2月18日に特別国会が召集され、第二次高市内閣が発足した。神道学者で皇室研究家の高森明勅さんは「この国会で最大の注目点は、歴代の政権が積み残してきた皇位継承問題。
史上初の女性首相として、女性天皇への可能性を切り開くことこそ、高市氏に求められる最大の責務だ」という――。
■今国会の注目点は皇位継承問題
先の衆院選挙では自民党が圧勝した。今回、自民党が獲得した316議席は、同党史上最多という。この選挙結果によって光景が一変した特別国会が始まった。
この国会で最大の注目点の1つは、皇位継承問題の行方だ。
皇室の現状に目を向けると、待ったなしの危機が迫っていることに気づく。何しろ天皇陛下の次の世代の皇位継承資格者がたったお一方しかおられない。昨年、1年遅れで「成年式」を挙げられた秋篠宮家のご長男、悠仁親王殿下だけという状況だ。
一方、未婚の女性皇族方は皆さま、すでにいつ結婚されてもおかしくないご年齢に達しておられる。天皇皇后両陛下のご長女、敬宮(としのみや)(愛子内親王)殿下は24歳、秋篠宮家のご次女、佳子内親王殿下は31歳だ。
未婚の女性皇族はご結婚とともに皇族の身分を離れて、国民の仲間入りをされる。それが、現在の皇室典範のルールだ(第12条)。

ひとたび皇族の身分を離れられてしまえば、もう二度と皇室に戻ることはできない。失礼ながら、万が一離婚された場合でも皇族の身分に復することはない。その後は“国民として”別の戸籍に登録されることになる(「皇族の身分を離れた者及び皇族となつた者の戸籍に関する法律」第3条)。
だからこのままだと、やがて皇室は悠仁殿下お一方だけになってしまう。そのような暗澹たる未来があらかじめ見えていれば、どうなるか。率直に言って、悠仁殿下のご結婚自体が困難になる。
だから、できるだけ早く手を打つ必要があった。にもかかわらず、政治の無為無策と怠慢のせいで、問題の解決が長年にわたって先送りされ続けてきた。
自民党が圧倒的多数の議席を得た今、高市早苗首相はこの問題にどう対処するつもりだろうか。
■今国会中に決着か
選挙の結果、大きな権力を手にしたということは、それに見合った重い責任を背負ったということでもある。高市首相の政治信条や手法への賛否はともかく、少なくとも目の前の課題に手をこまねいて放置するタイプではないように見える。本来なら最も優先度が高い課題であるはずなのに、歴代の政権が積み残してきた皇位継承問題への取り組みを、いたずらに遅らせることは望んでいないはずだ。

