風邪を治すにはどうすればいいのか。医師の木村知さんは「『とりあえず総合感冒薬を飲んでおこう』と薬局に駆け込む人がいるが、医学的にはまったく推奨できない。
その理由は4つある」という――。
■「とりあえず風邪薬」は推奨できない
立春をすぎ、暦のうえでは春なのかもしれませんが、暖かい日が続いたと思ったら、また急に寒い日がくるなど気の抜けない日々ですね。
しかも花粉まで本格的に飛び始めてきたので、喉がイガイガしたり鼻水が垂れてきたりすると「あれ? カゼ? 花粉? とりあえずカゼだと怖いから総合感冒薬を飲んでおこう」と思って薬局に駆け込む人も少なくないのではないでしょうか。
これまでもプレジデントオンラインでは、「カゼの対処法」について数々の論説が出されてきましたが、本稿では、昨今よく耳にする「セルフメディケーション」という言葉と概念を踏まえて、市販の総合感冒薬とのつき合い方について取り上げてみたいと思います。
皆さんは「カゼの引きはじめかな?」と感じた場合、以下のどのような行動を取るでしょうか?
A.すぐさま医療機関を受診する

B.とりあえず市販の総合感冒薬を買って飲む

C.まずはゆっくり自宅安静

D.栄養ドリンク剤を飲んで気合で出勤

人それぞれと思いますが、Dは論外、Bはまったく推奨しない、Aは状況によるがほとんど意味なし、Cがこの選択肢のなかでは最も合理的と、まずはお伝えしておきましょう。
本稿は「市販の総合感冒薬」についての話題ですので、Bの選択肢をなぜ「まったく推奨しない」としたのかを以下に説明していくこととします。
■飲んではいけない4つの理由
理由その1)「カゼを早めに治す効能効果はまったくない」から
過去にも私だけでなく、この点を多くの医療関係者が指摘してきています。
総合感冒薬に含まれている成分は、カゼによるのどの痛み、鼻汁、咳、痰、発熱などの諸症状をいくぶん緩和することが“期待されるもの”にすぎません。
つまり、早めに治したり、悪化を防いだりといった絶大な効果を期待できるものではないのです。これは私が今さらわざわざ言わなくても、多くの人がすでに実感していることと思います。
セルフメディケーションが叫ばれる世の中ですが、ことカゼにかんして言えば、「薬が治すものではなくて、時間が治してくれるもの」という認識をまず多くの人で共有しておく必要があるともいえましょう。
この認識をもっていれば、効果の期待できない薬にムダな出費をすることなく節約することができるからです。

欧米での「カゼの対処法」にならって言えば、このような薬に出費するくらいなら「ちょっと高めのおいしいチキンスープ」を買ったほうがよっぽどマシではないでしょうか。
■「全部入り」で体に余計な負担をかける
理由その2)「いらない成分が多くふくまれている」から
たしかに「カゼ」は先述したようにさまざまな症状を呈します。よって街場のドラッグストアでよく見かける総合感冒薬には図表1にお示ししたように、これらの症状に対応すべく多種多様な成分がふくまれています。
しかし症状は「のどは痛いけど、咳は出ない」「鼻汁はすごいし咳も出るけど熱はない」など個々の患者さんによってことなります。
総合感冒薬はそういった個々の症状はまったく無視した処方となっているのです。
まず「解熱鎮痛剤」。これはすべての商品にふくまれています。発熱は個体の免疫反応のひとつ。しんどい場合に一時的にリセットするために頓用で使うならまだしも、熱は通常は薬で安易に下げるものではありません。
しかしこれらの薬を1錠を飲むと、熱がつらくない人、熱のまったくない人にまでこの成分が「いや応なしに」体内に入れられてしまうのです。
「咳止め」や「鼻水・鼻詰まり」用の成分も同じこと。予防にもならないこれらの成分を、症状もないのに取り込む勇気がある人は、あまりいないのではないでしょうか。

