仕事などを集中して行いたい場合、作業をする場所はどのように選べばいいのか。マインドセットコーチの井添結琴さんは「オフィスや自宅だけが集中できる場所とは限らない。
Appleのスティーブ・ジョブズも、『ハリー・ポッター』の作者も、一流は意外な場所を仕事場にしていた」という――。
※本稿は、井添結琴『自分を変える戦略書』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■ちょっとした環境の違いが大きな差を生む
ある夏、私はパティオで2つのトマトの苗を育てていました。
同じホームセンターで、同じ日に買った苗。毎日欠かさず、同じ時間に、同じ量の水を与え、大切に育てていました。
しかし、数カ月後に驚くべき違いが現れました。一方の苗は太く力強い枝を伸ばし、次々と実をつけていったのに、もう一方の苗は細く弱々しく、まったく実を結ばなかったのです。なぜ、同じ条件で育てたはずのトマトにこれほどの差が出たのでしょうか。
しばらく不思議に思っていましたが、ある日、日中に庭へ出たときに原因に気づきました。実をつけたトマトは1日中たっぷりと日光を浴びていたのに対し、育たなかったほうの苗は、ちょうどパティオの隣にある大木の影にすっぽりと覆われ、ほとんど日が当たっていなかったのです。隣同士で育てていたにもかかわらず、置かれた環境がほんの数センチ違うだけで、これほどまでに成長の差が生まれるとは驚きです。
環境の違いが数カ月後の在り方にこれほどまでに大きな差を生み出す――これは植物の成長だけに言えることではありません。

私たち人間の成長にも、環境は決定的な影響を与えます。
■整った環境では何百倍もの成果が出せる
100メートル走を想像してください。
10キロの重りを足につけて走る場合と、何もつけずに走る場合では、どちらが早く完走できるでしょうか。当然、重りがないほうがより良いパフォーマンスを発揮できます。さらに、普通の靴で走るより、100メートル走専用に作られたハイテクなスニーカーを履いて走ったほうが、より良い結果を出しやすくなるでしょう。
同じ人が同じトラックを走っても、環境によって速度が大きく変わる――これは人生においてもまったく同様です。もちろん、どんな環境にいたとしても、強い意志があれば私たちは自分の人生を変えることができます。
しかし、環境が整っていると、同じ努力をした際、その行動が生み出す成果を何十倍、何百倍にも加速させ、最大化させることができるのです。環境は、私たちの成長を飛躍的に高める追い風にもなれば、前進を阻む向かい風ともなり得るというわけです。
■一流が意識する「内的環境」「外的環境」
環境には外的環境と内的環境の2つがあります。
外的環境とは、五感を通じて入ってくるあらゆる要素のことです。音、光、香り、味、触感といった物理的刺激から、一緒に過ごす人々、住んでいる場所、使っている物、日々接触する情報、さらには文化や社会的な期待まで、身体の外側から影響を受けるすべてが含まれます。

一方、内的環境とは、感情、信念、価値観、健康状態など、自分の内面の世界の在り方です。日々何を信じ、何を感じ、どんな思考をして過ごすか、自分自身に対してどのような感覚を持って生きているかによって形づくられています。
「内的環境」を向上させるためには自己改革習慣が重要です。心を整え、思考や感情を意識的に選び直すことで、高いステートを維持することが自己変革の第一歩だからです。この内的環境の改善を補完し、加速させるうえで大きな役割を持つのが外的環境です。
意識の高い人たちは、多くの場合、人生に対して高い基準や価値観を持ち、それにふさわしい環境を意図的に選んで身を置いています。
成功者は、内面の成長や変化をよりスムーズに、そして確実に加速させるためには、心の中だけでなく「外的環境」も同時に見直すことが欠かせないと知っているからです。
肉体を持つ私たちは24時間、外の世界に囲まれて生きている――だからこそ、環境をデザインすることができれば、より効率的に理想の未来へとたどり着くことができます。
環境を意図的に選び、整えることは、あなたの内面に新しい力をもたらし、理想の人生を築くための強力な支えとなるでしょう。
■散らかった部屋では落ち着かない
あなたにも、こんな経験があるのではないでしょうか。
雑然とした人混みの中で過ごすと疲れてしまう。換気の悪い部屋に長くいると頭がぼんやりして集中できなくなり、散らかった部屋では気持ちまで落ち着かなくなる。
電車の中や騒がしいオフィスで、なぜかイライラが止まらなくなったり、やる気が削がれてしまったりする――なんとなく自分には合わないと感じる場所に行くと、理由もなく気分が重たくなることがあります。
一方で、自然の中を歩けば心が軽やかになり、深く息を吸うだけで穏やかな気持ちになる。朝日を浴びると一瞬でエネルギーが湧き上がる。整理整頓された心地良い空間に身を置くと集中力が高まり、良いアイデアが浮かんでくる。お気に入りのカフェや図書館では、なぜか普段よりも勉強や仕事がはかどる。そんな経験もあるかもしれません。
これらの体験は偶然ではありません。環境が私たちの心と身体、ひいては在り方そのものに大きな影響を与えていることを物語っているのです。
■環境が成果に与える影響は大きい
私たちの身体は心臓の動きによって「生体電磁場」と呼ばれる見えないエネルギーを放っています。一方で、場所にも独自の要素があります。光、音、電磁波、温度など……さまざまな要素が絡まり合って生み出される、その場所独自のエネルギーを放っているのです。
人間が放つ生体電磁場は「周囲の環境に応じて、身体の働きを整える」という特徴を持っている可能性が指摘されています。
特定の場所にいると、その場所が持つ環境要因に対して身体が反応し、心身に影響を与えるのです。
実際に、一部の研究では、私たちが身を置く特定の環境によって脳波のパターンが変化し、それに伴って生理的・心理的な影響が引き起こされることが確認されています。場所の物理的環境が安定して良好であれば、私たちは自然と好ましい影響を受けます。反対に、不安定で劣悪な環境に長時間さらされたり、繰り返し身を置いたりすると、心身に負の影響が積み重なり、私たちの考え方や行動そのものにまで影響を及ぼすのです。
例えば、暗く陰気な場所に長くいると、心が沈み込み、やる気を失いやすくなります。一方で、雰囲気が明るく、自分に合った爽快な空間で過ごすと、気分は自然に高まり、前向きな感情や意欲を感じやすくなるでしょう。
つまり、環境が整っていないと私たちのステートは乱れやすく、思考や行動、さらにはマインドセットそのものにまで悪影響を与えてしまうのです。
逆に、環境が整っていれば心身は自然に調和し、マインドセットは強化され、いつも以上のパフォーマンスを発揮しやすくなる――これこそが「環境が私たちの人生を左右する」という教えの原理です。
■データや理論だけでは説明できない「最適な場所」
環境が私たちに与える影響については、多くの科学的研究で実証されています。しかし、「自分に最適な場所」を選ぶ際には、データや理論だけでは説明できない要素があることも確かです。
以前、アメリカで毎年数億円を生み出す経営者の家を訪れたときのことです。彼女の家の一角には特別なスペースがあり、そこに座ると不思議と高い確率で効果的なマーケティングの発想や人気商品のアイデアが次々と浮かんでくるのだと教えてくれました。

