信する情報よりも、受け手(消費者)が第三者の立場から発信する情報(クチコミや考察)の方が、情報として信用されやすいことです。
■誰かの「挑戦する姿や思い」は応援したくなる
人が商品・サービスをどう好きになるのかは、いろいろあります。便利で、壊れず、いつでも使いやすい「信頼」の好き。高級、カッコいい、キレイなどのすごさがあって、使ってみたい「憧れ」の好き。そして、新しいことに挑戦したり、苦労や失敗を乗りこえて成長したりしてつくられたビジネスを使いたいと思う「応援」の好き、などがあります。
もちろん信頼や憧れも大事ですが、「応援」される商品・サービス、ブランド、存在になると、ファンになった人たちから長く愛され、広まっていくことができます。
人は、誰かの「挑戦する姿や思い」を応援したくなるものです。それは、スポーツ選手やアイドルも、商品や観光地も同様です。この「つい応援したくなる」という魔性の魅力について紹介しましょう。
日本の女性アイドルは、「応援したい!」と熱狂するファンに支えられています。モーニング娘。やAKB48グループ、乃木坂・櫻坂・日向坂の坂道シリーズなどは、「会いに行けるアイドル」として親しみが持てて、最初から完璧じゃない存在です。未完成だからこそ、歌やダンス、バラエティなどに挑戦し、成長していく姿を応援したくなり、ファンが増えていくのでしょう。
■熱海は「応援したい観光地」になった
挑戦する会社も「応援したい」と感じさせてくれます。アメリカのニューヨークで「日本のイチゴ」を広めるベンチャー企業「オイシイファーム」があります。イチゴを育てるには、ハチが飛んで花粉を運び、受粉させて実をつくることが必要です。自然の中よりもうまくハチが飛び回る環境を整えた工場を初めて実現し、美味しいイチゴをつくり、アメリカの高級レストランや食通たちをうならせて人気です。
復活を目指す観光地も「応援」の対象になります。
かつて観光地として人気だった静岡の熱海は、1990~2010年にどんどんお客が離れていき、さびれてしまいました。そんな中、復活を目指して地元の人たちに愛される街づくりが進められ、商店街が活気を取り戻し、若い観光客からの人気を集めて、2012年からV字回復していきました。新たな飲食店やホテルが増え、老舗と新店がミックスした熱海ならではの新しい魅力が広がっています。
<マーケティング用語と解説>

【応援消費】

人や会社、地域などの挑戦・成長・努力・苦労・復活を応援したいと感じて、商品・サービスを買ったり、使ったり、人に薦めたりする行動です。

【ファン・マーケティング】

会社、ブランド、商品・サービスなどに愛着を持って支えてくれるファンをつくり、増やし、ファンとの関係を深めていくことを目的にしたマーケティング。

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永井 竜之介(ながい・りゅうのすけ)

高千穂大学商学部教授

専門はマーケティング戦略、消費者行動、イノベーション。産学官連携活動、企業団体支援、企業との共同研究および企業研修などのマーケティングとイノベーションに関わる幅広い活動に従事。主な著書に『
マーケティングの鬼100則
』(ASUKA BUSINESS)、『
分不相応のすすめ 詰んだ社会で生きるためのマーケティング思考
』(CROSS-POT)などがある。

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(高千穂大学商学部教授 永井 竜之介)
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