高市首相は、2月18日の第二次高市内閣の発足にあたっての記者会見で「皇室典範の改正」に自民党が“挑戦”することに言及し、20日の施政方針演説でも以下のように述べた。
「国会において、皇室典範の改正に向け、安定的な皇位継承等の在り方に関する議論が深まることを期待しています」と。
おそらく、このたびの国会中に何らかの形で、ひとまず決着させようと考えているのではないか。
■キーパーソンは衆院議長
ただし皇室典範の改正については、他の法律と違って「立法府の総意」が前提となる。国民の総意に基づく「国民統合の象徴」という天皇の地位に関わる制度の変更なので、単純多数決によって数の力で押し切る乱暴なやり方は、何としても避けなければならないからだ。
このあたりの事情は、上皇陛下のご退位を可能にした「皇室典範特例法」が“ほぼ全会一致”で可決されるまでの経緯を振り返ると、納得できるだろう。
その立法府の総意を取りまとめるキーパーソンは、衆参両院の正副議長たちだ。とくに衆院議長の役割は大きい。
その衆院議長に、これまで立法府の総意づくりのために野党との交渉役を務めてきた麻生太郎自民党副総裁の信頼が厚い、森英介元法相が就任した。これは、政府・自民党が皇室典範の改正に本腰を入れようとしていることの表れだろう(ただし、中立であるべき森議長が自民党サイドに肩入れしすぎて公正さを欠くと、立法府の総意の取りまとめが遠のきかねないが……)。
■与党公約の「旧宮家養子縁組プラン」
今回の国会中に皇位継承問題に一区切りがつくとしたら、どのような決着が図られるだろうか。
今、立法府の総意づくりのために議論のテーブルに載っているのは、2つのプランだ。
多くの国民が求めている「女性天皇」という選択肢は、あらかじめ除外されている。
①未婚の女性皇族が婚姻後も皇族の身分をそのまま保持される一方、その配偶者とお子さまは男性皇族のケースと違って「国民」という位置づけのプラン。このプランでは、夫婦別姓どころか、夫婦も親子も身分が異なる(妻=母親は皇族で皇統譜に登録、夫=父親と子は国民で戸籍に登録)という近代以降、前代未聞のご家族になる。 ②いわゆる「旧宮家」は、男系の血筋では約600年前の南北朝時代までさかのぼらないと現在の皇室とつながらず、80年近く前の被占領下に傍系として皇籍離脱を余儀なくされた。その系統の親の代からすでに一般国民の男性を、皇族には禁止されている“養子縁組”をあえて解禁し、新しく皇族とする。歴史上、前例のないプランだ。
どちらも皇位継承の安定化にはつながらない。皇族数の減少を目先だけ緩和しようとする弥縫(びほう)策にすぎない。
これらのうち、自民党は先の選挙で②旧宮家養子縁組プランを「第一優先として、皇室典範の改正を目指す」との公約を掲げた。この点は、連立与党の日本維新の会も足並みをそろえている。
■未婚の女性皇族に残酷な仕打ち
しかし②旧宮家プランを「第一優先」とするのは、明らかに“順序が逆”ではないか。
未婚の女性皇族方は、皇室典範のルールがどうなるかによって、まったく違う人生を歩まれることになる。

今のルールのままなら、敬宮殿下を含めた皆さまが、ご結婚によって皇室を離れられることになる。①のプランなら、ご結婚後も皇室に残って、皇族として公的なご活動を続けていただくことになる。さらに「家族は同じ身分」という当たり前のルールなら、男性皇族と同じく配偶者やお子さまも皇族になられる。
そのどれになるかによって、ご本人もご結婚後のご家族も、人生がまるで違ってしまう。そこが見通せないままでは、ご本人もお相手も、ご結婚に踏み切ることにためらいが生まれかねない。
このような“宙ぶらりん”の状態は、皇室典範が改正されないかぎり、いつまでも解消されない。しかし、皇室典範の改正はもっぱら国会の議決による(憲法第2条)。それが政治マターである以上、当事者なのに皇室の方々の関与は認められない。
そうであれば、政府・国会が自らの責任において、速やかに改正に取り組むべきだった。こちらこそが「第一優先」で当然だ。なのに、今まで何もしないできた。当事者の方々にとって何とも残酷な仕打ちと言わざるを得ない。

■誰が「養子」になるのか
②旧宮家プランでは、国民の中の特定の家柄・血筋=門地(もんち)の者だけが例外的・特権的に、他の人たちには禁止されている“皇族との養子縁組”によって皇族になれる。だから憲法が禁じる「門地による差別」(第14条第1項)に該当する疑いが指摘されている(宍戸常寿氏、衆院法制局など)。
また、昨日まで一般国民だった男性が養子縁組という法的な手続きだけで急に皇族になる制度は、国民の間に強い違和感を招きかねない……など、ほかにも問題が山積みだ。
中でも一番手前の素朴な疑問は、すでに親の代から一般国民である当事者の中に、自ら「養子」になろうとする男性が実際にいるのか、どうか。
かつて皇籍離脱した当初は11あった旧宮家も、男子の跡継ぎが不在で廃絶するなどして、実際に対象になりえるのはすでに4家だけになっている。具体的には、賀陽家・久邇家・東久邇家・竹田家だ。皮肉なことに旧宮家自身の現状が、「男系男子」だけで継承していくことの難しさを、しっかり証明しているとも言える。
果たしてその4家の中に養子になろうとする男性がいるのだろうか。
■養子が直面する「想像を絶する重圧」
立法府の総意を取りまとめるために、衆参正副議長の呼びかけで全政党・会派が一堂に会した「全体会議」では、出席した政党代表から、養子になる意思をもつ男性が不在なら②プランは無意味、という趣旨の指摘が繰り返しなされている。
それに対して、政府側から納得できる説明は行われていない。
憲法によって「自由と権利」を保障された国民男性が、女性皇族との結婚も介さないで、それらが全般的に制約される皇族になる決意をすることは、普通に考えて至難だろう。このプランを推進しようとする論者からも「特攻隊に志願するほどの大きな覚悟と勇気を必要とする」との指摘がある(新田均氏『別冊正論Extra.14』)。

