現代のシニアは昔に比べて若く、また年金だけで暮らすのは難しいため、定年退職後も働き続ける人が多い。博報堂シニアビジネスフォースの三嶋(原)浩子さんは「これからの時代を生き抜くためには、現役時代に退職後のキャリアを見据えて準備を始めたほうがいい」という――。

※本稿は、三嶋(原)浩子『“引退しない人生”をデザインする 無定年の設計図』(高橋書店)の一部を再編集したものです。
■今までのキャリアにトッピングを
「キャリアを棚卸ししましょう」――ネクストキャリアを考えるセミナーや書籍で必ず出てくる文言です。もちろん間違いではありませんが、キャリアの棚卸しをしただけでは、次にどうするか、無定年に向けて、どう準備するかの答えは出てこない。順調にキャリアを重ねてきて「仕事が好き」な人はなおさら、次に何をすれば良いか分からなくなります。
そこで、今までのキャリアに何を足せば、無定年に生きられるネクストキャリアを生み出せるか。そう考える必要があります。名付けて「キャリア・トッピング」。今までのキャリアに何かを足すことで、自分がバージョンアップできる、という発想です。「今までの君は間違いじゃない」佐野元春さん『約束の橋』の一節から、シニアは力をもらえます。今まで歩んだキャリアは、身に付けたスキルは、間違いではない。しっかりした土台に自信を持ったうえで、そこに何をトッピングすれば無定年に向けて進化できるかを考えていきましょう。
ネクストキャリアというと、新しい何かにチャレンジすると思いがちですが、キャリア・トッピングは違う。
長年培ったスキルを太らせて、使いべりのしない、社会で「長持ち」する自分に成長するのです。
■何歳でも遅くない「本気の英会話」
では、どんなことをトッピングするか。どんな業界の人でも、これからますます武器になると予想されるのが英語力、それも英会話力です。理由は、様々な業種・企業において、外国人の労働者数が年々増えているからです。グラフを見ると、外国人雇用事業者数は、右肩上がりの状況が続いています。業種としては、製造業・サービス業が多く、近年は医療・福祉領域の外国人労働者数が伸びています。
日本国内の人手不足を鑑みると、この数字はますます増えるはず。となると、現場で求められるのは、外国人と意思疎通できる人材、つまり英会話力があり、組織を束ねるスキルを持つビジネス・パーソンと言えるでしょう。
「もう年だから」をやめると脳は元気になる、と脳科学者・茂木健一郎先生はご著書『60歳からの脳の使い方』(扶桑社)で説いています。脳はいくつになっても成長し、そのためには、新しいことを始める、これが重要だそうです。脳も無定年で、生涯元気を維持するためにも、新しく英会話の勉強を始めてみてはどうでしょうか。英語学の菊間ひろみ先生は『英語を学ぶのは40歳からがいい』(幻冬舎)というご著書を出されました。
脳の伸びしろを信じて、今までのキャリアに英会話力をトッピングして、自分の価値を上げておきましょう。
■「キャリアを太らせる」無定年戦略
英会話に続いて、今までのキャリアに何を足せば、無定年につながるネクストキャリアを生み出せるか。長年続けてきた仕事に「キャリア・トッピング」した方を紹介します。拙著『未定年図鑑』にも登場した信藤勇一さん。大手組織設計事務所で一級建築士として活躍してきた方です。
定年が視野に入った50代のうちに、60歳の定年退職と建築士として独立・開業を決めました。「定年後は個人事業主として長く働きたいから」と早くに意志を固めて、50代でしっかり準備を行ったのです。
ここまでは、よく聞く定年→独立(同じ仕事を継続)の話。手に職があれば独立もしやすいよなあ、うらやましいなあ、でスルーしそうですが、いえいえ、大いに参考になるのです。信藤さんは、他の建築士と差別化を図るため、別の資格をトッピングしました。それは「ヘリテージマネージャー」です。ヘリテージマネージャーとは、文化財建造物を後世に残して活かすことを行う人で、「歴史的文化遺産活用推進員」と表記されることもあります。

