※本稿は、下方浩史『90歳まで健康長寿』(文春新書)の一部を再編集したものです。
■日本人の8割が経験する国民病
腰痛は、日本人が抱える不調の筆頭です。腰が痛いと日常動作も億劫になり、特にシニアにとっては運動不足から筋力が著しく低下していく恐ろしい疾患です。また、気づかないうちに骨折している場合も多く、腰の痛みは放置せず、早期に対策を打ちましょう。
日本整形外科学会の調査によれば、腰痛の患者数は約3000万人と推計されており、日本人の8割は生涯に一度は腰痛を経験する。厚労省の統計(「国民生活基礎調査」2022年)でも、不調の自覚症状としては、男女ともに、頭痛や肩こりを凌ぎ第1位にランクインしています。
また、日本腰痛学会の「腰痛に関する全国調査」(2023年版)によると、男性では60~69歳、女性では80~89歳の有病率が最も高くなっています。
ひと口に腰痛と言ってもその原因は様々です。このうち、脊椎や神経の圧迫や骨折など、原因が特定できるのはごくわずか。腰痛の85%は画像や血液検査で原因が特定できない「非特異的腰痛」です。非特異的腰痛は3つに大別されます。
1つ目が、急に腰が痛くなる急性腰痛。「魔女の一撃」と呼ばれるぎっくり腰が代表例。急性腰痛になれば布団から起き上がれない、階段の上り下りが難しいなどの深刻な症状が出ます。2つ目が、痛みが3カ月以上続く慢性腰痛があります。筋肉の疲労や姿勢の悪さ、運動不足が原因です。
最近増えているのが、3つ目の抑うつやストレスなどの心理的要因が引き金となる心因性腰痛。自律神経の乱れが一因とも言われ、高齢者にも多い疾患です。これら3つの腰痛は、日常の姿勢や動作、食事など、生活習慣と密接に関わっています。
そのため、日々の生活におけるNG行動をしっかり熟知し、対策を講じないといけません。
■「尻餅」が寝たきりの入り口になる
急性腰痛の中でも、高齢者が特に注意すべきは、背骨(脊柱)の圧迫骨折による急性腰痛です。シニアは日常のちょっとした動作でも背中や腰の骨を骨折しやすいのです。最も警戒すべきNG行動は尻餅です。
なかでも、骨盤底筋の起点となる尾骨には骨盤を支える役割が、その上の仙骨は体幹を安定させ、さらに上の腰椎には体重を支える役割があります。尻餅による骨折はこの3つに生じやすく、骨折すると神経が圧迫され、つらい腰痛を引き起こすのです。
日常の少しの油断が危険と隣り合わせだと思ってください。例えば、玄関のたたきで靴を履いて立ち上がろうとしてうまくいかず、そのまま尻餅をついただけでも骨折するケースがあります。就寝中にトイレに起きようとしてバランスを崩し、布団の上で尻餅をついた場合でも、腰椎や仙骨を圧迫骨折することがあります。
たとえ柔らかい座布団の上であっても、圧迫骨折する場合がありますが、それは高齢者、特に女性は骨粗鬆症などで、背骨や腰の骨が脆くなっているからです。ある日、急に腰が痛くなってレントゲンを撮ったら、実は圧迫骨折による腰痛だと判明するケースが多い。
とりわけ深刻なのが、腰椎の圧迫骨折による腰痛で、一度発症すると悪化するケースが多くなります。
■歩行時に足がしびれたら要注意
高齢者が腰椎を骨折してしまうと、完治する治療法はありません。一度腰椎を折ると、次に転んだ時も骨折しやすくなる“骨折ドミノ現象”が起こります。骨折で安静を強いられているうちに筋肉が落ちてフレイルに陥ったり、骨折が治っても背骨が曲がってしまい、姿勢が悪くなって腰痛がさらに悪化することも少なくありません。
急な腰の痛みを感じたら、シニアは迷わず、整形外科でレントゲンを撮るべきでしょう。高齢者は、脊椎の圧迫によって起こる脊柱管狭窄症を放置してはいけません。
慢性腰痛の中でも注意すべきは脊柱管が狭くなることで神経が圧迫される脊柱管狭窄症です。腰の椎間板という軟骨は加齢によって変形するため、高齢者が罹患しやすいのです。強烈な痛みはないものの慢性的な痛みが続き、歩行時にお尻や脚に痛みやしびれを感じやすい。
進行すると、脚の筋肉が痙攣して歩けなくなったり、排尿や排便に障害が出るので、QOLが著しく害されます。放っておくと、坐骨神経痛の併発も頻発します。脚にしびれやもつれを感じ、腰が慢性的に痛い場合、脊柱管狭窄症と坐骨神経痛を併発している疑いがあるので整形外科を受診してください。
■「前屈みの姿勢」が背骨を壊す
脊柱管狭窄症以外にも、慢性腰痛を悪化させる習慣があります。
慢性腰痛の最大の原因は長時間の座りっぱなしです。椅子に座っているだけなら立ちっぱなしより腰に負担がかからないと思いがちですが、実は違います。椅子に腰かける姿勢は、立位よりも脊椎に大きな負担がかかるのです。
