台湾有事が起きたとき、アメリカはどう動くのか。国際安全保障を研究する佐々木れなさんは「中国とアメリカの動きを見ていると、トランプ政権が台湾有事の際に介入してくるとは考えにくい」という――。

※本稿は、佐々木れな『自滅する米中』(SB新書)の一部を再編集したものです。
■台湾は日米同盟の死活問題
台湾の将来は、日米両国にとって死活的に重要な問題ではある。しかし、日米同盟のこれまでのアップグレードは、決して台湾有事のみを念頭に置いたものではない。日米同盟は台湾有事のためのオーダーメイドではないのだ。
したがって、台湾統一をめぐるシナリオはいずれも日米同盟に厳しい試練を突きつける可能性がある。
日米同盟には台湾統一に対応しがたい局面がある。
まず、平和的統一は、日米同盟にとっては現在の設計上、対処できない問題である。長年の中国側によるさまざまな浸透工作や政治的・経済的な働きかけにより、少なくとも外形上は台湾が自発的に中国に統一されることを選んだ場合、もはやそれを止める手段は日米にはないだろう。
また、まったくもって武力行使の根拠はないものの、中国による平和的統一を阻止すべく、国際法を無視して力ずくで米国が軍事介入するという判断もないわけではない。しかし、日本がそこに加わるというのは日本の法制度上、また国内政治上、不可能に近い。
■米国は台湾有事に介入するか?
グレーゾーン活動も、最終的には平和的統一と同様に、脅しや圧力の結果、台湾が中国に統一されることを選択することになる。
さらに言えば、現状中国が東南アジア諸国、米国の同盟国であるフィリピンに対して行っている海上威圧行為に米軍が介入していないことを踏まえると、台湾が音を上げるまでの段階で、介入が行われるという希望は薄い。
いずれにせよ、こうした事態は同盟の信頼性を静かに掘り崩すこととなるだろう。
封鎖や全面侵攻はまさに、日米が2015年の安保法制およびそれに伴う日米ガイドラインで準備してきた共同対処方針を発揮する場面である。このシナリオならば、現在の日米同盟で対応できそうだ。
しかし、中国が急速に軍事力を強化し、西太平洋では通常兵力の米中軍事バランスが逆転しているとも見られている現状である。そこに日米が軍事的に介入するということは、それ自体が、戦後日本が経験したことがないような耐えがたい人的・物的な被害を受けるリスクがあることを意味する。
さらに言えば、台湾有事において、現行の日米ガイドラインでは米国が主対応、日本が後方支援を含む補助的対応という構造になっている。そのため、そもそも米軍が動かなければ、日本側にできることは著しく少なくなるという問題をはらんでいる。
いずれにせよ、日米同盟がその限界を露呈することは避けられない。
■世界の警察をやめたトランプ政権
そもそも日米同盟の限界以前の根本的な問題がある。
それは米国の方針への懸念だ。米国が第二次世界大戦後、特に冷戦以来担ってきた世界の安全保障提供者としての役割を今後も担い続けるのか、という点について大きな懸念がある。要は、米国は守ってくれるのか、守る力があるのかという話だ。

現在、米国の対外政策は歴史的転換点にあるといってもよい。
トランプ大統領の基盤支持層であるMAGA(マガ)派と呼ばれるグループがある。MAGAとは、トランプの有名なスローガンMake America Great Again「米国を再び偉大に」の略である。
MAGA派は、これまでの伝統的なエリート(エスタブリッシュメント)が主導してきた外国への軍事介入、特に中東で20年以上に及んだ米軍の介入に強い嫌悪感を示している。彼らには、基本的に米軍を他国に、また他国のために派遣するべきではないという「抑制主義」とも呼ばれる強い信念がある。
また、トランプ大統領の後継者の筆頭といわれるバンス副大統領も、MAGA派のなかで抑制主義を強硬に主張している。2025年6月下旬の対イラン作戦では「米国はイランそのものではなく核計画と戦っている」と強調し、攻撃の範囲と目的を限定するべきだとの立場を示した。
また、トランプ大統領自身も、2025年5月のリヤドでの演説において、過去の米国の中東における軍事介入を批判し、特に他国の体制や価値観に口を挟むべきではないと発言した。
これは、もはや米国が世界の警察官をやめると言っているのに等しいだろう。
■トランプが排除した対中強硬派
さらに、トランプ政権のなかでは、対中強硬派や海外軍事介入積極主義者が次々に排除されるか影響力を失いつつある。
対中強硬派の筆頭派であったマイク・ウォルツ現米国国連大使は、当初米国の安全保障政策サークルで最も重要な大統領安全保障担当補佐官だったが、同じく対中強硬派の副補佐官アレックス・ウォンとともに、早々に解任された。また、ロシア・ウクライナ和平担当大統領特使であり、対露強硬派で海外軍事介入にも積極的なキース・ケロッグ将軍は、解任こそされていないものの、表舞台で見かけることはなくなってしまった。