信藤さんは、さらに文化財保護に紐づく博士号も取得しました。一級建築士に博士号とヘリテージマネージャーの「キャリア・トッピング」により、建築士としての守備範囲が広がり、肩書きがさらに立派になりました。信藤さんは建築士の仕事と並行して大学で教鞭を執り、多忙な日々を送っています。無定年ロードまっしぐらという感じでしょうか。
■市場を見渡し「自分マーケティング」を
信藤さんから学びたいことは、就労者市場を見渡した分析力です。一級建築士という資格に甘んじることなく、建築業界の就労者市場を見渡し、ライバルの多さを冷静に見極めました。その結果、ヘリテージマネージャーの取得を50代でやり遂げた、そのネクストキャリア行動力が、お手本にしたい点です。
就労者市場を見渡し、空席を探す。あるいは信藤さんのように「空席を作る」、建築士として他者との差別化を図る、つまり自分を商品とみなしてマーケティングすることが重要です。まずは「自分マーケティング」、次にどんな資格をトッピングするかを考える、というのが順序になります。
出演中のPodcast『未定年図鑑』の公開収録でよく質問されるのは「どんな資格がおすすめですか」。誰もが、定年後やネクストキャリアを考える時、まず「どんな資格」が良いか考えがちです。
しかし資格が職につながるとは限りません。まずは「自分マーケティング」で、自分が活かせる就労者市場を探ることが大切です。
■人手不足の業界を狙って資格を足す
「そう言われても、自分は一般的な営業で手に職はないし、どんな資格をトッピングすれば良いのか分からない」と思うかもしれません。しかし、営業経験はどんな業界でも通用する立派なキャリアです。
例えば、食品メーカーの営業なら調理師の資格をトッピングすれば、人手不足の飲食業界でコミュニケーション・スキルの高い人材として、無定年を目指せそうです。簡単ではありませんが、開業を目指すことも不可能ではありません。銀行で管理職を経験した人が、介護福祉士の資格を取って、定年後は施設長に転じた例もあります。福祉・介護業界も人手不足で、現場の人材の他に、組織をマネジメントできる人材も不足しているそうです。
自分のキャリアが活かせそうな業界をリサーチする、という発想もありです。しかし、「銀行→介護施設」のように、ネクストキャリアを今までと全く違う業種で考えると、選択の幅が広がるはずです。
■部署を足してキャリアを太らせる
それでなくても50代は仕事も家庭ごとも忙しい。なのに、所属部署を増やして、さらに忙しくなろうという、ややブラック(?)な話です。
ただし、忙しくなることが目的ではありません。50代の間にキャリアを太らせておくための方法論です。皆さんの会社が、もし複数の部署に所属が可能なら、キャリアを太らせそうな分野の部署に“営業”をかけて、社内副業的に業務を行う、という提案です。
例えば、私ならコピーライターでクリエイティブ部所属ですが、都市経営という修士のキャリアを太らせるために、地方創生の業務に関わる部署を目指す。今、大学で教鞭を執る分野は、コピーライティングや広告メディア論など現業に直結していますが、地方創生や観光など担当できる守備範囲を広げておけると、定年後のキャリアプランの幅が広がります。
実は英語が得意なのに活かす部署に所属していない人なら、海外業務の部署を狙う。「得意を活かして貢献したい」は表向きの理由。本当は、無定年を実現するためにスキルを磨き、成長させることを目的にするのです。
■社外コミュニティへの参加を足す
複数の部署に所属することができないなら、社外のコミュニティに仲間入りするキャリア・トッピング、という手があります。
例えば、最近ではボランティアが多種多様です。被災地の支援、子ども食堂の応援、高齢者の買い物サポートなどなど。ボランティアを「困っている人の役に立ちたい」だけでは、もったいない。
無定年を目指して、自分のキャリアを太らせる、その役に立つボランティアに取り組むのです。
教員免許を持っていて、ネクストキャリアに活かしたい人なら、子ども相手の練習になるボランティアを探す。例えば、子ども食堂では食事を作るのではなく、勉強を教えるボランティアを選ぶ。その所属と経験は、立派な教育履歴としてキャリアにカウントできるでしょう。
■副業でキャリア・トッピングする
所属によるキャリア・トッピングが「まだピンと来ない」なら、副業でキャリアを太らせるという手もあります。近年、副業OKの企業が増えてきました。収入を増やすため、という目的を否定しませんが、どうせ休日も働くなら、無定年で働ける可能性を高める副業を選びませんか。副業の内容が制限されている企業は多いですし、本業のスキルを上げることが期待されている場合もあります。副業のキャリア・トッピングは、かなり頭をひねらなければなりません。
私がよくすすめられる副業は「占い」。長年、特技として挙げているからです。無定年で働くために、将来「占いカフェ」開業を目指すなら、今からネットで「占いユーチューバー」になるというキャリア・トッピングを検討してもよさそうです。このように、趣味を発展させる副業なら、楽しく取り組めるのではないでしょうか。
例えば、趣味としてフリマ・サイトへ出品し、稼いでいる人。単にお小遣い稼ぎのためだけではもったいないです。高く売れるノウハウをコツコツため込んで、書籍にできたり、講演依頼が来るくらい、スキルアップを目指すのはどうでしょう。
友人に、ギターが弾けてバンド活動を趣味としている人がいます。これも楽しむだけではなく、無定年に働くため、と目的を変えるなら、いっそ「路上ミュージシャン」を副業にするのはどうでしょうか。路上ミュージシャンは若い人、というイメージがありますが、50代が路上で弾き語りをすればインパクトがあります。懐かしの昭和歌謡を弾いて歌えば、投げ銭が入り、結果的に副業となります。副業は将来を見据えた実りある時間にしたいものです。

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三嶋(原) 浩子(みしま(はら)・ひろこ)

博報堂シニアビジネスフォースディレクター

博報堂 関西支社CMプランナー、ディレクター、コピーライター、動画ディレクター。博報堂シニアビジネスフォース ディレクター。テレビCM・新聞広告・WEB動画制作で活躍する一方、高齢化社会において「シニアの人生をクリエイティブする」ため、キャリアコンサルタント(国家資格)を取得。著書に『未定年図鑑~定年までの生き方コレクション~』(中央経済社)、『就活・受験に効く! 自分キャッチコピー』(中央経済社)がある。

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(博報堂シニアビジネスフォースディレクター 三嶋(原) 浩子)
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