世界から高市政権はどのように見られているか。イギリス在住で著述家の谷本真由美さんは「高市氏は欧米基準でいうところの『伝統的な保守』であり、決して過激ではないため、欧米のメディアが高市氏のことを『極右』とレッテル貼りする報道は見かけない。
他方、マーケットは高市氏の性別や保守思想よりも経済手腕に注目している」という――。
※本稿は、谷本真由美『日本のメディアが報じない「世界の真実」』(ワック)の一部を再編集したものです。
■欧米を驚かした高市勝利
2025年10月4日、自民党の総裁に高市早苗氏が選出され、自民党初の女性総裁となった。
小泉進次郎勝利を予想した日本のオールドメディアだけではなく、イギリスをはじめとする海外の先進国でも、高市勝利という結果は予想外だった。今までの自民党総裁選よりも大きな話題になっている。
総裁選前の状況はどのようなものだったか。イギリスでは国内外の選挙が合法的に賭けの対象となる。賭けサイトを「ブッキーズ」と呼ぶ。
自民党総裁選はいつもより注目度が高く、日本の政治にまつわる情報もサイトに掲載されていた。ほとんどが小泉勝利を予想するもので、高市氏は茂木敏充氏と同じようなオッズだった。
ブッキーズの予想は的中することが多いが、今回は大外れであった。マスコミの報道とは違い、ブッキーズの予想は金が絡んでいるから正確性が高いと言われている。
それだけ番狂わせの結果だったということだ。
筆者は総裁選前、チャットGPTなどのAIで結果の予測を調べてみた。主要AIのほとんどが小泉勝利を予想していた。AIの多くは一般公開されているネット上の情報を自動的に収集したうえで分析している。この手法は「クローリング」と呼ばれる。
高市勝利の決定打となったのは、マスコミやSNSには情報が出にくい麻生派や旧派閥の動きである。AIもまだまだ万能とはいえないようだ。AIはすでに表に出ているデータを集めるのは得意だが、世論の空気や政治家個人の動きを読むことはできない。
■日本が「世界一理想的な保守主義国家」は幻想
何はともあれ、イギリスなど欧州でも高市勝利のニュースは大変な驚きをもって伝えられた。
欧州のメディアや世論は基本的に、日本のことを“男性が支配する保守的な社会”であると考えている。ゆえに保守系の男性は日本を“世界で最も理想的な保守主義国家”として称えることが多い。
古き良き男性優位の思想が残っているイメージを抱いているのだ。
私のような“強烈な日本人女性”と結婚した私の夫は、それが幻想であることを的確に認識している。しかし、あくまで少数派にすぎない。
左派系のBBCやロイターは高市勝利を報じる際、「日本初の女性首相誕生へ」という部分をかなり強調していた。ニュースでも、女性キャスターや特派員が歴史的事件であるかのように興奮気味に紹介した。
日本については後ろ向きの報道が多い欧州の左派系メディアが日本を好意的に報じるのは非常に珍しい。
高市氏が保守系政治家だったイギリスのサッチャー元首相に影響を受けたという点も注目されている。高市氏の愛読書は『サッチャー回顧録』だという。イギリス人は、社会保障が充実している日本を社会主義的な傾向が強いと考えている。
そんな日本において、市場主義者であるサッチャー元首相から影響を受けた女性政治家がいること自体が驚きを与えたのだ。
日本の左翼メディアや中国や韓国と違い、高市氏のことを「極右」とレッテル貼りする報道は見かけない。高市氏は欧米基準でいうところの「伝統的な保守」であり、決して過激ではないからである。欧米では日本の閣僚が靖國神社に参拝することはさほど問題視されない。

海外なら戦没者墓地で祈りを捧げることは、死者への敬意を示すことにすぎず、保守政治家でも左翼政治家でも当たり前のことだからだ。
■「過激な保守主義」「極右」という報道とは距離を保つ
興味深いことに、欧州の左派系メディアや中道メディアは高市勝利を大きく取り上げたが、保守系メディアは意外に扱いが小さかった。保守派や極右からすれば、自分たちの理想郷であったはずの日本ですら女が強くなってしまったことに失望したのかもしれない。
裏を返せば、高市氏は過激な極右などではなく、伝統的な保守主義者であるという証明でもある。安倍晋三元首相のように経済と安定を重視したバランス型の政治家で、欧米基準では決してポピュリストではないのである。日本国内においても高市氏への評価は過激な保守主義や極右とは距離を保つべきだ。
他方、マーケットは高市氏の性別や保守思想よりも経済手腕に注目している。安倍路線の継承は明らかだが、財政出動、円安、党内分裂などの要因で政策が実行できるかどうかが懸念されている。
マーケットは高市自民党の先行きは不透明だと様子見をしている。ただし、日本の政治や経済を取り巻く状況は北米や欧州よりははるかに安定している。不安感は短期間で払拭されるだろうとの見方も強い。
トランプ政権やウクライナや中東の情勢などで世界は前途多難だが、高市氏にはメタル魂を発揮して日本を強く、豊かにしていただきたい。