さらに言えば、これらの「全部入り」は、体に余計な負担をかけることにもなりかねません。多くの薬は肝臓で代謝され、腎臓から排泄されます。症状がないのに摂取した成分も、あなたの内臓は必死に処理しなければなりません。
カゼを治すための体力を温存すべき時に、薬の処理にエネルギーを使わせることが「合理的な選択」といえるでしょうか。
■むしろ有害な成分3つ
理由その3)「副作用を引き起こし体に害をおよぼすものもふくまれている」から
ムダな成分を体に取り込むだけでなく、体に負担をかける、むしろ有害な成分もバッチリ入っているのがこれらの商品の特徴です。
具体的な成分を3つご紹介しましょう。
1.無水カフェイン
もう一度「図表1」をごらんください。
目につくのは「無水カフェイン」。これは表で取り上げたすべての商品に入っています。
ご存じのようにカフェインには覚醒作用があります。鼻汁対応の成分である抗ヒスタミン薬の眠気防止目的にふくまれているようですが、「薬を飲んだ後のシャキッと感」を演出し、カゼが治っていないのに動けてしまう(=無理をさせる)原因にもなりかねません。
ちなみに「栄養ドリンク剤を飲んで気合で出勤」を論外だといいましたが、その大きな理由がこの無水カフェインです。
栄養ドリンク剤にも、これらがほぼ例外なくふくまれているからです。
2.ジヒドロコデイン
「咳止め」担当の「ジヒドロコデイン」も要注意成分です。これは濫用リスクが高い麻薬性咳嗽(がいそう)中枢抑制薬であるからです。
咳止めは効かないし、そもそも咳を止めてはいけない、という記事は前にも書きましたのでご興味のある方はご参照いただきたいのですが、それ以前に、これは現在若者のあいだで急増している「オーバードーズ(OD)」問題で、厚生労働省が販売制限をかける事態にまで発展しているもっとも注意すべき成分です。

過去記事「病院でもらう咳止め薬よりも断然効果が高い…医師の間では常識『ひどい咳がラクになるスーパーで買える食材』

過去記事「咳は我慢せず、むしろ出したほうがいい…現役医師が市販の『咳止め薬』を勧めない理由
3.dl-メチルエフェドリン塩酸塩
さらにこのジヒドロコデインと一緒に、気管支拡張用として「dl-メチルエフェドリン塩酸塩」がふくまれていることにも注意を要します。
これは交感神経を強力に刺激するため、血圧上昇、動悸(心拍数増加)を招きます。
高血圧や心臓疾患がある人にはきわめてリスクが高いのはもちろん、脳を興奮させ良質な睡眠を妨げたり、排尿障害や眼圧を上昇させたりするなどの有害事象を引き起こしかねません。
■「効きそうなパッケージ」に潜む重大問題
理由その4)「副作用や危険性についての注意喚起を見逃すリスクがある」から
紙幅の都合上、すべての成分についての副作用や危険性をお伝えしきれませんでしたが、最後に、これらの有害事象を引き起こしかねない成分が市販の総合感冒薬にふくまれていることを、どれだけの人が知っているのか、ということに言及しておきたいと思います。
当然ながら製薬メーカーも、これらの成分の作用とともに、副作用、さらに使用してはいけない基礎疾患(前立腺肥大、高血圧症、心臓病、緑内障、甲状腺機能障害など)をもつ人への注意喚起を商品に添付してはいます。
しかし、その非常に重要な「注意書き」は、パッケージの裏や、買ってからでないと読めない小箱の中に折りたたまれた薄い紙に、それこそ蟻ん子のような小さな文字で、びっしりと書かれているのです。
老眼が進んだ方や、高熱で意識が朦朧としている人が、はたしてこれをじっくり読んで、持病と照らし合わせることができるでしょうか。
パッケージには「プレミアム」やら「即効」やら、といった「いかにも効きそうな」言葉は派手なフォントで踊る一方、もっとも重要な命にかかわる禁忌や副作用は、なぜ見にくくされているのでしょうか。


■「カゼの自己責任化」が招く未来
現在日本ではこれらの商品は「指定第2類医薬品」という区分で、薬剤師の対面説明が必須でなくても買えてしまう位置づけです。
CMやパッケージのデザインだけで成分の詳細を知らずに購入してしまう消費者の存在を、メーカーは理解しているのでしょうか。
これを「自己責任」と言い放ってしまっていいものでしょうか。
国はセルフメディケーションを強力に推進しています。その理由は医療費の削減です。
たしかにカゼであれば医療機関にかかっても、早く治せるわけではないので、自宅安静とせざるを得ないこと、セルフケアの要点について医師としても引き続き患者さんに説明していくことは当然ではあります。
しかしセルフメディケーションを安全に推進したいというのであれば、この言葉が、消費者を安易な服薬に誘導し危険にもさらしかねない現状について、国はもっと危機感と責任感をもって対処すべきではないでしょうか。
「市販の総合感冒薬」の無意味さとリスクに気づく人が増え、高いお金を払ってまで買うという人が激減すれば、これらがドラッグストアの棚から消え、テレビCMで見かけなくなる日も、そう遠い未来ではないと思うのですが。

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木村 知(きむら・とも)

医師

1968年生まれ。医師。東京科学大学医学部臨床教授。在宅医療を中心に、多くの患者の診療、看取りをおこないつつ、医学部生・研修医の臨床教育指導にも従事、後進の育成も手掛けている。
医療者ならではの視点で、時事問題、政治問題についても積極的に発信。新聞・週刊誌にも多数のコメントを提供している。著書に『大往生の作法 在宅医だからわかった人生最終コーナーの歩き方』『病気は社会が引き起こす インフルエンザ大流行のワケ』(いずれも角川新書)など。

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(医師 木村 知)
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