「これは偶然じゃない。信じられないかもしれないけれど、この場所には言葉に表せない何か特別な力があるのよ」と彼女は言いました。
場所に特別な思いを抱いているのは彼女だけではありません。あらゆる業界の成功者たちの多くが、「どこで仕事をするか」「どこで考えるか」に強いこだわりを持っています。
■ハリポタ作者はカフェで執筆し、ジョブズは散歩した
例えば、20世紀で最も影響力のあるアーティストの一人とされるマイケル・ジャクソンは、彼の自宅ネバーランドの庭にある1本の木の下に座り、創作のインスピレーションを得ていたそうです。彼はそこに座って『Heal the World』『Will You Be There』『Black or White』などの代表作を生み出し、その木のことを「Giving Tree(与える木)」と名づけたと言われています。
『ハリー・ポッター』を生み出したJ・K・ローリングは、スコットランド・エディンバラのカフェ「The Elephant House」で数多くの章を執筆しました。窓から見える古い街並みが、ホグワーツ城のイメージを作るきっかけになったとも言われています。
アップル社を創業したスティーブ・ジョブズも、重要な意思決定や新しいアイデアを考えるとき、必ず本社周辺を歩きながら「散歩ミーティング」を行っていたことで知られています。歩くという行為と屋外の環境が、彼の創造性を刺激していたのです。
ビートルズもアビー・ロード・スタジオという特定の空間にこだわり、その場所でしか出せない独特のサウンドを追求しました。録音技術だけでなく、スタジオの音響特性や雰囲気そのものが、彼らの創作に欠かせない要素だったのです。

彼らがアイデアを得ていた場所が、本当に特別な力を持っているのか――それは現代の科学では完全に説明できないかもしれません。しかし、重要なのは科学的な証明ではなく、その場所にいることで実際にパフォーマンスが向上するかどうかです。
■その場所で「どう感じるか」を尊重する
成功者から学べる大切なことは、常識や一般論ではなく、「自分がどう感じるか」に敏感になり、その感覚を尊重する生き方です。その感覚こそが、環境選びにおいて最も重要な指針となります。
外的環境を整える目的は、自分自身の心をベストな状態に保つことにあります。世間でどれほど素晴らしいと言われる場所であっても、そこにいて自分の意識が高まらないのであれば、それはあなたにとっての最善の環境ではありません。
逆に、誰も気にしないような小さな空間であっても、そこにいると心が落ち着き、力が湧いてくるのであれば、それはあなたに合った環境だと言えるのです。
成長につながる環境は、他人軸ではなく自分軸で選ぶことが重要です。自分の心の声に耳を澄まし、自分にしっくりと合う場所を見つけること。その感覚を信頼することこそが、あなたにとって最適な環境を見つけ出す鍵なのです。
そして迷った際には、自分にこう聞いてみましょう。「これは、大切な人にすすめられる環境だろうか?」と。愛する誰かのために良い場所を生み出そうと努力するように、自分自身のために、日々の選択を通して成長のためのより良い環境を整え続ける。そんな生き方を習慣化することで、少しずつ自分自身との信頼関係ができ、自分の生活水準が高まるでしょう。
日々の努力と、成功する自分にふさわしい環境形成が融合したとき、あなたは飛躍的な成長を遂げることができるようになります。

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井添 結琴(いぞえ・ゆき)

マインドセットコーチ

17歳で単身渡米し、ロサンゼルスで最先端のマーケティングとマインドセット論を学ぶ。その後、現地で立ち上げたコンサルティング会社「NEXT LEVEL BIZZ」を27歳で年商億超えの事業へと成長させる。現在はマインドセットコーチングなど複数の事業を展開。日米両国で、ビジネスとマインドの両面から人生を変革するメソッドを指導。SNS発信、セミナー講演、自身のビジネススクールを通じ、年間数万人以上の起業家やビジネスパーソンの意識改革を支援。社会貢献活動に力を注ぎ、次世代リーダーの育成にも尽力している。

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(マインドセットコーチ 井添 結琴)
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