しかも養子になった男性は、必ず結婚して男子に恵まれることが至上命令となる。その重圧は想像を絶する。
驚いたことに、本人が幼く物心のつく前に養子縁組を行えばよい、という極論まで一部から出ている。だが、国民同士の一般的な養子縁組でも3分の1ほど離縁するケースがある。本人の意思を無視した養子縁組がうまく行くとは想像しにくい。そもそも両親がそれに同意するだろうか。
■「旧宮家」当事者のホンネ
これまで知られている4家関係者の「皇籍の取得」(自分や子どもが皇族になること)をめぐる発言を振り返ってみよう。
元皇族だった久邇邦昭氏(昭和4年[1929年]生まれ)は著書『少年皇族の見た戦争』(平成27年[2015年])の中で次のように述べている。
「近頃、旧皇族をまた皇籍に戻すべきだという意見もあるようだが、私はこれについては、『何を今さら』というのが正直なところ本心だ。……皇籍に復して国民の貴重な税金をいただくのには拒否反応がある」
養子縁組について、東久邇盛彦氏(昭和42年[1967年]生まれ)は「旧宮家から養子をとるといっても、あまり現実的にはイメージができませんね」と語っていた(『文藝春秋』平成17年[2005年]3月号)。
賀陽正憲氏(昭和34年[1959年]生まれ)には2人の男子がいる。だが、「立場が違いすぎ、恐れ多いことです。……皇室様へのお婿入りなど考えること自体、失礼と思います」と述べる(『週刊新潮』平成23年[2011年]12月15日号)。
同じく婿入りについて、東久邇征彦氏(昭和48年[1973年]生まれ)も男子がいるが「私は外野の人間。……そんなお話になってもお断りさせていただくと思います」と(同)。
竹田家の関係者も「私自身は仮に打診があっても受けるつもりはございません」(竹田恒泰氏、昭和50年[1975年]生まれ、同)との答え。
以前、旧宮家系の未婚の成年男子を網羅的に取材した保阪正康氏が次のように述べていた(『月刊現代』平成18年[2006年]2月号)。
「私が聞いたかぎりでは復活(皇籍の取得)を希望している人はほとんどゼロなんです。もう彼らは、われわれと同じ生活者の視点を持っていますよ。