こうした動きは、台湾であろうとなかろうと、トランプ政権がますます、海外に米軍を派遣し、軍事介入することのハードルを高めていることを示唆している。
また、前提として、米国がこれまで築いてきた国際秩序は、米国が主導して構築した国際経済・金融システムから各国が利益を享受することによって支えられてきた。国際秩序はただ米国の圧倒的な軍事力があったから成立したものではなく、米国主導の秩序が経済・金融面でも得になるからこそ世界で支持されてきた。
■トランプが高い関税で脅すワケ
しかし、その秩序を米国自身が破壊しようとしている。
トランプ大統領の側近で現政権の経済政策に強い影響力を与えているとされているのが、日本における日銀に相当する連邦準備制度理事会(FRB)の理事であるスティーブン・ミランである。
彼は、「ミラン論文」と呼ばれる2024年11月の論考で、米国は現在の自由貿易体制の被害者であり、米国の同盟国は、米国の安全保障と経済の傘の下にいるため、敵国・中立国よりもさらに高い関税を負担すべきであると主張した。
トランプ政権は実際に、日本、韓国、NATO諸国等にも容赦なく、相互関税や分野別関税という名目で高関税を課し続けている。日本でも「トランプ関税」と騒がれ、赤澤亮正経済再生担当大臣(当時)の度重なる訪米が報道された。
これらは、米国が主導してきた現在の国際秩序そのものへの信頼を低下させる行為である。米国が軍事介入に積極的かどうかに関係なく、米国への信頼を失わせている。
■中国は世界のリーダーの座を狙う
一方の中国側は依然として米国の圧倒的な軍事力を警戒している。だから米国のこうした対外政策の変化を見て、直ちに台湾に対する軍事行動を起こすとまでは予断できない。

しかしながら、米国の政策変化に便乗しているのは確かだ。米国が自ら失点し続けているなか、自国こそが国際秩序や自由貿易体制の擁護者であるとして、国際社会における立場の強化や影響力の拡大を図っている。
結果的に各国の米国離れが進み、中国に対する信頼感が増せば、仮に台湾統一のために強硬手段に出たとしても、国際社会からの批判を抑えることができるかもしれない。そう計算している可能性もあるだろう。
少なくとも、抑制主義者のトランプ政権内での影響力拡大により、中国は、日米が対処に苦労する平和的統一やグレーゾーン活動のシナリオでは、米軍の介入がない可能性が高まっているとの見立てを有しているだろう。そしてもしそのような統一シナリオが実現すれば、日米はしてやられることとなる。
さらに、武力行使を伴う封鎖や全面侵攻シナリオにおいても、トランプ政権が台湾への3億3000万ドル(約510億円)の武器売却を2025年11月まで却下し続けていたこと等を踏まえると、ウクライナに対する軍事支援のような武器供与すらしないのではないかと中国側に思われても仕方ないだろう。
抑制主義的な動きは中国の、台湾統一に向けた軍事オプションの検討をさらに加速させてしまうこととなる。

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佐々木 れな(ささき・れな)

国際政治学者

早稲田大学卒業後、外資系戦略コンサルティングファームStrategy&に在籍し、防衛省および防衛装備庁、防衛関連企業等との複数のプロジェクトに携わる。2023年、米ジョージタウン大学外交政策大学院で修士号を取得。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院(SAIS)博士課程在籍。専門は東アジア安全保障、台湾海峡危機管理、防衛産業政策。


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(国際政治学者 佐々木 れな)
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