スウェーデンの整形外科医ナッケムソン医師は、立位の椎間板への内圧を100とし、別の姿勢と比較して数値化しました。この研究によると、寝た姿勢は25と負担が小さく、座った姿勢は140と立位より負担が大きい。
さらに、座ったまま前屈みになると内圧は185にまで大幅に上昇しています。また、立ったままの姿勢で荷物を持ち、膝を曲げずに前屈みになる中腰姿勢は220。立位の2倍以上の負荷がかかったとしています。
家の中でも、洗濯物を干す際など、床に置いたものを中腰で拾い上げる動作はシニアなら絶対に避けるべき。椅子や机の上に洗濯かごを置き、できるだけ中腰になるのを防ぐ対策が有効です。
そして、最も椎間板に内圧がかかるNG動作は、椅子に浅く腰掛けた状態のまま、床に落ちたものを拾う動きです。椅子に座ったまま、床に落ちた箸など物を拾うのが最も腰に悪いのです。
座ったまま前傾姿勢で物を持った場合、椎間板への内圧は275と最も高い数値となっています。椅子に座っているときは、面倒でも一度椅子から立ち上がり、中腰は避けて膝を曲げて拾うことで、腰への負担を軽減できます。
■「カバンの片手持ち」が姿勢を歪める
また、外出時の荷物の持ち方にもNG習慣があります。
エコバッグなどの肩掛けの鞄を持って出かけるシニアは多いと思いますが、鞄を片方の手で提げたり、片方の肩に掛けて歩くのは姿勢が歪むNG習慣です。
リュックを背負うか、筋力に自信がない人はシルバーカートを使うのも腰に負担がかからずおすすめです。1つの袋に荷物を詰め込み過ぎず、2つに分けて両手や両肩で持つのも手でしょう。
■「うつ伏せ寝」は絶対NG
また、就寝時の姿勢も重要です。絶対にNGな寝姿勢は、うつぶせ寝。腰への負担がかかり過ぎ腰痛に直結します。仰向けや横向きはどうかというと、本来、仰向け姿勢のほうが背骨が曲がらず、腰への負担は少ないとされています。
ただし、睡眠時無呼吸症候群の人は仰向け姿勢だと寝ている間に呼吸が止まりやすくなって危険。呼吸のしやすい横向きが推奨されるため、両膝の間に抱き枕を挟んで腰への負担を軽減しましょう。
仰向けで眠る場合も、太ももと膝の下に枕や小さなクッションを挟めば腰への負担がさらに軽減されます。
NGはウォーターベッドのような柔らかすぎて腰が沈むタイプの寝具。同様に柔らかすぎるソファや椅子も腰に負担がかかります。どうしてもS字カーブが歪んで脊椎が圧迫されます。
■毎日湯船に浸かったほうがいい
ここまでNG習慣を紹介してきましたが、逆に積極的に取り入れたい習慣もあります。まず推奨されるのが入浴習慣です。シャワーで済ませず、毎日湯船に浸かりましょう。温熱効果で背骨周辺の筋肉の緊張が和らぎ、血流が改善することで必要な栄養素が筋肉に運ばれやすくなります。
血流を改善し、筋力アップにもつながる運動も推奨されます。最適なのがウォーキングです。すでに腰を痛めている人は、杖を使ってもいいので散歩してください。その際、三点杖など、安定している杖を使うこと。運動不足になると体の柔軟性が失われ、太ももの裏側の筋肉が硬くなることで腰痛の原因になります。
ここで、太ももの裏側を伸ばすストレッチを紹介しておきましょう。横になり、仰向けになった状態で、伸ばしたい側の膝を立てて両手で胸に引き寄せる。次に、太ももを両手で支えながら膝を上に伸ばし、太もも裏の伸びを感じながら10秒キープ。反対の脚も同様に繰り返す。
起床時や就寝前など、布団に寝たまま行うことで腰への負担も少なくなります。
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下方 浩史(しもかた・ひろし)
名古屋学芸大学大学院栄養科学研究科教授
1953年生まれ。医学博士(名古屋大学)。1977年、名古屋大学医学部医学科卒業、1982年、名古屋大学大学院博士課程医学研究科内科学専攻満期退学。1986~1990年、アメリカ国立老化研究所客員研究員。その後、広島大学原爆放射能医学研究所疫学・社会医学研究部門助教授、国立長寿医療研究センター疫学研究部部長、同センター予防開発部部長、名古屋学芸大学健康・栄養研究所研究所長などを歴任。日本内科学会認定内科医、日本老年医学会老年病専門医、日本臨床栄養学会認定臨床栄養指導医、日本疫学会上級疫学専門家。著書に、『100歳まで自然に元気な和食の流儀:そんな日本人の生活習慣が人類を救う!』(白秋社)、『90歳まで健康長寿』(文春新書)などがある。
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(名古屋学芸大学大学院栄養科学研究科教授 下方 浩史)

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