社会との関係性を考えても、皇族に戻る気にはなれないという感じです」
皇籍離脱からの長い歳月を考えると当然の反応だろう。
■「養親」になる皇族はいるのか
一方、今の皇室の中で旧宮家系子孫の男性をご自分の養子として迎え入れて「養親」になる皇族がおられるのか、どうか。
皇室の中枢であり聖域中の聖域というべき「内廷」(天皇ご一家および上皇上皇后両陛下により構成される)、および皇位継承資格者がすでに2方おられる秋篠宮家に、民間から養子を迎えることはもちろんありえない。
では常陸宮家はどうか。常陸宮殿下はすでに90歳で華子妃殿下も85歳のご高齢だ。両殿下がこれから養子をお迎えになるのは難しい、と考えるのが常識的だろう。
周知の通り、寛仁(ともひと)親王妃信子殿下(70歳)と三笠宮家のご当主・彬子(あきこ)女王殿下(44歳)との間は、親子ながら「宮家分裂」と報じられたようなギクシャクした関係が取りざたされている。そのどちらかの養子に入ることは、微妙な波紋を広げかねない(信子妃殿下は麻生太郎氏の妹なので、政治色を避けるためにも養子は迎えにくいだろう)。
しかも、彬子女王殿下も妹宮の瑤子(ようこ)女王殿下(42歳)も、ともに未婚でいらっしゃる。そこに男子が養子に入ることは、ご結婚の妨げになりかねず、不自然さをぬぐえない。
高円宮家の久子妃殿下(72歳)にも未婚のご長女、承子(つぐこ)女王殿下(39歳)がおられる。なので、男子を養子に迎えるのは同じく差し障りがあるのではないか。
このような現在の皇室の構成を考えると、自然な形で養親になりえる方はおられるのだろうか。
■「第一優先」すべきは女性皇族の未来
理性的に判断すれば、政治が「第一優先」で取り組むべきは、旧宮家プランなどではない。そうではなくて、未婚の女性皇族がご結婚後、ご本人が同意されるのであれば、男性皇族の場合と同じように皇族の身分にそのままとどまれるように、皇室典範(第12条)を改正することだ。
その際、近代以来の「家族は同じ身分」という原則にのっとって、配偶者もお子さまも皇族とすべきことは当然だろう。
今回の特別国会で最低限、その線で立法府の総意をまとめ、制度改正に持ち込むことができれば、敬宮殿下をはじめ未婚の女性皇族方の未来も、やっと見通しがよくなる。それは将来の「女性天皇」への欠かせない第一歩にもなるはずだ。
今回の自民党の大勝の背景には、高市氏がわが国において内閣史上初の「女性」首相だった事実も、大きく作用していたと考えられる。
天皇から任命される立場の首相でも、これほどの盛り上がりを見せた。そうであれば、明治の皇室典範で否定されて以来しばらく歴史から姿を消してしまった「女性天皇」が復活したあかつきには、どれほど大きな活力を国民に与えることになるだろうか。
■高市氏は「女性天皇」を否定しないと明言
高市氏はかねて「女性天皇」を否定しないことを明言している(『文藝春秋』令和3年[2021年]1月号)。同氏が政治の師と仰いだ故・安倍晋三氏も、現実的な選択肢の1つとして「愛子天皇」の可能性も視野に入れていたことが、知られている(岩田明子氏『文藝春秋』令和4年[2022年]12月号)。
これまでの各種の世論調査では、およそ7割から9割という多数の国民が女性天皇に賛成している。皇室ご自身のお考えを代弁すべき代々の宮内庁長官も、現状への危機感と民意に沿った解決を望む姿勢を、たびたび示してきた。
■高市首相の最大の責務
高市氏は「保守」であっても、時代錯誤な男尊女卑の観念にとらわれて思考停止に陥る、旧式の政治家ではあるまい。持ち前の勉強熱心さを発揮すれば、目の前の皇室の危機をもたらしている元凶が、今の皇室典範がかかえる構造的な欠陥、すなわち側室不在の一夫一婦制なのに皇位継承資格を「男系男子」だけに限定している“ミスマッチなルール”であることは、たやすく理解できるはずだ。
かつては11あった旧宮家が、今や次世代の男子がいるのは4家のみという状況に陥っているように、男系男子限定ルールを維持しているかぎり安定的な皇位継承を望めない事実にも、気づくだろう。皇室典範のミスマッチなルールが是正されれば、「直系」優先の原則(第2条)によって次の天皇は、国民から敬愛をあつめる敬宮殿下に決まる。
史上初の女性首相として、女性天皇への可能性を切り開くことこそ、高市氏に求められる最大の責務ではないだろうか。

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高森 明勅(たかもり・あきのり)

神道学者、皇室研究者

1957年、岡山県生まれ。国学院大学文学部卒、同大学院博士課程単位取得。皇位継承儀礼の研究から出発し、日本史全体に関心を持ち現代の問題にも発言。『皇室典範に関する有識者会議』のヒアリングに応じる。拓殖大学客員教授などを歴任。現在、日本文化総合研究所代表。神道宗教学会理事。国学院大学講師。著書に『「女性天皇」の成立』『天皇「生前退位」の真実』『日本の10大天皇』『歴代天皇辞典』など。ホームページ「明快! 高森型録

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(神道学者、皇室研究者 高森 明勅)
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