■日本はミステリアスな国
高市早苗首相が誕生した。初の女性首相をめぐる海外の反応は日本のメディアでも報道されているが、的外れなものが多い。
読者の皆さんに理解してほしいのは、海外先進国における日本のイメージが実態とはずいぶん異なる点だ。日本はミステリアスな国であり、実はよくわからないという印象を抱いている外国人はいまだに多い。
それは一般庶民だけでなく、メディアやビジネスマンも同じである。イギリスでも実際に日本人と接触したり、日本に行ったりしたことがある人は少ない。日本人と交流したことがあっても、完全に日本を理解していることにはならない。
言語と国民性が原因である。社交的な欧米人に比べて、人見知りの日本人はオープンなコミュニケーションを好まない。言葉にもバリアがある。何を考えているかがわからないから、“ミステリアスな人々”というイメージを持っているのだ。
東南アジアやアフリカの新興国から欧米に来た人たちは単純明快なコミュニケーションを好む。
喜怒哀楽が実にわかりやすい。しかし、日本は違う。行間や空気を読む社会だからである。
日本ではノンバーバル(非言語)コミュニケーションが意思疎通において大きな要素を占める。雰囲気や動作、目線などが重要であることは、時代劇からもわかる。かつては阪東妻三郎、今なら京本政樹。彼らは言葉ではなく“目”で悩殺するのだ。
文化人類学でもよく指摘されるように、日本は“ハイコンテクスト社会”だ。社会を構成する人々が同じような文化や言語、宗教を共有する。阿吽の呼吸で互いの意思を読み取る社会である。
対照的に、意思をストレートに言語化する欧米は“ローコンテクスト社会”と呼ばれる。その背景には、異なる文化や部族との交流が多かった歴史的事情がある。

アフリカ南部の人々は日本人に似ているところがある。私が学生時代から親しいボツワナの農村出身の友人は、「あー」「なっ」といった音だけでコミュニケーションが成り立つ。まるで熟年夫婦のやりとりだ。しかし、世界的にはハイコンテクストな村社会は珍しい。
私がイギリス人の夫に「おーい、お茶」と言っても伝わらない。「申し訳ないですが、粉末を使って緑茶をつくり、カップに入れて私に持ってきてくれませんか」と長々と説明しなければならない。訓練の甲斐あってか、最近は「お茶!」だけで通じるが……。
■“抑圧された日本人女性”のイメージとギャップ
欧米が日本に抱く偏見のひとつが、男性優位社会だというものだ。その傾向はビジネスマンに顕著である。
無理もない。日本企業と商談をしたり、共同プロジェクトを進めたりするとき、役職者のほとんどは年配の男性である。女性管理職も増えてきたが、女性が企業の幹部やプロジェクトリーダーであることは稀だ。
女性がいても控えめな態度で、小さな声で話す。男性の後ろでサポート役を果たすことが多い。実際はその女性が会社における“真の実力者”として権力をふるう場合も多いが、外国人には理解できない。
とはいえ、海外のビジネスマンは日本出張で衝撃を受ける。日本で目にする女性たちは決して抑圧などされていない。高級ブティックでショッピングを楽しみ、高級ホテルでランチを食べている。
ファッションも自由で華やかだから、“抑圧された日本人女性”のイメージとギャップがありすぎて面食らってしまう。
海外のオタクは日本のアニメや漫画の作者が男性ばかりだと思い込んでいる。ところが、実際は女性のクリエイターも多い。その事実にも驚愕する。
女性が抑圧されている国であれば、自由な表現活動は難しい。日本人女性は平和で豊かな社会のなかで、欧米と比べても遜色ない自由を謳歌しているのだ。
男性優位社会であるはずの日本から女性首相が誕生したことも驚きだが、それ以上の衝撃が高市首相のキャラクターである。高市首相は日本女性のイメージを完全に覆した。
■アイドルでもアニメキャラでもない
欧米人が「日本人女性」と聞いて思い浮かべる第一のイメージがアイドルである。
AKB48やベビーメタルは海外でも大人気だ。ユーチューブなどのSNSでも数千万回単位で動画が再生されている。近年は海外でイベントやコンサートを開催するグループが多い。若い日本人女性のイメージは色白で低身長、むっちり体型のアイドルなのである。
第2のイメージはアニメキャラクターである。最近だと『鬼滅の刃』の竈門禰豆子や『進撃の巨人』のミカサ・アッカーマン、少し前ならジブリの女性主人公や『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイだろうか。海外のアニメオタクは彼女たちのコスプレを楽しんでいる。
創作作品を現実に重ねる人々は多い。「イギリス人男性」と聞けば、日本人女性は一昔前ならジェームズ・ボンド、最近ならベネディクト・カンバーバッチを想像する。
しかし、そんな幻想を抱いたままロンドンの街を歩いたらガッカリするだろう。実際には全盛期のアブドーラ・ザ・ブッチャーのような巨漢男性であふれている。
第3の日本女性のイメージはオノ・ヨーコである。読者の皆さんは彼女が何者であるかをよくご存じだろうが、ミステリアスな黒髪に冷酷な目線、断定口調の英語は欧米社会に衝撃を与えた。
“魔性の女”もしくは“不思議ちゃん”扱いである。アイドルとアニメが世界を席巻する前、日本女性のイメージは長らくオノ・ヨーコだった。
■サッチャー元英首相のような強い女性リーダーを彷彿
3つのステレオタイプは高市首相には当てはまらない。高市首相はツヤツヤのショートヘアにピリッとしたメイクで“洗練されたプロフェッショナル”の印象を与える。
日本人の見た目は若いから、60代のはずなのに40代でも通用する。他の国の首脳と比べると実に若々しい。
アニメキャラのように甲高い声を発するわけでもない。落ち着いた低温ボイスで淡々と語りかける姿には説得力がある。サッチャー元英首相のような強い女性リーダーを彷彿させるのだ。
本書にはこれら世界からの高市政権誕生への反応のほか、欧州の移民問題や中国の脅威など、日本が置かれた状況を認識するための全40編が掲載されています。是非ご一読ください。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

著述家、元国連職員

1975年、神奈川県生まれ。シラキュース大学大学院にて国際関係論および情報管理学修士を取得。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。日本、イギリス、アメリカ、イタリアなど世界各国での就労経験がある。ツイッター上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いツイートで好評を博する。

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(著述家、元国連職員 谷本 真由美)
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